ケイト・ボリンジャーによる、ちょっぴりサイケで硬派なレトロ・ポップ | Numero TOKYO
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ケイト・ボリンジャーによる、ちょっぴりサイケで硬派なレトロ・ポップ

最新リリースの中から、ヌメロ・トウキョウおすすめの音楽をピックアップ。今回は、Kate Bollinger(ケイト・ボリンジャー)のEP『Look at it in the Light』をレビュー。

おとぎ話に入り込んだかのよう。ちょっぴりサイケで硬派なレトロ・ポップ


Photo: CJ Harvey
Photo: CJ Harvey

PCやスマホさえあれば誰でも自宅で音楽を作って世界中へ発信できるという環境がごく当たり前になったことも手伝って、近年本当によく目にする機会が増えた「ベッドルーム・ポップ」という言葉。ジャンルのように捉えられているが、ローファイで甘やか、かつちょっぴりメランコリック、といったムード、DIYで作られていることが共通するばかりで、実際のところその音楽的なルーツはまちまちでもある。そして数多あふれるそれらベッドルーム・ポップの中で頭に残って離れないような良質な楽曲に出会えるのはごく僅かなのだが、この米・バージニア州出身のケイト・ボリンジャーは筆者のなかで久々のヒットだ。

2018年ごろから活動し始め、2019年に初めてのEPをリリースしたばかりの新人のケイト・ボリンジャー。そのEPに収録されていた楽曲「Candy」がカニエ・ウエストのアルバム『Donda』の表題曲にサンプリングされたことがきっかけに突如注目を浴びたのがつい最近のこと。もちろん、ただ話題になっているというだけではなく、作品も良曲揃い。今年に入りフェイ・ウェブスターとともにツアーを回るなどすでに期待値も高く、耳の早いリスナーから注目を集めている。

Photo: CJ Harvey
Photo: CJ Harvey

今作は、トラックメイカーのTychoなどを輩出する《Ghostly International》からのEPだ。エレクトロニック系のアーティストが多いこのレーベルには珍しく、彼女の音楽の中心は気だるげなヴォーカルと気の抜けたようなギター。穏やかな昼下がりをぼんやりと思わせるような牧歌的なサウンドながら、ヘナヘナとしたサイケデリックなギターの音色で非現実的なおとぎ話に引き込んでいくような陶酔感もあり(ジャケットは「不思議の国のアリス」のオマージュのよう)、なかば伝説化している1970年代のアシッド・フォークのシンガーソングライター、ヴァシュティ・バニヤンをも想起させるのが興味深い。

手作り感のあるコンパクトなアレンジは確かに「ベッドルーム・ポップ」らしいのだが、それでいてチープさを感じさせないのも魅力的なポイント。遊び心の中にもどこか硬派なルーツ・ミュージックのマナーを感じられるのが、他のベッドルーム・ポップと一線を画す点であり、好感の持てるところだ。実はバックにはジャズ畑のミュージシャンを起用しているそうで、音数少なくもメリハリの効いた演奏が巧みな緩急をコントロールしていることで、単なる新人DIYアーティスト以上の奥深さを楽曲にもたらしていると言えるだろう。

なかでも秀逸なのは、2曲目の「Who Am I But Someone」。ちょっぴりコケティッシュな歌と気の抜けたギターを、小気味よくスウィングするビート、ブルージーな鍵盤のフレーズ、そしてさりげなくファンキーなベースが引き締め、ゆるい空気感ながらグッと世界観に引き込んでくる。古いテレビCMのような極彩色のMVもレトロ&キュートかつ、どこか少しサイケデリックで、彼女のアイコニックな存在感が引き立っており、これだけ見ても十分面白い。これからどんなファースト・アルバムをリリースしてくれるのか、その動向をぜひウォッチしていきたい新世代の一人である。

Kate Bollinger『Look at it in the Light』

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Text:Nami Igusa  Edit:Chiho Inoue

Profile

井草七海Nami Igusa 東京都出身、ライター。主に音楽関連のコラムやディスクレビュー、ライナーノーツなどの執筆を手がけている。現在は音楽メディア《TURN》にてレギュラーライターおよび編集も担当。

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