懐かしい人にふと会いたくなる。SSWデュオ、ハウディによる珠玉の1曲 | Numero TOKYO
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懐かしい人にふと会いたくなる。SSWデュオ、ハウディによる珠玉の1曲

最新リリースの中から、ヌメロ・トウキョウおすすめの音楽をピックアップ。今回は、テキサス州・オースティン出身のシンガーソングライター・デュオ、Hovvdy(ハウディ)の「Town」をレビュー。

懐かしい人にふと会いたくなる、珠玉のグッド・インディー・ミュージック



4月といえば、世界最大級にしてその年の音楽フェスシーズンの始まりを飾る《コーチェラ》が実に2年ぶりに開催されたわけですが、リアルタイムでの盛り上がりに乗り遅れた筆者はあいも変わらず素朴なインディー・ミュージックに癒されていました。フェスの非日常な華やかさとはまるで程遠いかもしれないけれど、身の丈にあった心地よいエスケープ感を味わわせてくれる1曲をご紹介します。

Hovvdy(ハウディ)はテキサス州・オースティン出身のチャーリー・マーティンとウィル・テイラーによるデュオ。元はそれぞれ違うバンドでドラマーとして活動していたようだが、2014年にこのデュオを結成し、それをきっかけにギターでのソング・ライティングを始めたのだそう。エモ・ミュージックの雄とも言えるバンド、アメリカン・フットボールを思わせるセンチメンタルな繊細さを、物思いに耽るようなゆったりとしたテンポに乗せ、あたたかなアコースティック・ギターの音色の重なり合いと美しいメロディとハーモニーの響きで真摯に紡ぐ彼らの音楽。ごくシンプルなDIYミュージックではあるが、彼らから醸し出されるそのピュアさは次第に地元を中心に人気を集めて行き、ここ日本でも早耳なインディー・リスナーから密かに熱い視線が送られていた。

転機は前作アルバム『True Love』(2021年)で、プロデュースとサウンド・エンジニアにビッグ・シーフやボン・イヴェールをも手がけるアンドリュー・サーロが加わったことで、ローファイさを払拭、広がりを持った豊かなサウンド・メイクを実現させこれまで以上に評判を得ることとなった。ただ、だからと言って、これまでのような半径数メートルの中で奏でられているかのような親密さや素朴さが決して失われていないのが好感が持てるところ。むしろ、彼らの音楽の持つあたたかみを引き立たせ、より一層、胸の深いところにじんわりと染み渡るような作品になったことに、彼らとアンドリューとの相性の良さを感じさせられる。この「Town」はその『True Love』の続編のような1曲で、同じくアンドリュー・サーロとの共同作。ギターの存在感をほんのエッセンス程度にとどめた代わりに、ピアノやドラム、シンセ・ストリングスにメロトロンなどを用いたスケール感のある楽曲に仕上がっている。それぞれの楽器の音はグッと太く立ち上がっているのに非常に抜け感がよく、また、火花が弾けるかのようなアタック感のあるドラムの音がきっちりと全体を引き締めているというバランスは、お見事としか言いようがない。

どちらもソング・ライティングを行いそれぞれに個性があるチャーリーとウィルだが、この曲はピアノを使った滑らかなメロディ運びの得意なチャーリーが作曲したナンバーで、ノスタルジックな歌と厚みのあるハーモニーに心を揺さぶられる瞬間が何度も訪れる。メンバーの2人は、現在はオースティンを離れ別々の街で暮らしているそうだが、友人と故郷を恋しく想うリリックには、デュオとしてベスト・パートナーだと感じているという彼ら自身のお互いを思いやる気持ちが感じられる。とともに、この曲の持つノスタルジーと、聴けば目の前がたちまち開けていくような心地よさは、長らく会っていない自分の友人のことを、ふと「どうしているだろう?」と思い浮かべるきっかけにもなってくれるかもしれない。今年こそは久々に、懐かしい人たちと会って、あの頃のように笑ってみるのも悪くないかもしれない。

Hovvdy「Town」

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Text:Nami Igusa  Edit:Chiho Inoue

Profile

井草七海Nami Igusa 東京都出身、ライター。主に音楽関連のコラムやディスクレビュー、ライナーノーツなどの執筆を手がけている。現在は音楽メディア《TURN》にてレギュラーライターおよび編集も担当。

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