自分だけの道を行く勇気をくれる、イヴ・トゥモアの新曲「Jackie」 | Numero TOKYO
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自分だけの道を行く勇気をくれる、イヴ・トゥモアの新曲「Jackie」

最新リリースの中から、ヌメロ・トウキョウおすすめの音楽をピックアップ。今回は、Yves Tumor(イヴ・トゥモア)の新曲「Jackie(ジャッキー)」をレビュー。

孤独の痛みもグラマラスに飾り立て見せつける、イヴ・トゥモアという生き様

「寂しい」という気持ちをほんの僅かでも覚えずに生きている大人は、ほとんどいないのではないだろうか? 親しい人に思うように会えない、という昨今の状況を抜きにしても……いやむしろ、誰かと触れ合うからこそ生まれる「寂しさ」も、中にはあるのではないか。例えば、自分が「周りとはどうも違う」と感じてしまったとき。生活環境の違いからちょっとした価値観のズレまで、自分と他人の些細な“違い”に気づいたとき、急に居場所を失ったかのようにふと立ち止まってしまう経験は、多かれ少なかれ、誰しもに起こり得るはず。 世の中の大きな流れや、求心力のある誰かに寄りかかってしまいたくなるのは、たぶんそんな瞬間なのだろう。自分がマジョリティとは違う、ということを認めたくないという弱さが頭をもたげてきたときに……。だが、彼──イヴ・トゥモアはそうではない。テネシー州出身で、イタリアを拠点としているマルチ・プレイヤー、ショーン・ボウイのソロ・プロジェクトである、イヴ・トゥモア。アンダーグラウンドなエレクトロニック・ミュージックをベースにしながらも、昨年リリースしたアルバム『Heaven To A Tortured Mind』では、70年代を思わせるハード・ロックやグラム・ロックにも傾倒。アンビエントな音楽がある種のブームのように作られ、聴かれていた昨年までの音楽シーンの潮流とは全く真逆の、暑苦しくギラギラとしたサウンドと、アヴァンギャルドながらポップでキャッチーなメロディで聴き手を魅了・圧倒した。派手でグラマラスなルックスもまた、既成の価値観の枠をあえてはみ出していこうとする彼自身のアイデンティティを示すものとして機能していると言えるだろう。ただ一方、彼が歌うのは、ブラックであり、クィアである彼の、エモーショナルで切実な、心の痛みや愛についてといった繊細で孤独な感情なのである。

本曲「Jackie」もその前作に連なる楽曲だ。リリック自体は失恋とハートブレイクを歌ったもので、その心の痛みや傷を甘く切ないメロディで歌い上げる。しかしながら、そのサウンドは実にアッパーかつパワフルで、艶めかしく、そしてギラついているのである。80年代風のどこか昔懐かしいリヴァーブがかかった、極彩色のシンセ・サウンドは、サイケデリックな雰囲気を醸し出し、そこに雄叫びをあげるかのようなエレキ・ギターのチョーキング・サウンドが力強いハード・ロック風の演出を加える。その様子はまるで、孤独に血を流す自分自身の心を、あえてこの世の中にさらけ出すかのようにも思えるのである。

マイノリティである彼だが、自分自身がマジョリティとは異なることを隠しだてしない。むしろその痛みも孤独も、ギラギラと飾り立てながら、グラマラスに、官能的に見せつけていく。マイノリティにとってはもちろん、ふとした瞬間に寂しさに足を取られ「自分の居場所」がわからなくなってしまう全ての人にとってもまた、彼の存在や音楽、そしてその生き様は、他人に迎合せず、自分だけの道を行く勇気をくれることだろう。少なくとも、筆者にとってはそうなのだ。

なお、イヴ・トゥモアは本曲を含むEP『The Asymptotical World』を先ごろサプライズ・リリース。収録されている他の曲も、70年代風の骨太なロック・テイストから80年代のポスト・パンク風、インダストリアルやサイケを意識したようなサウンド・メイクの楽曲まで、多彩。そしてどの曲にも、述べてきたような今の彼のモードが投影されているように感じられる。内省的にもかかわらず、アガる作品にもなっているので必聴だ。


Yves Tumor
「Jackie」(2021年6月16日リリース)
各種配信はこちらから

EP『THE ASYMPTOTICAL WORLD』(2021年7月16日デジタル先行リリース/日本語帯つき12インチ、限定7インチボックスセット10月15日リリース)の詳細はこちらから

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Text:Nami Igusa  Edit:Chiho Inoue

Profile

井草七海Nami Igusa 東京都出身、ライター。主に音楽関連のコラムやディスクレビュー、ライナーノーツなどの執筆を手がけている。現在は音楽メディア《TURN》にてレギュラーライターおよび編集も担当。

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