Wye Oakのジェン・ワズナーによるソロ・プロジェクト「Flock of Dimes」の2ndアルバム | Numero TOKYO
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Wye Oakのジェン・ワズナーによるソロ・プロジェクト「Flock of Dimes」の2ndアルバム

最新リリースの中から、ヌメロ・トウキョウおすすめの音楽をピックアップ。今回は、Flock of Dimes(フロック・オブ・ダイムズ)『Head of Roses(ヘッド・オブ・ローゼズ)』をレビュー。

今いる場所で、穏やかな充足感に満たされていく、夜明けの光のようなエレクトロ・フォーク

筆者が今のところ最後に海外アーティストのライブを観たのは2020年1月、Bon Iverの来日公演なのだが、その中で一人、気になったバンドメンバーがいた。ギター、キーボード、コーラスなどを担当していた唯一の女性メンバーで、特にコーラスとしては、包容力のある歌声がバンドサウンドに豊かな広がりを生み出していたのが印象的だった。あとになって調べたところ、そのメンバーがボルチモア出身のインディー・ロック / ドリーム・ポップの2人組ユニット、Wye Oakのジェン・ワスナーであると知ったのだが、その前後から活動を活発化させている彼女のソロ・プロジェクト=Flock of Dimesも、相乗効果のようにまた素晴らしい作品を生み出している。

2000年代から活動しているWye Oakだが、対するFlock of Dimesのほうはというと2016年にファースト・アルバムをリリース、今作『Head of Roses』がセカンド・アルバムだ。Wye Oakはエレポップ的な趣きも強いバンドではあるが、このジェンのソロ、とりわけ昨年リリースされたEP『Like So Much Desire』からはバンドとは一線を画し、フォーキーな手触りのあるソングライティングを、持ち味であるコーラスを夢見心地に重ねたサウンドメイクで聴かせる作風を確立させていた。今作もその路線を受け継ぎながら、丁寧に紡がれるメロディと、伸びやかな歌声、そして美麗なコーラスに彩られた微睡むような楽曲たちが心地よく並んでいる。

楽曲のアレンジの幅も面白い。オーヴァードライヴをたっぷりかけ、さらにアーミングでいびつに歪ませたギターがインパクト大の「Price of Blue」は、まるで往年のシューゲイザーの名曲、Slowdiveの「Alison」のようなカタルシスたっぷりのギター・ロック。かと思えば、エレクトロニックなベース・サウンドを強く効かせながら、エフェクトをレイヤーし壮大に聴かせる「One More Hour」、シンプルなメロディをカントリー・ライクなコーラスとともにしみじみと聴かせる「Awake for the Sunrise」など、1曲ごとに全く違う表情を見せ、その引き出しの多彩さに驚かされる。が、それでいて一聴するだけでは作品を通してのスタイルのバラつきをあまり感じることがないのが、彼女のアレンジングの巧みさを伺い知るところだ。

そうして聴いているとあっという間に、ごく短いフレーズを歌とピアノのユニゾンのみで繰り返すラストの「Head of Roses」へ到達。前述の「Price of Blue」のようなスケール感のある楽曲から順に作品を体に流しこんでいくと、聴き終わった頃には、どことなく充足感に満たされている。本人はライブやツアーのないこの1年ほどを振り返りながら「前にある何かに手を伸ばしたり、背後にある何かに思いを馳せたりするのではなく、自分が今いる場所で完全に安定して、満足しているように感じる」(「The Guardian」インタビューより)と語っているが、そんな、こうした時勢によって意図せず得ることとなった穏やかさが、今作にはダイレクトに投影されているのかもしれない。まだまだ先の見えない昨今だが、そんな中でも今作は聴くたびに夜明けの光が体じゅうを満たしていくような、気持ちの良さを味わわせてくれるアルバムだ。


FLOCK OF DIMES(フロック・オブ・ダイムズ)『HEAD OF ROSES(ヘッド・オブ・ローゼズ)』
CD/国内流通仕様 ¥2,420(ビッグ・ナッシング / ウルトラ・ヴァイヴ)

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Text:Nami Igusa  Edit:Chiho Inoue

Profile

井草七海Nami Igusa 東京都出身、ライター。主に音楽関連のコラムやディスクレビュー、ライナーノーツなどの執筆を手がけている。現在は音楽メディア《TURN》にてレギュラーライターおよび編集も担当。

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