聴く度に胸が高鳴る、KID FRESINOの最新アルバム『20,Stop it.』 | Numero TOKYO
Culture / Post

聴く度に胸が高鳴る、KID FRESINOの最新アルバム『20,Stop it.』

最新リリースの中から、ヌメロ・トウキョウおすすめの音楽をピックアップ。今回は、KID FRESINO(キッド フレシノ)のニューアルバム『20,Stop it.』をレビュー。

様々なルーツに声と言葉で芯を通す、KID FRESINOの多面性と不変性

私がKID FRESINOのパフォーマンスを生で観たのは、シンガー・ソングライター、折坂悠太との対バンでのことであった。この日のフレシノのセットはバンドメンバーを従えた生演奏ではあったものの、相対するのはフォークロア・ミュージックの歌い手。不思議な取り合わせという印象を当時は抱いたものの、当の折坂は彼のことをおおよそ「似た感覚を共有できる相手」というような言葉で紹介していたことが頭に残っている。フレシノのニューアルバム『20,Stop it.』は、その「似た感覚」なるものの実像が、特によく写し出されている作品だ。 今作のプロデュースは、Seiho、object blue、盟友のjjjが手がけ、ビートトラック中心の楽曲も交えつつ、生バンドの演奏をバックにした楽曲も多く収録。ライブをサポートするいつものバンドメンバーに加え、柏倉隆史(Dr / toe、the HIATUS)、HSU(Ba / Suchmos)、西田修大(Gt)他が演奏に参加、フィーチャリング・アーティストとしてBIM、Otagiri、Campanella、JAGGLAといったMC / ラッパーの他、カネコアヤノ、長谷川白紙といった面々も名を連ねている。もとより、バンドメンバーの出自もバラバラであるし、フィーチュアされているラッパーたちもそれぞれ出身やスタイルが異なる者たちばかり。そうしたアーティストが一作品の中に一堂に会しているという特徴は、おそらくはフレシノ自身の意図的な狙いもあるのだろうし、そこが彼のヒップホップアーティストとして特にユニークなところだ。

そんなラインナップを反映した今作の楽曲は、そのトラックのバックボーンとなっているジャンルも1曲ごとにすべて異なっている。アーバンR&B風の「dejavu」、コンガが絡むジャングル・ビート風の「Girl got a cute face」、トラップとハードなテクノが入れ替わり立ち替わりする「lea seydoux」、そしてカネコアヤノを迎え最終的にフォーク・ソングに着地する「Cats & Dogs」……。これほどまでに楽曲に幅を持ちながらも、どこからどう切っても“KID FRESINOの作品”としか言えないものになっているのは、やはりひとえに彼のラップの力が大きいように思う。英語と日本語を混ぜ、隙間なく言葉を並べ、弾丸のようにまっすぐに叩き込む彼のフロウ・スタイルは、ブレない芯を作品の中に通していく卓越した“貫通力”を持っている。そしてやはり素晴らしいのが、先行配信もされていた「No Sun」。細かなドラム・フィルが生み出す躍動感、スティール・パンやシンセが湧き立たせる静かな高揚感、左右のチャンネルからせめぎ合いながら楽曲を引き締めるベース。その只中をひとり高速で駆け抜けていくフレシノのラップ、というコントラストは、今作を何よりも体現している。何より、聴くたびにこちらも鼓舞され胸が高鳴るのだ。

多面的でありながら、それでいてブレることのない不変性も併せ持っている。今作でKID FRESINOが示したのは、冒頭で触れたような、折坂悠太とも似ているという彼の音楽性、すなわち、様々なルーツの音楽を自らの中に取り込みながら、その声と言葉によって1本芯の通った記名性のある表現へまとめ上げる、その視野の広さと懐の深さなのではないだろうか。

KID FRESINO 『20,Stop it.』
初回生産限定盤CD ¥4,545
各種配信はこちらから。

「ヌメロ・トウキョウ」おすすめミュージックリスト

Text:Nami Igusa  Edit:Chiho Inoue

Profile

井草七海Nami Igusa 東京都出身、ライター。主に音楽関連のコラムやディスクレビュー、ライナーノーツなどの執筆を手がけている。現在は音楽メディア《TURN》にてレギュラーライターおよび編集も担当。

Magazine

DECEMBER 2024 N°182

2024.10.28 発売

Gift of Giving

ギフトの悦び

オンライン書店で購入する