新しい年、新しい時代を予感させるBlack Boboiのファーストアルバム『SILK』 | Numero TOKYO
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新しい年、新しい時代を予感させるBlack Boboiのファーストアルバム『SILK』

最新リリースの中から、ヌメロ・トウキョウおすすめの音楽をピックアップ。今回は、Black Boboi(ブラックボボイ)のファーストアルバム『SILK(シルク)』をレビュー。

個々の才能をシェアリングし生まれた、「しなやかで流動的」な新しい時代への予感

なんとも、しなやかなファーストアルバムだ。それぞれがソロアーティストとして活動する3人からなるエレクトロ・ユニット、Black Boboi。彼女たちの初のフルアルバムとなる『SILK』はそのタイトルの通り、なめらかなシルクの織物のようだ。艶やかで、ひらりひらりと揺らめくようなフォルムをしている。流動的な佇まいの作品なのだ。彼女たちがそれぞれ個々に活動するのでは生まれ得なかったであろうその佇まいに、いま筆者は特に心惹かれている。

スティールパン奏者 / シンガーであり、トラックメイカーとしても活動する、小林うてな。King Gnu・常田大希のプロジェクトにもシンガーとして参加しつつ、自身もトラックメイカーであるermhoi。そして、CMへの楽曲提供等も行うシンガーソングライター、Julia Shortreed。この3人からなるBlack Boboiは、ユニット結成と同時に、“個々の集合体”を意味するという自主レーベル《BINDIVIDUAL》も立ち上げている。その“個々の集合体”という在り方が、今作には非常によく表れているのである。

痺れるほどヒヤリとしたダークなムードに包まれているが、トラックに使われているサウンドはどこかオリエンタルでカラフル。幻想的に音を重ねているが、キックやベースのアタック感は強く、ミニマルテクノ~ハウスのマナーに則ったダンサブルな仕上がり。ダークなムード作りは小林うてなが、ダンサブルでカラフルな音使いはermhoiが、幻想的なアレンジングはJulia Shortreedがそれぞれ得意とするところだろうが、それらが実に美しいトライアングルを成し、個々の音楽の特徴が見事に溶け合っているのだ。

その一方で、彼女たちの才能の、ただの掛け合わせにその音楽性が終始していないところも、今作の素晴らしいところだろう。今作では、1曲の中で、それぞれが作ってきたメロディを繋げるだけでなく、そのまま作ってきた人が歌う形がとられているため、3人が歌い継ぐ形でメロディが展開していくのだが、そのおかげかメンバーそれぞれの音楽に宿る以上の高揚感が芽生えているのが面白い。特に「At last 6 falls」という曲では、メロディの途中でリードヴォーカルが重なりながらバトンを渡していく様子がよくわかり、スリリングかつカタルシスに満ちている。そして、なんと言っても3人の声が重なり合った、シルキーなコーラスは特に美麗。聴いているだけで贅沢な気分に満たされていく。

コロナ禍の中で制作されたという今作は、お互いにデータを送りあいながら、アイディアを自由に交換しあい作り上げたものだという。制約のある環境だからこそ、むしろ個々の持つ才能を自由にシェアリングし、それによって新たな価値が生まれる──そんなしなやかな流動性をもつ今作は、Black Boboiの在り方そのものであるとともに、きっとこれから始まる新しい年、新しい時代を予感させる作品でもあるように思えてくるのだ。

Black Boboi『SILK』
2020年11月25日リリース
各種配信はこちらから

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Text:Nami Igusa  Edit:Chiho Inoue

Profile

井草七海Nami Igusa 東京都出身、ライター。主に音楽関連のコラムやディスクレビュー、ライナーノーツなどの執筆を手がけている。現在は音楽メディア《TURN》にてレギュラーライターおよび編集も担当。

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