選挙権における人種差別を訴える、ジャネール・モネイの最新曲 「ターンテーブルス」 | Numero TOKYO
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選挙権における人種差別を訴える、ジャネール・モネイの最新曲 「ターンテーブルス」

最新リリースの中から、ヌメロ・トウキョウおすすめの音楽をピックアップ。今回は、ジャネール・モネイの最新シングル「ターンテーブルス」をレビュー。

アメリカの欺瞞に真っ向から挑むスター、その潔さと誇りのファンク&ラップ

11月に迫るアメリカ大統領選。コロナ禍の選挙とあって、郵便投票の実施などこれまでとは異なる投票方法も注目を浴びているが、実はそもそも、この投票権を有権者に与えないようにする政策というものが、アメリカにはある。多くの州において、これまで共和党によって行われてきたこの政策は、例えば投票所で身分証明書の提示がを厳格に求めたりするなどして、「投票できる人を抑制する」というもの。そうして投票ができなくなった大部分は、民主党を支持する黒人なのだという。そんな選挙への参加における差別を前に、力強いアンセムをぶち上げたアーティストがいる。ハリウッド俳優としても活躍するシンガー、ジャネール・モネイだ。 昨年にはフジロックへの出演も果たしているジャネール。映画『ムーンライト』(2016年)や『ドリーム』(2016年)といった作品にも出演し、俳優としても確固たる地位を築くスターだ。プリンスの寵愛を受け、その官能的なファンクを自らの血肉としつつ、Pファンク直系なフューチャリスティックなイメージに、マイケル・ジャクソンのようなゴージャスなポップセンスをも兼ね備えた音楽性は、エンターテイメントのど真ん中でありながら、実に独創的。一方で、アメリカにおけるあらゆる「弱者」の側に立とうとする、その社会性やメッセージ性も彼女を語る上で外せない。

今回のシングル「Turntables」も、選挙における差別問題に取り組む黒人女性活動家、ステイシー・エイブラムスを取り上げたAmazon Prime(アメリカのみ)オリジナルドキュメンタリーの主題歌となっているわけだが、これがなんとも痛快な1曲。トレードマークでもある未来的で官能的なファンクサウンドは今回は登場せず、代わりに生バンドが奏でる、力強さを感じさせるトラックが熱い。70年代のようなファットで骨太なベースラインに、歯切れの良いスネア音を軸にした音作りの潔さにも唸るが、そこに乗っかったジャネールのラップも挑戦的でいい。スモーキーな声で、どこか吐き捨てるようでもあるラップは、<America, you a lie>とスピットされているように、生まれ育ったアメリカという国の欺瞞をひっくり返そう=“Turntable”という気迫に満ちている。惨めでもなければ、ただ説教を食らわすわけでもない。極上のエンターテイメントを通じて、ポジティブに、弱き人々の誇りを代弁し続けるジャネール・モネイは、筆者にとっても憧れの存在なのであった。

Janelle Monáe 「Turntables (from the Amazon Original Movie “All In: The Fight for Democracy”)」
2020年9月8日配信(ワーナーミュージック)

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Text:Nami Igusa  Edit:Chiho Inoue

Profile

井草七海Nami Igusa 東京都出身、ライター。主に音楽関連のコラムやディスクレビュー、ライナーノーツなどの執筆を手がけている。現在は音楽メディア《TURN》にてレギュラーライターおよび編集も担当。

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