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フィービー・ブリジャーズの新アルバム『パニッシャー』が静かに熱い!

最新リリースの中から、ヌメロ・トウキョウおすすめの音楽をピックアップ。今回は、Phoebe Bridgers(フィービー・ブリジャーズ)の新アルバム『Punisher(パニッシャー)』をレビュー。

ダイナミックなサウンドを得て、自分の手でハンドルを握る自由を叫ぶ

LAを拠点に活動しているシンガー・ソングライター、フィービー・ブリジャーズのセカンド・アルバムが、各所で静かに興奮と称賛を呼んでいる。25歳という若手ではありながら、2017年にリリースしたデビューアルバム『Stranger in the Alps』が国内外で大きな反響を呼び、一躍注目のアーティストの仲間入りを果たした彼女。その年のベストアルバムに選ぶメディアも多かった前作は、フォークやカントリー由来のソングライティングに、霧のかかったような音作り、透明感とほの暗さのあるヴォーカルがからまり合った絶妙なバランスが印象深かった。美しく牧歌的ながらも憂いを湛えた不思議な魅力のあるアーティストだ。

今作『Punisher』では、そのバランス感を引き継ぎながらも、アメリカのインディー・シーンにおいて重要なアーティストたちが制作に加わることで、幅の広いアレンジとダイナミックなサウンドを見事に手に入れている。特に、「Halloween」や「Savior Complex」などでは、生の楽器を生々しく鳴らすサウンドプロダクションの評価が高いプロデューサー、ブレイク・ミルズが参加。元来の静謐さを保ちながらスケールの大きさを感じさせる彼の音作りとの、抜群の相性の良さに感嘆する。また、「Kyoto」や「ICU」といった、デジタルなサウンドを取り込んだアップリフティングな曲は、彼女の新境地と言えそうだ。

前作に収録されているブレイクのきっかけとなった代表曲の名前は、「Motion Sickness」。そこで歌われていたのは、束縛的なパートナーから逃げられなかった過去との決別だったが、今作でのフィービーは、周りに振り回され“乗り物酔い(Motion Sickness)”を起こしていた頃の自分を完全に払拭し、むしろ自分の手でハンドルを握って、参加アーティストたちを引き連れてドライブしていくような自由を手に入れているのだ。駆け抜けるようなラストの「I Know The End」では、最後に絶叫する声が聞こえるのだが、これこそが彼女の手に入れた自由、そして本当の「はじまり」なのではないだろうか。

Phoebe Bridgers『Punisher』
¥2,400(ビッグ・ナッシング / ウルトラ・ヴァイヴ)
世界同時発売、解説[Carmen Maria Machado]/歌詞/対訳付、初回盤のみボーナス・トラック「Chinese Satellite (voice memo)」のダウンロード・カード封入(日本盤のみ)

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Text:Nami Igusa  Edit:Chiho Inoue

Profile

井草七海Nami Igusa 東京都出身、ライター。主に音楽関連のコラムやディスクレビュー、ライナーノーツなどの執筆を手がけている。現在は音楽メディア《TURN》にてレギュラーライターおよび編集も担当。

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