いまこそ聴きたい独創的であたたかなサウンド。ダーティ・プロジェクターズのニューシングル | Numero TOKYO
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いまこそ聴きたい独創的であたたかなサウンド。ダーティ・プロジェクターズのニューシングル

最新リリースの中から、ヌメロ・トウキョウおすすめの音楽をピックアップ。今回は、Dirty Projectors(ダーティ・プロジェクターズ)のニューシングル「Overlord」をレビュー。

実験的でシニカルな「らしさ」が舞い戻ってきた、バンドのリスタート

Dirty Projectors第二期始動…などと言ったら眉をひそめる人も多いだろうか。確かに、バンドの形を変えながらも彼らは活動を続けてきたのだから、今さら“第二期”などというのは少々失礼かもしれない。だが、前作アルバム『Lamp Lit Prose』(2018年)から約2年ぶりの新曲「Overlord」には、ここ数年のデイヴ・ロングストレスの“Dirty Projectors”としての試行錯誤が、これまで以上に理想的なかたちで花開いているように思えるのだ。

素っ頓狂な調子のイントロから始まるものの、メロディラインはいたってシンプルで瑞々しい。エヴァーグリーンな歌にアコースティックギターの素朴な音色が響き合う様子は、“現代の(ジョニ・ミッチェルの)「青春の光と影」”などとも評されているが、やはり驚かされるのがデイヴ本人が手がける、個性的な録音とミックスだ。コンガやドラム、アップライト・ベースが生々しく前面に迫ってくるのに、楽曲全体はスカスカとしたサウンド・デザイン。華やかでやわらかな女性コーラスの厚みによって、宅録のようにもオープンエアーな場所のようにも聴こえる不思議な音空間が、さらに強調されているのも面白い。そんな音楽性には、彼らの中でも傑作とされる『Bitte Orca』(2009年)の頃の実験的な探究心がそのまま息を吹き返したかのようにも感じられてくる。

のみならず、一時はデイヴ本人のパーソナルな側面に傾いた歌詞も、今回は、よく聴けばポピュリズムやファシズムを揶揄した内容。それをイノセントな女性ヴォーカルが歌うところにも皮肉が効いていて、そんなシニシズムもまた、ファンとしては「これこれ!」と言いたくなる、“Dirty Projectorsらしさ”だ。前作アルバムと同じメンバーで演奏されているという楽曲だが、当時とメンバーは完全に違えども、初期の彼ららしさが現在のバンドの音の持つあたたかみやほの明るさの中に舞い戻ってきたような仕上がりに、彼らの本当のリスタートを感じずにはいられない。

Dirty Projectors「Overlord」
2020年2月27日リリース(Domino)
各種デジタル配信はこちらから

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Text:Nami Igusa  Edit:Chiho Inoue

Profile

井草七海Nami Igusa 東京都出身、ライター。主に音楽関連のコラムやディスクレビュー、ライナーノーツなどの執筆を手がけている。現在は音楽メディア《TURN》にてレギュラーライターおよび編集も担当。

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