ベック“らしすぎる”聴かせる新譜『ハイパースペース』 | Numero TOKYO
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ベック“らしすぎる”聴かせる新譜『ハイパースペース』

最新リリースの中から、ヌメロ・トウキョウおすすめの音楽をピックアップ。今回は、BECK(ベック)の『HYPERSPACE(ハイパースペース)』をレビュー。

Photo by Mikai Karl
Photo by Mikai Karl

「過去を受け継ぎリビルドする」ベックの本領発揮の1枚

気づけばベックがデビューしてから、四半世紀が経っている。その間も常に新作を世に送り出し、トップランナーとして走り続けている彼だが、その息の長さの理由の一つには、毎回全く異なった切り口の作品を提示して、私たちをワクワクさせてくれるところが大きいと思う。その法則から漏れず、ニューアルバム『Hyperspace』も、とことんポップな前作の『Colors』(2017年)とはうって変わった作風だ。スカスカとしたビートに、デジタルな加工をあえて押し出したチープでファニーなサウンドのトラックを重ねつつ、メロウにゆるく聴かせるような楽曲が揃えられている今作。そのテーマはいわゆるヴェイパーウェーブやフューチャーファンクと呼ばれる音楽の、ベックなりの解釈だ。近年の潮流のひとつでもあるこのジャンルは、80年代から90年代にかけての大衆音楽をサンプリングし、ピッチをいじるなどして作られたヨレヨレとしたトラックが特徴。だが、ベックはその音作りのみならず、メロディでも“過去”にオマージュを捧げているようだ。例えば「Chemical」や「See Through」のメロディの90年代R&Bを思わせる懐かしさに思わずグッときてしまうのは私だけだろうか?

ただ興味深いのは、本作が単にブームをなぞっただけの作品ではないところ。存在感を放つスティールギターやアコースティックギターには、『One Foot in the Grave』(1994年)や『Morning Phase』(2014年)のような作品に強く感じられた、彼のルーツであるブルーズの要素が色濃い。それは、フューチャーファンクのもととなったヴェイパーウェーブが過去への風刺の意味を持っていたのとは逆の、「過去を受け継ぎリビルドする」という、彼が四半世紀貫いてきた姿勢を表しているかのよう。その意味で、本作はまさにベック“らしすぎる”1枚と言えるのではないだろうか。

BECK 『HYPERSPACE』
BECK 『HYPERSPACE』

ベック『ハイパースペース』 国内盤CD ¥2,500(ユニバーサル)
各種デジタル配信はこちらから

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Text:Nami Igisa Edit:Chiho Inoue

Profile

井草七海Nami Igusa 東京都出身、ライター。主に音楽関連のコラムやディスクレビュー、ライナーノーツなどの執筆を手がけている。現在は音楽メディア《TURN》にてレギュラーライターおよび編集も担当。

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