ザック・エフロンが伝説のシリアルキラーを怪演。映画『テッド・バンディ』
アメリカで最も有名な殺人鬼テッド・バンディ。そんな彼を愛してしまい、彼に殺されることのなかったたった一人の女性の目線で描かれる映画『テッド・バンディ』が12月20日(金)に公開された。
見た目は爽やかなモテ男、その正体は稀代の猟奇殺人鬼! ザック・エフロンの怪演に注目したい異色の傑作犯罪映画
1970年代にアメリカを震撼させた実在の殺人鬼、テッド・バンディ(1946年生~1989年没)。30人以上の女性を惨殺したとされ、“シリアルキラー”という呼称の語源になった男。『CSI:科学捜査班』や『クリミナルマインド FBI行動分析課』『マインドハンター』など、犯罪物の海外ドラマシリーズをよく観ている人なら、劇中でもその名前を一度は聞いたことがあるだろう。
そんな伝説の凶悪犯の秘話に迫る戦慄の実話が映画化された。テッド・バンディを演じるのは、なんと『ハイスクール・ミュージカル』(2006年)や『グレイテスト・ショーマン』(2017年)のザック・エフロン!
他の殺人鬼と違ってテッド・バンディが特異なのは一見「好青年」だったこと。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で描かれたシャロン・テート殺害事件の実行犯たちの教祖だったチャールズ・マンソン、あるいはピエロに扮して犯行に及び、『IT/イット』の殺人鬼ペニー・ワイズのモデルとも言われるジョン・ゲイシーなど、いかにも邪悪な存在感を放つ「見た目」ではまったくない。
むしろ誰からも好感を持たれ、物腰も柔らかく、身なりも清潔で話も上手。大学で法律も学んでおり、IQ160ともいわれる頭脳と甘いマスクで世間やメディアを長らく翻弄した。
裁判の傍聴席には“プリズン・グルーピー”と呼ばれるファンの女性たちが詰めかけ、新聞には“Charming Killer seems ‘one of us’”(チャーミングな殺人犯は私たちと同じ普通の人)という見出しが踊る。多くの人が彼のことを殺人鬼だとはなかなか信じようとしなかったのだ。
この映画はそんなテッド・バンディの「イメージの良さ」、つまり人たらしの能力にフォーカスする。ユニークなのは、その正体を知らないままテッド・バンディと恋愛関係にあった女性の目線で描かれるドラマということだ。
原作はエリザベス・ケンドルの著書『The Phantom Prince :My Life with Ted Bundy』(1981年出版)。一時期、テッド・バンディの恋人だった彼女(映画では『白雪姫と鏡の女王』『ハリウッド・スキャンダル』のリリー・コリンズが演じる)は、裁判で徐々に明らかになる残虐な所業と、優しかった彼との甘い想い出の狭間で混乱と葛藤を重ねる。
知的でウィットに富み、ハンサムな彼に魅せられたヒロインの目線が主軸となることで、われわれ観客も本当は邪悪なモテ男の“ヤバい魅力”に翻弄されてしまうのだ。
このテッド・バンディの異常性をカラッとした明るさで体現する主演のザック・エフロンがすごい。本作がサンダンス映画祭で初上映された時からエフロンの演技に絶賛が集まっており、演技派の評価を一気に高めている。
監督はジョー・バリンジャー。エミー賞受賞の『Paradise Lost』シリーズや、『メタリカ:真実の瞬間』(2004年、ブルース・シノフスキーと共同監督)や『クルード~アマゾンの原油流出パニック~』(2009年)など、ドキュメンタリーの分野で高い評価を受けてきた名匠だ。今回はNetflixのドキュメンタリー作品『殺人鬼との対談:テッド・バンディの場合』(全4話)をほぼ並行する形で完成させ、そちらでは記録映像やインタビューなどを通して事件を検証・分析し尽くしている。
劇映画とドキュメンタリー、両方のスタイルで稀代の“負のカリスマ”の人物像を掘り下げていく試み。事件に関する徹底したリサーチが、この劇映画『テッド・バンディ』にも多面的に反映されている。
世界を震撼させた“シリアル・キラー”の秘められた真実。一筋縄ではいかぬ愛の線引き。われわれは人間性の中身よりも、表情や仕草や身だしなみ、話し方といった外面の印象や情報で社会的に判断してしまいがちだという危険な錯誤。
優れた犯罪実録物であり、異色のラブストーリーでもあるこの傑作は、人間の奥深い闇や、メディア・リテラシーへの考察に高いレベルでわれわれを導くはずだ。
『テッド・バンディ』
監督/ジョー・バリンジャー
出演/ザック・エフロン、リリー・コリンズ、カヤ・スコデラーリオ、ハーレイ・ジョエル・オスメント、ジョン・マルコヴィッチ
12月20日(金)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
phantom-film.com/tedbundy/
配給/ファントム・フィルム
©2018 Wicked Nevada,LLC
Text:Naoto Mori Edit:Sayaka Ito