Culture / Post
ナカコーことKoji Nakamuraが更新する「新しい日本の音楽」
最新リリースの中から、ヌメロ・トウキョウおすすめの音楽をピックアップ。今回は、Koji Nakamura『Epitaph』をレビュー。
音楽の外と内の枠を外して、ただ時間と空間の変化に浸る心地よさ
元スーパーカーのナカコーによるソロプロジェクト=Koji Nakamuraの約5年ぶりとなるこのセカンドアルバムは、もともと楽曲のアレンジが継続的に更新されるプレイリストの形で配信されていたもの。そんなリリース形式も含めて、本作は、時間と空間の移ろいに身を任せる心地よさを味わわせてくれる作品だ。 たとえば、スピーカーからこの作品を流してみよう。厚いテクスチャーのサウンドにもかかわらず、“音楽の外”を取り巻く生活音と意外なほど馴染む。その理由にはおそらく、明確なビートがない、ということが大きい。代わりにあるのは、トラック同士が生み出す“うねり”。フラッシュするエフェクト、曲に厚みをもたらすシンセ、加工されたヴォーカルの断片、浮かんでは消える表情豊かな低音、くぐもったピアノ、鮮やかなストリングスーーそれらが重なりあったり、離れあったりしながら、刻々と有機的にそのかたちを変えていくのだ。「ここまでが音楽で、ここからはその外側」と規定する、ビートという名のフレームが外されることで、時に不規則に音を立てる生活音ともシームレスに繋がるのだろう。喩えるなら、まるで骨のない軟体動物やアメーバのようだ。 部分的に聴けば、ノイズ・ミュージックのようにも、はたまたディープ・ハウスのようにさえも感じるところもあるし、一方で歌やコーラスが現れる部分はポップかつ甘美だ。ただ、“刻々と移ろっていく”という点からすると、やはり本作は紛れもないアンビエント作品。この、時間と空間の変化そのものに浸る感覚、それこそがナカコー本人が本作を指して言う“新しい日本の音楽”の一端なのかもしれない。Text: Nami Igusa Edit: Chiho Inoue
Profile
井草七海Nami Igusa
東京都出身、ライター。主に音楽関連のコラムやディスクレビュー、ライナーノーツなどの執筆を手がけている。現在は音楽メディア《TURN》にてレギュラーライターおよび編集も担当。