能町みね子&佐々木ののか 対談 「家族って何ですか? 結婚って何ですか?」 | Numero TOKYO
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能町みね子&佐々木ののか 対談 「家族って何ですか? 結婚って何ですか?」

話題の私小説『結婚の奴』で「夫(仮)」との生活を築くまでを綴った能町みね子と、『愛と家族を探して』でさまざまな「家族」に出会った佐々木ののか。二人が考える人と人とのつながりの今。(『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2020年10月号より抜粋)

家族も準家族も。永遠に続くつながりなんてない

佐々木ののか(以下S)「これまでいろんなカップルの方に取材するなかで、契約結婚や恋愛をはさまない結婚の形を取られている方もいたのですが、能町さんの『結婚の奴』を読んで「夫(仮)」のサムソン高橋さんとの関係を知ったとき『うらやましいな、居心地が良さそうだな』と率直に感じて。それで能町さんに『愛と家族を探して』の推薦文をお願いしたいなと思ったんです」

能町みね子(以下N)「今のサムソンさんとの生活は『こんな感じにしたい』と考えていた形にほぼなっていて、ほんと快適です。あと自分の意識の中ではだいぶ気楽になったところがありますね。「別に結婚しても、しなくても」と思いながらも、やっぱり『結婚しているほうが立派な人』みたいなコンプレックスをこっちが勝手に抱いてしまうところがあって。そういう意識をなくすことはできたかなって思います」

「その葛藤についても『結婚の奴』ですごく書かれていましたよね。もしそういったものをポンッと振り切れる人の話だったら、そこまでうらやましいと思えなかったかもしれないです。能町さんは〈世間へのおもねり方〉とおっしゃっていました、その〈おもねり〉をやってきた結果、今の形がいいと思えるようになっているのが素晴らしいなと感じたし、いつか私もそうなりたいという憧れの気持ちがあります」

「ありがとうございます。私は『結婚したい』となる前に、一人暮らしが嫌になってしまったというのがあったんですけど、今の『結婚』に至る前の段階で『近所』という鉱脈を見つけてしまった時期があって」

「近所?」

「『近所って鉱脈だな』と思っていたことがあったんです。35歳くらいのときに近所で気になるお店があって、頑張って入ってみたら意外と地元の人ばかりが来るお店だったんです。20代の頃は近所に飲みに行くことはなかったし、ざっくりと同じジャンルに属している、なんとなく話が通じる人たちとばかりしゃべっていたんですが、近所って本当にいろんな人が来るんですよ。35歳にもなると話も合わせようと思えば合わせられるし、まったく協調性がない人はいないので、近所っていう共通項だけの知り合いがその頃ちょっと増えたんです」

「なんか楽しそうですね」

「うん、すごく良かった。一人暮らしだけど家から歩いて数分の所に行けば誰か知っている人がいて、大して有益な内容じゃないけどひと通り楽しい会話をして、家に帰って寝るというだけでだいぶ満たされるところがあって。でも結局そこから人が少しずつ抜けていったり、そもそもお店がうまくいかなくなったりとかあり、そこでの関係性も永遠に続くものではなくて。その頃ですね、『一人暮らしをもうやめよう』と思ったのは」 

「私が住んでいる場所にはたまたま近しい友人もいて、夜中にちょっと遊んだり、コーヒー一杯飲んで解散できたりするような状態にあるんですが、今の話を聞いて『もしかしたら一人暮らし、やめるかも……』ってなりました」

「準家族みたいになっているんですけどね、その段階だと。でもそこから本物の結婚が生まれちゃったりもするから、どんな関係性にも永遠なんてものはないんだなって」

「やっぱり関係性って、その都度考えていかないといけないですよね……」

割り切った感情が保つ関係性

「いま私の周りでは出産ラッシュで。結婚や出産の報告をSNSで見るのは全然構わないんですが、この間5件まとめて見たことがあって。さすがに『うわっ……』となって、午前中だけとはいえ寝込んでしまいました」

「私のほうは、ちょこちょこ離婚の報告が出てきています。お子さんが何人かいても離婚する人もいて、やっぱり結婚はゴールじゃないんだなっていうのを感じています」

「『愛と家族を探して』に収録したインタビューの中でお会いした契約結婚をされた方や年が離れた相手と結婚された方たちは『いつでも離婚できる』と結婚するのとはまた別に、うまくいかなくなったら関係をやめていいという前提で入ると楽だと話されていましたね。関係を続けたかったらお互い努力しようとするから、そのスタートは良いと」

「私はゼロからいきなり『結婚したい』となって『恋愛感情抜きで結婚したらどうなるんだろう?』という思考実験的な感じの結果、今にたどり着いているんですが、人と暮らせるだろうかという不安は最初あったんですよ。でも過去に誰かと恋愛関係にあったとき、なんで失敗したかというと『こういうことをしたら嫌われるんじゃないか?』みたいなことをずっと考えていたからで。でもサムソンさんは恋愛対象じゃないから、嫌われたらどうしようと考える必要が全然ない。だからいきなり一緒に暮らしても、たぶん失敗しないんじゃないかと思っていたんですよ。結局は住む家にお風呂がないので改装が必要という現実的な理由で、試用期間みたいなものを一年近く取ることになりましたが」

「一緒に住み始めるまでの間、恋愛っぽい感じが進展している様子が楽しいと本で書かれていたじゃないですか。あの“恋愛”と“恋愛プレイ”は違うっていう話、すごく新鮮で好きでした」

「あれは楽しかったです(笑)」

「恋愛って楽しくてやっている部分もあるのかもしれないけど、自分の気持ちを乱されたりとかしてつらくて『もういいかな……』という気持ちもだんだんしてくる。でも、ちょっと楽しいことはしたいなという気持ちもあるので、本を読んで『切り離して考えられるんだ!』って驚きましたし、私も恋愛プレイはどんどんしていこうと思いました」

「なんか形としては、ホストみたいな感じですよね。本気でハマっているわけじゃない、その時だけ楽しんでいるだけのホストとの関係」

「そうかもしれない(笑)」

「でも考えてみると、ホストとの関係も疑似恋愛だし、そういった何らかの手段で独立させて楽しむこともできるのかなとは思うんです。あとサムソンさんに対しては、さっき話した『嫌われてもいいや』に加えて『期待しない』っていうのもあって。家事は任せっきりなんですが『あんまり掃除していないな』と感じたら自分がやればいいと考えるようにしていて。それも関係を保つための手段になっているのかもしれないです」

血縁や「普通」にとらわれない家族の形

「これまでは家族と性愛をテーマに取材をしていたのですが、最近は同じ家族の軸でも介護や死生観に興味があって勉強していて。その中でしっくりときたのが『ライフヒストリーを知っている人が家族』という考え方で。認知症患者の方の記憶を呼び覚ますために、過去に関する話をたくさんするのですが、福祉の方だと患者さんの過去まではわからないから家族を参照する。そういう意味でいうと血縁関係によらず、患者さんと長く一緒にいた人が家族として扱われるんじゃないかと」

「確かに一緒に暮らしていても、シェアハウスみたいにお互いのことを特に知る必要がないと家族っていう感じにはならないですよね。その定義だと、私のところも家族になっているんだろうな…。なんか家族っていうと、大きな病気にかかって1人で暮らせなくなったり、介護が必要になったり、いざというとき最後に頼るところみたいなイメージが私にはあって。〈家族=負担を負う義務がある〉と考えているところが嫌だし、サムソンさんとの関係もそういった義務的なものを極力なくしたから、最終手段的な存在としての『家族』にはあまりなりたくないと考えているんです」

「私も家族が重たい関係になるのは嫌だなという気持ちはあるものの、割り切れていないところもあり、狭間でずっと考えている状態です。なんか家族という形の選択肢が少なすぎますよね。ある程度の正解っぽいもの、強いものが一つあって、それ
の枝葉が許されていない印象がすごくあります。だからいっぱい枝葉が出てきて、それぞれの家族が楽しく暮らせるようになれたら、〈普通〉とされている形を選ばなくても生きやすくなるだろうなっていう感じがするんです」

「文章にはしていないのですが、ちょっと変わった家庭の話を聞くのが私は好きで。周りでそういう話を耳にすると、興味を持って聞いちゃうんですが、以前、飲んでいるときに私の作品を読んだことがあるという50代くらいの女性に声をかけられた
ことがあって。共通する話題もあったので話をしたら、旦那さんとの間に実子を産んだ後、何人かの子どもをゲイカップルの代理出産で産んだことがあるという方だったんです」

「えっ、すごい!」

「その子どもは高校生ぐらいになっているらしくて、『15年以上も前にゲイカップルの代理出産をしたことがある人が、こんな近くにいたんだ!』って思いましたね。同性婚どころか夫婦別姓すらいまだに進んでいないのに、一方では十数年前にそんなことをとっくに起こしている人がいる(笑)。この女性以外にも、私がやっていることなんて大したことないと感じるくらいインパクトのある家庭の話をたくさん聞くので、あんまり公にされていないだけで、実は人とのつながり方って何でもありのよ
うな気がします」

『結婚の奴』

能町みね子/著(平凡社)
人生の理想形を模索するうちに「家族と性愛」について執筆活動を始めた著者。多様な生き方を実践する人々への取材と考察を収録した本書は、人が共存する上で尊重すべきものは何かと問う。固定観念から離れたときに見える景色の広さにも気づかせてくれる一冊。「仕事や生活を立て直すために、まず誰かと同居するべきなんじゃないだろうか?」という問いから、「夫(仮)」との生活を築くまでを綴った私小説。自身の内面に訪れた変化や「常識」と向き合った記録は、人生の在り方とは自在に選択できるものだと教えられる。

『愛と家族を探して』

佐々木ののか/著(亜紀書房)
人生の理想形を模索するうちに「家族と性愛」について執筆活動を始めた著者。多様な生き方を実践する人々への取材と考察を収録した本書は、人が共存する上で尊重すべきものは何かと問う。固定観念から離れたときに見える景色の広さにも気づかせてくれる一冊。

Photo:Harumi Obama Text:Miki Hayashi Edit:Sayaka Ito, Mariko Kimbara Cooperation:Oakwood Premier Tokyo

Profile

能町みね子Mineko Nomachi 文筆家。TVや雑誌などにて連載多数。近著に『雑誌の人格 3冊目』(文化出版局)、『そのへんをどのように受け止めてらっしゃるか』(文春文庫)など。NHK『金曜日のソロたちへ』出演中。最近になって猫を飼い始めた。
佐々木ののかNonoka Sasaki 文筆家。「家族と性愛」を主なテーマにエッセイや記事を執筆。「ケア」というテーマにも取り組んでいる。映像の構成企画やアパレルの制作、映画・演劇のアフタートークなど、ジャンルを越境して自由に活動。愛猫と同居中。

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