頑張りすぎないように。 臨床心理士のみたらし加奈と考える コロナ禍のメンタルケア | Numero TOKYO
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頑張りすぎないように。 臨床心理士のみたらし加奈と考える コロナ禍のメンタルケア

新型コロナウイルス禍の影響で、いま人間はどれだけのストレスと不安を抱え込んでいるのだろうか。「私より大変な人がいる」と自分を追いつめないでほしい。人それぞれあらゆる方法で、新しい日常を作り出そうともがいている。人間とストレスの関係性とは何か。そしてコロナによるストレスはどれくらい深刻なのかを臨床心理士のみたらし加奈が解説。自宅でできるセルフメンタルケアも紹介します。

人間はルーティーンを壊されると 強いストレスを感じる?

編集 柴田(以下 S):「みたらし加奈さんはコロナ禍によるストレスをどれくらい深刻だと思われていますか?」 みたらし加奈(以下 M):「新型コロナウイルスの影響によるストレスはとても深刻な問題です。大きく2つに分けると、1つは『世の中の空気感や神経質にならなければならない部分にストレスを感じること』。もう1つは『経済状況の悪化で自分の将来がどうなってしまうのかという不安感』です。簡単に言えば前者は感情的なこと、後者は金銭的・物理的なことで、これらがダブルでのしかかっている方も多く、とても深刻な状況だと感じています」 「人って暮らしていく中で、ルーティーンみたいなものがありますよね。なんとなく月〜金曜日までこんな感じで、土日はだいたい〇〇をする〜とか。1日の始まりはこうで、こうやって就寝する……とか。たとえ無意識であったとしても、そういったルーティーンがあることで、精神面の健康が保たれている人だっています。しかしそれが、今回の新型コロナウイルスや経済状況の悪化という『外からの要因』よって崩されてしまっている状況なんですよね。自ら選択したわけではないのに、自分の日常が崩されてしまっているかもしれない現実って、実は相当ストレスフルなことで、もう少しみんなが意識的に『傷ついているんだ』『苦しいんだ』などと分かれば良いなと感じています。ただ世界的にこんな状況なので、『私よりも大変な人がいる』と言って自分自身の苦しみを軽く見てしまったり、『もっと頑張らなきゃ』と他人と比べてさらに自分を追い詰めてしまうこともあるでしょう。例えば失恋の場合は、みんなが一斉に失恋をしたわけではないから、『私は本当に傷ついている』と声を大にしていえる部分がありますよね。でもコロナ禍では、自分も苦しいはずなのに、誰かと比べたり謙遜したりしてしまうことがあります。そうやって自分のストレスを周りと比べてしまうことも、しんどい理由の1つだと感じています」

S:「誰とも比べないというところから始めなければいけませんね。でもそれがなかなか難しい……。具体的にどうすれば比べないようにできるのでしょうか」

M:「幸福も不幸も、人と比べるものではありません。そして、それは『痛み』についても同じことです。なので、誰かと比べずに『自分だけのしんどさ』について考えてみてほしいです。ぜひトライして欲しいのは、自分の想いを書き出してみること。「これが辛かった、苦しかった、嫌だった」などを書き出してみて、それに対する対処法を少し考えてみる。例えば『今日XXさんに嫌なことを言われてしまった』という場合には、<XXさんと話し合ってみる><距離を置いてみる>など様々な選択肢があると思います。そしてその中には、もしかしたら『自分では対処できないこと』もあると思うのです。そういった場合は、自分で対処できそうなものはやってみて、対処できなさそうな苦しさは専門機関に相談してみてほしいです」

「風邪の引きはじめって、薬局で売っている市販薬を飲んでみたり、お風呂上りに早く髪を乾かしたり、栄養ドリンクを飲んでみる……など自分で対処することってあるじゃないですか。でも風邪が悪化して『これはさすがに病院で診てもらわないと…』と思う時が来て、そうすると気軽に病院にかかることができますよね。そういった身体の風邪と同じように、メンタルケアに関しても、対処できることは自分でやってみて、できなくなったものは『信頼できる人や専門機関に話してみる』ということが本当に大切だと感じています。今だったらオンラインカウンセリングもあるので、行ったことのない人にとっても『専門機関にかかるハードル』が低くなっていると思います。『こんな悩みでもいっていいのかな』と感じることもあるかもしれませんが、誰かと比べたり、自分の苦しみを小さく見積もる必要なんてないのです。私たち専門家は『そんな悩みで来たんだ…』なんて思わないので、是非、気軽に試してみてください」

涙もろくなったのはコロナの影響!?
現状のストレス耐性を理解しよう

S:「いつも通りテレビを見ていると、ちょっとしたシーンで感動してすぐに涙が出てしまったりすることがコロナ前に比べて増えた気がするのですが、コロナ疲れしているのでしょうか」

M:「まず知っておいてほしいのが、人によってストレス耐性が違うということ。ストレス耐性が1つのコップだとして、コップの大きさや深さは人それぞれ違うと考えてみてください。そして『水が入ること』がストレスだとすると、コロナ禍ではみんなに『同じような量の水』がすでに入っている状況なんです。例えばコロナ禍のせいで、自分には常に200mLの水が入ってしまっている状態だと考えてみてください。普段の自分のコップ(ストレス耐性)が500mLくらいだったとしても、そこに既に200mLは入ってしまっている。そうすると残りは300mLしかないので、テレビで少しでもショックなシーンがあると涙が溢れてしまったり、相手に言われた一言ですぐに落ち込んだりしてしまう……なんてことが起きます。なので、『今日はコップの水が満杯になりそうだから、ちょっとペースダウンしよう』とか、『コップの量的に今日は休まなきゃいけないから、仕事のことは考えずに羽を伸ばそう!』など、普段から意識的にストレスと向き合うきっかけがあればいいなと思っています」

睡眠と心の密接な関係性って?

S:睡眠不足の方が増えているようですが、睡眠不足を解消する方法が知りたいです。

M:「コロナ禍と睡眠不足って、一見あまり関係のないトピックに見えますが、私のところにも『生活リズムが乱れて、睡眠が不規則になった』と相談される方が増えています。特にリモートワークだと、生活にメリハリがないので、お昼寝してしまって夜に眠れなくなったり、自分の気力次第で夜遅くまで仕事を続けてしまったり……。そうやってバランスが崩れていって、昼夜逆転をしてしまう方もいると思います。『睡眠とメンタルって関係あるの?』と思われる方もいるかもしれませんが、実は睡眠と心の関係性ってとても密接なんです。もしも『最近心が疲れているな』とか『感情の起伏が激しくなったな』と思う時は、まずは自分の睡眠について振り返ってみてください。そこで問題を見つけた際には、生活リズムを整えることも大切です」

「睡眠や生活リズムについて直そうとする時って、つい『就寝する時間』を意識しがちですよね。しかし、『起きる時間』にも鍵があります。眠りにつくタイミングって案外自分ではコントロールしにくいので、起きる時間をちゃんと決めてみることも大切です。もしも自分の睡眠について立て直したい場合は、『夜中の3時くらいに寝てしまった』という日も、その日は少し頑張って朝9時に起きてみたり、お昼寝せずに過ごしてみてください。
また、この期間は家にいる時間も長いので、適度な運動で身体を疲れさせてあげることも必要です。散歩したり、汗をかいてみる。それが難しそうであれば、ラジオ体操などでも代用できます。そして、体内時計を整えるために、日光に当たることも意識してみてください。それらを5日くらい繰り返していくとだんだん生活リズムが戻ってきたりします。それでも治らない場合は、精神科や心療内科に相談をしてみてください」

コロナ禍に向き合える、私と心

S:「みたらし加奈さんはこの状況に慣れて、新しい日常を作っていくことが大切だと思いますか?」

M:「慣れるのではなく、慣れずに自分の変化に向き合ってみることも大切かもしれません。ワクチン開発のために頑張っている方々もいらっしゃって、いつかは新型コロナウイルスが驚異でなくなる日は来ると思うんですよ。ただ、そのゴールがいつ終わるか分からないからこそ、新型コロナウイルスが驚異でなくなったときに、自分のメンタルが保てなくなってしまっているかもしれない。せっかく驚異じゃなくなって生活が戻ったとしても、今度は自分の治療に専念しなければいけなくなってしまうので、まずは生活リズムを整えてみたり、自分自身を大切にする……などをやってみてほしいです。今までメンタルケアというものに向き合っていなかった方にとっては、こういった状況はある意味いい機会になるかもしれません。自分の『心』を置いてきぼりにしてしまっていた方々が、これを機に『メンタルケア』というものについて関心を持ってくれれば……と感じています」

S:「メンタルと向き合うというのは、過去の経験なども踏まえて?」

M:「そうですね。ドラマを見てボロボロ涙が出てきて『なぜだ?』と思ったら、自分とドラマに出ている人との環境が似ていたりとか。幼い時にできた心の傷やトラウマは、無意識に心に残されていることもあります。コロナ禍は常にストレスにさらされている状況でもあるので、思いもよらないタイミングでそこが浮き彫りになってしまうケースもあります。苦しい思い出が浮かび上がって、その不安がさらに不安を呼んでしまうんですね。これを『精神交互作用』と呼びます。1つの感情に支配されてしまって、それが呼び水になって、結果的には負のループになってしまう。例えば、家族や知人に言われた悲しい言葉がふと浮かんで、そこからどんどん嫌なことを思い出してしまったり。そういう時は『なんで昔のことを思い出してるんだろう。忘れなきゃ!』というように蓋をしてしまうのではなくて、『あの時、私は傷ついてたんだな」と感情を受け止めてあげた上で、自分をたくさん甘やかしてあげてください。自分の心と向き合ったり、感情を分解していくことで、少しずつその傷が和らいで消化できることもあるんです。過去・現在を問わず、コロナ禍をきっかけに浮かび上がってきた感情と向き合ってみることは、メンタルケアの第1歩です。そこには新しい発見があるかもしれませんし、今のあなたの『しんどいこと』を紐解く鍵があるかもしれません。あなたは決して1人ではありません。しんどくなった時は、1人だけで対処しようとせずに、誰かや専門機関を頼ってみてくださいね」

読者の皆さまへ
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Edit&Text:Saki Shibata

Profile

みたらし加奈Kana Mitarashi 1993年、東京都生まれ。臨床心理士。SNSを通して、精神疾患の認知を広める活動を行なっている。大学院卒業後は、総合病院の精神科にて勤務。現在は、フリーランスの活動をメインに行っている。女性のパートナーと共にYouTubeチャンネル「わがしChannel」を運営。6月30日には初のエッセイ『マインドトーク-あなたと私の心の話』を出版。専門家とともに性被害や性的同意についての発信をするメディア、『mimosas』理事。Twitter:@mitarashikana

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