エド・オリバーが探求する体と性。写真展「Dys・Morphia」インタビュー | Numero TOKYO
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エド・オリバーが探求する体と性。写真展「Dys・Morphia」インタビュー

雑誌『IWAKAN』の編集や海外雑誌のモデルなどでも知られるマルチアーティストのエド・オリバーさんの写真展「Dys・Morphia(ディス・モルフィア)」が2月13日(日)まで高円寺のブックショップ&ギャラリー「タタ」で開催中。写真の美しくて不思議な世界観はそれだけでも圧倒されますが、さらに楽しむために、エドさんご本人に解説を伺いました。 展覧会のタイトル『Dys・Morphia』の意味についてエドさんはこう語ってくれました。 「Dysは奇形・醜い、Morphiaは形状。珍奇とか、変な形って意味かな。海外だと鏡を見て『なんかちょっと似合わないな』とか『自分のこのパーツ好きじゃないかも』くらいのニュアンスで使っているんですが、日本には醜形恐怖症という言葉があって、それを翻訳するとBody dysmorphic disorderという言葉になります。私は自分の体に対する違和感があって、“形”がなくなれば“変”もなくなるんじゃないかと思っていて。この展覧会では”形を無くしていく”ということを表現しています」

展覧会会場に入ると、正面には暗闇に浮かび上がる1人の人間の、顔と胸が現れます。続いて正面を向いた顔と背中が一体となり、顔や体が金属のように溶けていく。そして最後には真っ白ななかにうっすら浮かび上がる、真っ白な顔で締めくくられます。

「最初の写真は一人に見えるけど、実は顔は男性で、胸は女性。でも暗闇のなかで溶け合って、男性は女性を……つまり自分の中の女性性を抱きしめて、受け入れて2人はどんどん1人の人になっていく。そして人間じゃない形になっていって、溶けて溶けて真っ白になって、何もなくなる。全部が溶けたら、形にとらわれないピュアなソウル(魂)になっていく……。そんなストーリー。私はいつも肌を脱ぎたいと思っていて。体はすごく重い。自分の魂にもっと近づいてもっと軽くなっていきたいんです」

一方、制作過程では新たな発見も。

「黒だからこそ体が消えていくじゃないですか? それで体が軽くなっていくと言えるんだけど、暗いからこそ照らされた体の線が強調されてしまう。無くしつつ、もっと存在していく。自分が見えていなかった部分がさらに見えていく。軽くなりつつ、重くなっていく。そんな矛盾も生まれました」

展覧会のメイン写真となっている、顔や体が金属のように溶け合っている不思議な写真(記事一番上のポスター写真)。CG技術を駆使しているのだろうか思っていたら、思わぬ種明かしが。

「これは、エド自身のセルフポートレートを、光を反射しない、でもツヤのある特別な布に印刷しているんです。使っているのはアイデンティティを決めつけられる要素である顔、胸、など。それを印刷して、立体裁断して、全身タイツと組み合わせて彼氏に着てもらい、撮影しました。自分を着た彼氏を見るのは、すごい不思議な感覚で、楽しかったです(笑)」

最後に、なぜメキシコ生まれ・カナダ育ちの彼がジェンダーの価値観や法整備が遅れている日本で体や性の新たな表現を探求しているのか気になって、聞いてみました。

「まずお母さんが日本の会社で働いてたのもあり、小さい頃から日本語を学んでいました。それで日本語を話せるので、大学のときに日本に留学することに。確かに日本の制度は遅れているけれど、実はすごく自分にとってアイデンティティを表現しやすい場所。メキシコだと暴力の危険があるから、親は心配して、シンプルで目立たない格好をしろと言うんです。でも日本は安全で、表現しても暴力にあうことは少ない。誰にどう見られているか気にしてしまう人には生きづらいかもしれないけど、私は“I’m a superstar!”って思えてるからみんなにどう思われても“Whatever?”って感じ。それに日本は男性もオシャレしているからいいよね」

エドさんや、エドさんが務めているクリエイティブチームREINGの表現は、いつも視野が広がるような感動があります。今後も注目していきたいです。

写真展では展覧会の写真をまとめたZINE(¥1,800)も発売中。限定120部なのでお早めに。

Edo Oliver「Dys・Morphia」
会期/2022年1月27日(木)〜2月13日(日)まで
場所/タタ tata bookshop gallery(東京都杉並区高円寺北2丁目38-15)
時間/13:00-21:00(木〜日)
お問い合わせ/info@tata-books.com

Profile

エド・オリバーEdo Oliver 写真、テキスタイル、パフォーマンスアートを中心に多岐に渡って活動を行うマルチアーティスト。体、接触、愛、孤独など様々なテーマを扱い、静かな人間性と自分自身を理解しようとする孤立した内省の瞬間を核としている。クリエイティブスタジオREINGのクリエイティブディレクターを務め、アンドロメダという名のドラァグクイーン、雑誌『IWAKAN』の創刊者の1人で編集者としても活動を行なっている。
金原毬子Mariko Kimbara エディター。学生時代にファッション誌編集部でのインターンや雑誌制作を経験し、編集者を志す。2017年扶桑社に入社し営業職を経て、19年『Numéro TOKYO』編集部に異動。主に人物取材やカルチャー、ライフスタイルなどの特集、本誌の新連載「開けチャクラ! バービーのモヤモヤ相談室」などを担当。音楽、ラジオ、ポッドキャストが好きで片時もヘッドフォンが手放せない。

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