Art / Editor’s Post

グッチのアート展(@ソウル)をオンラインで体験!

出展作品より、Olivia Erlanger『Ida, Ida, Ida!』(2020年)、「No Space, Just a Place」展示風景、大林美術館、ソウル(2020年)
出展作品より、Olivia Erlanger『Ida, Ida, Ida!』(2020年)、「No Space, Just a Place」展示風景、大林美術館、ソウル(2020年)

アレッサンドロ・ミケーレが率いるグッチ(GUCCI)が、韓国・ソウルの大林(デリム)美術館で現代アートの展覧会「No Space, Just A Place」を開催。このたび、その空間をオンライン上でリアルに体験できる360°のヴァーチャルビューが公開されました。

100年に一度ともいわれる災厄によって、世界中の人々が外出の制限や自宅での待機生活を余儀なくされている現在。「いまファッションやアートに何ができるのか?」文化や芸術の根本を揺るがす危機感が漂うなか、アレッサンドロ・ミケーレが率いるグッチから、新たなアートプロジェクトの報せが届いた。
これまでにマウリツィオ・カテランやマリーナ・アブラモヴィッチ、小誌でもインタビューを掲載したアンジェラ・ディーン(※1)など、気鋭のアーティストたちとのコラボレーションをとおして社会的なメッセージを発信してきたミケーレのこと。果たして、どんなプロジェクトなのだろう……?

(※1 Numero.jp 「アンジェラ・ディーンにインタビュー『私たちの記憶はすべてゴーストみたいなもの』」

「No Space, Just a Place」展の会場、大林美術館(ソウル)の外観(2020年)
「No Space, Just a Place」展の会場、大林美術館(ソウル)の外観(2020年)

今回のニュースは大きく分けて二つ。韓国・ソウルの大林美術館で開催されている展覧会「No Space, Just A Place」と、このたび新たにローンチした、展覧会の模様をリアルに体験できるヴァーチャルビューイングの試みだ。
まずは「No Space, Just A Place」展のコンセプトから。企画にあたってミケーレが提起したのは、「eterotopia(エテロトピア/他なる空間)」という言葉。これは人間を単一の存在ではなく “共にある” という視点から捉え直すことで、人と人、人と環境との新たな関係性を考えるというもの。これまでにもジェンダーの多様性やマイノリティのアイデンティティに目を向けるなど、自らと異なる存在=オルタナティブな価値観を認め、世の中の固定観念を揺さぶってきたミケーレらしい視点が感じられる。

出展作品より、Martine Syms『Notes on Gesture』(2015年)、「No Space, Just a Place」展示風景、大林美術館、ソウル(2020年)
出展作品より、Martine Syms『Notes on Gesture』(2015年)、「No Space, Just a Place」展示風景、大林美術館、ソウル(2020年)

このテーマと “オルタナティブ” というキーワードでつながるのが、ソウルのアートシーンを語る上で避けて通れない「オルタナティブ・スペース」の存在。これは、商業的な成功におもねる既存のギャラリーに対し、より実験的かつラディカルなスタンスを貫くアート拠点のこと。ソウルではこうした拠点が1990年代後半に数多く誕生し、アート界だけでなく社会や政治に対してもラディカルなメッセージを投げかけてきた。
今回の企画は、これらのオルタナティブ・スペースがソウルのカルチャーシーンに与えてきた影響にフォーカス。ミケーレが追求してきたジャンルやジェンダー、アイデンティティや環境などの問題にも通じる、新たな気付きや意識を提起しようとするものだ。

オルタナティブ・スペースBOAN1942による展示「Psychedelic Nature: Natasha and Two Yellow Pieces」、「No Space, Just a Place」展示風景、大林美術館、ソウル(2020年)
オルタナティブ・スペースBOAN1942による展示「Psychedelic Nature: Natasha and Two Yellow Pieces」、「No Space, Just a Place」展示風景、大林美術館、ソウル(2020年)

ミケーレの理念を受けて展覧会の構成を手がけたのは、パリをベースに活動するキュレーターのミリアム・ベン・サラ。パレ・ド・トーキョーをはじめ、世界各国で企画展のキュレーションや先鋭的な雑誌の編集を手がけてきた人物だ。今回はソウルで活動するオルタナティブ・スペースから10軒を選出し、各スペースが韓国内外から選んだアーティストの作品を展示する方法で、大林美術館の3フロアにわたる展示空間を作り上げた。

オルタナティブ・スペースTastehouseによる展示「TasteView Daelim Branch - Not for Sale」、「No Space, Just a Place」展示風景、大林美術館、ソウル(2020年)
オルタナティブ・スペースTastehouseによる展示「TasteView Daelim Branch - Not for Sale」、「No Space, Just a Place」展示風景、大林美術館、ソウル(2020年)

こうした緻密なコンセプトのもと、4月17日に開幕を迎えた「No Space, Just A Place」展。しかし、準備を進めていくうちに世界は大きな危機に直面することになった。それまで地球上を自由に行き来をしていた人々が、国や地域、家々という境界線によって物理的に引き離され、分断されていった。
そのなかでこのたび発表されたのが、「No Space, Just A Place」展の空間を世界のどこにいても体験できる360°のクリッカブルビューイング。展示空間のヴァーチャル体験をとおして、物理的に隔てられた人々にも広く展覧会のメッセージを発信する試みだ。

オルタナティブ・スペースd/pによる展示より、Yunjung Lee『Tongue Gymnastics』、「No Space, Just a Place」展示風景、大林美術館、ソウル(2020年)
オルタナティブ・スペースd/pによる展示より、Yunjung Lee『Tongue Gymnastics』、「No Space, Just a Place」展示風景、大林美術館、ソウル(2020年)

果たして、どんな体験が待っているのだろう? その答えは、体験する人それぞれの感じ方によって異なるはず。まずはイントロダクションムービーからどうぞ。
訪れてすぐの空間にはコインランドリーが広がり、階段は韓国のクィア・コミュニティの歴史をたどるグラフィックで覆われ、先の見えない闇の中を手探りで進み、問いかけに満ちたビデオ・インスタレーションを目にする……。これこそはまさに、アートでしか起こりえない光景だといえるだろう。

出展作品より、Cécile B. Evans『What the Heart Wants』(2016年)、「No Space, Just a Place」展示風景、大林美術館、ソウル(2020年)
出展作品より、Cécile B. Evans『What the Heart Wants』(2016年)、「No Space, Just a Place」展示風景、大林美術館、ソウル(2020年)

「人類が今まさに体験している不確実性に満ちた瞬間を認識することこそが、自らの環境とつながりのあるオルタナティブな物事の存在と、その消費への省察をさらに深めていくことになります」(プレスリリースより)

“自分の足で訪れてみないとわからない” と思っていた、めくるめく展覧会体験。お互いに距離で隔てられた今だからこそ、オンラインでの体験をきっかけに自分の考え方を見つめ直し、オルタナティブな(=もう一つの)視点でより多くの人々と、もっと深くつながり合っていけるかもしれない。
ミケーレから届けられた、ラディカルにして深遠なるメッセージ。あらゆる人に開かれたこのヴァーチャルビューイング体験をとおして、これからの多様性あふれる社会のあり方を、じっくりと考えてみてはどうだろう。

※掲載情報は5月11日時点のものです。
最新情報は公式サイトをチェックしてください。

No Space, Just A Place ETEROTOPIA
会場/大林美術館(韓国・ソウル)
会期/2020年4月17日〜7月12日
URL/https://nospacejustaplace.gucci.com/

Profile

深沢慶太Keita Fukasawa コントリビューティング・エディターほか、フリー編集者、ライターとしても活躍。『STUDIO VOICE』編集部を経てフリーに。『Numero TOKYO』創刊より編集に参加。雑誌や書籍、Webマガジンなどの編集執筆、企業企画のコピーライティングやブランディングにも携わる。編集を手がけた書籍に、田名網敬一、篠原有司男ほかアーティストの作品集やインタビュー集『記憶に残るブック&マガジン』(BNN)などがある。『Numéro TOKYO』では、アート/デザイン/カルチャー分野の記事を担当。

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