秋元梢インタビュー「30歳の日々を追った、パーソナルな写真の裏側」
東京を代表するファッションアイコンとして国内外で活躍するモデルの秋元梢。30歳を記念して、2017年から2018年の1年間、仕事からプライベートな日常までを追ったフォトブック『kozue 2017-2018』を発表した。ターニングポイントを迎えた彼女がこの1冊に込めた思い、今の心境、そしてこれからとは?
──00年リリースの写真集に続く2冊目のテーマは? 今回は、30歳の自分にフォーカスしました。タイトルに『2017-2018』とあるように、写真はバースデーパーティーのひとコマから始まり、すべて30歳の間に撮ったもの。本の構想自体はもっと前からあったのですが、30歳ってキリがいいなということもあって、このタイミングで出版することになりました。 ──いつものクールな表情とは打って変わって、素顔っぽさやプライベート感が色濃い内容ですよね。 最初に撮影したソウルで「あ、この感じがいい!」と、今回の方向性が見えてきたんです。海外だと街でも人目を気にしないでいられるからか、自分の表情が柔らかいし、写真もドキュメンタリー的になると気がついて。その素顔っぽさ、プライベートっぽさが良いねということになりました。だから、いつものカチッとしたイメージとはまた違う、リラックスした自分を見ていただけるのではと思っています。
──コントリビューターも大勢! どんな方々ですか?
参加してくださったのは、30歳になった自分が遊んでいる輪の中にいるごくごく親しい友人たちや、友人繋がりで出会った人たち。例えば、SACHIちゃん(217..NINA)はずっと遊び仲間だったけれど、一緒に撮影したのはごく最近のこと。それで、また一緒にやりたいと思ってお願いしました。いろんな人に気軽にオファーしていて、遊んでいる時にお願いするということもありましたね。私の好きな人たちに声をかけてみて、興味があったら乗って欲しいと思っていたので。海外の方なら、ソウルで撮ってもらったフォトグラファーのDASOM HANは、この一冊の編集全般に関わってくれた山﨑潤祐さんの紹介で知り会ったんです。
──DEP’Tオーナーのeriさんをはじめ、フォトグラファーではない方々も撮っているのが面白そう。それに、アートワークや文章を手掛ける顔ぶれも豪華ですね。
そうですね。写真はeriちゃんのほかに、CANDY STRIPPERのよしえちゃん(板橋よしえ)やアートディレクターの千原さん(千原徹也)などにも写真をお願いしました。エド・ツワキさんやCHOCOMOOさんのようなアーティストの方々が私をモデルに描いてくださったイラストもあるし、YOSHIROTTENさんのコラージュも。文章は野村訓市さんに会った時に頼んでみたら引き受けてもらえたという感じ。文章については千原さんも書いてくださったのですが、最初は絵をお願いしようとしていました。でも、私と千原さんがタッグを組んだ絵はすでにあるから、何か別のことがいいと思って、文章に。そうやって、本作りが始まってから、いろいろなコラボレーションが生まれていったんです。
──撮影はどこで?
東京と……、アジアはソウルに台北、パリコレに行った時に撮った写真もありますね。東京なら、ポップカルチャーの中心地で自分と切り離せない原宿界隈や、たくさんの時間を過ごした「れもんらいふ」のオフィス……というように、選んだ場所にもいろんなストーリーがあるんです。桜と一緒に撮ったカバーフォトは、生まれ育った墨田区の街ですしね。
広がるフィールドの中で見出した、自分らしさとモデルとしての存在感
──秋元さんといえば、最近は海外でも注目を集めることが多い存在。パリコレでもすでにスナップの常連として知られていますが、最初にファッションウィークへ行こうと思ったきっかけは?
日本でモデルをやっている自分に対して、確信が持てない時期があったんです。自分の立ち位置や、何ができるのかということがあまり見えなかったんですよね。その時に、「じゃあ、本場を見に行ってみよう!」と思い立ちました。身長が165㎝なので、モデルとして出るのは難しいだろうけど、まずは一度、ファッションの本場の雰囲気を味わってみよう、と。それでも最初はどう見るかすら知らなかったから、身近でファッションの仕事をしている友達に聞いて調べてみて。あとは、パリの空港で知り合った日本のエディターの方にファッションショーの見方などを教えていただき、その時のアドバイスは今でもすごく残っています。服についても初めは自前で、後々AMBUSHのYOONさんに衣装を貸していただいたりもしました。自分の好きな服が少しでも知ってもらえたらという想いもありました。その服を着て行ったら、ストリートスナップをしているフォトグラファーたちが「あのジャパニーズは誰だ!」って注目してくれて、翌日には「コズエ!」「コズエ!」と声がかかるようになって……こんな世界があるんだ、面白いことをやっている人ならこんなにウェルカムしてくれるんだという快感がありました。
──その経験から、モデルとして何か見出したことがあるのですか?
モデルとして出るチャンスがあるかどうかということは考えませんでしたが、それよりも、見に行く側としてファッションウィークに参加したことが評価されたり、注目を集めたりするということが大きかった。海外に行ってみたからこその発見でした。そして毎シーズン通うようになってみたら、なぜかOLYMPIA LE TANのショーに出ることになるというサプライズが起こって。自分にはキャラクターが立った“飛び道具”的な存在として見られるモデルなんだと分かってきました。デザイナーのオランピアが私を知って出てほしいと言ってくれたんですよね。それはすごくうれしかった。だから、海外に行って何かが広がったような気がする一方で、定まったようでもあるんです。
──この先のヴィジョンは?
確固とした考えがあるわけではないのですが、表舞台だけが居場所じゃないんだなって。最近、作る側のお仕事に関わらせていただく機会があって、とても楽しい経験だったんです。私はだいたいいつもその場その場で決めたり、「面白そう」と思ったことに飛び乗ってみたりしてきたので、この先もそんなふうにしていくように思います。でもそのぶん、これから何に興味を持つのか自分でも楽しみですね。自分がやっていることって、自ら発信しているようで、周りの人の力を借りて実現することが多いんです。今回の本も、「こういうふうに作りたい」と相談したら、みんなが協力してくれたからこそ、できました。すごい支えられて生きている人生だなと思いますね。
大きな変化を迎えた30歳。強くしなやかな心を支えるものとは
──30歳になって、心境に変化はありますか?
年齢的な感覚としては、「案外普通なんだな」というのが実際のところ。だけど、以前ならクールでカッコいい秋元梢でしか居られなかったけれど、近頃はもっとおだやかというか、ナチュラルな自分にもなれるという感覚があります。というのも、少し前にふと、吹っ切れた瞬間があったんです。それは海外から帰ってくる飛行機の中でのことだったのですが、不意に「どうして私は“恥ずかしい”と思うんだろう」って考えが浮かんで。人目に対してとか、笑った写真を撮られる時とかに、恥ずかしいという感情がずっとあったんですよね。
──自意識過剰になっていた?
そうなんでしょうね。そういう自分を受け入れることができたのかな? その後の撮影がすごく気持ちよかったんです。だから今回の本の写真の中には、もっと前なら候補から落としていただろうカットも入っていると思います。本にも書いたのですが、私は幼稚園の頃から“強い梢ちゃん”というふうに受け取られることが多かったので、自分でもどこか強くいなければという意識がありました。そこが、良いバランスで緩んだみたい。甘えたり弱さを見せたりできる存在がいるから、泣いても大丈夫なんだと思えるようになったり。時に厳しく接してくれることがあっても、後々になって本当に自分のことを思ってくれている言動だったんだとか、弱いところをかばうことだけが優しさじゃないんだな、って思い直したり。そういう、身近な家族や周りにいる人たちのおかげで、自分も前を向いて進むことができるし、誇れる自分でいられるんだと感じています。ここ数年が、いちばんいいバランスで生きているように感じます。
──最後にファンへメッセージを!
はい。この本では、初めて自分で文章を書いてみたりもしていて、受け取ってくださる方々へ説明したいこととか、説明しなくてもいいこととか、そういうことを改めて考えながら作りました。だから、思いのままに感じて、自由な気持ちで楽しんでいただけたら嬉しいです。
秋元梢のフォトブックと未公開写真をチェック
Photos:Wataru Fukaya Interview&Text:Chiharu Masukawa Text:Masumi Sasaki