ソフィア・コッポラインタビュー「正解を見つけた女性なんていないと思う」
映画監督としてデビュー以来、作品だけでなくそのスタイルやファッションまで、あらゆる世代の女性に支持されるソフィア・コッポラ。世代を問わず愛される生き方とは?新作『The Beguiled/ビガイルド欲望のめざめ』のために来日した彼女に話を聞いた。(「ヌメロ・トウキョウ」2018年4月号掲載)
自分の本能に忠実であるということ
──今回の作品では、美しくデリケートなものを撮りたかったということですが、その完璧な美意識は何によって育まれたものだと思いますか? 「どうしてこうなったのかは、自分でもわからない。好きなこと、興味があることをしているだけなの。本能的に審美眼を持っていたかはわからないけど、カルチャーやアートに囲まれて育ったので、環境から培われているとも思います」 ──母として、妻として、映画監督として多忙に過ごしながらも、常に本能に忠実でい続ける秘訣は? 「両立は大変だし、自分でもちゃんとできているとは思ってません。自分の時間をつくることも難しいし、何かに集中すればそのほかに目を向けられない。全部をきちんとやれたこともありません。まだ正解は見つかっていないけれど、正解を見つけた女性なんていないとも思う。家族もいてキャリアもあると葛藤はするけれど、ただベストを尽くして自分のできることをやるしかない。私の場合はそれが映画で、幸い撮影期間は短いので、終わってしまえば子どもたちと一緒にオフを過ごせます。結局は、どう自分でオーガナイズするかですよね」──働く女性として、夫のトーマス・マーズさんはどんな存在ですか?
「ありがたいことに協力的で、積極的に家族に関わってくれる人ですね。撮影中や来日中の今も、彼が娘たちの面倒を見てくれているので、彼なしでは回らない。一緒に仕事をすることもあるけど、頻繁ではないし、彼は音楽パートだから常に一緒に行動というわけでもないの」
──私たちにとってソフィアさんは憧れの存在ですが、娘さんからはクールじゃないと思われているとか?
「そうですね(笑)。でも、どの家の娘もそう思うものでしょう?」
──でも、母エレノア・コッポラさんはクールな存在だったのでは?
「うーん、そうでもなかったかな(笑)」
──最近、著名人の発言を世間が執拗に叩く風潮がありますが、ご自身はどうやって距離を置いていますか?
「常に意識はしていないけど、意識が過剰になってしまうのはどうかな。時間とエネルギーの無駄というか、あまりにも吸い取られてしまうので。かといって、社会と自分を遮断したいかというとそうではないし、いろんな情報は必要だと思うから、バランスを取るのが正直難しい。いずれにせよ、今みたいな状況でアーティストの自由が制限されてしまうのは、とても残念なことです。悪意を持ってアートを表現してはいけないけれど、そうでない場合でも批判の対象になりすぎているなと思います」
制限された中で生きる女性を描く
──新作を含めて、これまであなたが描かれてきた作品は、いずれも〝とらわれた女性〞が出てきますが、それはなぜでしょうか?
「どんな文化でも、女性はある意味囲われているところがありますよね。そこがつながるところなのかもしれません。とらわれる理由は、物語によって違いますけど、新作に関していうと、彼女たちは自分の世話を自分ではしないように育てられている。召使いがいて、自分では何もできないという環境。時代は違うけれど、女性というのは現代でも、いつも何かしらの制限を感じながら生きているのだと思います。そこがつながるところなのかもしれません。とらわれる理由は、物語によって違いますけど、新作に関していうと、彼女たちは自分の世話を自分ではしないように育てられている。召使いがいて、自分では何もできないという環境。時代は違うけれど、女性というのは現代でも、いつも何かしらの制限を感じながら生きているのだと思います」
──本編では、人生のステージが異なる女性たちの複雑な女心が描かれますが、ご自身は成熟した女性をどういうものだと考えていますか?
「やっぱり人生経験かな。その都度、何かしらの出来事に対して自分がどう対応してきたかの積み重ねだと思います。年を経ると、若い頃はどうしようと悩んだことも、大したことないと思えるようになるし」
──今でも自分の中に少女性は生きていると思いますか?
「もちろん」
──それは制作に影響していますか?
「作品の性質だったり、段階によって、必ずしも少女性ではないかもしれないけど、常に自分の中で対応するものを引き出していますね」
──第70回カンヌ映画祭で、女性として史上二人目の監督賞を受賞されました。
「私にとっても重要な賞ですし、受賞できてもちろんうれしいですが、正直に言って、史上二人目で56年ぶりの女性監督の受賞という歴史を知らなかったので驚きました。その事実自体が認知されたことも、有意義だったと思う。それに、私が受賞したことを通して、多くの女性が喜びと誇りを共有してくれたことがとてもうれしかった。娘たちが喜んでくれたのもうれしかったですね」
Photo:Takashi Homma Interview&Text:Tomoko Ogawa Edit:Sayaka Ito