「Off-White™」ヴァージル・アブロー「ファッションの原点はストリートにある」
「ナイキ」「クロムハーツ」をはじめ、2018年春夏では、「ジミー チュウ」とのコラボレーションも話題の「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH™)」のデザイナー、ヴァージル・アブローにインタビュー。
ストリートからモードまで、目下シーンを席巻している人物といえば、「オフ-ホワイト(OFF WHITE™)」のデザイナー、ヴァージル・アブローの名前が真っ先に挙げられるだろう。自身のコレクションもさることながら数々のコラボレーションが話題をさらい、SNS上にはブランドと彼自身の動向が次々とアップデートされる。今もまさに、ナイキ(NIKE)とのプロジェクト 「THE TEN」のセンセーションが冷めやらぬといったところだ。“ボーダーレス”や“マルチプレーヤー”と語られることが多いけれど、もしかしたらその表現すらすでに時代遅れなのかもしれない。そんな予感とともに、今、彼の目に映っているヴィジョンに迫った。
プロダクトの先にあるコラボレーションの醍醐味
──そもそも自身のブランドをどういう経緯で立ち上げたのでしょうか?
「ブランドを始めようと思ったのは、ファッションの新しいジェネレーションに新しいストーリーが必要だと思ったからさ。じゃあ、2010年代の新しいストーリーとは? それはストリートとハイファッションが交わることだったんだ。そこからさらに、『OFF-WHITE』という名前が生まれた。これは、対極にある2つ要素のミックスを表す比喩のようなものなんだよ。ストリートとハイファッション、ラグジュアリーとアフォーダブル、白と黒……という具合にね」
ダイアナ妃にインスパイアされた「OFF WHITE c/o VIRGIL ABLOH™」2018年春夏コレクションより。
──そこには、あなたが多くのコラボレーションを発表してきたということにも何か関係があるのですか?
「そうだね、そもそもコラボレーションとは2つのものが一緒になって新しいものを作ることだろう? 2つの世界、2つのブランド、2人の人……、世の中に目を向ければ、あらゆるものがコラボレーションさ。僕はそこに興味がある。物事がどんなふうに混ざり合い、どういう化学反応を起こすかということに」
──では、そのコラボレーションのお相手は、どのように決まるのでしょう? たくさんのオファーがやってくると思うのですが、決め手は何でしょうか?
「まずは僕個人のフィーリングが決め手になるね。自分と相手に何か繋がりや、パーソナルな思い入れがある、というようなこと。あとは単純に、友達同士の何気ない会話から、アイデアが生まれてスタートするなんてこともある。始まりのきっかけはいろいろだけど、僕が唯一こだわっていることがひとつだけある。それは、コラボレーションというものは、必ず『これはグッドアイデアだ』と言える結果に着地しなければならない、ということなんだ」
ヴァージル・アブローとナイキのコラボレーションフットウェアプロジェクト「The Ten」
──コラボレーションの醍醐味とは?
「ナイキにイケア、クロムハーツ、ジミー チュウ……これまで手を組んだブランドは、みんな確固たるアイデンティティを持っていた。だから彼らと協業は、プロダクトをデザインするのと同時に、人々がそのプロダクトをどう思うかということもデザインすることになるんだよ。例えば、イケア(IKEA)という名前を聞いたら、人々はあるイメージを思い浮かべる。家具メーカーであるとか、椅子がどんな形をしているだとか、多くの人がある程度のイメージを持っているだろう? だから、彼らと共に何かを作る時には、人々がモノを通してどう考えるか、感じるかということまでをデザインできるというわけさ。これこそ、コラボレーションの昔と今の決定的な違いであり、僕がコラボレーションに取り組み続ける理由だよ。まるで、ファッションデザインの中に新しいスペースが生まれたかのようで、とてもワクワクする」
──それはあなたが言った“新世代の新しいストーリー”の一部とも言えそうですね。もともとあなたのファッションシーンにおけるキャリアは、フェンディ(FENDI)からスタートしたそうですが、そこではどんなことに関わっていたんですか?
「メンズコレクションに携わっていた。うれしいことに、フェンディとは今もなおいい関係が続いているんだ。ラグジュアリーメゾンでありながら、僕がやろうとしていることやストリートカルチャーを理解してくれていて、時にアドバイスやサポートをくれたりもする。あの大きなメゾンで得たファッションやビジネスに関する経験が、今、自分がやりたいことの助けになっているのは確かさ」
──ほかに、何か影響を受けたことはありますか?
「そうだね、そういう話ならば、藤原ヒロシは最も影響力のある人物と言ってもいい人だ。今でこそ親しい間柄だけど、彼のことはいつも注目していたよ。それはもう最初の頃から」
──長い間知っていたということですか。
「そう。僕は今37歳で、彼に魅了されたジェネレーションのど真ん中ってわけさ。それに、僕は初めて東京を訪れた時に彼に会っているんだ。あの、表参道のカフェMONTOAKでね。12年前のことだけど、今でもよく覚えているよ。彼だけでなく、東京のカルチャーはずっと前から追っていたんだ。『NOWHERE』や『UNDERCOVER』『HYSTERIC GLAMOUR』『NEIGHBORHOOD』『A BATHING APE』『LAST ORGY』……こういったショップやブランド、それに東京で起こっていることはいつも最大の関心事だったからね」
原点にあるのはストリートカルチャー
「僕は昔からストリートカルチャーが好きで、ファッションの原点もストリートウェアというキッズだった。それでロンドンや東京、NY、LAとあちこちの街のストリートシーンに興味を持って、日々チェックしていた。それが今、大人になってデザイナーをやっていることの下地になっている。毎シーズンのコレクションを見てもわかるように、僕にとってのインスピレーション源は、ファッションスクールで学んだことじゃない。いつもストリートにあるんだ」
──あなたのクリエイションを見ていると、ファッションデザインという枠を超えたイノベーションであるかのように感じてしまいます。何しろ発想がとてもユニークで進歩的ですが、それはなぜだと思いますか?
「それは僕らが新しいジェネレーションだからと言うしかない。新しいジェネレーションというのは、自分なりの考え方を持っているものだと思うんだ。「この場合はきっとこうだろう」という世間一般の常識的な考え方を取り去った、新しい考え方をね」
来日時に1OAK TOKYOにてDJプレイをしたヴァージルと、偶然来店していたミュージシャン、スクリレックス(Skrillex)。
──しかし新しい考え方とは言っても、情報に溢れている世の中。そんな環境でフレッシュな考え方を生み出すためには?
「ただただ、クリエイティブであること。そんなに難しいことだとは思っていないよ。僕は新しいことや先進的なことをやろうとしているわけではなく、ユニークでありユースフルであり、面白いことを目指しているんだ。例えるなら、明日はまっさらな白いページ。だから毎日そこへ自由に何でも書き込んでいいわけさ」
──おそらく今もさまざまなプロジェクトが進行中で、かつリリースを控えているものもあるかと思います。2018年2月にはジミー チュウ(JIMMY CHOO)のシューズが発売となり、イケア(IKEA)のコラボレーションもいよいよお目見えですか?
「そうだね、ニュースはその都度公開していくつもりだよ。イケアは2018年に一部を出すかもしれないけれど、フルコレクションをお披露目するのは2019年だね」
ヴァージルの弟分的存在ヘロン・プレストン(Heron Preston)とのコラボレーション。
──それは楽しみですね。そして、ブランドはこれからどう動いていくのでしょう。これから台頭してくるであろう若い世代は、あなたにとって、脅威になり得る可能性はあるのでしょうか?
「下の世代については、僕自身楽しみにしている。何しろ彼らは世界にルネサンスを起こす存在だからね。きっとこれから1年や2年のうちに、僕らが見たことのないものを出してきて、驚かせてくれるはずだよ。脅威と感じることはない。そういうリアクションは、僕らよりも前のジェネレーションの話だと思うよ。僕らはミレニアルズという新しい世代さ。ミレニアルズは何かを恐れたりはしないんだ」
この時代に存在する価値のあるデザインを
──そんな中であなたが目指すゴールとは?
「自分がデザインする時に最も大事にしているのは、共感性。僕が投げかけるデザインやストーリーは、今この時代に存在する意義を感じ取ってもらえるものでなければいけないと思っているよ。そしてブランドはこの先、いつか誰かが過去を振り返った時に、記憶と一緒に思い出してくれるようになれたらいいと考えている。そう、『2010年頃と言えば……OFF-WHITE™がこういうことをしていた頃だ』というようにね。僕にとってのゴールはそこにある。プロダクトやシーンとともに、時代そのものを生み出していきたいんだ」
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Portraits:Kohey Kanno Interview&Text:Chiharu Masukawa Edit:Masumi Sasaki