岡田将生の表と裏「人間は多面性の生き物だと思っている」
日本を代表する映画賞を多数受賞する実力派でありながら、その気負いや人を威圧する素振りもない。イメージどおりの善良な役から猟奇的な役まで、さらりと演じ分ける28歳。見えそうで見えない、俳優 岡田将生の素顔に迫る。(「ヌメロ・トウキョウ」2018年1・2月合併号掲載)
──岡田さんは演技派で器用なイメージですが、追い込まれることってあるのですか。
「結構ありますよ。お芝居ではもう一回、もう一回とNGが続いて神経を擦り減らしたり、スケジュール的に追い詰められたり。でも意外に追い込まれたほうが、いい芝居ができることもある気がします。崖っぷちに立たされないとわからないことも多いし、追い込まれると、考えて考えてもう一段階ひねりを加えることもできる。芝居が終わった後に泣いたくらい過酷だったこともあります。でもそういうときのことは忘れないし、いま振り返ると糧になっていると思います。結果的にはプラスに働いているから、必要なことなんでしょうね」
──もともとド根性タイプ?
「現場では乗り越えざるを得ませんから、それが根性になっているのかもしれないです。もちろん、無理なときは無理ですけど(笑)」
──岡田さんと共演経験のある俳優さんが、岡田さんのことを「透明な水晶と腹黒い水晶の二つを持っている人」と表現なさっていました。
「えー!? それ、誰ですか?」
──ドラマでご一緒だった方です。
「あー、(松坂)桃李くん! 僕、彼にはいろんな面を見せていますから。そうかそうか。でもいいことですね。善悪どちらも必要ですし」
──いい人役と悪役とではどちらが演じやすいですか。
「悪役です。いい人より悪い人のほうが圧倒的に演じ甲斐があります。俳優はみんなそうだと思います。受けの芝居より攻撃的なほうが演技するには面白いんじゃないかな? 悪役を一度味わうと、またやりたくなる」
──ご自分の中に多面性を感じることは?
「ありますね。人によって態度が変わったり。それは悪いことではなくて、人間は多面性の生き物だと思っているので。僕にも悪い部分があって、悪口を言っているときもあります。反対に心から大好き!と叫んでるときもある。どんなことも素直に楽しみたいな、と」
──正直なんですね。
「いや、隠すところはちゃんと隠していますよ(笑)」
──本音は100%外に出さないという俳優さんもいらっしゃいますよ。
「僕にはできない。さっき話に出てきた桃李くんにはよく相談させてもらったりしますし、心強い仲間です。桃李くんは一見、正直者で自由そうに見えるけど、どこか一つ譲れないものを持っている。案外、柔らかいとげが何本もあって、そのとげが素敵なんです。先のこともよく考えているし、柔軟性があって、多角的に物事を見てくれるから話していて楽しいです。唯一、仕事の話をできる俳優仲間。案外、俳優同士って仕事の話をしないし、したいと思う人とはあまり一緒には飲みたくない(笑)」
──飲みながら熱い演技論を交わす、ということはないのですか。
「僕がご飯を食べに行く人とはないですね。結構、それが嫌な人は多いと思いますよ」
──オンとオフはバシッと切り替えられますか。
「そうですね。家に帰って、お芝居のことを考えたりはしますけど。いま撮影しているWOWOWのドラマ『名刺ゲーム』はずっとしゃべっている役なので、台本が手放せないです。毎日台詞を読んで読んで、ちょっとずつ覚えて確認して。台詞が入ると、散歩します」
──ブツブツ言いながら散歩?
「そうです。台詞を言いながら家の周りをウロウロ歩いて、覚えていなかったら家に帰って確認して、また散歩に出る。動きながら覚えたほうが入る気がしますね」
──不審者っぽくないですか(笑)。
「でも新しいお店ができていたりすると、発見がうれしくて。歩いてよかった!って思ったりします」
──最近、オフで始めたことはありますか。
「ここ1週間、毎日寝る前にストレッチをするようになりました。体がすごく硬いんですよ。舞台をやると稽古前に柔軟体操をするんですけど、この間ふと、なぜそのときだけしかやらないんだろう?と。毎日やれば柔らかくなるのに、と今更ながら始めました。ストレッチしてから寝ると熟睡できるんです。だから自分には合っている気がします」
──運動はしていない?
「動くのは好きなんですけど、最近まで地方ロケに行っていたので、帰ってきたらダラッとして、ずっと家にこもっていました。ドラマの撮影が終わってから、体を動かそうかな」
──撮影中のドラマ『名刺ゲーム』の原作は、放送作家の鈴木おさむさんだそうですね。
「脚本も面白いんですよ! 鈴木さんが関わっていることで、バラエティの世界って本当にこうなんだなあと素直に受けて止めてしまい、バラエティ番組を見るのが少し怖くなりました(笑)。無数のとげがある、エッジが効いた作品です。テレビ業界の方々の視聴が多くなるんじゃないかと思うぐらい、業界の裏側が描かれています。人間の嫉妬や傲慢さなどさまざまな感情がうごめき、登場人物は腹に一物を抱えている人たちばかり。人の欲望が赤裸々になるというか。僕も行けるところまでフルパワーで頑張りたいです」
──岡田さんの役は、玉虫色のスカーフを纏った謎の男X。堤真一さん演じるバラエティ番組のTVプロデューサーと娘を監禁し、“名刺ゲーム”を仕掛けます。プロデューサーがもらった多数の名刺を持ち主に正しく返す、間違えると本人か娘を爆破するというルール。
「Xという役は、第1話だけ見ると謎めいていて完全な悪役。でも物語が進むうちに背景が明かされます。その変化を楽しんでいただけたらいいですね。個人的には堤さんと久しぶりに共演できるのがうれしいです」
──堤さんとは2011年の映画『プリンセス トヨトミ』以来?
「はい。僕が21歳の頃から知っていて、今回久々にお会いしたら、一瞬にしていつもの空気感をつくってくださって、ホッとしました。失礼に聞こえるかもしれないけど、堤さんは正月に会う親戚のしつこいおじさん(笑)。堤さんを追い込む役なんてめったにないでしょうし、今まで散々いじられてきたから、今度は芝居で僕が追い詰めてやります!」
ドラマ『名刺ゲーム』(WOWOW)
原作/鈴木おさむ
主演/堤真一、岡田将生
URL/www.wowow.co.jp/dramaw/meishi/
鈴木おさむ著『名刺ゲーム』(扶桑社文庫/¥680)発売中。
Photo:Masato Moriyama Interview & Text:Maki Miura Edit:Saori Asaka