WinterとLuby SparksのNatsukiが現在のリバイバルを考察 | Numero TOKYO
Interview / Post

かつて“シューゲイザー”はカッコ悪かった? WinterとLuby SparksのNatsukiが現在のドリームポップ〜シューゲイザーリバイバルを考察

インディーロックバンド、ルビー・スパークス(Luby Sparks)のブレーンとしてはもちろん、音楽への愛と知識に溢れた“音楽オタク”としても知られるNatsuki Katoが、気になるアーティストに独自の視点で取材し、自らの言葉で綴る不定期連載。第6回はウィンター(Winter)ことサミラ・ウィンターが登場。

2015年のデビュー以来、作品ごとにさまざまな表情を見せるドリーム・ポップを奏でてきたウィンター(Winter)。NYを拠点にしながらブラジルをルーツに持つサミラ・ウィンターによるソロ・プロジェクトだ。美しい若きカップルの姿をアートワークに施し、愛とロマンスを語る最新作、『Adult Romantix』の物語の最終週着地点となったのはここ日本。そこで彼女が見出したカルチャー、迎えたアルバムのエンディングとは。そして近年、Z世代に浸透し、追い風吹く“シューゲイザー(※)”という音楽のジャンルやその言葉の意味はどんな変革を迎えているのか。同じ時代に共通の音楽様式を探求しているバンド、ルビー・スパークスの一員として語り合った。

※シューゲイザー
1980年末〜1990年代にイギリスで誕生した、エフェクターなどを用いて歪ませたギターと囁くように歌われるボーカルによる、浮遊感あるサウンドが特徴的なオルタナティブ・ロックの一種。

日本のファンからの熱い愛に感動

──ウィンターにとっての初めてのジャパンツアーはどうだった?

「これ以上ないくらい最高の経験だったよ。初日公演はツアーの幕開けとして完璧だったと思う。だってルビー・スパークスやハンマーヘッド・シャークといった、Winterとも近い音楽を奏で、似たようなことを試みているバンドたちと、この日本という地で共演できたんだから!」

──今回のツアーの中で特に印象的だった瞬間は?

「ファンからたくさんのギフトをもらったことかな。実はこれは愛をテーマとしたアルバム『Adult Romantix』の一部でもあって、日本に来るまでにアメリカ、ヨーロッパ、イギリスとツアーをしてきたんだけど、いつもみんなにお花や、何かの告白、愛についての物語、もしくは愛や友情の思い出などを綴ったラブレターを持ってきてもらうように伝えていたんだ。日本ではファンは完全に別次元のレベルに到達していたね。泊まっている場所がお花で一杯に埋まるほど、どの公演でも毎回たくさんの花束をもらったし、手紙には手描きの絵やコラージュが添えられてて、『ファーストアルバムの時から待っていました』とか、本当に優しい言葉ばかりで涙が出るほど美しい手紙もあったよ。それから猫とハートのTシャツや指輪、キャップ、靴下、チョコレート、ラーメンといったプレゼントもたくさん」

──素敵な経験だね、決して来日したアーティスト全員に起こる出来事ではないと思うよ。

「みんなからたくさんの愛を感じることができたし、ファンの前で演奏できて本当にうれしかった。それからアンコールが起きたときの手拍子が完璧に揃ってたのには驚かされた(笑)。私の育ったブラジルではアンコールは常に起きるカルチャーなんだけど、アメリカではショーやオーディエンスの熱量によるから、初日のライブでのあの手拍子が聞こえたときにこれは演奏しなきゃと思ったよ」

叶わなかったからこそほろ苦い
人生に影響を与えた若い頃の恋

──アルバムタイトルの『Adult Romantix』というタイトルはどこから来たの?

「確か2016か2017年の夏にLAから引っ越すために友達と車を運転していたとき、道中でAdult Romantixという名前のアダルトショップを見つけたの(笑)。この夏のことや、このとき一緒にいた友達は私にとってすごく重要な思い出だったから、今回のアルバムを作り終えたときに突然この記憶が蘇ってきて。でも私にとって『Adult Romantix』という言葉の本当の定義は、人生に影響を与えた若い頃の恋愛の思い出。それは叶わなかったからこそとてもほろ苦いものになったと思ってる。あのときはうまくいかなかったけど、でもそれは人生を変えるほどのインパクトがあって、いつまでも心の中に残っていて、ずっと大切にしていきたいもの。さらに具体的な例を上げると、それは憧れのミュージシャンに対する愛だったり、二人のアーティストの間に生じる愛だったりもする。これが私の頭の中での定義だけど、みんなにもそれぞれ独自の解釈を持ってほしいな。そして私にとっては昔住んでたLAへのラブレターみたいなものでもあるの」

──僕たちのやっているインディー・ロックやシューゲイザー、ドリームポップ(※)のジャンルには青春や恋愛、初期衝動といった若さの持つエネルギーやテーマがリンクしていることが多いと思うんだけど、ウィンターは2015年に1stアルバムをリリースし、そこから数年活動を続け、音楽家としても人間としても大人(Adult)になった現在も作品のテーマに紐づいている? それともLAのような、サミラにとっての過去の場所や記憶を懐古することが主題?

※ドリーム・ポップ
シューゲイザーと同時期に誕生したが少し異なり、歪みは少なくリヴァーブやエコーなどを多用したよりポップでドリーミーな音楽ジャンル。

「おそらくその両方を織り交ぜた内容かな。過去、現在、未来が少しずつ混ざり合っていると思う。LAに別れを告げたときに、いろいろな記憶がフラッシュバックしてきたあの感覚や、自分の創作活動においてとても重要な空想(Daydreaming)という行為。空想するってことは、ただ自分の中で想像しているだけでまだ現実に起きていない事象だから、未来とも少しつながっていると思っていて、同時に自分のアイデアやイマジネーションの入り口にもなっている。例えば、楽しくなかったり退屈したりするときに、現実逃避のために空想にふけることもあるよね。逆に、前へ進むために過去へのノスタルジアや出来事に別れを告げて、過去と向き合わなければならないという場面もある」

──アルバムジャケットやミュージックビデオに登場しているさまざまなカップルたちはみんな実際にも恋人なの?

「そう、テーマに沿って当初からアルバムカバーには一緒に音楽を作っている本当のカップルを探していて、カバー写真を撮ったときもあの二人は実際に付き合ってたんだけど…。実は少し前に別れてしまったの(苦笑)。だから今はまさにこの写真が本当に愛の思い出となり、『Adult Romantix』としてより意味を持つようになったんだよね」

──Luby Sparksの1stアルバムもキスをしてる実際のカップルによるジャケットで本作ともかなり近い雰囲気だけど、彼らは今もまだ一緒にいるので安心してください(笑)。キスジャケットのインディーポップやロックは実は他にもたくさんあるよね。僕らはスウェードなど80〜90年代のインディーを参考にしましたが、今回のインスピレーションはどこから?

「本当だ! しかもタイプライターのフォントは本作でも採用しているからすごく似たバイブスだね、しかもこの類のキスジャケットは見た瞬間にシューゲイズ・サウンドだと認識できるのが良いよね。私の場合はマイ・ブラッディ・ヴァレンタインの『Glider』というEPかな」

──歌詞についても教えて。主に自分の昔の思い出を回顧するような内容? それとも自分と近い過去を持つ、物語の登場人物の誰かになりきって歌わせたの?

「曲によって異なるんだけど、例えば『In My Basement Room』という曲は私自身の歌で、自分のベッドルームが時として大きなインスピレーションと解放感を与えてくれる場所になる、という点に誰しもが共感できるんじゃないかと思ってる。他の曲たちはそれぞれ異なるタイミングのポラロイド写真のように違った瞬間を切り取ってるんだけど、例えば『Just Like A Flower』はクリエイティブな女性であること、そして過去の女性たちからインスピレーションを受けることについての楽曲。その他にもメアリー・シェリーの小説『フランケンシュタイン』などゴシック・ロマン主義時代の文学からすごく影響を受けて、それらが持つ影の部分をテーマにしているところもあるよ。産業革命の時代だったから人々は戦わなければならなかったし、当時のロマン派が持つ本当の”ロマン主義”(Romanticism)という言葉にはより強い意味があった。子どもたちは仕事に行き、まともな子ども時代を過ごすことができず、好きでもない人と結婚させられることを強いられていた。つまり、恋愛運動とは子ども時代を過ごす権利、愛する相手と結婚する権利のために戦うことだったんだよ。『Hide-A-Lullaby』もまさにそういった影の部分からインスピレーションを得て作った、自分の影と向き合うことをテーマにした楽曲。時々考える“死”について歌った『Existentialism』、これもまたゴシックでロマンチックな内容になってるよ。『Misery”は愛、そして手の届かない相手に恋をすることをテーマにした曲、他の曲も主にゴシックやロマンスをテーマにしたラブソングが多いかな」

──大人(Adult)になった今こういったラブソングを歌うことは、もっと若いころと比べてどう変化した?

「全然違うよね、これで5枚目のアルバムだし、歌は私自身の延長線上にある“人生と向き合う方法”みたいなものになってるかも。若い頃は、このバンドが好き、彼らみたいにかっこよくなりたい、とか彼らみたいに何かを作りたいって感じだったんだけど、アートを作るときに一番大切なのは、正直で勇敢であること、自分の人生をかけてアートを作ること、本や映画からインスピレーションを得ること、そして自分自身とつながることだって、今ならわかる。シューゲイザーやドリームポップが大好きだけど、自分独自のものを作りたいから、これらのスタイルを継続しつつ何か新しいものを加えていきたいと思ってる。だからこれからもずっと続くかはわからないけど、どんなことがあってもどんなに歳を重ねても、常につながりを保ち、心を純粋に保つように努めたいな」

“シューゲイザー”リバイバルのきっかけはパンデミック?

──昨今、若者の間でシューゲイザーがリバイバルしているのは明らかだよね。ずっとこのジャンルを続けてきた身としてはどのように感じてる?
「個人的にはとてもうれしいことかな。ウィンターを始めた2014年頃はシューゲイザーって全然カッコイイものじゃなかったよね、覚えてる?(笑)」

──うん、もっとオタクっぽいもの、オシャレではないものとされていたよね。

「まだブラジルで高校生だった頃は、多くの人にまだ知られてない音楽こそ素晴らしいっていう勝手なセオリーでとにかく人が聴いてない音楽をMy Space、Last FM、PureVolumeなどを使って探して聴いてたんだよね。それからアメリカに引っ越して、そこで初めて大学の友達がドリーム・ポップやシューゲイザーというジャンルを教えてくれたんだ。そのとき、すでにシーンはあったと思うんだけど小さかったし今のようにクールではなかった。日本ではどんな感じだった?」

──ここ日本でも同じような扱いだった。僕がルビー・スパークスを始めたのは大体2017年頃なんだけど、ライブシーンにこういうサウンドのバンドはあまりいなかったし、ファンも90年代当時からもっと歳上の人が多くて、今のようにシューゲイザーを好きと言っている若者はかなり少なかったと思う。でも数年前くらいから、シューゲイザーという言葉の印象は良い意味で大きく変わったよね。

「すごくわかるよ、たしかにウィンターのファンもそんな感じだった。私自身は周りの友達もクリエイション・レコーズやジーザス・アンド・メリー・チェインなどが好きで、このジャンルはいつだってカッコイイものだと思ってたけど、周りからの印象は違った。でも最近はおそらくZ世代がマイ・ブラッディ・ヴァレンタインやダスターといったバンドから、厳密にはサウンドは違うけどパンチコ、ポイズンガールフレンド、800チェリーズといった過去の隠れたアーティストをネット上で発掘してクールなものとして再び世に送り出しているよね」

──僕はそこにはSpotifyも一つの大きな役割を果たしたのかなと思ってる。シガレッツ・アフター・セックスの登場以降、まずコクトー・ツインズやマジー・スター、ビーチハウスといったスローコアやドリーム・ポップがSpotify、もしくはYouTube上でものすごい再生回数を獲得して、そこからどんどんこのジャンルに火が付いたように思う。

「コクトー・ツインズはTikTokでもよく使われていたのを見たことがあるよ。LAではシューゲイザーというといわゆるマイブラのようなサウンドのトリビュート的なバンドを指していて、ウィンターにはその要素があるだけで、実際はドリーム・ポップだったり、最近はエレクトロ、トリップホップにより傾倒している。ルビー・スパークスも同じような進み方をしているよね、私たちのショーに来てもいわゆるウォール・オブ・サウンド(※)があるわけではないしね。でもどこまで関係しているかわからないけど、もしかしたらZ世代はパンデミックの最中に癒やしや、ノイズによる刺激、夢の世界や異なる次元に連れて行ってくれる体験を求めて、シューゲイザーを聴くようになったのかも。実際マイブラのライブではノイズパートで、そういった特別なトランス体験をさせてくれるし。若い子たちはこの音楽によって現実逃避したり、実際のライブに行っているような体験ができたのかもね」

※ウォール・オブ・サウンド
古くは60年代のプロデューサー、フィル・スペクターによって手がけられ、その後ビーチボーイズなどにも影響を与えた壁のように音を多重に録音する手法。ここではそれらからさらに派生したシューゲイザーにおける、ギターの重なりによる音の壁、のことを指す。

(左)ナツキ (右)サミラ・ウィンター
(左)ナツキ (右)サミラ・ウィンター

──たしかにパンデミックの影響は大きくありそう。あのタイミングで若者はよりインターネットにのめり込んだだろうし、この手のサウンドって外で外出してるときに聴くより、部屋の中で一人で閉じこもって聴くような環境が合うようなところもあるよね。日本でのアルバムツアーを経て、ウィンターとしてこの先には一体どんなことが待っているの?

「日本では街や建物、色彩、人々など、あらゆるところから影響を受けたし、なにより”女性らしさ”や純粋に”女の子”として在ることについて改めて深く考えさせられたよ。アメリカ、特にニューヨークや東海岸では、もっとわざとふざけたり、とにかく元気だったり、可愛らしいところを隠してしまうことがあって。女性であってももっと強くタフでいないといけなくて、優しすぎると人から信用されなかったりする。でも今回の旅で、改めて自分の心の根底にある”かわいい”や女の子らしさを失わないようにすることが大切だと思った。もちろん男女関係なく日本の人々はみんな遊び心を忘れていなくて、とても尊敬してる。この日本の旅から持ち帰ったもの、あらゆる経験、あらゆる感情、そして日本人の感情表現もとても好き。ここで表現されている悲しみやノスタルジア、感傷性は本当に美しいと思ったんだ。だからこのすべてをアメリカに持って帰って、新たな曲作りをするつもりだよ」

──ここで暮らす僕たちにはなかなか気付けない良いところを教えてくれて嬉しいよ。ここでの文化からの影響がウィンターの音楽に何をもたらすのか今から楽しみです。ありがとう。

「ありがとう!」

Winter『Adult Romantix』
https://lnk.to/adult-romantix

Luby Sparks『Romeo』
https://ssm.lnk.to/_Romeo


Photos:Michi Nakano Interview & Text:Natsuki Kato Edit:Mariko Kimbara

Profile

Winter ウィンター ブラジル生まれ。ハイスクールを卒業後に米ボストンのカレッジへ通うために移住し、そこでバンドを結成。カレッジを卒業後にLAに引っ越し、本格的に音楽をスタート。2015年にデビューアルバム『Supreme Blue Dream』をリリース。以降、22年にリリースした4枚目のアルバム『What Kind of Blue Are You?』までLAのインディーシーンでジャンル問わずさまざまな音楽コミュニティーの中心として活躍した。25年夏、拠点をNYへ移し、最新アルバム『Adult Romantix』をリリース。26年2月に東京、名古屋、京都にて初のジャパンツアーを行った。
Natsuki Kato ナツキ カトウ 5人組バンド、ルビー・スパークス(Luby Sparks)のベース、ヴォーカルと作詞作曲を担当。ルビー・スパークスは2016年3月結成。17年にデビューアルバム「Luby Sparks」をリリース。以降、東京のインディシーンで活躍。26年、ゲーム『ROMEO IS A DEADMAN』に新曲「Liar」「nothing left, we don't know why」「Romeo」を提供。
 

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