プリティ・シックと語るY2Kカルチャー by Natsuki Kato | Numero TOKYO
Interview / Post

プリティ・シックと語るY2Kカルチャー by Natsuki Kato

インディーロックバンド、ルビー・スパークスのブレーンとしてはもちろん、音楽への愛と知識に溢れた“音楽オタク”としても知られるNatsuki Katoが、気になるアーティストに独自の視点で取材し、自らの言葉で綴る不定期連載。第5回はプリティー・シックのサブリナ・フエンテスが登場。違う国に住みながら、共通の映画や音楽を追いかけ育ってきた彼らが語るY2Kカルチャーとは。 サブリナはプリティー・シックという気鋭のオルタナティブ・ロックバンドを率いながら、モデルとしても活躍し、インスタグラム上でも頻繁に見かけるようなZ世代最注目アイコンの一人である。ロンドンとニューヨークを拠点とし、東京へも何度も撮影で訪れ、すでに世界の服好き、音好き両者を魅了し始めている彼女。CDのリバイバル、Y2Kの終焉、日本のファッションブランドの躍進など、今後の音楽からファッションのトレンドまで、等身大にSNSを駆使し表現する彼女の鋭い嗅覚がいま嗅ぎつけているものとは。韓国のフェスで出会い意気投合し共演イベントを開催、共通言語も多い同じくファッション好きなミュージシャンの身として語り合った。

CDリバイバルがやってくる


──プリティ・シックというバンドはいつ結成したの? 

「このバンドは13歳ごろに始めたんだ。その頃から漠然とバンドというものに入ってみたいという思いは常にあったけど、バンドを組んでみたいと思える人や、実際に音楽をやっている友達は周りにはいなかった。そんなときにサマー・キャンプで出会ったドラムのエヴァは、初めて一緒に音楽をやってみたいと思えるクールな女の子で、すでに立派なドラマーだったんだ。すぐに意気投合して親友になったし、今もずっと一緒に共作してるメンバーだよ」

──プリティ・シックの楽曲からは90年代のオルタナティブ・ロックからの影響を色濃く感じるよ。

「実は子供の頃は60年代や70年代の音楽が大好きで、50年代のドゥーワップからビートルズまで聴いて育ったんだ。母親に連れられてニューヨークの図書館へ行ったときに、そこにあった大量のCDの中から気に入ったものをレンタルして、ダウンロードしてた。無料でね(笑)」

──日本の図書館にも同じようにたまに洋楽ロックのCDが置いてあるよ。ルビー・スパークスのTamioも地元の図書館のCDコレクションの趣味がよくて、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインなどに出合ったらしい(笑)。

「ニューヨークの公営図書館のCDコレクションもとてもよく厳選されてたよ。よくそこで大量のCDを漁ってはパソコンにダウンロードして、iPodで四六時中音楽を聴いていた」

──iPodって僕らの世代にとってとても重要なアイテムだったよね。CDを大量にレンタルしたり買ったりして、アルバムを一枚ずつダウンロードし、そしてそれをiPodに同期させ、持ち歩いて有線のイヤホンで聴く。意外と手間暇がかかっていたけど、これも一種の文化だったと思う。今はストリーミング・サービスによって、この頃と比べると音楽を聴くことがとても簡単になったよね。

「お店に行かずとも、世界中の音楽を指先一つで保有できるのは本当に素晴らしいことだと思う。でもミュージシャン目線では、音楽による収益が格段に下がっているのも事実だと思う」


──今でもその頃集めたCDは持っているの?

「ロンドンの家には今もたくさんCDがあるよ。妹も集めてるし、みんな誕生日に何をあげたらいいかわからないときはよくCDをプレゼントしてくるんだ(笑)。あとは映画のサウンドトラックもCDでたくさん持ってるから、映像関係の仕事をしている友達にはよく共有してあげてるよ。でも実はレコードは全く持ってないんだ、プレイヤーも持ってない(笑)」

──それは意外。日本ではまだまだレコードがリバイバル中でトレンドだけど、あえてCDを集めてるんだね。

「きっとCDはこれから先、大々的にカムバックすると思う。気軽に手に入れられる一番音質の高いフォーマットだし、いま21歳の妹やその周りの友達もレトロでおしゃれという理由で集めてるんだ。レコードよりも安いのもあって、アメリカではもうレコードを買う人はあまりいないよ」

──CDのリバイバルが起こりそうな雰囲気は確かに近年ひしひしと感じるよ。僕はCDのサイズやパッケージがすごく好き。

「サイズも良いし、中に入ってるブックレットも大好き。可笑しなことに両親はCDをよく何枚も入るCDホルダーに盤だけ入れて、ケースや歌詞カードを捨てちゃうんだよね、そこが一番最高な部分なのに!(笑)」

──実家の車にそういうCDホルダーが置いてあったのでよくわかる(笑)。ブックレットは大切に取っておくべきだよね。

「子供どもの頃にアヴリル・ラヴィーンのアルバム『Let Go』のCDをニューヨークのヴァージン・レコード・ストアで買って、初めてその歌詞カードを見たときは本当に感動したのを覚えてるよ」

──アヴリル・ラヴィーンのあのアルバムはまさしく“ザ・CD”なアルバムですよね。時代感的にもレコードではなくCDで持っておくべき作品。アヴリルはサブリナにとって最初のヒーローだった?

「確実に影響を受けたヒーローの一人だね。よく両親の車で流してもらいながら、後部座席で一人で叫んでた。アヴリルの他にはビートルズ、中学生のときはラナ・デル・レイ、高校生の頃はビョーク、あとはコートニー・ラヴ、キム・ディール、ビリンダ・ブッチャーといったアーティストたちが自分にとってのヒーロー」

──実家の車の中で聴いた音楽というものは、つくづく今の自分たちを形成していると思わされる。

「そうだね、スマッシング・パンプキンズなんかは両親に教わったけどいまだに自分も大好きなバンドだよ」

『ブレックファスト・クラブ』からマック・デ・マルコまで。映画や音楽から影響を受けたファッション

──他にも映画や本など、プリティ・シックとして活動するまでのあなたに多大な影響を与えたものは?

『プッシーキャッツ』(原題: Josie and The Pussycats)という子ども向けの実写映画があるんだけど、子どもの頃の一番のお気に入りで、確実に大きな影響を受けたよ。子ども向けなんだけどとてもよく出来ていて、今もたまに見返すんだ。音楽はグリーン・デイみたいなサウンドで、めちゃくちゃ面白いから是非観てほしい」

──チェックしてみる、ルビー・スパークスのErikaはこの手の映画は絶対知ってると思う。他にはどんな映画がお気に入りだった?

『エンパイア・レコード』、80年代の『ヘザース ベロニカの熱い日々』『ブレックファスト・クラブ』、それから『ナチュラル・ボーン・キラーズ』『フィフス・エレメント』とかかな。今は『マッドメン』というドラマにハマっているよ」

──サブリナのファッションもそういった映画からインスパイアされているように見えるよね。

「特に90年代の映画からはファッション面でも明らかに影響を受けているよ。あとはミュージシャンの服装から受けた影響も大きかったね。子どもの頃はマック・デマルコのスタイルが好きで、よくオーバーオールにキャップというファッションを真似てたよ(笑)。でもファッションにおける一番のインスピレーション源は、いつも周りにいる友達かな。高校時代から今まで自分のファッションのテイストはあまり変わってないんだけど、当時も一緒に遊んでた他のティーンエイジャーの女の子たちに影響されてたよ。服もその頃からほとんど何も捨ててないと思う。母親に捨てられそうになったときも、ずっと取っておくのと言って反抗してた」

──もしかしたらそのときの服もいつか流行として戻って来るかもしれないしね。

「まさしく、自分に子どもができてもあげたくないくらいだよ(笑)」

エンジェルブルーがアメリカでアツい?!

──サブリナはエックスガールヘブン バイ マーク ジェイコブスヒステリックグラマーといったブランドのモデルも務めているよね。エックスガールとヒステリックグラマーは特に90年代の日本で人気だったブランドで、今まさにY2Kブームの中心にいるけど、どのような経緯でサブリナをモデルに起用するようになったの?

「プリティ・シックの音楽を聴いたことがあって気に入ってくれていたり、こういったブランドはそもそもバンドや音楽が好きでミュージシャンをモデルに起用したいという理由があったり、さまざまだよ。あとは友達でクリエイターのManonが日本に知り合いが大勢いて、過去にそういったブランドと仕事をしたことがあって、紹介してくれたんだ」

──サブリナはY2Kファッションのアイコンの一人だと思うんだけど、自分より若い世代へファッションの影響を与える側の人物になっていることをどう感じている?

「ありがとう。でも実はあまりそのことについて深く考えた事はないな。実際の自分はもっとナードな人間だから、他の人からファッション・アイコンとして見てもらえるなんて光栄な事だよ」

──でも言っていたように高校生の頃からファッションが変わっていない、ということはこういったブランドの表現したいスタイルがもともと持っていたサブリナのセンスやファッションとぴったり一致したということかな。

「そうだね、自分でも90年代スタイルのブランドとはすごくよくマッチしていると思う」

──ファッション好きな友人がニューヨークから東京に遊びに来たときに、ヴィンテージのヒステリックグラマーやエックスガールを探していたんだけど、今どちらもアーカイブの価格が高騰していてなかなか見つからないらしい。

「そのあたりのブランドはアメリカでも今すごく人気だからね。他にもエンジェルブルーなどの日本のブランドがリバイバルしているよ」

──まさにエンジェルブルーはその友人も必死に探してた。見つけたパンツを大人のメンズである彼が履きこなしていたよ。僕らが子どものときに流行っていた子ども服なので、日本人にとってはとても興味深いよ(笑)。でも彼にもすごく似合っていたし、今はみんな年齢や性別を気にせず好きなように好きな服を着れる時代だよね。すでに巷ではY2Kは終わった、とも言われてもいますが、今後のファッションはどうなっていくと思いますか?

「次は一体どんなトレンドが来るのか気になってはいるよ。でも自分のスタイルは他の女の子みたいに完全なY2Kでは絶対ないし、もっと90年代寄りだと思ってるから、まだわからないけど個人的にはたぶん今後も90年代に留まるかな」

──僕が最近気になっているのは2000年代後半、特にレイト00sと呼ばれるような2007〜2009年頃のファッションや音楽。

「確かにそうかも。アメリカでは00年代後半のスタイルは”Indie Sleaze”と呼ばれていて、かなり人気になってきてるよ。ロンドンやニューヨークではファッションの若い人たちが増えてる。自分は違うけどね、今も90年代の男の子みたいな格好だから(笑)」

──特にパンツのサイズ感がそれぞれの時代を象徴しているよね。今はかなり太めのシルエットが流行っていますが、僕はエディ・スリマンの影響でもともとはすごく細いスキニーパンツを好んで履いていたので、00年代後半のタイトなシルエットがまた戻ってきてほしい。

「絶対大々的にカムバックすると思う!」

プリティ・シックとルビー・スパークス、国境を超えたカルチャーのつながり

──10月はプリティ・シックとルビー・スパークスのツーマン・ライブを急遽開催したよね。

「あれは最高の時間だったね。あの場にいたお客さんもルビー・スパークスの演奏も素晴らしかったし、急だったのにこんなに良いイベントが実現できるなんて想像してなかったよ」

──僕らルビー・スパークスとプリティ・シックは、お互いが出演していた韓国の光州で開催した『FLOPPY Festival』というイベントで初めて出会って、そのわずか数日後に東京でフリー・ライブを一緒に開催することになりましたね。僕らにとってもメモリアルな1週間でした。

「そうだね、めちゃくちゃ楽しかったよ。近いうちにまた一緒に演奏したいね。日本に来るのは4回目だけど、本当はもっと頻繁に来たいくらいいつも楽しくて大好きなんだ」

──イベントに来てくれたお客さんの中には、男女問わずサブリナのようなファッションをしている人も目立った気がする。日本の若いオーディエンスとのセンスともすごくマッチしているなと。

「そうだね、自分でも日本にフィットしていると感じる部分があるよ。日本の若い子たちは、自分たちらしい楽しみ方を自分たち自身でしっかりわかってるように思う。ロンドンの若者やニューヨーカーたちはときに無気力だったり、逆に少し自惚れてたりすることがあるんだけど、日本人はもっとオープンで何においても大袈裟じゃない人が多いと思う」

──日本に来た時に必ず行くようなお気に入りの場所はありますか?

「温泉、中野ブロードウェイ、ブレックファスト・クラブ、あと俺流塩ラーメンはずっとビートルズが流れてて好き(笑)」

サブリナ(左)とナツキ(右)
サブリナ(左)とナツキ(右)

アートワークへのこだわり

──アルバム・アートワークについても聞きたい。僕らルビー・スパークスの場合は映画のように架空の物語性を持たせたいので、いつも自分たちではないモデルの写真を起用してるんだ。プリティ・シックの場合はすべてサブリナ自身が被写体だよね。

「すべて自分のパーソナルなことを歌っているからかな。それは人生の中で自分が考えてきたことや出会った知人たちのことだったりする。カバーはその作品を象徴するものだと思うから、それぞれそのときの自分の気持ちやサウンドの気分ともマッチするように作っているんだ。『Deep Divine』では水中にいる自分とその他の人々と言う写真で、メランコリックでいて同時に少しハッピーな雰囲気を持たせたり、次の『Come Down』では水面に打ち上げられた死体のように浮かぶ姿でそのときの感情を表現した。新しいアルバム『Make Me Sick Makes Me Smile』ではタイトルの如く、吐き出してる人を見て笑うドレスアップした自分、それぞれ自分の人生の中でのそれぞれの感情を象徴しているよ」

──さらにはそれぞれがどんなサウンドのアルバムなのか、というところまで感じ取れるカバー写真だと思います。すべてのアルバムに共通したテーマなどはありますか?

「実は『Deep Divine』と『Come Down』は最初、30から40曲を収録した2枚組のダブル・アルバムにしたかったんだけど、レーベルから長すぎるから2枚のアルバムにわけたほうがいいと止められたんだ(笑)。だからこの2枚には確実に共通のテーマがあるね」

──僕は1曲を書き終えるのに平気で1〜2カ月くらいかかってしまうタイプなので、1アルバムのために30〜40曲も書けるなんて信じられない!

「電車の中、家、飲みすぎて酔っ払ったとき、曲はいつでも常に書き続けてるよ。頭の中に思い浮かんだ言葉とメロディーをメモアプリに書き留めておいて、その後スタジオや家で曲として完成させていくんだ」

──だからプリティ・シックはいま毎年のようにアルバムをリリースし続けているんですね。今も新しい制作の最中だと思いますが、次はどんな楽曲になりそうですか?

「まだ完成していないんだけど、今まさに新曲を新しいプロデューサーと一緒に制作中だよ。今までとはかなり違っていて、エレクトロニックな要素が加わったより実験的なものになる予定なんだ。それでもメロディーや歌詞は今まで通りだと思うから、みんなに気に入ってもらえるといいな」

──きっとサウンドが変わっても変化しない部分がプリティ・シックらしさ、そしてサブリナらしさなのだと思います。新しい挑戦を今からとても楽しみにしています。

「ありがとう、みんなにどんな反応をしてもらえるか楽しみだよ」

Pretty Sick『Makes Me Sick Makes Me Smile』
CD、LP オープンプライスにて発売中。
配信リンク:prettysick.ffm.to/makesmesickmakesmesmile.bio


Interview & Text:Natsuki Kato Photo:Mirei Kuno Edit:Mariko Kimbara

Profile

Sabrina Fuentesサブリナ・フエンテス プリティ・シックのフロントマン。モデル。ニューヨークでバンドを結成し、メンバーを入れ替えながら、現在はロンドンを拠点に活動している。The 1975やリナ・サワヤマ、ビーバドゥービー等を擁する人気レーベル、ダーティ・ヒットに所属。EPに『Deep Devine』『Come Down』。2022年にデビューアルバム『Makes Me Sick Makes Me Smile』をリリース。
Natsuki Katoナツキ カトウ 5人組バンド、ルビー・スパークス(Luby Sparks)のベース、ヴォーカルと作詞作曲を担当。バンドは2023年には大規模なアメリカツアーを果たした。また、インドネシアのミュージックフェスティバル『Joyland Festival』への参加やイギリスや中国、タイでもライヴ活動するなどグローバルに活動中。2024年3月にはYeah Yeah Yeahs「Maps」のカヴァーを発表した。

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