ヨシダナギにインタビュー「彼らは憧れのヒーロー」 | Numero TOKYO
Interview / Post

ヨシダナギにインタビュー「彼らは憧れのヒーロー」

写真家、ヨシダナギにインタビュー。彼女がアフリカの少数民族を撮り続ける理由とは?(「ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)」2016年6月号

スリ族とともにボディペイントを施して記念撮影。 アフリカの大地に息づく ファッションに魅せられて アフリカの少数民族を撮り続ける写真家、ヨシダナギ。時に、彼らとの距離を縮めるため、服を脱ぎ、裸となり、同じ格好で彼女は撮影に挑む。そうして出会ったのが、世界一スタイリッシュな民族「スリ族」。花や草木で身を飾り、ユニークなペイントでおしゃれをする彼らは、どんなランウェイショウよりも刺激的だった。撮影秘話から、彼女が追い求め、写真に捉え続けるアフリカへの思いを語ってもらった。 スリ族:首都からは片道3日かかる秘境の地に暮らすエチオピア南西部の民族。石灰石や赤土を水で溶かして全身にペイントメイクし、草花で派手な装飾を作る独特のスタイルを持っている。 ──なぜアフリカに向かい、少数民族の写真を撮り続けるのですか?

「純粋に、私にとって彼らは憧れのヒーローなんです。子どもが戦隊モノのヒーローに憧れるのと同じような感覚です。カッコいい民族に会いたい、そしてカッコいい彼らを伝えたいと思って。おしゃれな服で着飾った人よりも裸族のスタイルのほうがずっと新鮮に感じます。自分と違えば違うほど、魅力的に感じてしまう。布の枚数が少ないほど誇り高くて、立ち姿もカッコいいんです。裸なのに全くいやらしさがなくて」

──写真集を出されたスリ族は、裸でも驚くほどおしゃれですよね。

「多くの少数民族に会いましたが、スリ族は際立って特殊です。その日その時の気分で、周りにある植物で自分たちを彩るので、次の日に会ったら同じ人とわからないくらい違うんです。同じメイクは二度とないですし。何日いても飽きません。撮影していると、おとぎの国の妖精を見ているような感覚になるんです」

──彼らは、普段からこのスタイルで生活しているのですか?

「ここまで着飾るのは、結婚式や満月の夜のダンスパーティの時だけ。普段は真っさらです」

──どのように撮影の交渉をするのですか?

「『一番かっこいいおしゃれをして、日本で披露しない?』と持ちかけます。それからお金はあまりないと正直に伝え、でもおしゃれな人にはたくさんシャッターを押して、その分のフィーは払うからと」

──おしゃれグランプリですね。

「ここはマニアックな人しか来ないので、現金収入がほとんどないんです。だから、ここぞとばかりに着飾ってアピールしてくれる。なかにはモデルウォークで登場する子もいて」

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──モデルウォーク!?

「彼らは自己プロデュースの能力に長けているんです、自分の見せ方を感覚で理解し、ポーズも決めてくれる。撮った後も、自分の姿をチェックしにくるんですよ」

──ファッション撮影みたいですね。

「他の部族では絶対にあり得ない。しかも、自分の撮影が終わるとすぐに川に飛び込んで体をきれいにし、別の装飾でおしゃれしてという感じで、衣装チェンジも早いんです。コレクションの舞台裏はすごいですよ!」


エチオピア・スリ族撮影の様子。カメラの脇に集まる子どもたち。

──写真の中で、衣装やファッション性は大切な要素?

「アフリカに興味のない人にアフリカを知ってもらう場合、伝達手段として最も重要なのは、視覚的なインパクトだと思うので大切にしています」


アファール族:アフリカ大地の東側に広く点在する民族。人口は多いが、伝統的なアフロヘアを貫く部族は、現地の人でも会ったことがないというほど幻の存在。牛脂で頭髪を白く塗り、白い衣装を纏うのが正装。

──スリ族のほかに、強く印象に残った民族はありますか?

「伝統的なアフロヘアをしたアファール族との出会いは印象的でした。アファール族は、大陸の東側に多く存在しているのですが、髪を牛脂で白く塗った伝統的なアフロヘアを貫いている部族はほとんどいないんです。アフリカでアフロヘアって、実はあまり見られないんですよ。日本でいうなら、ちょんまげみたいな感じで、失われた文化なんです。地図にも載っていないエリアに入り、アフロヘアの集団に出会ったときは感動しました。彼らは純粋で、アフロの魅力を発信してくれるならと撮影にも快く応じてくれ、一緒に作品を作るということを初めて共有できた人たちでした。いつもは私の片思いな感じばかりだったので」

──伝統的なスタイルで生活している民族は少ないんですか?

「素のままを貫いている民族は少ないです。例えば、ケニアにサンブル族という民族がいるのですが、普段はTシャツにデニム姿なんです。ビジネスサンブルと呼ばれる人たちが、仕事として伝統的な衣装を着て見せてくれる感じです。彼らはスマホも持っていますし」


サンブル族:ケニア北部に住む民族。マサイ族の親戚ともいわれる民族で、現代文化が生活に浸透し、普段は洋服で過ごしている者も多い。観光や撮影用に伝統衣装を披露するビジネスサンプルと呼ばれる人たちもいる。

──現代的ですね。

「伝統衣装といっても、今風にアレンジしたものが多くて。私が原色の無地の伝統衣装をお願いしても、ダサくて嫌だと言って着てくれない。粘り強く交渉して、やっと伝統衣装を出してきてくれる感じです。ただ、現代的な生活をしている人たちも、自分たちで伝統文化を守らないと消えてしまうということを自覚していて、政府もそれを守るために観光化しているんです。賛否両論あると思いますが、伝統の担い手として守っていることには変わりないんですよ」

──失われつつある伝統を伝えたいからこそ、写真に撮るんですね。

「スリ族のようなアフリカならではのスタイルを残してほしいと思っていますが、それは私のエゴなんです。彼らが現代的な生活をしたいと望めば、生活が変わっても仕方がない。私にできることは、『今のあなたたちは、すごくカッコいい』と伝えること。そのスタイルを誇りに思って、語り継いでほしい。今、その記録として写真を残せるようにしたいんです」


ナミビア・ヒンバ族を訪問。一緒に裸になって撮影交渉。

──一人でこれだけの旅をして、怖いことはないですか?

「毎回、自分が死んでもいいと思う場所に行くことにしています。私は、アフリカの少数民族から、フォトグラファーという道を与えてもらったので、怖いと思うことはないですね」

 

Photos : Nagi Yoshida
Interview & Text : Akane Maekawa
Edit : Masumi Sasaki

Profile

ヨシダナギ(Nagi Yoshida) 写真家。1986年生まれ。5歳の時にテレビで見たマサイ族に憧れ、23歳の時に単身アフリカへ渡り、憧れの民族を写真に撮り始める。旅したアフリカの国は16カ国。どんな秘境にも向かい、被写体となる民族と同じ格好をして交流を図る独特な手法で写真を撮り続ける。スリ族を撮影した初写真集『SURI COLLECTION』(いろは出版)を刊行。

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