ミア・ワシコウスカにインタビュー「瞑想のシーンに、とても心がざわざわしました」
ティム・バートン監督の『アリス・イン・ワンダーランド』で主人公のアリス役を演じ、世界中を魅了したミア・ワシコウスカ。他にも、『永遠の僕たち』や『イノセント・ガーデン』や『ベルイマン島にて』といった作品でミステリアスでイノセントな存在感を見せつけてきたミアが、オーストリア出身で『リトル・ジョー』をはじめいくつもの長編映画がカンヌ映画祭に選出されているジェシカ・ハウスナー監督と初タッグを組んだのが『クラブゼロ』だ。
ミアが演じるのは名門校に赴任してきた栄養学の教師ノヴァク。ノヴァクは「少食は健康的であり、社会の束縛から自分を解放することができる」という思想を宿した「意識的な食事」と呼ばれる最新の健康法を生徒たちに教え、その教えに感化された生徒たちは食べないことに多幸感や高揚感を抱くようになる。ノヴァクは救世主なのか? それとも洗脳者なのか? 食にまつわるさまざまな事柄に加え、親子関係や教師の意義といった問題提起をはらんだ作品だ。ミアに本作のこと、食事スタイル、メンタルヘルスのことなどを聞いた。
ミア・ワシコウスカにインタビュー
「“食べないこと”というのはあり得ない」
──『クラブゼロ』への出演オファーはジェシカ・ハウスナー監督から直々あったそうですが、内容をどう受け止めましたか?
「最初は少し心が乱れるような感覚があったんですが、見たことのない作品になるんだろうなと思い、ワクワクする自分がいました。その後、ジェシカ監督と私が演じるノヴァクの言動の意図などについて話し合ったんですが、ジェシカがすごくはっきりした像を持っていて、それを咀嚼した上でどうお芝居に反映させるかという作業を行いました。100通りくらいのパターンを試してほしいと言われてやったんですが、最終的には最初のパターンに戻っていきました。ノヴァクを演じる上で一番大事だったことは、ノヴァクが自分の信念を心から信じていることでした。私は最初ノヴァクが生徒たちを操っているように感じたのですが、ノヴァク自身はそんな風に微塵も思っていないんですよね。そこは監督と話し合う中で修正していったポイントでした」
──今作において一番共感したシーンと一番恐怖を覚えたシーンを教えてください。
「子供たちとノヴァクのシーンはとても共感しました。中でもラグナが『意識的な食事ができませんでした』と告白するシーンはとても悲しかったです。そして、特に恐怖を感じたのは物語の後半です。『そっちの方に行ってしまうんだ』と思い、とても恐怖を感じました」
──今作は食、親と子供の関係、教師という職業の意義といったさまざまなことについて問題提起となる作品になっていますが、観客にどんなメッセージが伝わったらいいと思っていますか?
「おっしゃるようにテーマがたくさんある作品です。何が観客の皆さんに響くかはそれぞれだと思いますが、私としては10代の思春期のもろさを思い出すきっかけになればいいなと思っています。本作に登場する10代の子たちは純真な子たちばかりです。今の世の中は、何か問題を抱えていてそれを改善していきたいと思っている純粋な気持ちを利用されてしまうことがあるということを描いた作品だと思っています」
──あなたはノヴァクを救世主のような存在と洗脳する存在、どちらに感じましたか?
「危険な存在ですよね。とても興味深いのは、彼女は親や教師たちが見逃しているけれど生徒たちが求めているものを与えることができています。そこに人間の矛盾が生まれています。ノヴァクがやっていることは最終的には悪い行為になるかもしれないけれど、ノヴァクは良かれと思ってやっている。そして、子供たちをエンパワメントしています。ノヴァクの行為はそういう歪みを生んでいるのでとても奥深いですよね」
──あなた自身は食事における信念は何かお持ちですか?
「私は元々バレエダンサーをやっていましたが、バレエの世界は体型のために食事制限をする世界です。そこからハリウッドに行き、制限が軽減されたように感じました。今は故郷のオーストラリアを拠点に活動していますが、これまでさまざまな食事のスタイルを経験してきた上で、肩の力を抜いてリラックスして適切に食べるというスタイルに落ち着きました。何事においても適度なのが大事だと思います。食べすぎたことを気にしたり、無理にコントロールして神経質になる必要はありません。もし『今日は良くない食べ方をしてしまったな』と思ったら翌日調整すればいいわけですから。食事のスタイルは住む場所が大きく関係しているというよりは、歳を重ねることで変わっていく部分が大きいと思っています」
──オーストラリアに移住したことでメンタルにはどんな影響がありましたか?
「とても良い影響がありました。仕事のために長くアメリカに滞在していた時期はありましたが、アメリカに完全に移住したことは一度もないんです。次々と撮影場所を渡り歩いているような感じでした。その間にオーストラリアにちょくちょく帰ってはいたんですね。オーストラリアには姉と弟やそれぞれの子供がいて、彼ら家族と離れて生活することは考えられません。もしアメリカを拠点に活動していたら今とは違うキャリアを形成したかもしれませんが、それは私が望んでいたことではありません」
──『クラブゼロ』には瞑想するシーンが出てきますが、メンタルヘルスのためにやっていることはありますか?
「瞑想もヨガもすごく好きです。自分に合っているし、自分を助けてくれていると感じます。『クラブゼロ』でノヴァクが瞑想について話していることは半分真実ではあるけれど、とても極端なことを言っています。そのシーンを見てとても心がざわざわしました。私と同じように瞑想やヨガをやっている方は多いと思いますが、あのシーンを見ることで、自分の今やっていることと向き合うきっかけになるのではないでしょうか。そしてやはり、ノヴァクが提唱する“食べないこと”というのはあり得ないと思います」
──食べる喜びはよく感じてらっしゃいますか?
「はい。食べることは大好きです。日本料理も好きですし、ベトナム料理やマレーシア料理といったアジア料理も好きですね。あと、イタリア料理の特にパスタや魚も好きです。オ―ストラリアにあるお店ですと、例えばREDFERN CONTINENTAL、あとおそらくトッティというイタリア人のサッカー選手から名前を取ったと思うんですけど、Totti’sというお店とFred’sというお店も好きです。よかったら行ってみてください」
──あなたにとって一番幸福な時間は?
「それは時期によって移り変わるものだと思いますが、今はきょうだい、甥、友人と、人と人として繋がることができていると感じる時間こそ一番心が穏やかになります」
『クラブゼロ』
出演/ミア・ワシコウスカ
脚本・監督/ジェシカ・ハウスナー
撮影/マルティン・ゲシュラハト
Ⓒ COOP99, CLUB ZERO LTD., ESSENTIAL FILMS, PARISIENNE DE PRODUCTION, PALOMA PRODUCTIONS, BRITISH BROADCASTING CORPORATION, ARTE FRANCE CINÉMA 2023
https://klockworx-v.com/clubzero/
12月6日(金)より、新宿武蔵野館ほか全国公開
Interview&Text:Kaori Komatsu Edit:Chiho Inoue