福地桃子インタビュー「胸の中にある想いを届ける。そのために、今の私ができること」
大河ドラマ『鎌倉殿の13人』をはじめとするドラマや映画で、観る人に強くしなやかな印象を残す、女優の福地桃子。『舞台 千と千尋の神隠し Spirited Away』では主演・千尋のひとりとして、ロンドン公演のためにイギリスの長期滞在を経験した。「ロンドン滞在は新しい体験だった」という彼女に、演劇の本場と言われるロンドンで感じたこと、千尋という役がもたらしたもの、そして、演技に対する今の想いを聞いた。
暮らすように過ごした、ロンドンでの日々
──今回のロンドン滞在で感じた、街の印象を教えてください。
「ロンドンは今回が2回目なんですが、公演のために1カ月近く長期滞在したので、暮らすように過ごすことが出来たらいいなと思いました。晴れていたら近所を散歩して、八百屋さんとお話ししながら野菜や果物を選んで。イギリスには、フラットピーチという丸くて平らな桃があると教えてもらいながら野菜を選んだりしていたら、あっという間に時間が過ぎてしまいました(笑)。海外で行きつけの八百屋さんを見つける、そういった体験も新鮮でした」
──観光スポットもたくさんありますが、そこは回りましたか。
「そうですね。湖と山が見える街に足を伸ばして、ただ散歩をしたりもしました。街の中でもバスを使わずに歩いてみたり。ロンドンに来ても、東京で自分が落ち着くなと思うような場所と似た雰囲気のところに行ってしまうし、なるべくいつも通りの生活をしながらその土地を思いきり楽しみたいです。そのほうが、近くにあるものに集中できる感覚があるんです。短期の旅行では時間が限られているので、こういう過ごし方は貴重な経験だし、いい時間だなと思いました」
──『舞台 千と千尋の神隠し Spirited Away』は、ロンドンでの公演を無事に終了しました。ウェストエンドはブロードウェイと並んで演劇の聖地とよばれていますが、現地の雰囲気はいかがでしたか。
「上演した劇場(ロンドン・コロシアム)の周辺はたくさん劇場のあるエリアです。演劇というとチケットも高いし観る人は限られていますが、ロングランで長く上演されている作品の中には、公演日が近くなるとチケットのセールがあるらしくて、15ポンドほどで鑑賞できることもあるそうです。映画館にふらっと行くように観劇できる環境で、この街は演劇が身近にあるんだと感じました」
──日本とイギリスとの観客の反応に違いはありましたか。
「ロンドンに到着してまず、他のキャストが千尋を演じる回を鑑賞したのですが、劇場にすごく熱気があったのを覚えています。舞台の魅力は、同じ作品なのに劇場やその回によって、見えてくる風景や場の空気が違うところだなと思います。ロンドンだから日本だからということではないのですが、観客のみなさんは目の前で起きていることに対して素直に反応してくださることが嬉しかったです」
──3月から『舞台 千と千尋の神隠し Spirited Away』に参加していますが、千尋を演じてご自身の中で成長を感じた点はありましたか。
「昨年は別の舞台『橋からの眺め』に出演したのですが、その時はキャストも6人だったので、じっくり話し合いながら作っていきました。今回のカンパニーは関わる人数も多く、もともと初演で作ったものを再演として送り出していく作業でもあって、また違った角度から、舞台というものを深く感じることができたと思います。ロンドン公演も経験して、舞台はいろんな役割を担う人がいて成り立っているものだと感じています。『千尋』という役ひとつにしても、橋本環奈さん、上白石萌音さん、川栄李奈さん、森莉那さんとの5人で『千尋』として過ごすみんなの存在に支えられていた時間でした。稽古場で全員が揃うことはなかったけれど、その日の稽古場で起きていることを共有していたり、会えなくてもコミニュケーションを取っていました。誰かが稽古に出られなくても、誰かが稽古をしている。みんなで言葉を繋げながら、千尋を作りあげていく。それがずっと続いていて、公演を何度も見てくれている方にも、毎回新鮮に届けられたのではないかと思います。これは映像とはまた違うことでしたし、大きなカンパニーの1人ひとりが一生懸命、自分のパートを全うして、それが上手くいったときの喜びを経験させていただきました。それは、私にとって大きな出来事だったと思います」
胸の中にある想いをまっすぐに届けること
──幼少期からドラマや映画の現場が身近にあった福地さんですが、2016年にデビューしてからこれまでを振り返って、作品に対する向き合い方は変わりましたか。
「この数年は、やりたいことがより明確になっていると感じています。よく取材などしていただくと『10年後どうなっていたいか』というような質問をいただくことがあるのですが、将来の姿を想像することよりも、10年後の私が振り返ったときに、ああしておけばよかったという後悔がないように今を生きていたいと思うんです。だから、巡り合わせてもらえる作品に対して責任も持って、一生懸命向き合いたいなと思っています」
──ここ数年は特に大河ドラマ『鎌倉殿の13人』や映画『湖の女たち』など、観る人の心に強く残る作品に出演されていますが、作品選びはどのように?
「この作品で自分はどんなことができるか、そこにどう存在していられるか、を考えるようにしています。ただ、それは自分が作品を深く知ることのできるきっかけのひとつであって、どうなっていくのかは正直未知な段階のことがほとんどなので、挑戦するという選択をする時はやっぱり一生懸命出来そうだなと想像ができた時だと思います」
──『湖の女たち』で演じた、週刊誌記者の池田は、挑戦的な役柄だったのではと思いましたが。
「撮影期間のことを思い返すと、とてもいい時間でした。原作で池田は男性でしたが、映画では女性に変更しています。劇中は一人で過ごすことも多かったのですが、池田は常に誰かのことを考えているんです。人を繋ぐ役目をしていたので、ひとりでいる感覚もなくて。そういった役は新鮮でしたし、今回の役を通して、三田佳子さんや浅野忠信さんとのシーンで、大きく心が動くシーンがあったので、その撮影はとても印象的でした」
──印象的な役柄が増えるほど考えることが増えそうですが、もし役づくりや演技で悩んでしまったら、どうやってその状態を脱却しますか。
「人と話してみることで、心が救われることがあります。悩みを相談することもあるし、他のことを話していても、会話の中に助け舟がやってくるような感覚になることがあって。監督や共演する方などの状況を共有する人とでなくても、例えば、友人と何気ない話をしていたけれど、それがすごくいいヒントになって。これで私は大丈夫だと思って家に帰る、というのはよくあります。それから、悩みとは違うのですが、いつか、撮影が始まる前の段階、例えばロケーションを下見したり撮影の準備をしたりするところから参加してみたいという気持ちがあります。設定もあるので時と場合によると思いますが、なるべく長くその場所に身体を置いて、より近いところで参加できる機会があったらいいなと思っています」
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Photos:Rei Hair:Chikako Shinoda Makeup:Natsumi Narita Interview & Text:Miho Matsuda Edit & Styling:Shiori Kajiyama