草彅剛 × 小泉今日子インタビュー「清く、正しく、美しく生きることについて」 | Numero TOKYO
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草彅剛 × 小泉今日子インタビュー「清く、正しく、美しく生きることについて」

5月17日(金)に公開される映画『碁盤斬り』。冤罪をかけられ、復讐に燃える武士・柳田格之進を草彅剛(主演)、遊廓 半蔵松葉の大女将・お庚を小泉今日子が演じた。かねてから嗜む囲碁にも、格之進の清廉で実直な人柄が表れ、嘘偽りのない勝負を心がける彼。そんな美しい魂を、遠くから温かに見守るのがお庚さん。この映画の中に描かれている、清廉潔白に生きる強さ、美しい生き方とは? 29年ぶりに共演を果たしたふたりに、インタビュー。

僕の中での“キョンキョン道”がまた始まった

──映画『碁盤斬り』で29年ぶりに共演となったふたり。29年前、最初のお仕事でご一緒されたときのことを覚えていらっしゃりますか? 思い出のエピソードがあれば、教えてください。

草彅「(中井)貴一さんと小泉さんのラブストーリー『まだ恋は始まらない』(1995年)というドラマでした。僕にとって、ドラマの仕事を始めたばかりの頃で、1時間で2シーンぐらいしか登場していないのですが。それでも、僕は小泉さんとお仕事できることが、すごく嬉しくて。『キョンキョンだ!』と思って、半端じゃなく舞い上がって(笑)。芸能界へ入って、後にも先にもないくらい実はドキドキしたんです。現場では、小泉さんに本当に優しくしていただきました。そこからが、小泉さんとのはじまりですね。あれから29年経って、今またターニングポイントというか。僕の中での“キョンキョン道”がまた始まった。小泉さんとまたこうやってお仕事できるご縁があって、本当に嬉しかったです」

小泉「歌番組やバラエティなど、剛くんたちがやっている番組にゲストに出たことは何度もあったのですが、お芝居でちゃんと会うのはあの作品以来。『まだ恋は始まらない』では、剛くんの評判がすごく良くて、ドラマを重ねるごとにどんどん出番が増えていったんです。それをすごく覚えていて。そこから、みるみる主演作やたくさんの名作ドラマを残したり。それを経たいま、こうやって剛くん主演の映画で一緒にお仕事できるというのは、私にとって感無量な感じです」

草彅「めっちゃ、嬉しいです。本当に最高ですよ! 来てますよ、俺! 来てます! キョンキョンに溢れちゃって、もう最高です(笑)。作品の完成を観たときも、キョンキョンとのツーショットが本当に嬉しくて。ある意味、僕にとってはご褒美みたいな作品になっています」

18年前にキョンキョンからもらったTシャツは、ずっと大切に

──昔、小泉さんからいただいたTシャツに今回の共演を機に、サインしていただいたというエピソードがありますよね。

草彅「そう、何年も前に小泉さんからもらったTシャツがあって。でも実は……それをキョンキョンからいただいたのか疑わしくて。歳を重ねるたびに、人間って自分の記憶に自信がなくなってくる。『果たして、あのキョンキョンがこのTシャツを俺にくれたのかな?』って(笑)」

小泉「引っ越すたびに悩んで、一応、捨てないでいてくれたみたいで(笑)。京都の撮影現場に持ってきてくれて、『このTシャツ、キョンキョンが僕にくれた?』って言うから、『あっ、それあげた!』と。『やっぱり、そうだ! サインしてください』って(笑)」

草彅「感動でしょ! もう、最高でしょ! 2006年にあのTシャツをいただいて、それからずっと胸に抱えていた夢が叶ったの。何年もの間、そのTシャツを家で見るたびにキョンキョンのことを思い出して。かわいいでしょ、俺って(笑)。めっちゃ、可愛くない!?」

小泉「ちょうどその頃、私が俳優を土台に移していこうと思っていたときで。それからそういう道になっていくのだけれど、剛くんたちはアイドルとして私が活動したときのギリギリ後輩という感じがするんです。頑張ってくれるとすごく嬉しいんですよね、本当に」

草彅「有難うございます、嬉しいです!」

──映画『碁盤斬り』の撮影中、お互いの新しい一面や意外な一面など、新たな発見はありましたか?

小泉「すごい集中力で役に入っていらして。主役として座組を引っ張っている感じとかも間近で見られて、とても頼もしい感じがしました。あと、春先の撮影だったので剛くんは花粉症がすごいんだなって(笑)。ずっと苦しそうで、鼻をかんでいて。でも、カメラが回っているときにはビシッて、すごい集中力でやり遂げていて」

草彅「そう、花粉症がひどかった(笑)。小泉さんは、本当にいつも自然な佇まい。それが僕の中のキョンキョン像というか。いい意味で撮影所に染まっていないんですよね。なんかやっぱり『キョンキョンすごい!』って思いました(笑)」

小泉「あはは、絶賛!?(笑)」

草彅「本当にそこがすごいんです。時代劇っぽく、いい意味でならないんです。時代劇だから、わざと時代劇っぽくしない。そこがキョンキョンなの。で、そのほうがよりリアルなんです。それを見たとき『キョンキョン、かっけー』って。だから、僕も別に時代劇っぽくしなくて、そのままでいいんだって。むしろその方がより馴染んできて。撮影現場で、小泉さんの佇まいは本当に自然でいらっしゃるのですが、それがやっぱり素敵で粋なんですよね」

──半蔵松葉の大女将・お庚さんの中に、小泉今日子さんが確かに見えてきました。

草彅「そう、それがキョンキョンなんですよ。その人が出てこないと、どんな作品もなんか飽きちゃうというか……。もうそれが、キョンキョンイズムなんですよね」

小泉「昔、恩師の存在だった演出家の方に『うまいの先に、広い世界はない』って言われたんですよね。技術や技で演技を誤魔化してしまうと、そこで止まってしまうと。そう言われたことが、ずっと頭に残っていて。だから、なんかそうじゃなく、どう演じられるかということを、考えてしまいます。で、『いま、小手先でやっていなかったかな?』とか。“うまい”の定義もはっきりしていないけれど、それよりは、自分の心がブルブルって震えたりとか、本当にちょっと腹が立つとか、そういうのができたらいいなといつも思っています」

映画の中にある“ルール”は厳しいけれど、
実はちゃんと正直に生きる人を守っていたんだなという学びがありました

──柳田格之進、お庚の人生を生きたことで、役からどんなことを教えてもらいましたか?

草彅「やっぱり僕は、古き良き清廉潔白な彼の魂──。それはもう今の時代にはないかもしれないけど、最後までそういう心を持ち続けて生きる姿。格之進のような魂を昔の人たちの気持ちとか心には、あったんだなということを教えてもらったような気がしますね」

小泉「光と影で言ったら、お庚さんって影のほうの時間を生きている人だと思うんです。でも、底の部分にある何か、そこにいる覚悟とかって……今もどこかにその影は、2024年の中にもあると思うんですよね。なんかその強さという部分や、そういう役を演じられるのがすごく嬉しかったし、楽しかった。この物語の中のいろんなところに、ちゃんとルールや決まりがある。碁盤もそうですし、ヤクザの世界、武士の世界、廓(くるわ)の世界のそれぞれにきちんとルールがあって。それをどう守っていくか、また破った人がどうなるのか──因果応報じゃないけれど、罰や制裁みたいなものがきちんと待っている。でも今のこの社会では、それがすごく曖昧になって、隠されてしまったり、悪いことをしていても表面に出てこなかったりとか。弱い人がより辛い目に遭うようなことになってしまったりとか……そんなことがたくさん目に入ってくる。この映画の中にある“ルール”は厳しいけれど、実はちゃんと正直に生きる人を守っていたんだなという学びがありました」

──この映画の中で、おふたりが好きなシーンを教えてください。

小泉「たくさんあるんです。時代劇のセットとか、江戸の雰囲気とか……みんな本当に絵もキレイだし、照明も素晴らしくて。でも心に残っているのは、お絹ちゃんが廓(くるわ)の門に帰ろうとするシーン。お祭りをやっていて、たくさんのほのかな灯りの中に出店が出ている。その中を、いろいろあったお絹ちゃんが日本橋を歩いて廓の門に向かう後ろ姿がすごく切なくて、好きだなと思いました。あと、草彅さんが、草いっぱい生えている野原を歩いているシーン」

草彅「うん、僕も結構好き」

小泉「当時はこういう風景だったのかなと思って。なんか、そこの匂いが伝わってくるような感じがしました」

草彅「お庚とお絹のやりとりのシーンも本当に素敵だし、碁盤を打っているところも、やっぱり好きで。最初の穏やかなシーンに桜の映像があったり、もう本当にどことは言えないぐらいたくさんあります。映画のストーリーが進むにつれて、激しくなっていく。その激しいところも好きです。前半と後半で展開が変わるのですが、それぞれいい絵が撮れたと思っています。すごく手応えがあります」

美しい生き方……それは、自分に正直に生きるということ

──清廉潔白に生きる。清く正しく生きる。自分のなかの正義や、正しいと思うことに対して嘘偽りなく生きていこうとする柳田格之進の姿。また、そういう格之進の生き方をよく知っているからこそ、彼は裏切ることはしないと信じ、自ら犠牲になろうとする格之進の娘・お絹を預かるお庚さんの姿にとても心動かされました。草彅さん、小泉さんが考える「美しい生き方」とは、どんな生き方を想像されますか?

草彅「美しい生き方……それは、自分に正直に生きるということ。すべてを正解とか不正解、白黒はっきりできることでもないと思うので。何かやっぱり、自分の心に嘘をつくことをなるべくしない生き方が美しい生き方なんじゃないかなって。もちろん、嘘をついてしまうときはあると思うけれど、そんなふうに心がけたいと思ったりしますね」

小泉「お金とか、愛とか、優しさとか……誰かを幸せにしてあげたくて、そういうものを利他的に使えること。そして、幸せになった人から何かが戻ってくるような循環する環境を作れている人が、美しい生き方をしてるのかなと思いますね。そういうコミューンとか、友達とか家族とかを上手に作れてる人が、やっぱり美しいし、なんかキレイだなって」

──草彅さんから見て、お庚さんの人間性を素敵だなと共感できるところは? 小泉さんから見て、柳田格之進の人格や人柄に共感できるところはどんな部分でしたか?

小泉「格之進が最後の最後、彼をずっと支え続けた藩士の左門に、悪いことだと承知の上である“お願い”をするんです。その格之進の人間性が最後に来たのが、すごくぐっときました。その時に真の男の友情も見えて。そこも、とてもかっこよかったです。悪いことと知りながらの“お願い”は、それまで関わってきた人に何かを返したい……人に愛や優しさを循環するための“お願い”。それを二人で共有したという、絆が感じられるシーンでした」

草彅「やっぱりお庚は、なんだかんだいって優しくて。厳しさの中に、優しさがめちゃくちゃあるところがすごく魅力的でした。女性で経営をしていて貫禄もあって。本当に小泉さんみたいな(笑)。あの厳しさは、やっぱりキョンキョンだから出たもの(笑)。鋭さもあって、優しいだけじゃないような感じもあって。それがすごくカッコよかったな」

──ストーリーの描き方や演じ方など、監督・白石和彌さんとは、どんなコミュニケーションをしましたか?

草彅「あんまり役のことは話さなかったですね。すごく優れた監督なので、撮り方ひとつにしてもとてもこだわっていらして。その絵の中で、自分の力を出すことに努めました。僕、監督と同じ歳なんです。監督の娘さんが撮影所に来ていて、すごく可愛くて。父の一面を見たりとかして、そういったところでお話しをしていましたね。監督のおかげで、僕は安心して撮影の臨めました」

小泉「スタッフの皆さんがみんな監督を尊重して、尊敬して動いているっていうのが現場でよくわかったんです。というのも、監督としての見方がとても紳士的なんです。若い俳優さんやエキストラの方にも、どのパートの人にもきちんと紳士なコミュニケーションをとって。だから、こういう人にはやっぱりいいスタッフが集まってきて、いい役者が集まってきて。だから、より大きな素晴らしい映画にたどり着ける人なんだろうなって思いました」

キョンキョンと僕のツーショットを観ていただければ、映画にはまると思います(笑)

──では最後に、Numero TOKYOの読者へメッセージをお願いします。

草彅「僕はね、キョンキョンとのツーショット。そこにつきますね(笑)。そこを見ていただいて、あとはもう映画がめまぐるしくバーッと展開していくのでもう本当に、キョンキョンと僕のツーショットを観ていただければ、映画にはまると思うので、ぜひ観てください」

小泉「意外と既視感のない時代劇が生まれたんじゃないかと思っていて。美しさもそうですし。音とかもすごく豊かで。音楽っていうわけじゃなくて、江戸の音がとっても丁寧に音響として作られているのも、試写室で観たときにすごく楽しかったんです。江戸の音って、こんな音だったのかもって思ったり。照明も美しいですし。年齢や好きな作品のジャンルに関係なく、ひとつの物語として見やすい映画だと思うので、ぜひ観てください」

『碁盤斬り』
『ミッドナイトスワン』草彅剛 ×『狐狼の血』白石和彌 ×豪華キャスト。武士の誇りを賭けた復讐を描く、感動のリベンジ・エンタテインメント。古典落語の演目「柳田格之進」を基に、冤罪事件によって娘と引き裂かれた男が武士の誇りをかけて復讐に臨む姿を描く。共演は、清原果耶、中川大志、奥野瑛太、音尾琢真、市村正親、斎藤工、小泉今日子、國村隼と錚々たる豪華絢爛な顔ぶれが集結。堅物なヒーローが囲碁を武器に死闘を繰り広げる、疑心と陰謀渦巻く愛と感動のリベンジ・エンタテイメントが誕生した。

監督/白石和彌 脚本/加藤正人
5月17日(金)より全国公開
https://gobangiri-movie.com
配給/キノフィルムズ
©2024「碁盤斬り」製作委員会

衣装(草彅剛):ジャケット・パンツ¥352,000(セットアップ) パンツ¥28,600/すべてCanali(カナーリ 03-5216-6521)、シャツ シューズ/ともにスタイリスト私物

衣装(小泉今日子):トップ¥61,600 パンツ¥49,500/ともにUndercover(アンダーカバー 03-3407-1232) ピアス(右)¥24,200 (左)¥26,400/ともにMaria Black(マリア ブラック表参道店 080-4009-2020) ピアス(右・石付きペアで)¥170,500 リング(左・薬指)¥148,500/Bororo(ボロロ 03-6317-9868) リング(右・五連)¥77,000 (左・人差し指)¥49,500/Talkative Omotesando(トーカティブ表参道 03-6416-0559)

Photos:Takao Iwasawa Styling:Kayo Hosomi(Tsuyoshi Kusanagi)Noriko Fujitani(Kyoko Koizumi) Hair & Makeup:Eisuke Arakawa(Tsuyoshi Kusanagi)Ayumi Ishida(Kyoko Koizumi) Interview & Text:Hisako Yamazaki Edit:Naomi Sakai

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