ペトラ・コリンズにインタビュー「ライアンとの旅で自由になれた」 | Numero TOKYO
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ペトラ・コリンズにインタビュー「ライアンとの旅で自由になれた」

フォトグラファー、モデル、キュレーターなどとして多岐にわたって活躍している時代のアイコン、ペトラ・コリンズ(Petra Collins)にインタビュー。(「ヌメロ・トウキョウ」2017年3月号掲載)

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ニットトップ¥70,000 イヤリング¥17,000/ともにMSGM(アオイ)

「グッチ(Gucci)」のアンバサダーとして抜擢され、広告のムービー撮影を担当したことで世界に名が知れ渡ることになったペトラ・コリンズ。フォトグラファーとしてのキャリアも着実に積んでいる彼女が、苦悩の時代および人生を変えてくれたという衝撃の出会いまでを語ってくれた。

煌びやかな面だけではなくて
私のすべてを知ってほしい

──NYファッションウィークはいかがですか? 現在動いているプロジェクトはありますか。

「充実していて楽しいです。今はショウを2つと、この秋に出す本の準備をしています。数年前に出版した『Discharge』とは全く違ったものになると思います。私が撮った写真だけではなく、すごくパーソナルなメモや日記、家族や私の写真も含める予定です。私の年齢でレトロスペクティブを出版するのはちょっとシュールですが(笑)、世界に発信したいことが積もりに積もっていて、やっと出版できるというような心境です」

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大好きな妹のアナと!

──最近ハンガリーで家族の写真を撮影されたとか。

「生まれ育ったトロントと、親族がいるハンガリーに里帰りして家族の写真を撮りました。すごくいい経験になったと思います。写真というものを全く違った視線で見られるようになりました。自分のプライベートな世界の写真をこんなに真剣に撮ることは初めてで…。普段は自分にフォーカスを当てるというよりムードや色彩で自分の心を表現しているのですが、自分に深く関係しているものの写真を撮ることで描写の仕方が変化するのを体験できて面白かったです。家族の写真を友達に見せたら『これ、すごく奇妙ね。あなたと被写体一人ひとりの関係が写真を通して伝わってくる』と言われたんです。それを期待していたから、よかったと思いました。ドリーミーでシュールな写真だけど、同時に限りなくリアルなんです。家族は実際に存在する強い絆だから。魔法みたいでゾクゾクしました」

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この頃からずっと一緒に遊んでた。今でも尊敬する存在。

──トロントで生まれ、育っていますが、ハンガリーが故郷なのですね?

「はい。母がハンガリー人なので、ハンガリー語と英語のバイリンガルに育てられました。母はハンガリーが共産主義国だった時代にカナダに移民したので、私と妹はカナダで育ちながらも毎年夏はハンガリーで過ごしていました。だから第二の家というか、故郷ですね。自分のルーツを感じる場所です。祖母は母の幼少期からずっと同じアパートに住んでいるので何ひとつとして変わっていないし、自分の歴史がある場所だと思っています」

──本の話に戻りますが、作品を自伝的にするということですか?

「完全に自伝的にしたいわけではないのですが、自分の作品をタイムラインで見ると必然的に私の成長も記録されていると思います。10代の頃は10代の子を撮っていたけど、成人した今は自分の周りにいる大人を撮っています。ティーンの女の子ではなくなってしまったから、ティーンを撮ってもその子たちのストーリーを語ってあげられなくなってしまったんです」

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4年間一緒に制作したインフルエンサーのタビとの雑誌「ROOKIE」。

──自分が育った環境や家族について発信したいと言っていましたね?

「それを今度の本で全面的に出すつもりです。私の人生と作品を形成するものを突き詰めようと思っていて。いま振り返ってみてわかることもたくさんあります。私の知名度が上がってくるのに伴って、私の精神的な部分やボディイメージについても特にみんなに知ってほしいと思っています。若い女の子のお手本的なポジションにされつつあるので、私の人生の煌びやかな面だけでなくて360度すべてを知ってほしい。私もさまざまな経験をしてきているので」

──あなたの作品を通してほとんどの人がノスタルジアや少女時代を思い浮かべます。あなた自身、少女時代に経験できなかったものを求めているような気がしますか?

「家庭環境が理由で、10代の時期を満喫できなかったという思いがあります。私の写真の多くは、確かにもう一つの現実を生きたくて創り上げた空間かもしれませんね。この本を制作するにあたって過去を振り返ることがとても面白くて。今となっては昔のことだから冷静に客観視できて、自分が何をしてどう感じていたかを理解できるようになっていたんです。私の写真のほとんどは現実にはないものを映し出していたんです。あのとき夢に見ていた未来や求めていた思春期とか。例えばアーティストが60年代をレファレンスに使うようなノスタルジアとは違うのです。私は60年代を生きていないから、共感というよりデジャヴのような感覚ですね。例えば映画を見て、自分はもしかしたらその世界に生きていたかもしれないと思わせるようなものです」

──願いが叶うようなノスタルジアですね。

「そのとおりです」

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体調が悪くてもこんなことができる時代。

──SNSの発展に伴って、アーティストが公的な存在になり、いったい何を発信するのかと期待され予想もされたりしますが、あなたはSNSを優雅に使いこなし、もはやあなたを語るこにおいて欠かせないものになっていますよね。一般の人があなたに抱くイメージを苦痛に感じることはありますか?

「ないです。私はSNSとともに育った世代なので、自分をさらし出すことは重荷ではありません。SNSは私の思春期の中心的存在だったし、もう一人の自分、もう一つの次元での自分なんです」

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セルフィー!

──セルフィーですね。

「そうです(笑)」

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東京で撮影されたGUCCI 2016-17年秋冬広告ヴィジュアル。©Courtesy of Gucci

ただがむしゃらになって
夢中で写真を撮り続けた

──ライアン・マッギンレー(フォトグラファー)やアレッサンドロ・ミケーレ(GUCCI のクリエイティブ・ディレクター)のミューズでもありますね。あなたにとってミューズとは?

「私にとってのミューズは、その人の容姿を超越した何かを表現できている人です。私が夢中になっている人たち。彼女たちの日々の過ごし方や興味を持っているもの、仕事など全てに興味を持ってしまうんです。この執着こそがいい写真の基になっていると思います。だから私のミューズたちは友達であることが多いし、私は友達のミューズになっていることが多いと思います」

FW16 LONDON FASHION WEEK
FW16 LONDON FASHION WEEK

2016-17年秋冬のランウェイ。©Courtesy of Gucci

──今後一緒に仕事をしたいデザイナーはいますか?

「シモーネ・ロシャ。彼女、とてもクールですよね」

──カーリー・レイ・ジャプセンの曲「Boy Problems」のMV(ミュージックビデオ)のディレクションをされましたよね?

「はい! 彼女のアルバム『Emotion』がとても気に入って、毎日のように聴いていたんです。どの曲をとってもシングルにできる最高のアルバム。曲を聴いた瞬間に頭の中にビデオのイメージが浮かんだので、彼女に連絡してみたら彼女も乗ってくれて。5つのセットで撮影したのですが、とても楽しかったです。彼女が生で歌うのを聴いて感動しました! 素晴らしい才能です。あの曲はもともとシングルではなかったのですが、ビデオを作ってからチャートのトップまで上り詰めたんです!」

──またMVを制作したいですか。

「もちろんです。昔から映像は大好きで、写真を撮るときも映像を考えながら撮っています。でも、若くてあまりお金がないと映像制作はできないに等しいのが現状なんです。本当にお金がかかってしまうものなので…。写真という一つのイメージで何かを伝えようとするほうが簡単です。いつかは映画監督になりたいと思っているので、短い時間の中で音楽と合わせながらストーリーを語ることのできるMVのディレクションはいい転換ツールになるかと思っています。写真の世界とは全く違うのですごく刺激的だし、学ぶことがたくさんあります。しっかり研究して経験を積んでから映画の世界に踏み込みたいです」

──どのような映画を製作したいですか?

「ホラー。振り幅が大きいじゃないですか。なんでもありというか、自由自在に世界を創れる。考えるだけでワクワクします。女性のホラー監督というのも新しいかなと思います」

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カナダ・トロントの写真展用に、公共の場に作品が掲示され、興奮!

──新しいものに挑戦することに全く抵抗はないようですね。

「そうなんですよ。もともと写真を学んだことはなくて、14〜15歳のときに独学しました。高校の授業で写真のクラスを受講したことがあるのですが、自動露出で白黒の湿っぽい写真を撮らされたことがあって。全く面白いと思えなかったから、35mm SLRを持って友達や妹の写真を撮り始めたんです。若いときの勢いって本当にすごいですよね。ライティングやシャッタースピードのことなんて一切考えずに、カメラを持ったら写真が撮れると思ってしまうんですもの」

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カナダ・トロントのContact Galleryにて展示されている作品の一枚。

──有名なペトラ・コリンズ風のやんわり感はそうやって誕生したのですか? フォーカスの仕方がわからなかったところが発端ですか?

「そうです。自分でも何をやっているのか全然わかってなかったんです。それに私、あんまり人には言わないのですが目がすごく悪いんですね。コンタクトレンズをしていないとほぼ何も見えないくらいなんです。でも当時は目が悪いことに気づいてなくて、今になって振り返ればよく焦点を合わせることができたなと思います。ほとんどやみくもに撮っていました(笑)。私の写真の雰囲気は手探りで覚えたものの結果です。私が自分で編み出したものです」

──クリエイティブな面で新しいことに挑戦したいと思っていてもなかなか踏み込めない、という人たちにアドバイスはありますか?

「いちばん言いたいことは、自分のアイデアやヴィジョンが明確にわかるまでに時間がかかるということを覚えておいてほしいです。アイデアを形にすることは本当に難しいことだから、辛抱強く頑張り続けるしかないと思います。私は若くして写真を始めたから『絶対うまくなる。私は絶対に写真が撮れる』と自分に言い聞かせて、前に向かってただがむしゃらに続けました。成功する人としない人の差はそれだけだと思います。途中でやめてしまう人が多いなか、自分のアイディアを現実化する長い道のりを走り続ける辛抱強さのある人が残ると思いま」

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いつもインスパイアされるライアン・マッギンリーと。

人生のターニングポイントは
ライアン・マッギンレーとの旅

──フォトグラファーとして鋭敏な目を持つあなたですが、モデルとして被写体になることは難しいですか?

「実はあんまり好きじゃないんです。私はフォトグラファーだから、光、フレーム、そして自分の顔立ちをよくわかっていて、だから、なおのことコントロールできないものが苦手なので、モデルをするのは難しいです。完全に好き放題やってくれるフォトグラファーか、私に全主導権を握らせてくれるフォトグラファーと一緒にモデルとして撮影するのは楽しいのですが(笑)。カメラの前に立つのは本当に難しいことですね。常にオンの状態でいないといけないわけですし。他のことを考えたりしてはいけなくて、フォトグラファーの世界にしっかり存在していないといけないから。ただ、バレエをやっていたのでステージに立ったりパフォーマンスをするのが好きな自分もいるので、そういう意味では嫌いではないです。でもやっぱりカメラの裏側が好きですね」

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99%エンジェル(笑)。キャラクターに扮してポージング!

──ライアン・マッギンレーとの作品があなたをモデルとして確立させましたね。

「自分のことをモデルだと思ったことはないのですが、ライアンと一緒に働いていたときは被写体になることが多かったです。4年くらい前にライアンと他のモデル3人とともにNYからテキサスまで車で行ったことがあったのですが、人生で最も楽しかった旅かもしれないです。本当に自由になれた気がしました。ライアンに撮ってもらっているときの私はムーブメントでしかないんです。裸で、全力で、でも全く性的ではなくて。自分の体の動かし方を学べるんです。私たちがいつもマジックアワーと呼んでいた朝5時から13時まで、そして夕方4時から夜の22時まで1日2回、撮影していました。飛んだり跳ねたり、くぐったりと常に全身全霊で挑むので、旅の終わりにはあちこち傷だらけで、足の裏はマメだらけでした。どんなところでも裸で裸足で歩き回れた自分にすごく生気を感じたし、最高でした。本当に写真どおりの気分でした」

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バレリーナ!? ずっとバレエを習っていたの。

──それがボディイメージのターニングポイントになったということですか?

「大きな変化でした。10代の頃の私はバレエダンサーで、自分の体に対してすごく厳しかったんです。その上けがで辞めなければいけなくなってしまい、自分の魂と体がどんどん引き剥がされていくような気がして苦しかったんです。だから体を張って挑むライアンとの撮影の旅は私をその苦しみから解き放ってくれました。裸を撮影されているのに、自分がどう写っているかなんて全く気にできない空間なんです。人生を変えてくれました」

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去年、Numéro TOKYO 100号記念イベントに!

──あなたのファンにはクールで生き生きしている若い女性が多いですね。女性アーティストとして良かったと思う点は?

「昔に比べて女性アーティストというものが希少な存在ではなくなったので、少しは改善はしているのではないかと思います。でもやっぱり男性より少ないし、成功率も低いので、私の活動を見てショックを受ける人が少なくないことにイライラします。女性であるという理由だけで男性の何倍も頑張らなければいけないし、現場では私の声を聞かない人もいます。一番カチンとくるのは、男性スタッフと一緒に一日中現場で仕事をしたあとに『今日はとてもよく頑張ったね。よかったよ』と、まるで私が小さい子どもであるかのように褒めるときです。男性は絶対そんなことを言われないんです。男性は仕事ができて当たり前だから。でも若い女性が現場の指揮を執ることはやっぱり物珍しいみたいです。できて当たり前でしょ! 私は仕事をしに来ているんだから!って思います」

──男性アーティストは女性アーティストと違ってカルト的な人気や大きなファンベースがないように思いますが、どうでしょう?

「そうですね。こういう大きな女性ファンベースがいてくれることには本当に感謝しています。SNSのいちばん好きなところです。ここ10年くらいでとても強くてポジティブなものになっていると思います。今となっては欠かせないくらい大切な人たちと出会わせてくれたのもSNSですし、コラボレーションを実現してくれたこともあります。心のつながる人が自分の周りにいなくてもインターネット上では見つけられるって素晴らしいことだと思います」

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地球で最高の場所。日本に滞在しているときの写真。

──あなたの作品ではフェミニズムが中心的に取り上げられていますね。また、TV番組『Transparent』にも出演していました。今後、作品で取り上げたいと思っているメッセージはありますか?

「自分が白人の女性であることを忘れないようにしています。つまり、私では語りきれない問題がたくさんあるのです。さまざまな視点から写真を撮るようにはしていますが、私の作品ではカバーしきれない問題がこの世にはたくさんあります。私は大学で評論とキュレーションを専攻していたので、こういうことを考えるのは好きなのですが、自分で発信できるものと私の口からは語れないものの境界線はしっかり定めています。自分が体験していないことを語っても説得力がないし、しょせん私が身をもって体験したものでないと表現しきれないと思うからです。私ができる最大限のことはいろいろな体験談や意見を持った人にそれを発信する場をつくってあげることです。私が数年前に出版した『Babe』はそういう意図で制作しました。展覧会をするときはなるべく他のアーティストにも声をかけて、一緒に発表しないかと誘っています。今後は特にそういうところに力を入れたいと思っています。自分が挑発的なアーティストになっているからって、それに拍車をかけるのではなく、他のアーティストが自らの意見を発信しやすい環境をつくりたいです。もちろん私の作品には政治的な主張が絡んでいますが、それが素直であればあるほど、他の人も入れるくらいに扉は開くのではないかと思います」

ただいま発売中の「ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)」2017年9月号では、これからの活躍が期待される女優マッケージー・フォイをモデルに、表紙とカバーストーリーを撮影し、今度はカメラマンとして登場してくれた。

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Photo : Frederic Auerbach Fashion Editor : Zara Mirkin Makeup : Linda Gradin at L'Atelier NY
Interview : Jen Monroe Translation : Nina Utashiro Edit : Maki Saito Fashion Assistant : Amber Simiriglia

Profile

Petra Colins(ペトラ・コリンズ) 1992年12月21日生まれ、カナダ・トロント出身。現在はNYを拠点にフォトグラファー、モデル、キュレーターとして活躍中。2008 〜14年の作品をまとめた写真集『Discharge』を2015年に発売。今年4月に、カナダ・トロントにあるCONTACT galleryにて写真展を開催。現在は今年の秋に向けて写真集を制作中。

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