映画『ファッション・リイマジン』エイミー・パウニーに聞く、持続可能なファッションの未来 | Numero TOKYO
Interview / Post

映画『ファッション・リイマジン』エイミー・パウニーに聞く、持続可能なファッションの未来

石油業界に続き、世界第2位の環境汚染産業で知られるファッション産業。環境に与えるダメージの大きさは、常に問題視されてきた。英国発のブランド「Mother of Pearl(マザー・オブ・パール)」のデザイナー、エイミー・パウニーは、優秀な新進気鋭のデザイナーに贈られる「ヴォーグ デザイナー・ファッション・ファンド」を受賞して得た10万ポンド(約1,800万円)を元手に、ブランドをサステナブルに変革することを決意する。それは、立ちはだかる業界の常識に抗い、素材の問題解決のために地球の裏側まで足を運び、さらに彼女自身のルーツを遡る、壮大な旅路の幕開けだった。

衣服の5分の3が、購入したその年に捨てられる。そのゴミは途上国に放置され、生分解できない化学繊維は毒ガスを発し続けている。他にも、大量生産大量消費の影響で、莫大なエネルギーを使って排出したCo2で地球は温暖化していく。安価な製品開発のために行われる、資源の搾取や児童労働も見過ごせない大きな問題だ。本作『ファッション・リイマジン』では、ファッション業界の悲惨な実情を、エイミーの挑戦とパーソナリティに迫りながら紐解き、私たちができることについて問う。作品を撮影開始してから5年後、あらためてエイミー本人に話を訊いた。

自分で変化を起こしておこして前進するしかない

──デザイナーとしての葛藤とともに、個人的な生い立ちについても語っています。躊躇はなかったのでしょうか。

「オープンな性格なので、特に迷いはありませんでした。映画の力は、人々に私の考え方やファッション業界の実態を観て、知ってもらえること。私の人生を大いに語り、共感してもらうことで、物語がよりエモーショナルになり、皆さんにファッションが抱える問題と強いつながりを感じてもらえると思います」

──サステナブルなファッションブランドを最初に目指したきっかけは、何でしたか?

「2015年頃、多くのブランドが小売業者が求めるより多くの製品を生産し、産業全体のスピードがどんどん加速していきました。これは間違っていると思い、問題について調べ、気候変動と感染症の問題を知りました。また、会社が経済成長するに伴い、環境問題に与える負の影響力も大きくなることを実感しました。それまでは、小さな会社にも十分インパクトがあると思っていませんでした。一つの会社の問題が、産業全体に起こっている。大きな不安を感じたんです。それを知った上でファッション業界で働き続けるには、業界から離れるか、自分で変化を起こすしかありません。後者を選び、仕事で信念に反することせず、問題に向き合い、解決の糸口を考えて前進していこうと決心しました」

──ハイファッションとサステナビリティの両立を、成功させられた理由は?

「大きく生い立ちが関係しています。まず、幼い頃からファッションやクリエイティブなことに興味があました。装いや見た目に対する強い欲望と情熱もあったんです。その一方で、幼少期を過ごしたオフグリットな農村から、自然について多くのことを学びました。その結果、2つの価値観を組み合わせるというユニークな発想を持つことができたんです。つまり倫理的な視点と同時に真逆の視点を持っている訳です。でも、ファッション業界の多くの人は、私のような子ども時代を過ごしていません。それもあって、彼らにとっては、サステナビリティの問題は私ほど明確ではないのかもしれません」

──限られた条件下で、製品のクオリティを保ち続けられる理由は?

「作中で製品のビジョンについて語っているので、是非ご覧いただきたいのですが、素材の開発が進んだことが大きいです。素材については、インフェルノグループのテクノロジーとイノベーションの観点から、納得がいく持続可能な生地を作ることができました。2017年のことです。当時はテンセルを衣料に使用することも、1つの前進でした。つまり、私たちは以前より多くの持続可能な生地を購入できる有利な立場にあるのです」

──撮影をした時期から数年経っていますが、あなたがいま注目しているイシューは?

「この映画を公開して以降、サステナブルなファッションについてよく話題に上がるようになりました。ファッション性や売上など、当時より変化が見られます。 でも、私たちがサステナビリティついてどれだけ会話をしても、目の前にある環境問題の惨状に変化はありません。私たちが深く理解しなくてはならないのは、このトピックを中心に多くのマーケティングが行われているということ。実際に、サプライチェーンにおけるいい変化は起こっていないことです。私たちは会話をするだけでなく、もっとアクションを起こす必要があります。そのためにも、ブランドには説明責任を課し、トレーサビリティについての法律が必要だと思っています」

──行き詰まっでも、別の視点でソリューションを探す姿が印象的です。物事を判断する上で、大切にしていることは?

「クリエイテイブでありながら、論理の範囲内であることを大切にしてます。建築家の思考に近いかもしれません。それから『なぜ私がそれをやっているのか?』そして『それを行うより良い方法、ここでできる最良のバージョンは何か』と自分に問うようにしています。
あとは服作りの考え方。現在でも、理想とする服作りを望む場所や国で行う方法を見つけられずにいます。 私たちは条件に見合ったものをスクラップして次の行程に進み、ときに別のより良い方法を探し見つけています。人は多くの条件下だと自分自身を箱の中に入れてしまうわけですが、それはルービックキューブのようなもの。ある意味、実行できることが非常に多くなるため、より創造性が必要となります。困難ですが、とてもやりがいがあるんです」

──信念のもとクリエーションを続けるには、チームにも相当な忍耐が求められるはずです。どのようにチームを束ねていますか?

「私はスタッフを管理しません。毎日、彼らにいつどこで働くかを選択する自由を与えています。もちろん、時に成果物を要求しますが、彼らにはるかに多くのものを与えると思うので、自主性を持って仕事に取り組んでくれることを望んでいます。スタッフから、仕事に対する情熱や会社とのつながりを強く感じていると聞いたこともあります。そして、自分が気候変動に対する変化の一部だと感じられれば、おのずと自己肯定感も上がっていく。 朝起きて環境問題に直面したときの辛いメンタルヘルスの観点から大切だと思っています」

──キャサリン・ハムレットに早くから思いを寄せていますが、彼女から一番影響されたことは?

「正直に行動することです。何があっても立ち上がって、自分が信じていることを言葉にして伝えること。 それが彼女の最も強い部分だと思います」

──イギリスには、あなたを始め、環境への配慮するデザイナーが多いと思います。その理由は何だと思いますか?

「そう感じる人は多くいますが、同意しません。あるサステナブルを提唱するブランドは、自分たちは環境負荷への軽減に努力し、ブランドとしてもうまく回っていると思っていますが、完全に問題を理解し解決への行動を取っているでしょうか。持続可能であることは、誰かがするのではなく人々が行動し続けなくてはなりません。 例えば、会議で私たちの会社はもっとサステナブルになる必要があると議論するとします。もう少しだけ環境に優しい生地を使おうというアイディアがあがり、実際にアプローチするでしょう。でも、それはほんの小さな穴を埋めるだけの行動で、問題自体は解決しません。大切なのは、自分たちの活動ルートに本質的な持続可能性を根付かせていくこと。それを実行するブランドは多くありません。とあるクリエイティブディレクター兼CEOは、サステナビリティが大きな利益をもたらすと信じています。彼らは『どうすればシステムを変えることができるか』ではなく『現状でお金が儲かるから変えられない』と考えています。間違った哲学と成功の形を変えないといけません」

──いま取り組んでいるプロジェクト、今後挑戦したいことは?

「一部の損得や成長だけでなく、私たちは私生活やビジネスにおいても、それが何であれ、人間として何を受け止めているのかを考えなければならないと思います。そして、日々何を摂取し、どういった行程で製造されているかを知ること。損得という1つの直線的な考え方から、循環的な方法へ変化していくことが大切です。 ずっと、私が見つけた服作りの方法を多くの人が見られて真似できるビジネスモデルを作りたいと思っています。それを人々に共有して、広まっていったら最高ですね。これが次なる私の挑戦だと思います」

──今後、ファッション業界を目指す若者にアドバイスをお願いします。

「是非、ファッション業界に入ってきてください。フレッシュな感性と知性で、問題の一部ではなく解決策の一部を担ってください。私がこの業界を目指したのは、何かを作りたいと思い、そしてテクノロジー関連の取引とファッションに情熱を持っていたから。もしかしたら、あなたはショッピング好きで、本当にファッションに興味を持っている訳ではないかもしれません。本当にファッションを愛するならば、これまで行われてきたことや負の連鎖を改めて、新たな道を作っていく必要があるのではないでしょうか」

『ファッション・リイマジン』

出演/エイミー・パウニー(Mother Of Pearl デザイナー)、クロエ・マークス、ペドロ・オテギ
監督/ベッキー・ハトナー
2022年/イギリス/英語/カラー/ビスタ/100分/⽇本語字幕︓古⽥由紀⼦/原題︓Fashion Reimagined
© 2022 Fashion Reimagined Ltd
9⽉22⽇(⾦) ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
https://www.flag-pictures.co.jp/fashion-reimagine/

Interview & Text: Aika Kawada Edit: Chiho Inoue

Profile

エイミー・パウニーAmy Powney 1985年英国生まれ。10歳の頃から、英国ランカシャーにある、電気やガスなどのインフラがない農場で、妹と両親とともに育つ。2002年、キングストン大学に入学しファッション・デザインを専攻。卒業後は「マザー・オブ・パール」にアシスタントとして入社。スタジオ マネージャーに昇進し、15年にクリエイティブ・ディレクターに就任する。17年、「ヴォーグ デザイナー・ファッション・ファンド」を受賞し、その賞金でサステナブルなライン“ノーフリル(NO FRILL)”を立ち上げる。コレクションは、ロンドン ファッション ウィークやコペンハーゲン ファッション ウィークで発表された。

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