グザヴィエ・ドラン インタビュー「自分を大切にしない人にはなりたくない」 | Numero TOKYO
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グザヴィエ・ドラン インタビュー「自分を大切にしない人にはなりたくない」

グザヴィエ・ドラン 『ロリエ・ゴドローと、あの夜のこと』より
グザヴィエ・ドラン 『ロリエ・ゴドローと、あの夜のこと』より

2009年、19歳で発表した長編監督デビュー作『マイ・マザー』がカンヌ国際映画祭監督週間で上映されて以来、2014年に『Mommy/マミー』で審査員賞、2016年には『たかが世界の終わり』でグランプリを受賞するなど高い評価を受けているグザヴィエ・ドラン。テレビドラマの監督初挑戦作で出演もしている『ロリエ・ゴドローと、あの夜のこと』が配信されるにあたって、出身地であるカナダ・ケベックにいる彼から話を聞いた。

テレビドラマでキャラクターを書くことには、映画とはまた違う面白さがある

──『ロリエ・ゴドローと、あの夜のこと』は、すごく痛いものと対面させられると同時に、癒やしを与えてくれるようなTVドラマでしたね。

「私たちは観てくれる人たちにそう感じてくれることを望んでいたので、そう言ってもらえてうれしいです」

──今回、初めて、映画よりもエピソード数の多いTVドラマの脚本、監督を務められて、どのような部分に表現の自由を感じましたか?

「TVドラマはすべてが速く進むように思えるけれど、その分、エピソードにかけられる時間も長くなるから、それが面白いんですよね。すべてのシーンで異なるペースが必要だし、リズムがとても明確なので、より効率的にストーリーテリングを行わなくてはいけない。一方で、沈黙のシーンや、あるキャラクターにとって、とても個人的なシーンを描くこともできるなと。突然、前半では脇役だった人物の心情にフォーカスしたりとかね」

──確かに、回を追うごとに、キャラクターの真意を推測するわけですけど、観ている側のバイアスが剥がれてきて、それぞれに対する印象が段々と変わっていきますよね。

「ラルーシュ家の長男のジュリアンのパートナーであり、姉弟にとっては義理の姉にあたる、シャンタルはとてもおしゃべりで、気が強く、激しいキャラですよね。エピソード3の最後に、表向きはサプライズだけど、実は、彼女自身が計画している誕生日パーティーの場面で、彼女が店に入って、まだゲストが誰も到着していない会場を見渡す。店員たちが掃除機をかけたり準備をしている中で、彼女は自分の名前が綴られた飾りを眺めて、ただテーブルに座ってサラダを食べる……、というシーン。彼女が黙っているのは、このときが初めてなんですよね。映画だったとしたら、ここは要らないからカットするように、と言われる最初のシーンだと思うんです。でも、僕にとっては突然、彼女にまつわる最も興味深いシーンの一つになりました。この役がおしゃべりであるのが嫌なわけじゃなくて、彼女は素晴らしいんだけれど、キャラクターが一人きりになっているのを見ることが好きなんですよね」

──確かに。長男の妻としてではなく、彼女だけの時間が流れていましたね。

「そうなんです。このような小さな瞬間が、キャラクターにとって有益な表現になるんだと思います。キャラクターを書くことについては、映画とはまた違う面白さがあるなと。一つの情報からだけでなく、彼らと一緒に、彼らが何者であるかについて、より暗い、深い、あるいはただ静かな何かを知ることができるということは、僕にとってすごく意味があり、興味深い経験でした」

──ラルーシュ家に30年ぶりに帰ってくる長女ミミ演じたジュリー・ルブレトンが、「セットに入った瞬間、ドランの魔法がかかる」とあなたとの撮影について語っているのを見たのですが、どんなことが行われているのか、ヒントをいただければと。

「自分ではわからないので、彼女に聞いてもらえたらと思うんですが(笑)、関わる人すべてが喜びと情熱の中で創造し、ストーリーテリングという芸術の開かれた場に駆り立てられ、ちゃんとやりたいと思っている。だから、自分自身に多くの質問をするし、すべての選択においてそれを繰り返します。でも、それは軽やかに行われているんです。セットでは常に音楽が流れていて、みんな楽しくてよく笑うんですが、それは、真面目にやってないわけでも、自分自身を真剣に受け止めていないわけでもない。自分たちがやっていることを愛していて、理解しているんですよね。ジュリー・ルブレトンは、並外れた役者だから、彼女が“マジック”と言っているのは、あくまであらゆる部門の全員が関わっていて、楽しんでいて、みんながそこに自分の居場所があると感じている、ということなのだと思います」

──異なる人たちが集まって仕事するうえで、一番大事なことですよね。

「僕も、みんながお互いの仕事を認め合える、そんな場所にしたいと思うんですよね。そして、撮影の後に映像を観ると、みんなが笑顔になっている。そんなときこそ一人ひとりが力を発揮できていると感じる。魔法はそこから生まれるのだと思います。自分たちの仕事に満足しているから、というわけじゃなくて、失敗することもあるんです。ただ、すべてを出し切ったということなんじゃないですかね」

監督としての新作は、あまり期待しないでいてほしい

──ドランさんは、人間ドラマ以外のジャンル映画を撮る準備がなかなかできなかったそうですが、本作は本格的なスリラーでしたね。ジャンル作品を撮ることについては、どんな考えがありますか?

「スリラーは大好きなジャンルで、この作品は自分にとっても、スリラーなんですよね。もちろん家族ドラマでもあるし、兄弟、姉弟ドラマでもあるんだけれど。その中には、スリラーという大きな概念があって。これまで個人的に知っているものにフォーカスすることを好んできたのは事実ですけど、だからといって、常にパーソナルな物語を書いてきたわけではないんです。もし、エイリアンの侵略についての映画を作るように頼まれたら、やってみたいと思うかもしれないし」

──そのあたりはオープンなんですね。

「まあ、オープンなんだけどね……。実は、もう監督をやりたいとは思っていなくて。観る側としては、あらゆるジャンルの映画が大好きなんだけど。それをいつか監督することに関しては、もうオープンではないかもしれない……。今は、とても、とても長い休みを取っているような気がしているんです」

──そうだったんですね。監督業から離れたいと思うようになった理由は、20代前半に、世界を変えたいという願望とともにハイペースで映画を生み出されていたことが関係しているんでしょうか。このドラマも、2018年に撮影をした『マティアス&マキシム』以来の作品でしたもんね。

「そうですね。自分の人生の大きな部分を捧げてきてしまったという感覚があるんです。自分の撮ってきた作品たちを愛しているし、とても誇りを持っています。そのうちのいくつかの評判はいまいちかもしれないけどね(笑)。ただ、今は全く新しいことに挑戦したくて。自分を大切にしない人になりたくないなと思って。これまで『映画を作らなければいけない!』と感じたことはないんです。たぶん毎年、少なくとも2年に1本は映画を撮ってきたのは、語るべきストーリーがあったからです」

──もう、語るべきストーリーがないというわけではない?

「言いたいことがなくなったわけじゃないんだけど、もう前みたいに映画で語ろうという気持ちにはなれなくて。つまり、誰かの物語を伝えることはできるかもしれない、とは感じています。ただ、映画製作のプロセスに駆り立てられることも、引き寄せられることも、もうないんですよね。撮影した後に編集して、ポストプロダクションを経て、完成したら映画祭に行き、映画を宣伝するために世界各国でツアーをすることを繰り返してきました。人々に見てもらうためなわけだけれど、そういうことを話したいのかわからなくなったんです。こうして、みなさんと話せるのはうれしいんですけど、今はただ、全く別のところで自分を試してみたくて。今、34歳になりますけど、私たちが住む世界はとてつもないスピードで変化していますよね。それを楽しみたいし、今の私にとって世界を楽しむことが、映画を作ることよりも、酸素を取り込めることなんです。だから、監督としての新作はあまり期待しないでいてもらえたら(笑)」

友人の存在が大きな助けになっている

グザヴィエ・ドラン
グザヴィエ・ドラン

──俳優としてのグザヴィエ・ドランさんは、引き続き観ることができるのでしょうか?

「演技はしたいと思ってます。役者の仕事を依頼されるのは好きなので」

──先ほど、自分を大切にしない人になりたくない、という話をされていましたが、心の平穏や安定した感情を保つために、意識していることはありますか?

「友達が助けてくれています。友達と一緒にいることで、平和と安定を感じられる。一人でいることが苦手だから(笑)。話ができるのもありがたいし、何もしなくても、そこにいてくれているだけでいいんだよね。部屋に誰かがいるというだけで。たまに一緒に映画を観たり、泊まりに来てくれたり、それが心地いいんです。20代、映画を作る過程で出会った友人たちは私の人生を本当に変えてくれました。そして、とても孤立していたコロナ禍やパンデミックから生還することを助けてくました。家族も、もちろん大事ですけどね。友人たちはもう、家族のような存在なので」

──ドランさんはかなりのドラマフリークでもあるそうで、マイク・ホワイト脚本・監督の『ホワイト・ロータス / 諸事情だらけのリゾートホテル』シリーズも楽しまれたそうですが、彼の作品のどんなところに惹かれたのでしょうか? 

「マイク・ホワイトの作品が好きな理由は僕自身が、この世界の現実の社会で、もはや対話の余地がなくなっていると感じているからですね。そんな中、考え方というスペクトルの一方の端にはいても、彼は、右も左もなく、正しいか間違っているかもなく、何か特定の立場を擁護するわけではない。ただ、明らかに有害な存在の表面にあるものをすべて見せつつ、彼らに尊厳と知的価値を取り戻すチャンスを与えていると思うんです。彼は悪いことをしたとしても人間には贖罪するチャンスがあり、成長し、進歩し、考え方を変えることができ、誰にでもチャンスがあると信じていて、登場人物の一人ひとりが、人間として価値ある存在であると描いている。そしてある意味、それは正しいなと。個人の意見でジャッジするのではなく、人の欠点や法律やトラウマで判断することは。優れた人格や人間も、複雑で矛盾していることを理解している。ひどいことを言っても、最低な人間だということにはならない。そのようなキャラクターへのアプローチの仕方が、大好きですね」

──もし、出演する機会があったら、どんな役をやりたいですか?

「もちろん、ホワイト・ロータスにやって来る、堪え性のない愚かなゲストの一人に決まってます(笑)」

『ロリエ・ゴドローと、あの夜のこと』

(全5話) 

1991年、ケベック州の郊外。ラルーシュ家の母マド(アンヌ・ドルヴァル)が危篤という連絡を受け、約30年前に町を離れた長女のミレイユことミミ(ジュリー・ルブレトン)が帰郷。長男のジュリアン(パトリック・イヴォン)とパートナーのシャンタル(マガリ・レピーヌ・ブロンドー)、次男のドゥニ(エリック・ブルノー)、ドラッグのリハビリ施設から出所したばかりの末っ子のエリオット(グザヴィエ・ドラン)ら家族が集まることに。そして、マドが残した予想外の遺言が引き金となり、“あの夜”に葬り去られていた嘘と秘密が明らかになる──。

監督・脚本・製作/グザヴィエ・ドラン
出演/ジュリー・ルブレトン、パトリック・イヴォン、エリック・ブルノー、マガリ・レピーヌ・ブロンドー、グザヴィエ・ドラン、アンヌ・ドルヴァル

スターチャンネルEX<字幕版>全話独占配信中
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0B8NYY698

© Fred Gervais

Interview & Text:Tomoko Ogawa Edit:Sayaka Ito

Profile

グザヴィエ・ドラン Xavier Dolan    1989年3月20日生まれ。カナダ・ケベック州出身。子どもの頃から映画やドラマに出演し、19歳で発表した『マイ・マザー』(2009年)で監督デビュー。同作はカンヌ国際映画祭監督週間で上映され、三冠を獲得。続く『胸騒ぎの恋人』(2010年)は同映画祭にて若者の視点賞を受賞。『わたしはロランス』(2012年)は同映画祭にてクィア・パルム賞を受賞。『トム・アット・ザ・ファーム』(2013年)でヴェネツィア国際映画祭にて国際映画批評家連盟賞を受賞。2014年の『Mommy/マミー』はカンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞、2016年の『たかが世界の終わり』は同映画祭にてグランプリを受賞。特にカンヌ国際映画祭で評価の高いことから“カンヌの申し子”という異名を持つ。俳優としても活躍を続け、出演映画『幻滅』(2021年)が公開中。

Photo:© Shayne Laverdière

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