松岡茉優インタビュー「明日が来るのが嫌な人に作品を届けていきたい」 | Numero TOKYO
Interview / Post

松岡茉優インタビュー「明日が来るのが嫌な人に作品を届けていきたい」

ドラマ『アンナチュラル』『MIU404』、映画『罪の声』など、話題の社会派エンターテインメントを数多く手がけてきた脚本家の野木亜紀子が沖縄のあらゆる問題に真正面から挑んだWOWOW『連続ドラマW フェンス』。アフリカ系アメリカにルーツを持つ俳優、モデルの宮本エリアナとともにW主演を務める松岡茉優に出演への思いを聞いた。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2023年4月号掲載) 

トップ¥44,000 ワンピース¥79,200/ともに08sircus(08ブック) リング¥49,500(右小指) リング(左人差し指)¥9,350/ともにSoierie(ソワリー) シューズ¥64,900/Nebuloni E.(フラッパーズ)
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──まずは出演の打診を受けての率直な感想を教えてください。

「野木さんの脚本作品は視聴者としていつも楽しく、時には身につまされながら拝見していました。本作は沖縄を取り巻く事情や、沖縄が背負っているものを描いた作品です。頂いた企画書には制作陣のいろいろな思いや覚悟が込められていて、私も挑むからには覚悟して精一杯やりたいと思いました」

──松岡さんは沖縄で起きた性的暴行事件の真相を追う〝キー〟という役を演じています。何か役作りとしてされたことはありますか。

「役が話すことが、すわなち物語になっていく。今回私は主演を任せていただきました。視聴者の皆さんもキーの目線で見てくださる以上、表情はもちろん、一つ一つの台詞の伝わり方まで意識しないと意味合いが変わってしまう可能性があると思いました。そこでプロデューサーの方々に、本作を作る上で勉強された資料があったら拝見したいとお願いし、本のリストとDVDを頂きました。映像は見たくても手に入らない過去の報道や紀行番組のアーカイブだったので、ありがたかったです。また、私の役は夜職に従事していた設定でもあったので、もともとキャバクラで働いていた方のエッセイや、セックスワーカーの現状が書かれたノンフィクションなども読みました」

──では、沖縄の少女たちの現状を記した上間陽子さんの著作なども?

「実はオファーを頂いたのがちょうど上間さんの『海をあげる』を読んでいる最中だったんです。『裸足で逃げる』も過去に読んでいて、そのタイミングでのお話だったので余計に、私はこのテーマから逃げてはいけないのだろうなと感じました」

──役について野木さんから何かアドバイスはありましたか。
「クランクイン前に野木さんとお話をする機会があったのですが、そのときに『キーは鍵だから』とお話いただきました。沖縄で起こっているさまざまな問題をつなぐ鍵であるということだと感じたので、常にそれを心がけるようにして演じていました」

 

沖縄の人たちが見ていて傷つかない作品を目指す

──本作は沖縄で撮影をされています。普天間やコザなど具体的な場所がそのまま舞台として登場しますが、訪れた印象はどうでしたか。

「撮影中、滞在していたのは北谷(ちゃたん)でした。北谷は誰もが楽しめる施設がたくさんあって、とても華やかな雰囲気がありました。一方で、普天間の近くで撮影をすると、常に航空機や演習の音が聞こえていました。あと、クランクインが辺野古基地建設予定地の近くの海辺だったんです。すごくきれいな海でした。でも、その海には立入禁止範囲を示すブイが設置されていて。知識としては知っていましたが、いざ目の前にすると今まで感じていたのとは別の気持ちが湧いてきました。東京出身の私がこうなのであれば、実際に沖縄に住まわれている方々の思いはもっと複雑だと想像します。それを思うと『現地』での撮影はやはり必須だったと感じました」

──地元の方とお話はされましたか。

「住宅街などで撮影をしていると、住んでいる方々がふらっといらっしゃって『なに撮ってるの?』『頑張ってね』とよくお声をかけていただきました。そのたびに、この方たちが見たときに傷つかない、苦しくならない作品にしなくてはいけないという覚悟をあらためて抱きました」


──台詞には沖縄の豊かな精神性を表す言葉もたくさん出てきますね。

「そこからも沖縄に寄り添う思いが伝わってきました。私の子ども時代はちょうど『涙そうそう』がヒットした頃なので、『なんくるないさー』などの言葉は昔から知っていました。しかし、それらは沖縄の方々の思いが乗っている言葉だから、私が簡単に使うことはきっとできないという思いもどこかでありました。だからこそ、作中で取り扱われる際も、丁寧に受け取らなければいけないと思っていました」

──本作に参加され、なにかご自身に変化はありましたか。
「今までは本や映像などで勉強しても、どこか距離の遠い話でした。しかし実際に沖縄の方々とお話をし、海を見て、キーを演じて。これは私たちのこれからの問題でもあると感じました。本作を見ることで、沖縄が背負うものを自分ごととして捉えてもらうきっかけになったら、と思います」

明日が来るのが嫌な人に作品を届けていきたい


──今年はデビュー20周年ですね、おめでとうございます。この節目にチャレンジしたいことやこれからの目標があれば教えてください。

「応援してくださる方に向けて、何らかの形で感謝の思いを伝える機会があればいいなと思っています。私がずっと意識してきたのは、明日が来るのが嫌な人、明日を迎えるのが難しい人に作品を届けること。例えばドラマであれば、次の週の放送まで楽しみだから頑張ろうと思ってもらえるような。私も実際に、それに救われていたんです。だからエンタメに関わる以上、しんどい、きついと思っている人がちょっとでも前をてくれるような作品に携われたらと思っています。エンタメにはその力があると信じています。だから、今年だけでなくずっとの目標ですが、さまざまな作品でお返ししていきたいです」

──小誌ウェブサイトでは松岡さんによるエッセイの連載も始まります。

「毎日書いてはいるのですが、読み返しては消してを繰り返す日々を送っています(笑)。ただ、迷ったときこそ初心に戻ってシンプルに書こうと心がけていて。奇をてらわず、わかっているふうなことを言わず、私が感じたことをそのままに書こうと思います。例えば日常の暮らしでの気づきや、時には『こう感じたよ』とお伝えしたり。噓なく、カッコつけずに書いていきたいです」

『連続ドラマW フェンス』


雑誌ライターのキーこと小松綺絵(松岡茉優)は米兵による性的暴行事件の被害を訴えるブラックミックスの女性・大嶺桜(宮本エリアナ)を取材するために沖縄へ向かう。桜の供述には不審な点があり、事件の背景を探る必要があったのだ。やがて、沖縄の事情が複雑に絡み合った“ある真相”にたどり着く。

出演:松岡茉優、宮本エリアナ、青木崇高、與那城奨(JO1)、比嘉奈菜子、佐久本宝、ド・ランクザン望、松田るか、ニッキー、新垣結衣(特別出演)、Reina、ダンテ・カーヴァー、志ぃさー、吉田妙子、光石研 ほか
脚本:野木亜紀子
監督:松本佳奈
音楽プロデューサー:岩崎太整
音楽:邦子 HARIKUYAMAKU 諸見里修 Leofeel 主題歌:Awich「TSUBASA feat. Yomi Jah」(UNIVERSAL J)
プロデューサー:高江洲義貴 北野拓
製作:WOWOW、NHKエンタープライズ
WOWOWにて3月19日(日)午後10時 放送・配信スタート。
URL/www.wowow.co.jp/drama/original/fence/

\特別コメント/
脚本家・野木亜紀子が語る、女優・松岡茉優の魅力

「女を嘆きながら女として闘わざるを得ない、文字通り『key』となる役柄を演じられるのは松岡茉優しかいなかった。撮り上がったフィルムを見て、いっそう強くそう感じました。瞳の奥に仄見える闘争心と危うさを慎重に織り込みながら全身で表現された『小松綺絵』は、これまで慎重に隠されてきた松岡茉優のもう一つの顔だ。彼女は確かにkeyとして、今ここから続く地面に立ち、息をしていた。あと幾つの顔を隠しているのか、つかめそうでつかめない底なしの実力が、演じる人物に奥行きと魅力を与える。稀有な役者さんです」

Photo:Ayako Masunaga Styling:Miku Ikeda Hair & Makeup:Juri Nakanishi Interview & Text:Daisuke Watanuki Edit:Mariko Kimbara

Profile

松岡茉優Mayu Matsuoka 1995年、東京都生まれ。2013年、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』に出演し、一躍名を馳せる。16年に映画『ちはやふる 下の句』、『猫なんかよんでもこない。』で第8回TAMA映画賞 最優秀新進女優賞を受賞し、期待の若手俳優として注目を集める。18年、第42回日本アカデミー賞にて『勝手にふるえてろ』で優秀主演女優賞に、『万引き家族』で優秀助演女優賞に輝く。19年に『蜜蜂と遠雷』で、20年に『騙し絵の牙』でも同賞優秀主演女優賞を獲得。近年の出演作にテレビドラマ『初恋の悪魔』(日テレ系)、映画『スクロール』、『連続ドラマW フェンス』、Netflixシリーズ『舞妓さんちのまかないさん』ほか。23年で芸能生活20周年を迎え、記念企画としてNumero.jpでエッセイ連載「考えても 考えても」をスタート。

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