チャーチズにインタビュー「恐怖体験をクリエイティブなものに昇華できた」 | Numero TOKYO
Interview / Post

チャーチズにインタビュー「恐怖体験をクリエイティブなものに昇華できた」

2011年にグラスゴーで結成。キャッチーなメロディを宿したエレクトロポップが評判を呼び、レーベルと契約前にネットを中心に人気を獲得したバンド、チャーチズ。世界的なパンデミックを経て、23年1月に約3年半ぶりに来日公演が行われた。ホラー映画をテーマにした最新アルバム『Screen Violence』における、ダークでゴシックな世界観をサウンドとヴィジュアルで描いた新しいチャーチズの姿に、来日を待ちわびていたオーディエンスは熱狂した。その東京公演前日に行われたインタビューで、来日公演への想い、『Screen Violence』におけるバンドの変化、女性アーティストを取り巻く環境の変化などを聞いた。

“脂が乗った状態”で迎えた来日公演

ローレン・メイベリー(Vo)
ローレン・メイベリー(Vo)

──2018年にはフジロック・フェスティバルのホワイトステージのヘッドライナーを務められましたね。特に印象に残っていることは?

イアン・クック「ライブ会場に行くまでの山道が、標高が上がっていけば行くほど景色が美しくなっていったことを特に覚えてますね」

マーティン・ドハーティ「ステージの舞台袖にスクリーンがあって会場の様子が見えていたんですが、ホワイトステージに入場制限がかかるくらいオーディエンスが増えていって、それを見て緊張したことが印象に残っています」

──久々の来日公演に対して、どんなことを考えていますか?

ローレン・メイベリー「いつ日本に行けるかわからない状況を経て、ようやくライブができるのは本当に嬉しいです。『Screen Violence』をリリースしてから結構時間が経ってしまいましたが、あのアルバムの曲をみんなで披露できるのが楽しみ。オンラインでファンと交流はあったものの、面と向かって会えるのが感無量です」

マーティン「『Screen Violence』の曲がライブにおいて脂が乗った状態で日本でライブができることが一番楽しみです。日本のファンがライブで新曲を聴くには理想的なタイミングでのライブなんじゃないでしょうか」

イアン「アルバムを出してからいろんな国でライブをしてきました。明日のライブには、昔からのファンも来てくれるだろうし、新たなファンも来てくれると思うのが楽しみですね」

イアン・クック(Key,B,Vo)
イアン・クック(Key,B,Vo)

──『Screen Violence』はギターサウンドが印象的な曲も複数ありました。それは、アルバムの方向性にどんな影響を与えたと思いますか?

マーティン「コロナ禍でいろいろな楽器や機材を使って実験をしました。例えば、エフェクターやペダルにおける試行錯誤が、自然とアルバムの音に出たんだと思っています。もともとバンドのルーツにギターサウンドがあったことも大きいと思います」

イアン「チャーチズはエレクトロポップやインディーポップと呼ばれたりもしますが、キーボードだとなかなかステージ上で動くことが難しいんですよね。一方、ギターだとステージ上であちらこちら動き回れるので、より盛り上がるライブができると思ってます」

マーティン・ドハーティ(Key,Vo)
マーティン・ドハーティ(Key,Vo)

女性アーティストを取り巻くミソジニー

──『Screen Violence』では、女性の生活につきまとう恐怖をホラー映画のように描いています。ローレンさんは以前、女性に対するミソジニーについて発信されていたこともありますが、女性アーティストに対する反応はデビュー当時と比べ変化していると感じますか?

ローレン「今の私は年を重ねた分、もしかしたら若い時と同じように困らなくなったかもしれない。それに、私に対する質問も変わってきたところもあるかもしれません。今の若い女性アーティストたちがどういう思いを抱えているかはわからないんですが、このバンドをやってきた中で、事実として女性に対するミソジニーは付きまとってきました。以前とは変わった気もしますが、それが一過性のものでなく、根本的に変わったかどうかはまだわかりません。ちょっとしたバズワードで終わってしまう可能性もある。でも、私にとって精神的におかしくなりそうなつらい問題でもあるので、変わってほしいとは強く思います」

マーティン「メインストリームで話題に上がるようになってきたという変化は感じています。それはすごくポジティブな変化だと思います。僕たちとしては、ローレンを含めてそういう目に遭っている人をしっかり支えたいと思うと同時に、もっと変化は必要だと思っています」

ローレン「そういった自分の経験や思いをもとに作品を作ることができるのは良いことだと捉えています。私も30代になって、単に当事者としての思いを書き連ねるわけではなく、ホラー映画というフィルターを通して描くことができた。クリエイティブなものに昇華できたことにすごく満足しています。例えば、24歳の私はどうしていいかわからなかったし、相談できる相手が何年も見つかりませんでした。でも今は、『こういう人たちとこういう風に表現すればいいんだ』ということがわかるようになった。支えてくれる人もいます。それに加えて、同じような目に遭っている若い人たちに解決策を伝えられる立場にもなっていて、親鳥のような存在になれたことも良いことだと感じています」

──ホラー映画という表現を通してメッセージを発信することで、すっと入り込んでくるところがありました。

ローレン「そうですね。ファンタジーや逃避として捉えることもできるし、額面通りに受け止めることもできる。書いているほうとしても、ファンタジーに包んで自分の想いを正直に打ち明けるクリエイティブができたことはこれまでになかったこと。 今回はまず『Screen Violence』というアルバムタイトルがあって、方向性を据えた中で歌詞を書き始めました。そのやり方がまず新しかったんですよね。歌詞を書く上でとてもやりがいがありました。そして、その歌詞にイアンとマーティンが音を付けてくれました。新しいスタイルができたことがとても良かったと思っています」


──では最後に、2011年の結成時と比べ、チャーチズが一番変わった部分とここは変わっていないと思う部分を教えてください。

ローレン「変わってないことは、日本に着いたらイアンとマーティンは必ずラーメンを食べに行って、ゲームを買いにショッピングに出かけることですね(笑)」

イアン「それは変わらないね(笑)」

マーティン「ただ、昔はラーメンの汁を一滴も残さず飲んでいたけど控えるようになった。健康を気にするようになったね(笑)」

ローレン「(笑)。長くバンドをやっていて強く感じるのは、ライブでみんなが好きな定番曲を演奏するととても嬉しそうに反応してくれる。リスナーにとって大事な曲になっているんだなということを実感します。そして、新曲も織り交ぜてライブをする中で、曲に対して強い思い入れを持ってくれるコアなファンベースがあるということに対して幸せを感じます。チャーチズは、元々サウンドクラウドで人気が出てライブをやるようになって、レーベルとサインする前からチケットが売り切れるような状況が生まれました。最初から熱いファンのコミュニティがあったんですよね。その人たちに支えられてバンドが成長していきました。そして、日本にもファンがいて支えてくれる。さっき親鳥の話が出ましたが、ファンの方たちが、例えば最初は大学生だったのが結婚して親になる過程を見て、直接知っているわけじゃないのにすごく長く付き合いがあり、深いつながりを実感します」

チャーチズ「Over」
2023年2月24日配信リリース
umj.lnk.to/CHVRCHES_over

Photos:kisimari at W Interview & Text:Kaori Komatsu Edit:Mariko Kimbara

Profile

チャーチズChvrches 英・グラスゴー出身のローレン・メイベリー(vo)、マーティン・ドハーティ(key,vo)、イアン・クック(key,b,vo)からなるエレクトロポップバンド。2011年に結成するとまたたく間に話題を呼び「BBCサウンド・オブ・2013」で5位に。13年に米・オースティンでの音楽コンベンション「SXSW」でも盛況を収める。同年に『ザ・ボーンズ・オブ・ワット・ユー・ビリーヴ』でアルバム・デビューし、サマーソニックで初来日も果たす。15年に2ndアルバム『エヴリ・オープン・アイ』、18年に3rdアルバム『ラヴ・イズ・デッド』をリリース。21年に発表された『スクリーン・ヴァイオレンス』では、ダークでシリアスな新機軸を打ち出した。

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