蜷川実花が撮る、裸の窪塚洋介 | Numero TOKYO
Interview / Post

蜷川実花が撮る、裸の窪塚洋介

蜷川実花にとって「唯一無二のスペシャルな存在」だという俳優・窪塚洋介。彼の独特の色気や透明感をありのままに捉えたビジュアルとともに送る2人の対談。「ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)」2017年3月号掲載

夢と現実を混ぜ合わせる

窪塚洋介が姿を見せたのは、渋谷の街を眼下に望むホテルの一室。「渋谷」という象徴的な街を背にして、蜷川実花とのセッションが始まる。

──今回、撮影は何年ぶりですか?

蜷川(以下、M)「3年ぶり? 窪塚くんって全然年を取らないよね」

窪塚(以下、K)「うん。実花ちゃんもね(笑)」

M「最初に会ったのは10年くらい前だよね。今でも覚えてるのが、窪塚くんがひょいって塀の上に乗っかって『こっちこっち〜』って車を誘導した場面があったんです。そしたらその瞬間に逆光がふぁ〜ってなって、もう本当の天使にしか見えなくて」

K「(笑)。あと、あの俺の写真集はすごかったね」

M「いろいろ演出して撮れるものじゃないから。フィクションとの間を行き来する感じが、すごくいい」

K「真実を写す。でも夢と現実を混ぜ合わせるみたいな感じが、カメラは魔法の道具っていうかね。ちょうど俺が自分のマンションから落っこちた後の復帰作を撮ってくれたんだよね」

M「そう。その飛び降りた瞬間のことは、覚えてる?」

K「いや、全然覚えてないんですよ。気づいたら病院のベッドの上で、骨もボキボキに折れてて…。神様に『調子乗んなよ』って落っことされたんだと思ってます。当時はもう宇宙の果てまで全部わかった気になってたから」

役者にリスペクトされる役者

──窪塚さんは、20代のファンが多いですよね。

M「それって本当にすごいですよね。作られたものじゃなくて、窪塚洋介単体として格好いいからだと思います。若い俳優も『窪塚くん、やばいっす』って、よく言ってる」

K「せっかく役者や音楽やってるから「なんか元気出るわ」って思わせられたらいいですね。そもそも自分が思うままに生きてること自体がメッセージになるじゃないですか。だから今も思ったことを言うし、思ったことをやる。それが自分のライフスタイルになっていることは誇りに思うし、何よりのエネルギーです。

──窪塚さんの根底には、ものすごく純粋な部分がありますよね。

K「小さい頃から自分の中に絶対に侵されてはいけないサンクチュアリみたいな部分があって…」

M「その聖域が透明感の源泉なんだ。それはいつ頃から?」

K「小学校の頃には感じてたかなぁ。自分にとってホーリーで、絶対に守っていく場所、という感じ」

M「そのホーリーなものと芸能界の仕事やってるのはつながってるの?」

K「そうですね。俺をここまで引っ張ってくれた原動力でもあります。それがうまくコントロールできなかった時期もあるけど、今はそれが腹に落ちてきて開き直っている感じ。そういう純粋で繊細な部分があるから、大胆でもあるんですよって」

唯一無二のスペシャルな人

──『沈黙―サイレンス―』でも、マーティン・スコセッシ監督が窪塚さんに惚れ込んでいたとか。

K「本当に気に入ってくれていたみたいです。1カット撮り終わると必ず奥から出てきてニコッとしてくれてたし。後半はもう『キチジロー(役名)、今の場面はOKか』って聞いてきて『OKです』って言ったら『じゃあOK。撤収』って場面もあったくらい」

M「それは最初に会ったときから?」

K「東京のオーディション会場で初めて会ったときに親戚のおじいちゃんに会ったみたいな気分にさせてくれたんですよ。だからオーディションでもものすごく自由に演技ができて。そしたら「台湾で会おうね」って言ってくれたので」

M「もう即決だったんだ。やっぱり特殊なんですよ、窪塚くんって。唯一無二。他に代役が絶対思いつかないんです。私も『ヘルタースケルター』で、あの役は絶対に窪塚くん以外にあり得ませんでした」

K「実花さんのときもそうでしたけど、今回の現場でも感謝の気持ちを持って臨めていたので、そういう意味では、力以上のものが出たんだと思います」

──映画自体はものすごく重くて追い込まれるようなテーマですよね。

K「監督は原作者・遠藤周作の思いを自分の視点で徹底的に描き切るっていう思いが強かったんだと思います。だから、撮影現場も後半はかなり過酷でした。アンドリューは1カットを100回近くやり直しさせられたり、ご飯も一日野菜だけ、スープだけとか。どんどん追い詰められていって、痩せていって…。本当にすさんで殺伐とした空気になったりもしてました。監督はそれすらコントロールしていたと思うんですけど」

M「そのくらい過酷なテーマなんですよね。あの『沈黙』を、よく映画化しましたよね」

K「本当にいろんな意味で追い込まれるような映画になっていますね」

──撮影を終えて、いま窪塚さん自身はどう感じていますか?

K「俺は自分が演じたキチジローという役が好きなんです。強いときも弱いときもあるし、人を助けるときも騙すときもあって。この時代背景を思えば一番共感できます」

M「すごく人間らしいですよね」

K「映画の内容でいうと、内から出てくるものが、信仰だと思うから。それが例えば誰かに何かを強制されることはちょっと信仰とは違うんじゃないかなって。本当は、自分がありがたいと感じたときに手を合わせる、とかいうことだと思うんですよ。その感覚を大事にしているという意味でも、キチジローは好きです。本人は過酷だけど(笑)。俺もそういう生き方をしたいです」

誰に何を言われても、そのままの自分で居られるようになった

──「卍LINE」としての音楽活動も10周年ですね。

K「そうですね。音楽を通して自分の伝えたいことを伝えられるようになって、すごくバランスが取れてます。陰と陽、夢と現実みたいな。役のときの自分は本当の自分ではないし、ある意味、大きな嘘をつく職業で。かたや卍LINEは俺そのものだから、俺が普段思ってること、願ってること、ムカついてることがそのまま歌になってるから。マンションから落っこちたのは、音楽という表現方法をまだ見つけられていなくて、バランスを取れなくなったからだと思っているので。今は重心が見つかったという感じがしてて」

M「20代前半の頃は、言いたいことが言えなくて苦しかったんだね」

K「そう。でも、あの事故がなかったら卍LINEもないし、卍LINEがなかったら今のライフスタイルはないし。だからなるべくしてなったんだって思ってます。今は何があっても自分らしく、柳のように、竹のように、雲のように、水のように生きていきたい」

M「音楽があるって強いよね。言葉を超えるし。役者も卍LINEも大事な窪塚くんの要素で、良いバランスですよね」

K「どっちかがダメになるとどっちもダメになると思って二足のワラジを履いているので、どっちも本気です。50:50じゃなくて、100:100のつもりでやってます。いろいろありますけど、楽しんでます」

M「本当にいい感じだね、人生。すごくうれしい」

K「おかげさまで。俺もそう思ってくれていて、うれしいです」

窪塚洋介(くぼづか・ようすけ)
1979年、神奈川県生まれ。95年にテレビドラマ『金田一少年の事件簿』に出演しデビュー。ドラマ『GTO』『池袋ウエストゲートパーク』などに出演し人気を博す。映画『凶気の桜』『ピンポン』などに主演し、話題に。主演映画『GO』で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を史上最年少で受賞。2006年からレゲエDeejay 卍LINEとして音楽活動もしており5枚のオリジナルアルバムをリリースしている。マーティン・スコセッシ監督の映画『沈黙ーサイレンスー』(原作:遠藤周作)では隠れキリシタンの青年、キチジロー役を演じ話題を呼んだ。『沈黙ーサイレンスー』Blu-ray&DVD 8月2日(水)発売。

Photos:Mika Ninagawa
Hair & Makeup:Takahiro Hashimoto
Interview:Sayumi Gunji
Text:Rie Hayashi
Edit:Fumika Oi

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