阿部サダヲ インタビュー「今回演じたのは、フォレスト・ガンプのように真っすぐな人」 | Numero TOKYO
Interview / Post

阿部サダヲ インタビュー「今回演じたのは、フォレスト・ガンプのように真っすぐな人」

俳優の阿部サダヲが『舞妓Haaaan!!!』『謝罪の王様』の水田伸生監督と再びタッグを組んだ。『アイ・アム まきもと』は、阿部が演じる市役所職員・牧本壮が人の死を大切に思うあまり、職務の範疇を越えて弔いを行おうとする物語だ。不器用な牧本が次々と周囲を巻き込んでいく中で、孤独死などの社会問題や、複雑に絡んでしまった人間関係の難しさがあぶり出される。少し悲しくも、心が温かくなる人間ドラマを演じた彼に、理想の老後や最期を聞いた。

人と人とがつながっているような、楽しい撮影だった

──今回の役作りは? 撮影の前に、水田監督からはどんなお話がありましたか。

「最初に監督から、牧本のキャラクターはフォレスト・ガンプのように真っ直ぐ走り続ける人だと聞いて、すんなり納得しました。水田監督はいつもキャラクターやシーンについて丁寧に説明してくださるので、自分からアイデアを出すというよりは、いつも監督に身を任せています」

──今回の脚本は倉持裕さんでしたが。

「すごく楽しみにしていたんです。倉持さんが手がけた舞台も見に行っていたし、どういう脚本なんだろうとすごく興味がありました。コメディだと松尾(スズキ)さんや宮藤(官九郎)さんの台本で芝居することが多いので、すごく新鮮でした。言葉のチョイスが独特だと思います」

──今作は、牧本が主人公でありながら、彼を通して周囲の人たちを語っていくような物語でした。彼をどのような人物だと捉えましたか。

「毎日同じ時間に起きて、同じものを着て、いつも同じ髪型で、ルーティーンに忠実に行動する。僕は同じことを毎日できないので、そこまで規則的な暮らしをする人に憧れます。」

──今は、空気を読んだり、察することが当たり前の世の中ですが、もし、真っ直ぐすぎて「察しが悪い」牧本のような人物が身近にいたら?

「気になって話しかけると思います。ずっとひとりでいる方がいると、どういう方なのか知りたくなってよく話しかけたりするんですよ。今回は山形で撮影したのですが、エキストラで地元で農業したり酒蔵で働きながら副業として役者をされている方が多くご出演されていたんですね。なぜ役者に興味を持ったのかなど、いろいろとお話を伺いました」

──山形で活動されてる方が多かったんですね。

「水田監督が事前に山形でワークショップを開いて、そこで選ばれた方がご出演しているんです。川べりで嶋田久作さんと酒盛りしている仲間や、訪れた先に押しかけてくるご婦人方も、ほとんど山形の方です。クランクアップのときに、さくらんぼをいただいたのですが、火葬場のシーンに出演している方の農園のものでした。その方は、『家では役者ばかりやって怒られてる』そうです。現場は、人と人とがつながっている感覚があって、すごく楽しかったですね。水田監督は出演する方と全員対等に接してくださるので、それが全体の雰囲気にも伝わっていたのだと思います」

──共演の満島ひかりさんが、水田監督はとてもダンディな方だったとおっしゃっていました。

「水田監督はカッコいい大人な方です。人をすごく大事にする方なんですよ。コロナ前の話ですが、撮影終わりの打ち上げでは、俳優もスタッフも全員を褒めてくださるし、マネージャーの方々にもありがとうと感謝されていて。現場には役者、スタッフ、かなりの人数がいるのですが、ほぼ全員把握してくださっています」

──共演者についてお伺いします。満島ひかりさんとは初共演だったとか。

「満島さんは共演したかった俳優のおひとりでした。なので、やっとお会いできてうれしかったです。共演シーン自体は多くはないのですが、第一声を聞いた時に、さすがだなと思いました。宮沢りえさんとは漁港での撮影でご一緒したのですが、その時のエキストラさんは、地元の漁師の方たちなんです。撮影の日は雨で、その道何十年の漁師さんが『今日はもう無理だ(晴れない)』とおっしゃっていたのですが、宮沢さんの撮影シーンになった途端に、パッと晴れました。漁師のみなさんが、宮沢さんが雨を止めたと驚いてました(笑)」

──山形グルメは堪能しましたか。

「山形は海も山もあるので、寿司も地魚もおいしかったですし、羊肉などいろんなものを食べました。僕の地元の先輩が今、山形で生ハム造りをしていて、それもご馳走してもらいましたし、だだちゃ豆も有名ですが、どれもおいしかったです」

子育てがひと段落したので、夫婦で気楽な旅行でもしたい

──今作は、人生の終わり方が描かれていますが、阿部さんの理想の終わり方、葬儀の演出プランは?

「好きだった音楽を流して楽しいイベントにしてくれたら。役者の方々に頑張ってお経をあげていただいて、たまに間違えられたりしても面白いですね(笑)」

──人生の終わり方について考えることは?

「あまり考えたことはありません。もう少しいろいろと満足したいですし、まだまだやりたいことがありますから」

これからやりたいこととは?

「仕事は、やりたいことを全部やらせてもらっているので、このまま続けられたらいいなと思っています。プライベートでは子育てが落ち着いてきたので、夫婦で外国へ旅行に行きたいですね。」

──夫婦で旅行に行きたい場所は?

「パリでクロワッサンを食べたり、そういうカタチ的なものでいいんです。あまりハードな旅は体がもたないので(笑)。よく、妻と『しまなみ海道を自転車で横断したいね』と話しているのですが、どうにか説得して車で行きたいと思います」

ゴールが見えてきたという子育てはどうでしたか?

「僕自身、自由に生きてきたので、子どもにも自由に育ってほしかったのですが、本人は今どう思っているでしょう…。20年前の僕に少し似ているんです。なので、芝居を勧めているのですが、やらないそうです(笑)。そういえば一度、子どもが満島真之介くんに憧れて、自転車で日本一周をしようとしていたので止めました。僕とは違うタイプの自由に憧れているのだと思います」

──今年、阿部さんがヴォーカルを務めるバンド「グループ魂」が再始動しましたね。

「ちょうど昨日ライブのリハーサルをしていたのですが、そのとき、(メンバーの)皆川猿時が『今日は膝が痛いので座ったままでやります』と。うん、いいバンドになったなと思いました(笑)」

──ちなみに、今、注目しているバンドは?

「今年のサマーソニック2022に出演したリンダ・リンダズ。僕らはアメリカに憧れて音楽を始めたのに、ロサンゼルスに住む子たちが、映画『リンダ リンダ リンダ』を見て、ヒロトに憧れるってすごい世界ですよね。日本のバンドではドミコです。2人組なのですが、2人でドラムもベースもギターも全部できるそうで。可能性の塊ですよね。若い世代はパンクでもテクノでもジャンルを超えて、良ければなんでもいいという感じがすごくカッコいい。僕らの世代はパンクならパンクにこだわったりするじゃないですか。もうダサいっスよね!(笑)」

『アイ・アム まきもと』

小さな市役所に勤める牧本(阿部サダヲ)の仕事は、人知れず亡くなった人を埋葬する「おみおくり係」。故人の思いを大事にするあまり、つい警察のルールより自身のルールを優先して刑事・神代(松下洸平)に日々怒られている。ある日牧本は、身寄りなく亡くなった老人・蕪木(宇崎竜童)の部屋を訪れ、彼の娘と思しき少女の写真を発見。牧本は写真の少女探しと、一人でも多くの参列者を葬儀に呼ぶため、わずかな手がかりを頼りに蕪木のかつての友人や知人を探し出し訪ねていくーー。

監督/水田伸生
脚本/倉持裕
出演/阿部サダヲ、満島ひかり、宇崎竜童、松下洸平、でんでん、松尾スズキ、坪倉由幸(我が家)/宮沢りえ、國村隼
9月30日(金)より全国公開
https://www.iammakimoto.jp/

Photos:Ayako Masunaga Interview & Text:Miho Matsuda Edit:Sayaka Ito

Profile

阿部サダヲSadawo Abe 1970年、千葉県生まれ。1992年より松尾スズキが主宰する「大人計画」に参加し、同年、舞台「冬の皮」で俳優デビュー。2007年、第45回ゴールデンアロー賞演劇賞を受賞。長編映画初主演の『舞妓Haaaan!!!』で第31回日本アカデミー賞優秀主演男優賞、『彼女がその名を知らない鳥たち』(2017)で第60回ブルーリボン賞主演男優賞を受賞。NHK大河ドラマ『いだてん 〜東京オリムピック噺〜』では主人公・田畑政治を演じた。映画の主演作に『殿、利息でござる!』『音量を上げろタコ!何歌ってんのか全然わかんねぇんだよ‼︎』『死刑にいたる病』など。11月23日より舞台「ツダマンの世界」に主演する。

Magazine

DECEMBER 2024 N°182

2024.10.28 発売

Gift of Giving

ギフトの悦び

オンライン書店で購入する