ジャパニーズ・ブレックファストのミシェル・ザウナーにインタビュー「アジア系アーティストの躍進に思う、自分らしくあることの大切さ」
アメリカ人の父と韓国人の母の間に生まれ、インディーロックバンド、リトル・ビッグ・リーグでの活動を経て、ソロプロジェクト、ジャパニーズ・ブレックファスト(Japanese Breakfast)としての活動をスタートしたミシェル・ザウナー。昨年リリースされたサードアルバム『ジュビリー(JUBILEE)』は、これまでのインディーポップ/ドリームポップのアプローチから、カラフルな音色溢れる華やかなポップミュージックへと進化を遂げた。
母の死をきっかけに、母との思い出を綴った著書『Crying in H mart』がアメリカでベストセラーとなり、映画化されるという動きもある。音楽活動、執筆業、映像のディレクション、テレビドラマへの出演等、さまざまなジャンルで才能を発揮するカルチャーアイコンであるミシェル・ザウナーに、たおやかで開放的なパフォーマンスでオーディエンスを魅了したフジロック・フェスティバル出演の翌日、インタビューを行った。
新アルバムは予想以上の反響
──昨日のフジロックでのライブは素晴らしかったです。どんな体験になりましたか?
「素晴らしかったです。あと、あんなに自然に溢れていてきれいな場所だって知らなかった。そして、オーディエンスとの距離が近くて、ほんわかした雰囲気があって、特別なライブだと感じました。ただ、苗場はちょっと遠かったけど(笑)。自分が出る前の日にも会場に行って、その日はダイナソーJr.しか観られなかったですが、いいライブでした」
──昨年リリースされた最新アルバムの『ジュビリー』は華やかなポップミュージックに進化した印象がありました。改めて『ジュビリー』をどんな存在の作品だと捉えていますか?
「今まで作ってきたどんなアルバムもそうですが、作ったときは改心のアルバムだと感じます。なかでも『ジュビリー』は、タイトル通りエポックメイキングな作品だと思います。ただ、ポップなアルバムしようと思ってはいなくて、変なアルバムを作ろうと思ったところから始まったんです。意識せずとも私の中にはポップなものを求める部分があるんでしょうね。『ジュビリー』の曲をライブで披露して、予想以上の反応をオーディエンスからもらえました。いきなり大きな手ごたえがあったというよりは、少しずつ手応えをつかんでいってステップアップできてるっていう印象があります」
──『ジュビリー』に収録されている「Be Sweet」の韓国語ヴァージョンをセソニョン(Se So Neon)のファン・ソユン(So!YoON!)を招いてリリースしたことにはどんな思いがあったんでしょうか?
「2018年の12月に韓国でライブをしたことがあって、そのときは本の執筆に取り掛かっていた時期ということもり、6週間くらい滞在しました。そのなかで、韓国のインディーロックのアーティストと知り合って仲良くなって。ソユンともそこで知り合ったんです。セソニョンも好きだし、ソユンはまるで魔術師のようにギターを弾くのでファンになりました」
──ジャパニーズ・ブレックファストの楽曲には様々なサウンドのエッセンスが感じられますが、特にご自身が影響を受けているアーティストというと?
「たくさんいると思いますが、オレゴンの小さな街で育った町に育ったこともあって、北西部のインディーロック──例えば、エリオット・スミスやビルト・トゥ・スピルのパーソナルな歌詞やダイナミックなギターに影響を受けた部分は大きいと思います」
──かねてから、同じアジア系アメリカン人であるヤー・ヤー・ヤーズのカレンOやミツキの活躍からエネルギーをもらっていると公言されています。ジャパニーズ・ブレックファストも活躍され、さらにリンダ・リンダズにも注目が集まるなか、アジア系のアーティストを取り巻く状況についてどう感じていますか? 「結構変わったとは思います。カレンOぐらいしか目立つアーティストがいなかった時期もあったけど、自分が活動をし始めた頃にはアジア系のアメリカ人女性アーティストが周りに何人もいたっていうのは、とてもよかった。そして、もっと下の世代のリンダ・リンダズだったりも出てきてる。昔だったら考えられない状況になってきているのは素晴らしいことだと思います。私自身、ほかのアジア系アーティストから、自分であり続けることの大事さについて触発されることもあります」
書籍の執筆と映画化について
──先ほど本の執筆の話題も少し出ましたが、亡くなったお母様との思い出を綴った著書『Crying in H mart』が大きな反響を呼んだことについては、どんなことを感じますか? 「すごくラッキー。小説家とミュージシャンを両立できるっていうのは稀なことだと思うし、宝くじに当たったくらいの感じなんじゃないかな(笑)。本を書くことが孤独な作業だっていうことを知ったのも大きかった。一方の音楽は昔からやってきたことだし、そんなに孤独は感じなくて。だから、本を書き終わって、『ジュビリー』を作るっていうタイミングになって、『ああ、やっと孤独な作業が終わるんだ』っていうワクワク感がありました」
──『ジュビリー』の華やかなサウンドには、その気持ちの影響もあったりするのでしょうか? 「確かにいくつかの曲には本を書いていたときの孤独感からの反動があったかもしれないですね。ただ、『ジュビリー』で描かれている喜びにはいろんな種類の喜びがあります。例えば、喜びを奪う人がいなくなったことに対する喜びだったり」 ──『Crying in H mart』は映画化が決まりました。共同で脚本を書き、音楽も担当されるそうですが、映画の進行具合はいかがですか? 「全体のあらすじは私ひとりで書いていて、今は制作スタジオにそれを送って、修正してもらってる段階です。あまり修正が多くないといいな(笑)。今回初めて映画制作に関わって、映画って作るうえで割と決まりごとが多いメディアなんだなあって感じました。そのなかでどうやって自分なりにユニークなものにするか。そのテクニックを学ぶのは楽しいです。あと、私が書いた原作は対話が多い内容ではないんですが、映画化するにあたり、登場人物のやり取りを膨らませていく過程が知れたのも面白かった。『ああ、映画になる過程でこういうディティールが付随するんだ』『こういうキャラクターに膨らむんだ』っていうことを感じる機会も多くありました」
ミシェル・ザウナーのインスピレーション源
──ジャパニーズ・ブレックファストの多くのミュージックビデオをご自身でディレクションをされています。フジロックのステージでも『恋する惑星』の映像が流れ、ウォン・カーウァイからの影響を公言されていますが、他に影響を受けた映像作家はいますか?
「まず、『Be Sweet』のミュージックビデオはスパイク・ジョーンズが監督したビースティ・ボーイズの『サボタージュ』のミュージックビデオに影響を受けてますね。あと『Savage Good Boy』のミュージックビデオは、パク・チャヌク監督の『お嬢さん』のワイドな画角で撮っている手法を取り入れたところがあります」
──音楽活動、映像ディレクション、執筆活動と、多岐にわたる活動をされていますが、クリエイティブの源はどういうものなんでしょうか?
「多くのことから影響を受けています。映画もそうですし、本もバンドもそう。普段の生活からインスピレーションをもらうことも多いです。例えば、目に入ってきた新聞の見出しや、言い合いをしている二人を見たときに『なんでこの二人はぶつかり合っているんだろう?』と考えたり。本当にさまざまですね」
Japanese Breakfast(ジャパニーズ・ブレックファスト)
『Jubilee(ジュビリー)』
国内盤CD ¥2,750(ビッグ・ナッシング/ウルトラ・ヴァイヴ)
解説/歌詞/対訳付、ボーナス・トラック「Coffee Hanjan」のダウンロード・カード封入(初回盤のみ)
各種配信はこちらから
Photos:Takao Iwasawa Interview & Text:Kaori Komatsu Edit:Mariko Kimbara