Interview / Post
文庫本の栞をほどき、糸からクレーンを作成。文庫本には時間の積み重ねを感じさせるマスターピースが選ばれている。《テクトニック・モデル》2015年。(美術館の敷地内にある文化財の古民家を使って展示された作品。)
──時間というテーマで、戦争というモチーフは外せなかったわけですね。
「今年は戦後70周年で、この展覧会期中に8月6日を経過することもありました。その土地の歴史だけじゃなく、日本の昭和という時代も含めて見せたかった。文庫本の作品『テクトニック・モデル』のクレーンは、建設にも使いますが、解体にもまた使うものです。震災後の原発の風景もそうでしたが、そうしたスクラップ・アンド・ビルドの象徴でもあります」
──素麺やうどんなどの麺類と塩を使った作品も発表されています。
「日用品を使っていたんですが、食品を使ってみたかったんです。真っ白い展示空間は映画『2001年宇宙の旅』のように未来的。湿気ですぐ壊れてしまう繊細な作品を、室温が完璧にコントロールされた人工的な時空間で展開したイメージです」
──塩の工場はどこの風景ですか?
「広島の自宅から祖母の家に行く途中の三ツ子島という島にある製塩所と塩の山です。自分が食べたことのあるもの、使ったことのあるものだと、持ったら簡単に形が変化することを自分の経験から知っていますよね。吹けば飛ぶような作品の風景から、地震などで山という地形さえも変化することにも気づくかもしれない」
岩崎の地元・広島にある三ツ子島製塩所の風景を再現。製塩所と同じような塩の山に、素麺やうどん、冷麦、ビーフンで作られた作業クレーンが並ぶ。《アウト・オブ・ディスオーダー(生命の風景)》2015年
──震災後は特に敏感になりました。広島は先に経験してきたわけですね。
「広島に拠点を置く以上、戦後のあり方をもう少し考えながら制作していければと思っています」
写真はすべて「岩崎貴宏展 埃(10-10)と刹那(10-18)」(小山市立車屋美術館・栃木 2015年)より。インタビューは当時のものです。
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現在行われている第57回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展(2017年5月13日〜11月26日)の日本館代表に選ばれた現代美術作家・岩崎貴宏とは?「Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)」2015年10月号に掲載されたインタビューを振り返る。
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Photos:Seiji Nomura
Interview & Text:Hiroyuki Yamaguchi
Edit:Sayaka Ito
Profile
岩崎貴宏(Takahiro Iwasaki)
1975年、広島県生まれ。広島を拠点に制作活動を行う。2003年に広島市立大学芸術学研究科博士後期課程修了後、エジンバラ・カレッジ・オブ・アート大学院で学ぶ。リヨン・ビエンナーレやヨコハマトリエンナーレなどの国際美術展や美術館での展示に多数参加。15、16年にはN Yで個展を開催。日産アートアワード2015のファイナリストにも選出された。(協力:URANO)