アヴちゃん×古川日出男 インタビュー「徹底的にやることは、美醜関係なくすごみを生む」
平家物語を現代語訳した小説家の古川日出男が、そのスピンオフとして執筆した『平家物語 犬王の巻』。謎に包まれた実在の能楽師・犬王をモデルとしたこの小説を原作に、アニメーション監督・湯浅政明、脚本家・野木亜紀子、漫画家・松本大洋、音楽家・大友良英の当代随一のクリエイターたちがタッグを組み、ミュージカル・アニメーションへと仕立てた映画『犬王』。猿楽の一座に生まれた異形の子である犬王の声を演じた、バンド「女王蜂」のヴォーカル・アヴちゃんと原作者の古川に映画公開直前の心境を聞いた。
歌声によって命を得た、犬王というキャラクター
──古川さんは原作となった小説を書いているときに、犬王に17歳の頃の自分を投影していたとのことですが、アヴちゃんが声を演じた犬王にはどんな印象を受けましたか?
古川「少なくとも17歳の自分の1億倍かっこいい(笑)」
アヴちゃん「1億!(笑)」
古川「僕が書いた小説からアニメーションになったとき、やっぱり犬王というキャラクターに命を吹き込んだのはアヴちゃんだと思うんですよ。とくに歌うっていうことは、自分の体を通して人物をつくるわけじゃないですか、フィジカルに」
アヴちゃん「そうですね」
古川「(劇中歌の)リリックも含めて、描かれた絵だけだったものに命を吹き込んで、肉体に変えていったんだなと思って。そこがかっこいいなと思いました」
アヴちゃん「えぇ〜、うれしい! 犬王が歌う楽曲のメロディは、大友さんによって先につくられていて。でも、それが決まるまでは、絵が先かそれとも音楽が先か、それこそ“ニワトリかタマゴか”みたいな感じですごく難航していたというのを聞いていたんです。そこに私が入ったときに『え? じゃあ、こうしたらいいじゃん』みたいな感じで背骨がバキンと入った瞬間、スタッフがすごく喜んでくれて。『あぁ、そっか。私はこういう担当なんだ』と思って。歌詞を書くことに対しても、野木さんだったり湯浅監督のメモだったり、原作にも書いてあるような想いっていうものを、作中の犬王と、犬王の親友となる琵琶法師の友魚たちのように拾い上げていくような感覚で。『監督たちに喜んでほしいな』だけじゃなくて、『実際にこうやって犬王が歌ったら、成仏できるかな?』って」
古川「平家の霊がね」
アヴちゃん「平家の霊もそうだし、なんかこう、いろんな意味でのスタッフの思いの成仏もあったかもしれないけど(笑)」
──スタッフの方々の苦労も成仏できるような。
アヴちゃん「うん。本当にいろんな人が気楽に『作画崩壊』とか『あれが流行ってる、流行ってない』と言ったり、星評価をつけちゃう世の中になっている中で、自分が借りてきた猫みたいになっちゃうのが一番イヤだなと思って。犬王として初めてレコーディングブースに入ったときも『マグマの根源というか熱源として呼ばれているから、絶対に縮こまっちゃダメ!』と思っていました。けど、最初にお話をいただいたときは1分くらい迷って」
古川「でも1分ですよね?(笑)」
アヴちゃん「でも、私にはすごく長い1分でした、本当に。その年に初めてのアリーナでのライブを予定していたのですが、コロナ禍でできなくなってしまい、振替じゃなくて中止だということを発表する手前ぐらいに『犬王』のお話をいただいたんです。で、迷っているときに『もう一人(友魚)の役って誰なの?』って聞いたら、未來氏だと言われて。『未來氏はアヴちゃんがやるなら出るって言っているよ』『あ、じゃあやる』みたいな(笑)」
古川「(笑)」
アヴちゃん「で、その足で本屋さんに行って、原作の『平家物語 犬王の巻』(河出文庫刊)を買って。その日のうちに読んで、そこからはもう『できるな』と思いましたね」
──古川さんは映画化のオファーがあったとき、どう返答するか迷いましたか?
古川「たぶん、その日のうちには『じゃあ、お願いします』って言っていた。古川日出男の作品を映画化したいっていう時点で『腹をくくっているのだろうな』と、やっぱり思うわけで。で、アヴちゃんに声優をやってくださいっていう依頼もきっと同じで、それってたぶん普通にうまいとかそういうことじゃなくて頼むんだって、腹をくくっているわけじゃないですか。『誰でもいいような才能がいっぱいいる中で、安全牌を選ぶ』というのと真逆を行くっていう覚悟が決まっているならば、この言葉が今のジェンダー的に正当かどうか分からないけど侠気(おとこぎ)があるなと思って。僕は基本的に男も女も侠気がある人が好きなので、その企画書を見て『あ、いいですよ』っていうふうになりました」
アヴちゃん「うれしい! もう、本当にバキバキにやりました」
古川「バキバキに(笑)」
アヴちゃん「喉はすごく強いほうなんですけど、歌は声帯結節ギリギリの声が使いたかったので。技術が補填してくれることは大いにあるんだけども、犬王が歌うのはマイクのない時代の歌だから、声でマイクを壊すくらいの気持ちで歌っていました」
古川「大友良英さんの音楽というのは、劇伴だけ聞いちゃうとふつうに才能豊かにリクエストに応えられる人に思えるけれども、もともとはノイズ・ミュージックをつくられていて、それは音楽の根源のところにある基盤、塊じゃないですか?」
アヴちゃん「そうですね」
古川「ノイズみたいなものからキャリアが始まっている人に、正面からぶつかるっていうことは、歌うっていうことの本質みたいなものを持ってこないと、きっと無理だと思うんですよ。そこでアヴちゃんは、正面からバキバキに行こうとしたってことなんじゃないかな」
アヴちゃん「そうなんです。でも、どのクリエイターの人もそうなのだけど、だいたい私に対してハートマークでいてくれるの、目が。『アヴちゃ〜ん! 差し入れ!』って、みんな和菓子をお地蔵さんにお供えするがごとくいっぱい買ってきてくれて。『ありがとう!』って食べて歌う、食べて歌うみたいな(笑)。で、途中『ごめん、和菓子が切れてきた』みたいになったり」
古川「和菓子メーターがあるんだ!(笑)」
アヴちゃん「もう本当に、みんな優しくて……でも、私が思いっきりやっているから、優しくしてくれているっていうか。『犬王』のレコーディングでも、『あ、まだもっとできるよ。こう歌うのはどう?』と、すごく案をたくさん出して、それをみんなで一緒になってジャッジできたんですよね」
古川「みんなが受け止めてくれるっていう環境がすごいですよね」
アヴちゃん「ストライクでもいいから振り抜くことって、私はすごく大事だと思っていて。でも、たくさんの人が関わる緻密な作品をつくっていると、それが怖くてできないという人も多いと思うんです。それこそ映画って大博打ですし、『その中の冠をやるんだったらちゃんとしてなきゃ…!』と思って、そこでこそブン回す、肩が抜けるくらいに振るっていうことができたのでうれしかったですね」
スタッフたちの情熱が渦を巻いている『犬王』
古川「今のアヴちゃんのブン回すっていう話が面白いなと思ったんだけど、みんな“つくる”っていうと、緻密に壊れないようにやっちゃうと思うのね。でも、本気でブン回して壊すと何かが生まれちゃうから“壊す=つくる”っていうことで、たぶんアヴちゃんはそれを本質的にわかってやっているのかなっていう気がした」
アヴちゃん「でも、ゼロにかけていくことは、やっぱり狂気だとみんなは感じると思う。『ゼロかけるゼロはゼロじゃん』って思われるけど、ゼロを壊して何者でもない数にしたいって想いが、歴史の中で何かを変えていったと思うんです。『犬王』のような、たくさんの潰えていったものを拾い上げる作品ができたことは、すごく救いですけど、例えば私がここに立つまでに出会ってきた、たくさんのバンドの子たち、やめていった子たち、ゼロにかけて命を絶ってしまった子たち……。そこでやっぱり徒花(あだばな)として、ゼロにかけても壊れなかった、壊れ方がわからなかったまま来ることができた私が、映画の主演をやれるだなんて『日本、明るい!』と思って」
古川「あぁ、なるほど」
アヴちゃん「やっぱり日本のミステリアスな部分って、そのゼロの壊れなさというか、ものすごさだと思うんですよね。だから『犬王』も、ただ和風なだけではまったくなくて。『時代考証どうなっとんねん?! こんな照明、当時あらへん!』って思われるかもしれないけど、そのシーンになったら一生懸命に人力でロウソクを焚いていたりと、理詰めじゃない。理詰めをしたら終わりだから、情熱ですよね。『犬王』はその情熱が渦を巻いているから、すごく『好きーっ!!』と思います。昨日も観たし、もう何回も観ています! 私、本当に犬王がアタリ線で描かれていた頃から観ていたし、それに声を当てていたので」
古川「やっぱりアヴちゃんが犬王を生まれさせたってことですよね、声で命を吹き込んで」
アヴちゃん「おこがましいって言葉を使うのは便利だからあれなんですけど、正直『うん。私、カチこめたな!』って、未來氏と一緒に。未來氏だから良かったし。声がいいし、熱情の込め方とか表現の仕方が研ぎ澄まされているので、やっぱり頼もしかったです」
──小説はひとりで執筆するものなので、誰かと一緒にひとつの作品をつくる話を聞くと、古川さんはうらやましくなったりしますか?
古川「だからね、朗読劇とか、小説を書く以外のことを時々やっちゃう。やっぱり、みんなと一緒にいる場がないと……小説って、ずっと孤独だから死んじゃうから。死なないように、やっぱり友達とか仲間を必要としているなと思っていて」
──まさに犬王と友魚みたいなバディを。
古川「うん、それがないと無理だと思う」
アヴちゃん「命綱だと思う、友愛は。やっぱり友愛がないと……私、友愛がなくてやってきた時期もあったので。その頃は本当に人としてヤバかったと思う、もう独裁者みたいだった時期もあったし。犬王のネガティブバージョンというか『こんな感じで生まれちゃって、どうせ私のこと笑ってんでしょ? みんなコロス!』みたいな感覚でデビューしたんですけど、やっぱりそういう気持ちでいると、もって2、3年なんですよね。で、人間としてつぶれてしまい、当時のバンドメンバーも解散して。本当に消えてしまおうと考えていました」
古川「そこから変わったきっかけは何だったんですか?」
アヴちゃん「活動休止となって次(の仕事)が決まっていないものの、曲が書けちゃったんですね。世に出したい曲が、まだたくさんあると気づいたときに『あ、もう一回手をつなぎたい人がいるな』と思ったんです。女王蜂のメンバーには、友魚と犬王みたいな関係でいる子もいて。学生時代に隣の席で授業を受けていたような子や妹と、ここまでやって来たっていうのが女王蜂なんですけど、みんな仲良くって。仲良いだけじゃなくて、すごくいろんなことをぶつけ合ってきたっていうのがある。いろんなインタビューでも答えたんですけど、私はカオスってすごく好きで。みんなが私に対して『わっ!!』と感じてくれるのって、たぶんカオスのまま平然と生きているからだと思うんですよ。でも、このカオスが私はすごく気に入っている。絵の具はいろんな色を混ぜるとドドメ色とか黒にしかならないけれど、光っていろんな色の光を集めると白になるんですよね。だから、カオスであっても気の持ちようなんだなと考えたときに『私、絶対に濁らない』っていう自信があるっていうか。『濁ったことがあるから、もう二度と濁らない』みたいな。犬王は最初から濁らずにエンターテイナーとしてやっているから、『なんか作品とはいえ、いいよな! うらやましい!!』って思ったけど(笑)、でも『私たち一緒だね』ってうれしい気持ちにもなりましたね」
美醜関係なくすごみを生む、狂気に近い主観性の大切さ
古川「さっきアヴちゃんがした、ゼロをかけてもゼロにならないっていう話が、すごく深いような気がするんですね。醜さを持って生まれた犬王が舞台をやるたびに美しさを少しずつ取り戻していくんだけど、先日、湯浅監督と対談したときに映画の感想として最終的に僕の頭に浮かんだのは『醜×0=美』という式だと言っていて。本当はゼロをかけたのだから美になんかならないはずなのに、ゼロをブチ壊してそこから美を生んだっていう。それが、いろんな彩りの光を混ぜてもドドメ色にならないというアヴちゃんの発想にも近いと思うし、この先何も仕事がないっていうときにも出てきたもの(=曲)があるから今につながっているんだと思う。その『ゼロをかけてもゼロにならないんだよ』っていう想いが一本ずっと筋を通しつづけているから、この『犬王』という映画はカッコいい人がつくっているものになったんだと感じます」
アヴちゃん「その通りだと思う。『ここまでやるんだ!?』っていうことを(監督やスタッフが)やっているからですよね。あと、美しさって客観性だと勘違いしている人がすごく多くて。上手さは客観性だけど、ヤバさって絶対に主観性だと思うんですよ。徹底的にやるっていうことは、もう美醜関係なくすごみを生むと思う。その徹底的な、みんなが狂気っていうかもしれないけれど、すごく根源的な当たり前な、みんなが知ってくれたらいいなということがいっぱい入っている作品が『犬王』だと思います」
古川「小説家という仕事をやっていると『どうやってゾーンに入るんですか?』と聞かれることが多くて。あまりに聞かれるから考えてみたところ、僕の場合は仕事場に行って、誰にも見られていない中で、もう書くことしか自分にはないっていう状態に追い詰めることの極みであり、それは周りから見るとはっきりとした狂気で。昼飯を食べに外に出て、ずっと小説のことを考えながら道を歩いていると、周りの人がみんなバーッと避けてくれるんだけど、それって主観しかない状態になっているからなんですよね。その主観の力みたいなことに、もうちょっとみんな帰ればいいと思う。今はみんなどう見られるか、どうウケるか客観ばっかり考えているから、主観でやる人が前面に出る必要がある。だから(主観を大事にしている)アヴちゃんが犬王を演じてくれたのは、すごくうれしい」
時代とともに形を変えることこそ「平家物語」の魂
──それにしても、今日が初対面とは思えないくらい二人とも共鳴し合っていますね。
アヴちゃん「『犬王』に関わっている人は、みんな思っていることが一緒というか。一緒って言うとアレだけど……同じヤンキー、同じ暴走族みたいな?」
古川「族感(笑)」
アヴちゃん「そう、同じ族だと思う(笑)。この情熱の暴走というか渦っていうのは、これまでなかったんじゃないかなって思います。あったとしても、誰か一人だけが渦を巻いていて、そこに周りの人が飲まれていく感じだったと思うけど、『犬王』の場合は音楽的にいうとみんなが自分のパートをすごく情熱的に演奏できたと思う。私は歌詞を書いたり、けっこうハミ出ちゃったりしたと思うけど、『でもボーカルだから当たり前じゃん?』みたいな(笑)」
古川「でも平家物語って、いろんな人が勝手に表現を足していくことに意味があって。写経のように写していった人たちも、歳月が経つうちに勝手にフレーズを足していったりしていたんですよ。だから足し算をするのは全然いいことだし、むしろやるべき。それが平家物語の魂ですから」
アヴちゃん「それ、絶対に面白いと思う! 言うなればアニメ化っぽいことを、ずっと昔からしていたってことですよね? 編曲みたいな、編み直しをしていたってことだから」
古川「なるほど(笑)」
アヴちゃん「でも『犬王』は、たぶんここで終わらないと思う。私はもう何回転かして、また膨れ上がっていく気がする。私自身、犬王と出会って『このままだったら犬王に憧れちゃう! 怖い!!』と思って、『犬姫』という曲を書いたので」
──女王蜂の楽曲『犬姫』は『犬王』からインスピレーションを受けていたのですね。
アヴちゃん「うん。劇中歌のレコーディングでブースに入って、『何か歌って』と言われたときに(劇中歌『独言』の歌い出しの歌詞である)“憧れになるその前に”って自然と出てきたんです、ポロッと。何も考えずに出てきたものだけど、それが本質だと思うんですよ。もし犬王があのままステージに立つことがなかったら、“憧れる”ということが“自分がダメだと思う部分をつくる”ということになっていたと思うんです。『こんな踊り、自分以外に誰ができる?』と思っていて、『でも、ステージに立つことは諦めなきゃ』とはならずに、『顔の横に手が生えているから、ここにカラクリをつくろうぜ!』みたいな気持ちになれる犬王は素敵だなと思って。そんな犬王の気持ちを歌ったときに、『憧れに対して中指を立てて表現をやってきた時期がある自分が、憧れになる前に飛び込めなかった人間だとしたら、憧れは犬畜生根性で食い破るものだな。でも私は“王”じゃなくて“お姫さま”だわ』と思ったんですね」
──『犬王』を観て影響を受けた若い世代が、今後『犬王』を超えるアニメーションを生み出そうと奮闘していくのかと考えると、未来がすごく楽しみです。
古川「そうだね」
アヴちゃん「そこまで思ってくださるの、うれしいです。私、試写会で(エンドロールの)最初に“アヴちゃん”って出た瞬間、泣いたんですよ『えぇっ!! 私、何もしてないよ?!……いや、けっこうしたかも』って(笑)。で、エンドロールが流れ終わったら、前のほうの席に座っていた十数人の人たちがグルッと振り返って『僕たちアニメーターなんですけど、すごい最高の声を入れてくれてありがとうございます!』と言ってくれて、『みんなが頑張ったからだよ!!』ってまた泣くみたいな(笑)」
古川「素晴らしい話だなあ」
アヴちゃん「もう本当に、『何もしてない』と思う自分がいると同時に、『作品に何かをもたらせた』と思う自分もいますね」
──古川さんも、作品に何かをもたらせたという実感ありますか。
古川「いや、ないよ(笑)。『血がつながっているはずなんだけど、他人みたいな人がいる』みたいな感覚で、それがすごく面白い。僕は血がつながっているから誰かが偉いとか、血がつながっているから守らないといけないという考えが大嫌いで。むしろ血がつながってないのに子どもみたいとか兄貴みたいっていうほうが好きだから、なんかそういう良い関係の他人になれたなって感動している」
時代に求められて生まれた、アニメ『平家物語』と『犬王』
──2022年1月からテレビアニメーション『平家物語』がオンエアされ、平家物語が単に戦乱を描いた作品ではないという本質の部分が世の中に浸透した上で『犬王』が公開されるのは、最高な状態ではないかと感じています。アニメ『平家物語』も古川さんの現代語訳版が原作でしたが、古川さん自身はこの現状についてどう感じていますか?
古川「自分が仕掛けたわけじゃないのに、ここまで広まったということは、必要とされるものが始まっているんだろうなと思う。それこそ、ロシアのウクライナ侵攻が始まって、例えばみんな今、反戦って言うかもしれないし、そういう行動を起こさなきゃって思うかもしれない。でも『平家物語』や『犬王』を観てもらえれば、そしたらもう『戦争イヤじゃん。さぁて、どうしたらいいべ? 何かする?』みたいな気持ちになると思う。なので求められているものを、自分が出したいと思うよりも先に世界が『今、世に出ろ』と言ってくれたような感じがしています」
アヴちゃん「素敵!」
古川「ここから『犬王』というアニメを観た人が原作である『平家物語 犬王の巻』を読んでくれたとしたら、章と章の間の白紙がちょっと残っているところで、思わずアヴちゃんの歌のメロディとか声を聞いちゃうわけですよね。声優だから顔は見えないけど、声がまるで平家の霊のようにページとページの間からにじんでくるとしたら『過去の物語だけど、常に今の声が君たちを応援しているよ』ってことになるし、そういった観られかた、読まれかたをしたらいいなと思う」
──古川さんによる原作やアニメ『平家物語』と、『犬王』に付随する作品が複数ある中で、それぞれの違いをどう楽しんでもらえたらアヴちゃんはうれしいですか?
アヴちゃん「やっぱり、ひとりの原作者の方がいる上で編まれたということが、すごく面白いと思います。私としては『平家物語』って儚い、世を儚むお話だったと思うけど、そこに描かれずに残らなかった人たちもたくさんいるし、(平家物語に)歌として編まれて残った者たちと、作品が現存していない犬王という違いもすごくあると思うし……どちらもすごく素晴らしい作品だけど、私はアニメ『平家物語』を観たあとに『犬王』を観てほしいかな。犬王は名前だけが歴史に残り、死んでからこんなに時間が経って『犬王』というとんでもないアニメーションが生まれたわけで。今は成功して名を成すということが大事とされているけれど、その名前と時間という捉え方がまったく違った作品になっていると思うんです。『平家物語』と『犬王』をセットで楽しめば、特に『犬王』はそうですけど、ただ“昔の話だもんね”だけじゃ終わらなくなる。ふたつの作品が、このタイミングで世に出ているということは、すごく必要があってのことのような気がします。今日も先行上映会の舞台挨拶があるんですけど、『犬王』は誰もが履修しないといけない作品だと思っているので、頑張って広めてきますね」
『犬王』
室町の京の都、猿楽の一座に生まれた異形の子、犬王。周囲に疎まれ、その顔は瓢箪の面で隠された。ある日犬王は、平家の呪いで盲目になった琵琶法師の少年・友魚と出会う。名よりも先に、歌と舞を交わす二人。 友魚は琵琶の弦を弾き、犬王は足を踏み鳴らす。一瞬にして拡がる、二人だけの呼吸、二人だけの世界。「ここから始まるんだ、俺たちは!」
壮絶な運命すら楽しみ、力強い舞で自らの人生を切り拓く犬王。呪いの真相を求め、琵琶を掻き鳴らし異界と共振する友魚。乱世を生き抜くためのバディとなった二人は、お互いの才能を開花させ、唯一無二のエンターテイナーとして人々を熱狂させていく。頂点を極めた二人を待ち受けるものとは――? 歴史に隠された実在の能楽師=ポップスター・犬王と友魚から生まれた、時を超えた友情の物語。
声の出演/アヴちゃん、森山未來、柄本佑、津田健次郎、松重豊
原作/『平家物語 犬王の巻』古川日出男(河出文庫刊)
監督/湯浅政明
脚本/野木亜紀子
キャラクター原案/松本大洋
音楽/大友良英
5月28日(土)より全国公開
inuoh-anime.com
©2021 “INU-OH” Film Partners
配給:アニプレックス、アスミック・エース
Photos:Takao Iwasawa Hair & Makeup:Mika Kimura(Avu-chan) Styling:Avu-chan(Avu-chan) Interview & Text:Miki Hayashi Edit:Sayaka Ito