ノルウェーの歌姫オーロラにインタビュー「人間は欠けているからこそ美しい」 | Numero TOKYO
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ノルウェーの歌姫オーロラにインタビュー「人間は欠けているからこそ美しい」

ノルウェーを拠点に活動するシンガーソングライターでプロデューサーのオーロラ(AURORA)。ビリー・アイリッシュやロード、トロイ・シヴァンといったアーティストからも称賛の声を集める彼女が放った2年半ぶりのニューアルバム『ザ・ゴッズ・ウィー・キャン・タッチ』は初のコンセプトアルバム。格段と多彩でエモーショナルになったサウンドで、我々人間とも通じる不完全で愛すべき存在=ギリシャ神話の神々をモチーフにした15篇の物語を紡ぐ。アルバムについて、またたゆまぬクリエイティヴィティについて、リモートで聞いた。

思わず踊りたくなる、愛に溢れたサウンドに

──アルバム『ザ・ゴッズ・ウィー・キャン・タッチ』は2曲目の「エヴリシング・マターズ」でポムをゲストで迎えたり、サルサやサンバのビートやシャンソン調のボーカルを入れたり、全体的に多彩でエモーショナルなサウンドが印象に残りました。音楽的にどんな進化をしようとしたんですか?

「私はずっと音楽自体にすごく真剣に取り組んできましたし、音楽を通して何かを発信する人に対してもすごく真剣に向き合ってきました。これまでは悲しいことや泣きたくなるようなことについて歌うことが多かったんですけど、今回は遊び心を込めたものをあえて作りたいと思ったんです。それで、レコーディングスタジオの中でも、踊ったり笑ったりしながら制作していきました」

──その遊び心というのは、アルバムに込めたという「人は生まれ持った個性を恥じらう必要はなく、謳歌するべきだ」という肯定的なメッセージと関係していますか?

「そうですね。自分が人と違うっていうことは全く恥じる必要がないもの。もしかしたら自分は美しくないのかもしれないとかかわいくないのかもしれないと思ったり、自分は少し繊細でシャイなのかもしれないと思ったりするかもしれない。

でも、そういったことはすべてが人間にとっては自然なことです。自分を解放して自由になることが幸せになれる鍵だと思うし、それによって生きることを謳歌することができると思うんです。そのためにはまず自分を愛することが大事。自分を愛せたら、友達とも良い関係が築けますよね。

また、生きていくなかで、例えば見た目や信仰、セクシュアリティなどでマイノリティであることに対して人から憎しみを投げかけられたりすることもありますが、それに対抗する最善の方法も愛だと思うんです。愛があれば憎しみをこの世界から消し去ることができる。

あと、もうひとつ大事だと思うのはダンスすること! それもあって今回のアルバムは思わず踊りたくなる、肉体に直接訴えかけるような作品にしました。そういったサウンドが愛につながると思っています」

──そういったポジティブな進化を遂げられたのはなぜだったんですか?

「アルバムの曲のテーマはかなり重いものが多かったんです。人を愛する権利や生きる権利、あとは信仰の権利だったり、いろいろなことに触れてるんですが、特に宗教に興味を持って。人間は宗教の名のもとに、良くも悪くもいろんなことを行ってきましたよね。

ある種の重さを軽やかに音楽で伝えたかった。対比を大事にしたかったんです。

それで必然的に、遊び心のある音楽に目がいったところもありました。あと、自分への贈り物としてライブの時にシリアスな曲だけでなく、踊れる曲があったら良いなって思ったところもあります」

──ノルウェーのローゼンダールのお城を借り、そこにある古い馬小屋をレコーディングスタジオにして曲を書いたそうですが、その環境での制作はどんなインスピレーションになりましたか?

「私に限らず、多くの人が自分のいる場所から影響を受けて自己を形成していくと思うんですが、やはり大きな影響がありました。そもそも今回のレコーディングスタジオは静かでタイムレスな場所がいいなあと思ったことが始まり。

実際ローゼンダールのお城に泊まっていると、2020年代とは思えず、まるで17世紀に戻ったような感覚になりました。長い歴史を感じるだけでなく、精霊や時には幽霊の存在も感じる場所で。アルバムは人間の悠久の流れをテーマとしている部分もあるので、すごくつながりを感じました。

何より、雄大な山々に囲まれて庭もあって、大自然に守られているようなシチュエーションは今まで私が滞在した場所で一番美しい場所だと感じました。今回のアルバムはあの場所でなければ作れなかったと思います。

音楽を作る時はできるだけ集中したいので、なるべく生活音から切り離した場所に身を置きたい。そうすることで内なる自分に向き合うことができて、より普遍的で神々しいものが生まれてくるんです」

──「ヒーゼンズ」は人間に自由意志をもたらしたと言われる“イヴ”や彼女のような女性に敬意を表した曲であるとのこと。特に女性をエンパワメントする曲に聴こえましたが、それについてはどう感じますか?

「この曲は割と難解な曲ですよね。おっしゃる通り、この世における最初の女性であり母親のイヴに捧げた曲です。そして、これまでの歴史のなかで、完璧でないという理由で愛されることができなかったり、生きている価値がないとされてしまったすべての子ども達について歌っています。

人間って、どこか欠けている部分、人間らしさがあるからこそ美しい。でも、特に私たち女性は、思考することや意見を上げること、自分の性を表現すること、すべてにおいて恥だとされてきた歴史があって。持つべき当然の権利を自ら立ち上がって掴まなきゃいけない状況というのはすごく不思議なことだと思います。

『ヒーゼンズ』は女性のみならず、敬意を払ってもらえなかったすべての人たちに対する賛歌なんです」

リモートインタビュー中のオーロラ。ときには踊ったりしながら、表情豊かにインタビューに応じてくれた。
リモートインタビュー中のオーロラ。ときには踊ったりしながら、表情豊かにインタビューに応じてくれた。

──楽曲のみならずMVやアートワーク、多くのことから豊かなクリエイティヴィティを感じる作品ですが、オーロラにとって作品制作というのはどういう作業なんでしょう?

「人間にとってのモノ作りというのは、音楽、アート、食べ物もそうだと思うんですけど、全部が人と人をつなげる行為だと思うんです。世界には私たちを分断するものがたくさんある。そのなかで、例えば踊ることや音楽を愛することは、国や地域や人種関係なくみんなが同じように感じられ、それらを通してひとつになれることだと思います。

私たち人間が文化を持ち、文明を築いていることは奇跡のようなもので。なかでもやはり音楽は、人間のもつ本質的な感情や情緒を表していて、昔から人間は歌を歌ったり踊ってきました。赤ちゃんを寝かすために歌ったり、誰かの死を悲しむために歌ったり、生まれてきたことを祝うために歌ったり。生活のなかで自然と音楽が存在していて魂の根底にある。

生きるのってエクストリームスポーツ並みに大変だと思うんですけど(笑)、私にとって音楽はいろいろなことにぶつかりながら生きるなかで、その都度自分が人間であることを理解するためのものです。だから作品作りを辞めることは絶対にないし、私が生きる目的だと思っています」

『ザ・ゴッズ・ウィー・キャン・タッチ』
各種配信はこちらから
通常盤(CD)¥2,750
2022年1月21日リリース(ユニバーサルミュージック)

Interview & Text:Kaori Komatsu Translation:Yuriko Banno Edit:Mariko Kimbara

Profile

Auroraオーロラ ノルウェーのシンガーソングライター。2016年に1stアルバム『All My Demons Greeting Me As A Friend』を発売すると、その壮大なサウンドが数々の音楽メディアから称賛を受け、本国ノルウェーのアルバムチャートで初登場1位を獲得。19年にはディズニー映画『アナと雪の女王2』では“不思議な声”役として声の出演を果たし、劇中歌「イントゥ・ジ・アンノウン」にもフィーチャリング参加。2019年に行った初来日ツアーは即日完売し、日本での凄まじい人気ぶりも見せる。日本の熱いファンの思いに応え、2021年9月開催のSUPERSONIC出演のために再来日を果たした。

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