ジェーン・スー、堀井美香、鏡リュウジ鼎談「私たちが占いに夢中になる理由」 | Numero TOKYO
Interview / Post

ジェーン・スー、堀井美香、鏡リュウジ鼎談「私たちが占いに夢中になる理由」

人気ポッドキャスト番組『OVER THE SUN』でお互いを占ったエピソードが話題になったコラムニストのジェーン・スーとTBSアナウンサーの堀井美香。なぜ占いは私たちをこんなにも魅了するのか、占いを多角的に研究している占星術研究家の鏡リュウジとともに探る。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2022年1・2月合併号掲載)

【プロフィール】

鏡リュウジ
(かがみ・りゅうじ)占星術研究家、翻訳家。京都文教大学、平安女学院大学客員教授。占星術の第一人者として雑誌やテレビ、ラジオなど幅広いメデイアで活躍する。11月1日に発売された『ユリイカ2021年12月臨時増刊号 総特集=タロットの世界』(青土社)では責任編集を務めた。

ジェーン・スー
作詞家、コラムニスト、ラジオパーソナリティ。『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎)で第31回講談社エッセイ賞受賞。近著に『これでもいいのだ』(中央公論新社)『女のお悩み動物園』(小学館)ほか多数。ラジオ番組『ジェーン・スー 生活は踊る』(TBSラジオ)に出演中。

堀井美香
(ほりい・みか)TBSアナウンサー。『バナナサンド』をはじめTBS系列のテレビ番組で多くのナレーションを担当。TBSアナウンサーによる朗読会『A’LOUNGE(エーラウンジ)』のプロデュースも。著書に『音読教室 現役アナウンサーが教える、楽しくてうまくなる音読テクニック』(カンゼン)。


──『OVER THE SUN』でもお互いに占い合ったりされているお二人ですが、そもそもの占い血糖値は高いほうですか?

ジェーン・スー(以下J)「雑誌の星占いをチェックする刷り込みはされている世代なので、例えばLINEなんかでも登録している女性誌から占いが流れてくると、一応自分のところは見ます。ただ都合のいいところだけを信じて、都合の悪いものは読まなかったりする。基本的には自分のところを読んで、『イイ感じ!』と背中を勝手に押されて前進したい。そのためのツール的な感覚です」

堀井美香(以下H)「私は性格的にもあまり悩んで立ち止まることがなかったんです。自分で『この道を行こう』と決めて突き進んでしまうタイプなので、占いに何かを委ねることもなければ、朝の情報番組の占いを見るようなこともしてこなかった」

「ただ今回あなたが唐突に言い出したんですよ(笑)。『次回の番組ではお互いを占いましょう』って」

鏡リュウジ(以下K)「占いにあまり興味のない堀井さん発信の企画だったんですね。心境の変化でもあったのでしょうか?」

「なんでしょうね。私はもうすぐ50歳になるんですけど、この先10年どうなるんだろうという意識が頭をかすめたりしたので、その思いが口に出てしまったのかもしれません。例えば30歳、40歳になるときは子育てや仕事など、自分のなかでやることが決まっていたので、先のことに対して考えることがあまりなかった。ところが人生のまとめの時期に入ってきたからでしょうか? 最近、自分の考え以外の予測が欲しいなと思うようになった気がします」

「占いってブラックボックスから出てくる突拍子のない答えだからおもしろいんですよね」

「しかも占ったら楽しいんです。ぼんやりしたものを輪郭づけてくれるというか、今まで自分の頭の中で考えていたこと以外のことを教えてくれる。自分の道は決まってはいても、その決定事項にアドバイスや新たな視点をくれる感じがして、とてもいい糧になることが分かった。家庭のことなんかもいろいろと占ってみたいなと思い始めている。今すごく興味が湧いているところです」

「エンターテインメントとして楽しめるのがいいですよね。あと、実行するか否かは別として、『あなたはこうなります』とか、誰かに言ってもらったり決めてもらったりすると楽になる。『今は調子が悪いときです』と書いてあれば、『そっか、私のせいじゃないんだな』と思える、ひと休みの止まり木になる。実際にどうなるかは分からないけれど、それを読むことでガス抜きができるんですよね」

「おっしゃる通り、エンターテインメントとして楽しむというのが、占いとの良いつき合い方だと思います。占いの強さは時間のファンタジーを与えることができる点にあるんです。悩んで落ち込んでいても、『来週の水曜日からは運気がアップするでしょう』といった風に。そもそも我々現代人も占い的感覚をいまだに持っているってご存知ですか? 例えば最近の話で言うと、2019年に天皇陛下が即位宣言を行った『即位礼正殿の儀』で、当日悪天候だったものの、儀式が始まる直前に雨がやみ、虹が出たんです。NHKですら『虹が出た』という報道をした。その光景を見て誰もが『幸先が良い』と思ってしまったんですけど、それこそがまさに占いなんです。虹は科学的な説明がきちんとできる現象であり、それが『即位礼正殿の儀』の直前に見えたのはたまたまでしかない。ところがその2つの事象がシンクロして起きたことで、我々は当たるかどうかは別として「幸先がいい」という強い感覚を持ったんです」

番組発のオラクルカードが100年後には貴重資料に⁉

──占いにはさまざまな種類があります。占星術やタロット、四柱推命、『OVER THE SUN』でも番組のオリジナルを制作中のオラクルカード……。どの占いが当たる、当たらないというのはあるのですか?

「どの占いが当たるのかという問いに対する僕の答えは、『どれも同じ』です。なぜならどの占いに関しても、『この占いがこれだけ当たる』という統計的なエビデンスがないから。だからオラクルカードも、コインを投げて運勢を占うのも理屈的には同等なんです。占いの基本的な発想って、ユーミンの歌じゃないですけど、『目にうつるすべてのことはメッセージ』という人間の原初的な感覚を体系化していったものなので、『どれがいい』というのがないんです」

「自分と相性のいい占いを楽しめばいいんですね」

「その通りです。ただ、占いの中でも西洋占星術や易といった伝統的な占いとなるとちょっと別格。的中率という意味ではありません。歴史が長く、西洋占星術は西欧の、易は東アジアの思想や世界観の基幹部分と深く関わっているからです。ちょっと大げさにいうと、占星術を知らないとシェイクスピアもルネサンス美術も深くは理解できません。東洋においてもそうですよね。『易経』といえば、儒教の根本経典のひとつだったわけでさまざまなところに深い影響を与えています。面白さや厚みが、歴史のある占いにはあるんです。残念ながらオラクルカードにはまだそれがない。でもあと100年したらそれができると思うんです」

「『OVER THE SUN』で作るオラクルカードも、ひょっとすると100年後にはものすごい意味のあるものになっている可能性も?」

「もちろんです。だってこれはリスナーの皆さんから募集して作るわけですよね? 投稿される多くの方は女性だと思うんですけど、ということは今の時代の女性たちが考えていることが集約的に表れるカードになる。そうすると100年と言わず、10年、20年後にものすごく貴重な資料になるわけじゃないですか。ジェンダーの問題なども含め、ここ数十年の間に価値観の激変があったように、この先10年でまたなにかが大きく変わるかもしれないですよね」

「よし、真剣に選んでいこう!」

「本当、責任重大」

「時代に合わせた変化で言うと、読者層が少し上の世代になる『婦人公論』のような雑誌では、占いに『恋愛運』がないんですよ。恋愛に重きを置いていないから。それよりも『金運』の方を重んじている。導き出される答えは同じなんでしょうけど、メディアによって解釈や伝える部分が変わってくるところがおもしろいなと思って読んだりしています」

「実はそれは若い子の雑誌にも当てはまるんです。今は若い子向けの雑誌でも昔ほど『恋愛運』にフォーカスをしなくなりました」

「恋愛の価値がかつてほど高くなくなったことの現れなんでしょうね。私も若い頃は『恋愛運』しか見なかっだろうに、今は「金運」の方にしか目がいきませんから」

「(笑)。今は『金運』と今後のことを相対的に占う『人生運』が人気です。景気が悪くなっているので、未来に不安を感じている人が大勢いらっしゃるんだと思います」

2022年、時代はディスタンスから融合へ

──鏡さんから見て、22年はどのような年になりそうですか?

「木星が海王星と一緒に魚座に入るので、魚座的なものが強くなります。今までは水瓶座が強かったので透明なブロックがありましたが、それが一気に溶解してくる。ディスタンスから融合の時代という流れです。ですから多くの人たちが旅行に出かけるようになるでしょうし、アーティストの方々が作りためてきたものがドバッと世に出てくる可能性もある。アート大豊作の年になるかもしれないなと思っています。ちなみにジェーンさんは何座ですか?」

「牡牛座です。来年は自分の人生の回転数を仕事の量で回さずにやっていく方法を考えたいなと思っているんです。だからといって撤退をしたいわけではない。今の感じで人生をもっと充実させる、時間的、内容的に充足させるにはどうしたらいいのかなというのを模索したいなと思っています」

「自分のペースをつかみたいというのは、とても牡牛座らしいです。時間も仕事も、それこそ食べ物も、自分のペースでじっくりと味わっていく星座ですから。22年の牡牛座は友だちや横のネットワークに広がりができる年です。ただそれが開くのが23年なので、22年の終わりから23年にかけて徐々に良くなっていきます」

──『OVER THE SUN』のオラクルカードをめくるなら22年はどんなカードが出て欲しいですか?

「リスナーのみんなと楽しく笑っていられたらいいなと思っているので、私は『笑い』です」

「私は『選択』。コロナ禍でテレワークや都心から離れて暮らしながらこれまで通りの仕事を続けるなど、色々な選択肢が出たので、来年は『こういう働き方をする』と自ら表明できる、一歩先に進める年になったらいいなと思うんです。せっかく働き方も多様化されてきたのに、あっという間に元に戻ってしまってはもったいないですから」

「堀井さんは何座なんですか?」

「牡羊座です」

「『表明』や『選択』といった強さはいかにも牡羊座。お二方とも実は星座のキャラのそのままですね。そんな牡羊座ですが、22年後半は12年に一度の幸運期になります」

「ええーー? 12年に一度? そうなんですか? 嬉しい!」

「あなたやばいじゃない。占いに興味がないとか言いながら、来年の後半に運気があがると言われてグッと心をつかまれて前のめりになってる。これが占いの力なんですよ」

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Photo : Harumi Obama Interview & Text : Rieko Shibazaki Edit:Naho Sasaki, Mariko Kimbara

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