『ビルド・ア・ガール』原作・脚本のキャトリン・モランにインタビュー「間違いを認めて1からやり直すことこそ強さ」 | Numero TOKYO
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『ビルド・ア・ガール』原作・脚本のキャトリン・モランにインタビュー「間違いを認めて1からやり直すことこそ強さ」

10月22日(金)から全国で公開予定の映画『ビルド・ア・ガール』。イギリスでジャーナリスト、作家、司会者として活躍するキャトリン・モランの半自伝的小説「How to Build a Girl」(未邦訳)を「ブリジット・ジョーンズの日記」シリーズの製作陣が映画化し、『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』のビーニー・フェルドスタインが主演を務める注目作だ。 原作・脚本を手がけたキャトリン・モランに、本作の日本プレミアで司会も務めた映画・音楽MC/ライターの奥浜レイラがZoomでインタビュー。本作に込めた想いやキャトリン本人の失敗と成長のエピソード、音楽業界の変化などについて聞いた。

キャトリン・モラン。Zoomにてフレンドリーにインタビューに応じてくれた。
キャトリン・モラン。Zoomにてフレンドリーにインタビューに応じてくれた。

ワーキングクラスの女の子がどうお金を稼ぐのか

──原作は、16歳の高校生ジョアンナが偽名を使って音楽ジャーナリストとしてデビューし、その辛口ぶりが評判になる中で「本当の自分とは何か?」を模索し奮闘する姿を描くキャトリンさんの半自伝的小説です。さまざまなエピソードからなる原作を105分の青春映画にするため、大切にしたのはどのようなテーマでしたか?

「それはいい質問ですね。確かに、エピソードを選んで重要なテーマを凝縮する必要がありました。まず今作では、ワーキングクラスの女子がどうやってお金を稼ぐのかを描きたかったんです。若い女性が主人公の映画というと恋愛や外見的な変身がテーマになりがちですが、現実には何をして暮らしを立てるかは大事なことなので、そこはしっかり見せたかった部分です。

2つめは、思春期ものの作品では仲間たち、親友との関係性が描かれることが多いですが、友達がいない子、友達を探している子だって存在します。私もそうでした。友達がいない子にとっては、自分のヒーローが友達がわりになる。今回は、ジョアンナが自分の部屋の壁に尊敬する偉人を飾った“GOD WALL(神の壁)”というのを登場させて、壁の偉人たちがアドバイスをくれるという設定にしました。

3つめは、男女が出てくる青春ものではその2人がカップルになる未来を想像して楽しむ側面もあると思うけれど、今作はそれを覆したかったんです。主人公に彼氏ができることがハッピーエンディングのストーリーである必要はなくて、友人になった方が手助けになることだってありますよね。年齢差についても、他の映画で『君は若すぎるから付き合えないよ』という台詞を私は聞いたことがないんですが、実際にはそうあるべきだと思います。だからその台詞を入れたかったんです」

──現実でもロマンスが生まれるより、友人関係になる経験の方が多いですよね。

「その通り! 実は、次に構想している作品は、男性と女性が最高の友人同士になる物語。『恋人たちの予感』のように恋愛に発展する友情物語ではなく、異性間の友情を描きたいと思っています。

それから主人公はプラスサイズですが、それについて触れることのない映画にしたいとも思っていました。私の次女が拒食症を患った経験から、『ありのままの自分が美しい』というメッセージのある映画にしたかったんです。レベル・ウィルソンやメリッサ・マッカーシーなどのプラスサイズの俳優が映画に出演すると『ファット・エイミー』というキャラクター名だったり、ジョークのネタになっていることも多いけれど、あえて全くネタにならない、触れられることもない映画にしました」

──ジョアンナを演じたビーニー・フェルドスタインさんの印象はいかがでしたか?

「彼女は美しくてユーモアがあって、お日様みたいな人。一緒にイベントに出演した時も、そこにいる女性たちがみんな彼女に夢中になっていました。純粋な喜びに満ちている女性で、ダークなバックグラウンドを感じない女性。世の中にはそういう人って少ないですから、今作での彼女の存在、役柄は女性たちの癒やしになると思います」

──撮影前にビーニーさんから役について聞かれたことはありましたか?

「10代の頃、自分の考え方や行動を日記に記していて、最初はそれを見せて欲しいと言われました。ただそれを見せることで私をトレースしたような役になることは望んでいなくて、彼女が思うジョアンナを演じてほしかったから見せなかったんですね。

16歳の無垢な少女から奔放な姿に変化して、そこから本当の自分を模索するジョアンナを演じるのは難しかったはず。私自身はたくさん失敗してきたけれど、ビーニーは彼女にしかできないジョアンナを見事に演じてくれました」

「エド・シーランには何度も謝った」

──90年代の音楽ジャーナリストとミュージシャンの関係性についても描かれています。当時と現在とで音楽シーンを取り巻く状況の変化は感じますか?

「まず、90年代はインタビューをするとなると2日間くらい行動を共にして、一緒にお酒を飲みまくって時間を過ごしたんですが、最近はホテルで20分くらい取材をするなど関係があっさりしていますね。ただ最近でも例外はあってレディー・ガガをインタビューした時は、一緒にお酒をしこたま飲んだりセックス・クラブに行ったり、並んで用を足したりもしました。

ジャーナリストの変化でいうと、攻撃的なレビューが減ったこと。SNSの普及によってアーティストのファンが目にする機会が増えたことが大きいでしょうね。少し前ですが、テイラー・スウィフトについてネガティブに書いた時は200万人の彼女のファンから攻撃されて大変なことになり、人に対してひどいことをしてはいけないと自分も学びました。

12年前くらい、まだそれほどメジャーではなかったエド・シーランがテレビに出ているのを観て、『自分の子供がもしファンだったら、袋詰めにして湖に沈める』というジョークをツイートしたことがあったけれど、今は彼の音楽が好きだし、セクシーでクールだと思っています。もしあの時、彼に対して優しいツイートをしていたら今頃一緒にプライベートジェットに乗っていたかもね」

──映画の中で、過去の記事についてミュージシャンに謝罪をして再出発をするシーンがあります。過ちを認めてやり直す姿勢に共感したのですが、素直に謝ることができない人も多いと感じますし、ジョアンナの行動から学ぶことがありました。

「そんな人には、自分が悪いことをした時に謝ればまず自分がスッキリすると伝えたいです。私もエド・シーランに何度も謝っていますよ。今まで私が書いた中で一番ひどかったのは、イギリスのネッズ・アトミック・ダストビンというバンドのアルバムのレビューだったのですが、『このバンドは死んだも同然』『まるでお葬式』のような内容でした。掲載後にボーカリストの母親から連絡がきて『レビューを読んだ息子が泣いている』と言われ、彼女にもボーカリストにも謝ったことがあります。そうすると自分自身も気持ちが少し軽くなりました。

社会の中で、自分が変わらないということが強さだと思っている人が多いですよね。映画の中のジョアンナが言う『私たちは人生をかけて、自分を作り上げている』というセリフはその通りで、うまくいかなかったら何度でもやり直せばいい。人は常に変わり続けていて、その度に新しい人間になるのだから、変わることを否定して頑なになるのは時間の無駄。間違いを認めて1からやり直すことこそ強さだというのも、この映画で伝えたいことです」

物事をうまく進める唯一の道はそのままの自分でいること

──90年代の音楽ジャーナリストの中で、ジェンダーによって求められるものの違いはありましたか?

「当時は女性のジャーナリストも男性のように振る舞わなければいけないという風潮でした。攻撃的な男性、威圧感のある人も多かったですし、女性のジャーナリストが『このバンド最高! かっこいい!』と感じたまま表現することはできず、男性に合わせているところがありました。

男性は“本質的なかっこよさ”を分かっていて、それは女性に理解できないという考え方がありましたが、間違っていますよね。ビートルズだって10代の女性があれだけ愛したことでそのスター性が世界的に広まったのですから、歴史が証明しています。

当時の男性ジャーナリストが評価していたバンドで今も活動を続けている人たちは少ないですし。私が昔から好きだったABBAやマドンナ、カイリー・ミノーグ、ペット・ショップ・ボーイズなどは今も素晴らしい曲を発表しています。音楽の趣味が一番いいのは10代の女の子とゲイの男性、とも言えますね」

──クイーンの世界的な成功に火をつけたのも、日本の女性たちという話がありますよね。

「男性にとって『なにがイケてるのか?』というリストがあって一定のルールがある印象ですが、女性はあまり縛られていないように感じます。何かに惹かれる気持ちに素直なんでしょうね」

──そう感じることは今もありますね。また本作では、ジョアンナが自分なりのやり方で男性社会をサバイブしている姿が印象的でした。日本の女性たちは、怒らない、自分の意見を主張しないなどわきまえた態度をとることが美徳とされていて、“プリンセス”になることを望まない女性、自立した女性が生きづらいと感じることも多いのですが、そんな社会で女性はどんな態度でいたらいいと思いますか?

「まずは仲間を見つけられるといいですね。同じ想いを共有する女性、男性、ゲイの男性たちと連帯して、遊んで、話をして、マガジンを作るのもいいかも。仲間の存在を感じると、自分の意見を表明しやすくなったり、攻撃されても独りじゃなければ強くいられますよ。

私がティーンの頃、意見を言うとイギリスでも『女子は黙ってろ』と嗜められたました。でもその50倍くらいの女性たちから私の意見に賛同する声が届いたんです。

ひとつ大きな秘密をシェアしますが、自分のキャリアを築くうえで男性が気に入るものを書かなければ物書きとして求められなくなってしまうと、30代まで思い込んでいました。

でもそんなことはないと気がついたんです。人口の半分は女性だし、これから女性に向けて書くだけでも十分じゃない?と。実際に、私は女性に語りかけるだけで何百万ポンドと稼げているんですから!」

──それから、自分が何者かを他人に決めさせないことの大切さ、本当の姿を自分が受け入れることについても描かれていますよね。誰かが望む役割を演じることを社会から求められて、感じたまま振る舞うことを封じる日本の女性は多いと感じていますが、そのようなことで苦しむ女性に声をかけるとしたらどんな言葉ですか?

「これまでの経験から、他人が望む誰かのふりをしても長くは続かないと痛感しています。そのままの自分でいることが物事をうまく進める唯一の道。自分以外の人物になることはできないのだから、自分でいることはある意味得意なことでもあるはずです。別人格になろうとして何度も失敗してきた私が言うんですから確かですよ」

『ビルド・ア・ガール』

1993年、イギリス郊外に家族7人で暮らすジョアンナは、底なしの想像力と文才に長けた16歳の高校生。だが学校では冴えない子扱い。そんな悶々とした日々を変えたい彼女は、大手音楽情報誌「D&ME」のライターに応募。単身で大都会ロンドンへ乗り込み、仕事を手に入れることに成功する。だが取材で出会ったロック・スターのジョンに夢中になってしまい、冷静な記事を書けずに大失敗。編集部のアドバイスにより“嫌われ者”の辛口批評家として再び音楽業界に返り咲くジョアンナ。過激な毒舌記事を書きまくる“ドリー・ワイルド”へと変身した彼女の人気が爆発するが、徐々に自分の心を見失っていき……。90年代UKの音楽業界に単身で乗り込む、ティーンの奮闘を描いた青春エンパワーメントムービーの誕生!

原作/キャトリン・モラン著「How to Build a Girl」
脚本/キャトリン・モラン
監督/コーキー・ギェドロイツ
製作/アリソン・オーウェン『ウォルト・ディズニーの約束』『エリザベス』、デブラ・ヘイワード『レ・ミゼラブル』『ブリジット・ジョーンズの日記』シリーズ
出演/ビーニー・フェルドスタイン、パディ・コンシダイン、サラ・ソルマーニ、アルフィー・アレン、フランク・ディレイン、クリス・オダウド、エマ・トンプソンほか
配給・提供/ポニーキャニオン、フラッグ
10/22(金)より新宿武蔵野館ほかで全国ロードショー
© Monumental Pictures, Tango Productions, LLC, Channel Four Television Corporation, 2019
buildagirl.jp

Interview & Text:Layla Okuhama Edit:Mariko KImbara

Profile

キャトリン・モランCaitlin Moran イングランドのジャーナリスト、作家、テレビ司会者。1975年生まれ。91年、16歳のときに週刊音楽雑誌『メロディ・メイカー』で働きはじめ、18歳でポップミュージック番組『ネイキッド・シティ』の司会を担当した。『タイムズ』誌のコラムニストとしてテレビ批評家をつとめる他、一番読まれているコーナーであるセレブリティ諷刺コラム「セレブリティ・ウォッチ」を連載中。邦訳されている著書に『女になる方法 ―ロックンロールな13歳のフェミニスト成長記』(訳/北村紗衣、発行/青土社)がある。
奥浜レイラLayla Okuhama 映画・音楽パーソナリティ、ライター。東京国際映画祭などの映画祭や舞台挨拶、サマーソニックなど音楽フェスティバルで司会として活躍中。ライブのレポートやディスクレビューなどを手がける音楽ライターでもある。テレビ神奈川『洋楽天国EXXTRA15』に出演するほか、ポッドキャスト番組『洋楽ハッスル+Pl us』『奥浜レイラのカルチャークラブ』も配信中。

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