瀧内公美 × 河合優実インタビュー「正しさをめぐって」 | Numero TOKYO
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瀧内公美 × 河合優実インタビュー「正しさをめぐって」

正しさとは何だろう? 自分の中にある正しさは行動や発言の土台になるだろうし、物事を判断するものさしにもなるだろう。でも、正しいと信じていたものが突然、足元から崩れてしまったとしたら? その問いを提示するのが、春本雄二郎監督の最新作映画『由宇子の天秤』だ。主人公はドキュメンタリーディレクターであり、父親の学習塾を手伝う講師の顔も持つ、木下由宇子。“メディア”と“教育”という正しさを求められる環境で生きる由宇子はあるできごとをきっかけに、自身の矛盾を突きつけられる。

由宇子を演じるのは、映画『火口のふたり』(2019)でキネマ旬報ベスト・テンで主演女優賞を受賞した瀧内公美。ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』(2021)、映画『花束みたいな恋をした』(2020)など話題作に出演し、知名度を上げている。劇中で格となる女子高生、小畑萌を演じるのは『アンダードッグ』(2020)、『佐々木、イン、マイマイン』(2020)、『サマーフィルムにのって』(2021)など、2019年のデビューからオファーが絶えない河合優実だ。今、熱い注目を集める二人に互いの印象から、演じること、表現の世界に魅せられる理由などを聞いた。

動く人、強い人

──今回初共演となりましたが、お互いの第一印象は?

瀧内公美(以下、瀧内)「河合さんとはリハーサルで初めてお会いしたのですが、感性や発想力が豊かで、とにかく体が動く人だなと思いました。俳優を始めて間もない頃にこの作品の出演が決まったということでしたが、最初ってどうしたらいんだろうって体が固まると思うんですよ。河合さんはそれがなくてすごいなと。『何かやってるの!?』って思わず聞きました(笑)」

河合優実(以下、河合)「私、全然覚えてなくて(笑)。どう動くか、どう演技したらいいのかを知らなかったし、逆に経験がなかったから迷いがなかったのかもしれません。瀧内さんの第一印象はすごく気丈な方。映画が好きという気持ちもすごく感じました。映画祭に足を運んで自分に合う監督を探されていて、春本監督の作品に出演したいと直接申し出たことから、今回の作品につながったと聞いて、その行動力がすごいなと思いました。自分が信じるものがある。そういう強い想いを抱く姿は由宇子という役とも重なりました。ただ、瀧内さんはそれだけじゃなくて、とても楽しい方ですし、一緒にいると安心します。別の作品でも共演させていただいたのですが、『瀧内さんが現場にいると明るくなるよね』って出演者の方と話してたんです」

瀧内「えぇ!うれしい」

河合「強い部分と明るい部分、両方を持ち合わせているところに俳優として憧れます」

瀧内「そこまで褒めてもらえるなんて。私、(河合さんに)何も渡してないですからね(笑)」

──わかってます、大丈夫です(笑)。瀧内さんは意識的に明るく振る舞うようにされていますか?

瀧内「この作品の撮影後、新型コロナウイルスが拡大し始めて、とにかく楽しく生きて免疫上げたいっていう気持ちが強くなったんですよね、単純なんです(笑)。笑うと免疫力が上がると聞いたので、自粛期間中はYouTubeでよくお笑い動画を観ていました」

──何かお気に入りのチャンネルが?

瀧内「やっちゃんっていう47歳バツイチの方のキャンプ動画にめちゃくちゃハマりました。普段の生活も動画で上がっているんですけど、小津安二郎監督の映画を見たような気持ちになるんです。あと、あしなっすさんっていう97歳のおじいちゃんとふたり暮らしている芸人さんの動画もよく観てます。お二人の会話が漫才を見てるようでおもしろいし、時折“自分は日本人としての心を忘れてたんじゃないか”とハッとします」

──河合さんはYouTube観ますか?

河合「はい。昨年の自粛期間中は、リモートでコントをされている芸人さんも多かったので、よく観てました。ジャルジャルの『リモート面接でたぶん寝転んでる奴』というコントが最高なんですよ。寝転びながら面接を受けてるんですけど、面接官に『お前寝っ転がってるよな?』って突っ込まれるっていう」

瀧内「ははは。それおもしろいですね(笑)」

わかりやすくしない、ということ

──瀧内さんは春本監督に直接「作品に出たい」と申し出たことから起用につながったそうですが、河合さんは春本監督のワークショップに参加されたことがきっかけになったと伺いました。

河合「はい。監督はワークショップに参加した俳優に対して『なるべく外からの情報、SNS、映画、本などに触れず、自分の中にあるもので何ができるかを確かめる3日間にしてください』とおっしゃったんです。自分で考えて演技を披露するんですけど、私が怒りを爆発させてペットボトルを投げる演技をした時、春本監督は『途中までものすごくよかったのに、ペットボトルを投げるのだけは許せない』と。『感情が爆発して、ものを投げるという行為はこれまでもう何十回、何百回とされてきた典型的な芝居で、それだけはしてほしくなかった』と言われて、それが今思い返すと今回の指針になったというか、監督が何を求めているのかが掴めた気がしました。わかりやすくやらなくていいんだって」

──“わかりやすくやらない”というのは、ものすごく難しいように感じます。

河合「演技としてのテンプレートをことごとくやらずに、”普通の人間だったらこう動くだろう“という感覚だけに沿っていくというか。その感覚も自分の主観でしかないのですが……。俳優として歩み出した1年目にこの作品が決まったので、何が正解かわからなかったし、今もわからないままですが、でも、映画の中に萌がきちんと“いる”ように見えるのは、瀧内さんや光石さん、監督に助けてもらったからだと思います」

──この作品はクランクイン前にリハーサルを1週間行い、芝居やカメラワークをほぼ完成させた上で撮影に臨まれたそうですね。それはかなり特殊ケースだと伺いました。

瀧内「はい。私もリハーサルの時点でキャラクターを造形し、全シーン作り上げてしまうという経験は初めてでした。リハでキャラを掴めないと、現場でくずれてしまうから、とにかく見つけなくては、と焦りもありました。ほぼ全シーン、リハーサルで声の出し方や動きもすべて固めたのですが、あえてリハをやらなかったのは2シーンくらいだけで、電車から降りて歩くというシーンもリハでしっかりやりました。なんでもないような場面に思いますが、監督からは『由宇子ってそう歩きますか?』と鋭い指摘が入ることもあって」

河合「私は自分の出るシーンしかリハをやってないですけど、瀧内さんはほぼ全シーンに出てるから大変でしたよね」

瀧内「すごく苦しかった(笑)。でも、自分が春本監督とやりたいと思ってやらせてもらっていることなので、もうやるしかないですよね。現場をとめないようにやるしかない。ただただそういう想いでした」

──お二人はそれぞれ自分の役をどう思いましたか?

瀧内「由宇子はドキュメンタリーディレクターとして真実を伝えなければと思っている人で、それが自分の使命であり、正義としている。でも、その真実は自分の主観であり、当事者の真実と差異が生じることもある。真実を伝えることが正義になってしまうが故に、自分の真実が崩れる時、軸が揺らぎ、バランスを崩していく脆さがある。また、親が営む塾を手伝う講師の面も持っていて、子供たちの未来、教育の大切さ、人との関わりも大切にしている。その気持ちが強くて摩擦も起きるのですが……。とにかく想いが強い人なのだとは思いました」

──河合さんが演じた萌はどうでしょうか?

河合「劇中の萌は、塾と家にいるシーンがほとんどでしたが、それ以外の場所、たとえば学校ではどういうポジションの子なんだろうということを考えていました。いじめられてはないにしろ、“さんづけ”で呼ばれてるのかなとか。家も塾も学校もどこに行っても、ひとりぼっちだったような気がするんですね。親とも心の底から繋がれてないし、萌はずっと自分には何かが足りないと思っていて、確かなものがないんじゃないかと」

──由宇子は自分が信じる真実を絶対だと思う“揺るがなさ”があり、萌の“定まらなさ”と対比されて、二人のキャラクターを際立たせているように感じました。さて、先ほどリハーサルの話が出ましたが、ハードなスケジュールの中、息抜きはありましたか?

瀧内「ご飯!」

河合「たしかにご飯の時間は楽しかったです(笑)」

瀧内「リハが早く終わったあと、数人でご飯に行きましたよね。光石(研)さんが『たくさん食べなさい。お金はあるから』と和ませてくださって。光石さんはユートピアなんです。寒い時期だったので温かいものをたくさんをご馳走していただきました」

ステージのパワーを肌で感じて

──お二人はオフの時間、何をしていますか?

瀧内「私は自然に触れるようにしています。最近花を飾るようになって、まめに手入れをするようになりました。あとはヨガにもハマってます。激しい動きもあるんですが、その日の体調に合わせて体を動かすのが気持ちいい。体幹が鍛えられるし、メンタルも整います。今度、ミュージカルに挑戦するんですが、ヨガを始めてから声が出やすくなったし、音も定まりやすくなりました。それには脳が関係しているらしく、そういうこともどんどん知りはじめると、とてもおもしろいです。好きなことをやって褒められて、どんどんアドレナリンが出ているのか、今はチャクラが開きまくってる感じがします(笑)」

河合「運動っていいですよね。私もウォーキングしたりランニングしたり、ジムに行ったり、体を動かしていると余計なことを考えなくていいなと思います。もともと演劇を見るのが好きでしたが、俳優を始めてから趣味ではなくなってしまったというか。ただ、舞台が始まる瞬間の高揚はたまらなく好きで、その時は純粋にお客さんになれる。最近は宮藤官九郎さんのロックオペラ『愛が世界を救います(ただし屁が出ます)』を観たのですが、素晴らしかった。映画『アメリカン・ユートピア』も良かったですね。毛色の違う2本ですが、両者ともに世界観に酔わせてくれる作品でした」

──瀧内さんはミュージカルに初挑戦されるとのこと、河合さんももともとミュージカルがお好きだということですが、その魅力ってなんでしょう?

瀧内「一体感を感じられるところでしょうか。空間の熱量が上がっていくのを肌で感じる。生のパワーを“感じる”ってことは映像作品にはないことですよね。ミュージカルには俳優だけじゃなくて、オーケストラの演奏も、身体能力の高いダンサーもいて、こんな総合芸術ないなと思います。そういえば先日、河合さんが出られている舞台を見に行ったんですが、こんなに踊れる人なんだと驚きました。私が最初に感じた“体が動く人”と思ったのは間違いではなかった!と」

──河合さんはもともとダンスをされていたんですか?

河合「はい。ステージに立つのが楽しくて、そこからお芝居に興味が出て、俳優になったので、自分のルーツだと思っています。ミュージカルや歌、踊りは単純にショーとして、深く考えずに楽しめる。そこに難しい理屈は必要なくて、観ているだけで心が救われたり、自分を解放してくれたり。そういうエネルギーがある。瀧内さんが出演予定の『Into the wood』ももともとすごく好きでなんです。瀧内さんは何役をされるんだろうと思ったら、パン屋の奥さんだとわかって、“もう、ぴったり!”って」

瀧内「うれしい!ありがとうございます!」

河合「絶対に観に行きます!」

『由宇子の天秤』

3年前に起きた女子高生いじめ自殺事件を追うドキュメンタリーディレクターの由宇子(瀧内公美)は、テレビ局の方針と対立を繰返しながらも事件の真相に迫りつつあった。そんな時、学習塾を経営する父から思いもよらぬ〝衝撃の事実〞を聞かされる。大切なものを守りたい、しかし それは同時に自分の「正義」を揺るがすことになるーー。果たして「〝正しさ〞とは何なのか?」。常に真実を明らかにしたいという信念に突き動かされてきた由宇子は、究極の選択を迫られる。

監督・脚本・編集/春本雄二郎
プロデューサー/春本雄二郎 松島哲也 片渕須直
出演/瀧内公美、河合優実、梅田誠弘、松浦祐也、和田光沙、池田良、木村知貴、川瀬陽太、丘みつ子、光石研
配給/ビターズ・エンド
(C)2020 映画工房春組 合同会社
2021年9月17日(金)公開
https://bitters.co.jp/tenbin/

衣装:(瀧内公美)a pupil(河合優実)ドレス ¥85,800/PHOTOCOPIEU(ショールームリンクス 03-3401-0842)シューズ ¥61,600/BEAUTIFUL SHOES(ギャラリー・オブ・オーセンティック03-5808-7515)

Photos: Ayako Masunaga Hair & Makeup: Junko Kobayashi(AVGVST)(Kumi Takiuchi)Ikenagaharumi(Yuumi Kawai) Styling: Tatsuya Yoshida(Yuumi Kawai) Interview & Text: Mariko Uramoto Edit: Yukiko Shinto

Profile

瀧内公美Kumi Takiuchi 1989年10月21日生まれ、富山県出身。『グレイトフルデッド』(14)にて映画初主演。『ソレダケ that’s it』(15)、『日本で一番悪い奴ら』(16)など気鋭の監督作品を経て、2017年『彼女の人生は間違いじゃない』に主演。日本映画プロフェッショナル大賞新人女優賞、全国映連賞女優賞を受賞。2019年には『火口のふたり』でキネマ旬報主演女優賞、ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞。ほか主な出演作に『アンダードッグ』(20)、ドラマ「凪のお暇」(19)、「大豆田とわ子と三人の元夫」(21)など。21年ミュージカル『INTO THE WOODS』に出演予定。来春、マーク・ギル監督『Ravens(原題)』のクランクインを控えている。
河合優実Yuumi Kawai 2000年12月19日生まれ、東京都出身。2019年、映画『よどみなく、やまない』で主演デビュー。主な出演作品に、映画『喜劇 愛妻物語』(20)、『佐々木、イン、マイマイン』(20)、『アンダードッグ』(20)、『サマーフィルムにのって』(20)をはじめ、ドラマ「夢中さ、きみに。」(21)、「ネメシス」(21)、「さまよう刃」(21)、「生徒が人生をやり直せる学校」(21)のほか、松尾スズキ演出の舞台「フリムンシスターズ」(20)、手嶌葵「ただいま」のミュージックビデオ(21)にも出演。2022年初春には城定秀夫監督、今泉⼒哉脚本『愛なのに』が公開予定。

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