ルメールの二人が語るクリエイションと新しいショップの意味 | Numero TOKYO
Fashion / Feature

ルメールの二人が語るクリエイションと新しいショップの意味

揺るぎない審美眼と真新しいコンセプトのもと、東京・青山にルメールのショップが期間限定オープン。世界中がクリエイションやビジネスを見つめ直さざるを得ない昨今において、ファッションに求められるものは何だろう。デザイナーのクリストフ・ルメールとサラ=リン・トランに話を聞いた。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2020年12月号掲載)

©︎ Osma Harvilahti
©︎ Osma Harvilahti

過去と未来をつなぎ進化するワードローブ

一過性のトレンドにとどまらず、日常生活の延長上にある服を知的なアプローチで世に送り出す。ルメールの一貫したデザイン哲学や審美眼は、価値感の変化を余儀なくされたいま、真価を発揮している。服づくりで最も重視していることとは。

クリストフ・ルメール(以下C)「機能性と快適さ、美しさのバランスを考え、私たちが必要とし欲するアイテムを作っています。提案するワードローブはモジュール化され、時代とともに進化し、どんなアイテムとも関連付けがしやすい着る人だけのもの。創造の過程で発生する偶然や非合理性もポジティブに捉えています」

サラ=リン・トラン(以下S)「服が着る人の良き導き手となり、仕草や一人一人の個性を際立たせ、開花させるべきだと考えています。そのためのミニマルなデザインと静かな色使いなので。都会的で洗練された、文化的な影響を豊かに受けたタイムレスなスタイルを提案したいと思っています」

Lemaire 2020AWコレクションより
Lemaire 2020AWコレクションより

素材選びやカッティング、ラインの美しさにも定評がある。彼らにとって素材へのこだわりは譲れないことであり、利益を追求する大きな組織に属さない会社運営の恩恵だと語っているほど。

S「使用するのは、安定感があって丈夫な質の良い天然素材。特に、美しく経年変化するデニムが好き。着続けることで個性が出てきて、自分だけのものになるところが魅力です。洋服は常に実生活の習慣と対話していて、ここ最近は身を守ることが求められています。シルエットは、これまで以上に機能性を求められるでしょう」

いち早く始めたユニセックスのアイテム展開も好評だ。ウィメンズウェアをテーラリングの技術で力強く表現し、メンズウェアにセンシュアルさをもたらす提案は、多様性を求める世の中とますますマッチしていくに違いない。2020AWのプレゼンテーション用動画に登場したモデルにも注目。多種多様な人たちが、自分のクローゼットにある一着を纏ったかのようなテイストで着こなして登場した。

C「美しさや優雅さは年齢や人種の問題ではありません。ドレスアップは人間の肌や身体と親密なもの。それは言語であり、他人に与える第一印象でもあります。私たちが服を慎重にデザインする理由でもあるんです」

S「愛する人やインスピレーションを与えてくれる人が出演しています。コレクションを明確に理解しもらうためファッションショーに注力してきましたが、それ以外の方法についても模索しているところです」

ルメールを紐解くために、服づくりに見られる日本の「わびさび」を思わせる静けさやフランス的なノンシャランな美学についても聞いておきたい。

S「世界中の美術や服づくりの知恵を研究しています。日本のArt de Vivre(生活の美学)は五感が刺激され、インスピレーションを与えてくれます。空虚さに美を見いだすのも興味深い。日本の穏やかな環境は、空間や音、人に対してより注意を払うようになるとも感じます」

C「パリは芸術や文学、歴史、哲学などを通して、社会問題に関心を抱く自由な発想の人々を惹きつける都市です。人生を祝う伝統があり、芸術や快楽を重んじるパリジャンの趣味趣向はクリエイティビティ、特にファッッションを刺激します」

Lemaire 2020AWコレクションより
Lemaire 2020AWコレクションより

服を着ることとファッションから得られる喜び

彼らはシーズナルな打ち出しをすること以上に、袖を通す人の人となりについて思いを馳せている。あらためてファッションを享受することで得られる“喜び”について聞いてみた。

C「服を着ることは純粋な喜びで、矛盾はないと思っています。静かに自分らしさを表現したい人の後押しとなり、喜びを感じてもらえるような服やアクセサリーをデザインしています。個人的にも、自分の気分や価値観に合う着心地の良い服を着ることは自信となり喜びになると感じますね」

S「服には人それぞれのストーリーがあること。街中で私たちの服を着ている人を見かけるたびに心が温かくなり、それがデザイナーとして服をデザインする面白さや喜びにつながっています」

二人はアートにも造詣が深く、情熱を注ぐ。2020AWでは南米のアウトサイダーアーティストのマルティン・ラミレスの作品を引用した。

C「彼の作品を長いこと気に入っていて、生地にプリントして洋服にすることを思いつきました。アートをファッションとして取り入れ、作家に思いを巡らせることは素晴らしいこと」

S「ギャラリーでインターンシップをしていた20歳のときに彼の作品と悲劇的な人生を知りました。作品はパーソナルなものだからこそ、純粋で生き生きしています。その美しさは想像力を刺激し、力強さを分け与えてくれるのです」

日本でのショップオープンを願ってきた彼らにとって、実店舗はブランドを表現するために不可欠な存在。一方で、ファッション業界のシステムが再構築の過程にあり、小売業のあり方を探求するときが来たと感じているという。

C「私たちの哲学を伝える、温かみのある特別なショッピング体験を提供したいと思っていました。ダイケイミルズが手がけた伝統的でありながら現代を象徴する、サステナブル(持続可能な)要素の高い内装を誇りに思います」

S「パリに次ぐ二店舗目をブランドと親和性の高い日本に出店することは自然な流れでした。都市の空き地にスペースを設け、さまざまな分野の人との共同作業によって新しい文化の息吹を吹き込む方法に共感しました。空間のレイアウトは軽快で無駄がなく、心地いいものです。進化し続けるルメールの空間を散策つつ、トゥエルブブックスで美しい本に手を伸ばし、自分の時間を過ごしてほしいです」

コラボレーションという手段と思い切ったミニマルな店舗運営は、ルメールというブランドのあり方を明確にしている。最後に、多くのブランドが対応に追われているサステナブルな取り組みについての見解を尋ねた。

S「非常に重要な問題であり、深く関心を寄せています。第一に長く着用できるしっかりとした作りであること、さらに時代を超越するデザインを心がけていきたいです」

C「100%サステナブルな服を作ることは不可能ですが、常に取り組むべき問題だと念頭に置き、生地やパートナーとなる生産者を慎重に選んでいます」

ルメールのショップをプロデュースした、SKWATとは

SKWATというプロジェクトは、都心の空き物件を一時的に占拠し、コラボレーションを続けることで人々が集い、時代の変化とともに形を変えながら、新たなクリエイティビティとエネルギーを喚起する空間を創る活動。HPのトップにある鳥瞰図(Googleマップ)の色が付いている箇所がすでに占拠した場だという。仕掛け人は東京を拠点とするデザイン・設計事務所ダイケイミルズと、アートブックをメインに扱う海外出版社の国内総合代理店で書籍の流通や展覧会を手がけるトゥエルブブックス。空間デザインはむき出しになった配管や使用済みの家具など、すでにその空間にあるものを最大限生かし、より本質的な美しさに迫る。

2階は「twelvebooks(トゥエルブブックス)」のショップ。ディストリビューションしたアートブックのほか、過去の展覧会図録も数多く扱う。海外の各都市で開催のものや90年代のレアな一品まである。自然光がたっぷり入る窓際に座席が用意され、くつろぎながら本に目を通すことができる贅沢な空間。

地下にはギャラリースペース「PARK」を併設し、イサム・ノグチによる照明「AKARI」シリーズを展示販売中。ドリンクなどを販売するキオスクも見どころの一つ。南青山の一等地のイメージとは対照的な、東京メトロの走る音が轟く広い地下空間やオレンジ色に光るエレベーターで、ダークな雰囲気を味わえる。

SKWAT/LEMAIRE
住所/東京都港区南青山5-3-2
営業日時/火曜〜日曜 12:00〜19:00
期間/2020年10月1日〜2021年3月31日(予定)

Photos:Anna Miyoshi Interview & Text:Aika Kawada Edit:Chiho Inoue

Profile

クリストフ・ルメールChristophe Lemaire フランス・ブザンソン出身。アトリエ・セーブルを卒業後、デザイナーアシスタントを経て、自身の名前を冠したファッションブランドを1990年に設立。2011年秋冬よりエルメスのウィメンズウェアのアーティスティックディレクターに就任。16年からブランド名を「ルメール」に改称。©︎ Osma Harvilahti
サラ=リン・トランSarah=Linh Tran フランス・パリで生まれ育つ。出版社に勤務後、2009年「クリストフ・ルメール」に入社。ウィメンズウェアとアクセサリーのデザイン、ファッションショーやHP、SNSなどのディレクションを担当。16年よりクリストフとデザイナー・ユニットとして活動している。©︎ Osma Harvilahti

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