鏡リュウジ × スカパラ 谷中敦 対談「“風の時代”を生きるために必要なことって?」(後編)
新曲『Great Conjunction 2020』をリリースした東京スカパラダイスオーケストラの谷中敦と、心理占星術研究家の鏡リュウジ。今年の12月22日に迫った「グレート・コンジャンクション」という占星術のキーワードの導きによって引き寄せられた二人が語る、「グレート・コンジャンクション」と音楽と星の関係とは?
──谷中さんが占星術に興味を持ち始めたのはいつ頃なのでしょうか?
谷中敦(以下谷中):「ちょうどスカパラがデビューしたころ、30年くらい前です。当時は星占いが流行っていて、雑誌でも星座占いのコーナーを先に読んだり、恋愛の基準にしている女の子とかも多かったんですよ。そういうのを見て自分も勉強しておきたいなと思い、アスペクト占星術みたいな本を買って勉強を始めたんです」
鏡リュウジ(以下鏡):「遊びというよりも、最初から本質を掘り下げていこうというところがすごいです」
谷中:「それは大好きだったミュージシャンの影響もあると思います。高校生のときに1960年代に活躍したザ・ドアーズというバンドを好きになったんですけど、フロントマンのジム・モリソンが、本質的な方面のことを研究しながら心理学も専攻している衝撃的なシンガーだったんです。バンド名も英国の幻想的な詩人ウィリアム・ブレイクの『The Doors of Perception(知覚の扉)』という詩の一節に由来しているくらいですから。また、同じタイトルの本を、意識の変容状態を扱ったオルダス・ハクスリーという神秘主義志向の強い作家が書いている。それで、『俺もそういう本質をつかんだ男になりたい!』と思って心理学に興味を持ち始めた。ところが僕が進学予定だった大学の心理学部は統計心理学で、僕がやりたいことと違うからやめたほうがいい、と言われて、結局西洋哲学を専攻したんです」
鏡:「僕の経緯ととても似ています。僕ももともとは心理学を学びたかったんですけど、谷中さんと同じようなことを言われて、宗教学を専攻したんです。ただ、心理学はもともと哲学の一部だったんです。歴史の中では心理学は哲学の一部からどうやって学問的なアイデンティティを確立するかということでものすごく苦労した。それでサイエンス(自然科学)にすり寄ったという歴史があるんです。その哲学的なものすごく深いところにあるものをノックしながらやっているのが、フロイトとユング。今では心理学の中では異端といわれている人たちだったわけですね」
谷中:「ユングが素晴らしいのは学問を差別せず、色々なことを広く見ているところですよね。学問として認められていないものも、学問として見て公平に扱いながら、最後まで臨床家であり続けるという姿はめちゃくちゃかっこいい。僕は人と交流をする上で、ある人物を多角度から見るのが心理学だとしたら、占星術もものすごく似ているなと感じているんです。『この人はこういう星座だから、こういう性格なのかな』とか。そうすると相手と自分との関係性が見えてきたり、ときに関係性の改善のヒントにもなったりする。だから人とつながっていくときに、すごく有用なのかなと」
鏡:「ユング自身、占星術からすごく影響を受けていることが最近の資料でわかってきました。またユングは『占星術は古代の心理学』だと言っています。ベタなところで、僕はよく『占いはある種の性格図鑑だ』と言うんです。もちろん、そこに書かれている特徴すべてが当てはまるわけではないですけど、『ここはハマるけど、ここはハマらないな』という感じで見ていると、自分を見つめ直すきっかけになったりもしますから。それにしても谷中さんは占星術以外の占いにも精通されていますよね」
谷中:「そこまでではないんですけど、九星気学で占ったり、誕生日や干支で占ったり。いろんな占いで1人の人を占うのが楽しいんですよ。例えば、身の回りの人の干支を知っておくと、何年か経ったときもそれぞれの年齢を覚えておきやすかったりもしますし。それでグルーヴしちゃうんです(笑)」
──占星術は色々な物事や学問との関わりがあることが分かりましたが、音楽との関わりもあるんですか?
鏡:「もちろんです。古代ギリシャ世界では音楽、数学、哲学、天文学は一つの学問でしたし、和音はもともと数秘ですから。例えば完全5度の和音は2:3ですよね。それは弦の振動を比率できれいに割ることによって生まれ、それによって音階が決められていく。『星の運行も美しい数学的な比率、ラティオ(比率=合理)で運行しているはずだから、天体は美しい音楽を奏でている』というのが、16~17世紀まで続いた信念なんです。ケプラー(※編集部注:17世紀の科学革命を代表するドイツの天文学者)の本を開くと音符がたくさん出てきますよ」
谷中:「ケプラーは音楽にも詳しかったということですか?」
鏡:「そうなんです。ケプラーの著作には、パッと開くと音楽の本か天文学の本かわからないものがあるんです。彼が『惑星は太陽を1つの焦点とする楕円軌道上を運動している』というのを発見したのですが、それはケプラー的にはある種とても残念なわけです。本当はもっとわかりやすく美しい数学的な比例の中で天体は運行をしている、というのが最初の直感でした。最初のアイデアは放棄することにはなりましたが、それでもずっと惑星の運行の中に音楽的調和があると信じていました」
谷中:「自分が信じていた理想を、自分自身が否定することになるんですね。それは切ないな」
鏡:「谷中さんは信念だったり、自分の中で大事にしている考えみたいなものはありますか?」
谷中:「何をするにしても、『おもしろいか、おもしろくないか』を基準に判断したいなとは思っています。実は僕、心理学者の河合隼雄さんの『「オモロイカ、オモロナイカ」というのが重要で、それが大事な価値指標だ』という言葉がすごく好きなんです。学んでいても音楽をやっていても、『オモロイカ、オモロナイカ』の基準ってものすごく大事じゃないですか? いくら高級なことをやっていても、それが『オモロイ』って感じなかったら人には絶対に伝わらないですから。だからユニークな感性は持っていたいし、人のユニークネスも尊重したいなと思っているんです。今世の中は異端的なものを排除する傾向にありますけど、色んな人がいて、色んな意見やアイデアがあるのが人間の面白いところ。だから家族にしろ、学校にしろ、社会にしろ、異なる考え方をしている人を積極的に受け入れることができると、もっと楽しいし、強くなれるのかなと思うんです」
鏡:「これから訪れる『風の時代』はまさに自由、個性、調和というのがポイントになってくるので、『オモロイカ、オモロナイカ』という自由と個性が生み出すものが、調和につながることに期待したいですね。そして『風の時代』らしく、風通しのいい時代をみんなで作っていけたらいいなと思います」
Photos: Koji Yamada Interview & Text: Rieko Shibazaki Edit: Naho Sasaki, Chiho Inoue, Yukiko Shinto