Art / Feature

名和晃平インタビュー: 明治神宮×最新個展でひも解くアートのヴィジョン

テクノロジーや実験的な手法を駆使し、驚くべき作品を生み出し続ける彫刻家の名和晃平。東京・表参道のGYRE GALLERYで開幕した展覧会は、同じ空間に複数のシリーズが同居する自身初の試みとなった。創建100年を祝した明治神宮での展示と“お膝元”にあたる本展との関係は? 最新のヴィジョンをひも解くインタビュー。

展示会場にて、『Trans-Scared Deer (g/p_cloud_agyo)』(2020年)とともに。(Photo: Ayako Masunaga)
展示会場にて、『Trans-Scared Deer (g/p_cloud_agyo)』(2020年)とともに。(Photo: Ayako Masunaga)

明治神宮の“お膝元”で開催される、新たな試みの展覧会

──今回の展覧会タイトルの「Oracle」は「神のお告げ(神託)」を意味する言葉ですが、その背景について質問です。ちょうど今、明治神宮の創建100年を記念して名和さんの作品が明治神宮の境内に展示されています。そして、この展覧会は明治神宮の「表参道」沿いに位置するGYRE GALLERYで開催される。新作の立体作品『Trans-Scared Deer(g/p_cloud_agyo)』(通称:雲鹿)も奈良の鹿島大社ゆかりの作品ということですが、日本の精神文化が大きなテーマになっているのでしょうか?

「僕自身、当然日本の歴史文化には影響を受けていますが、今回の個展はもう少しパーソナルな感覚を起点にしています。世界的にコロナ禍が広がるなか、作家として個人の領域で思考を深め、作品に向き合うべきタイミングなのだと思い、淡々と制作を続けてきました。明治神宮の境内では、『明治神宮鎮座百年大祭』の一環で3月から『White Deer(Meiji Jingu)』を野外展示していますし(※1)、南神門に鳳凰をかたどった作品『Ho / Oh』も特別展示されました(10月23日〜11月3日)。明治神宮のプロジェクトとの時間的、空間的なつながりを意識しつつ、個展では独自のストーリーが展開する構成を考えていました。それも単にイメージや言葉で語るものではなく、マテリアルや質感、造形の生まれ方と生命の関係を本質的に直感させるようなものを目指しました」

展示風景より、『Trans-Scared Deer (g/p_cloud_agyo)』(2020年)。鎌倉〜南北朝時代(14世紀)の彫刻『春日神鹿舎利厨子』をモチーフに、3Dシステム上でデータを設計し、木彫、漆塗り、箔押しなどの伝統技法を用いて制作した作品。
展示風景より、『Trans-Scared Deer (g/p_cloud_agyo)』(2020年)。鎌倉〜南北朝時代(14世紀)の彫刻『春日神鹿舎利厨子』をモチーフに、3Dシステム上でデータを設計し、木彫、漆塗り、箔押しなどの伝統技法を用いて制作した作品。

──明治神宮で展示されている『White Deer(Meiji Jingu)』と、今回発表された『雲鹿』もそうですが、名和さんはこれまでにも鹿にまつわる作品を多く制作されています。とくに奥の部屋に展示された『PixCell』のシリーズは、動物の剥製など物体の表面を透明の球体で覆い尽くすという、名和さんの作品の中でも多くの人の印象に残っている作品です。

「鹿は『PixCell』という彫刻シリーズを象徴する重要なモチーフです。また春日大社の神鹿をはじめ、神の遣いとして日本の美術史に頻繁に登場する存在でもあります。現在では増えすぎて害獣として駆除されたりもしていて、変化する人間の社会と自然との関係を考える切り口としても興味深いものがあります」

(※1)関連記事:明治神宮の杜 × アートの共演 野外彫刻展がいよいよ開幕

展示風景より。中央の作品は『PixCell-Reed Buck (Aurora)』(2020年)。
展示風景より。中央の作品は『PixCell-Reed Buck (Aurora)』(2020年)。

伝統工芸から最新技術まで。絶えざる実験が映し出す世界

──その中でも今回の『雲鹿』は、鎌倉〜南北朝時代(14世紀)の『春日神鹿舎利厨子(かすがしんろくしゃりずし)』という、雲に乗った神鹿の背に火焔宝珠が乗った彫刻作品がモチーフになっています。これは春日神が常陸国(茨城県)の鹿島から鹿に乗って春日山へ出立した様子(鹿島立ち)を表現したものですが、なぜこの作品を選ばれたのでしょうか。

「『春日神鹿舎利厨子』は、古いものでありながらプロポーションや佇まいが現代にも通じる何かを持っているところに心惹かれました。鎌倉時代の彫刻へのオマージュとして制作するにあたって、まずコンピューター上で3Dの造形データを設計し、それを木彫、漆塗り、箔押しと、それぞれの工程を複数の伝統工芸の工房とともに形にしていきました。木彫は3Dデータの図面を元に仏師の方が彫り上げたもの。極めてアナログ的な手法で制作しています」

──名和さんは3Dプリンターなどの最新技術を導入した制作手法でも知られていますが、フィニッシュの部分はあくまで人の手で、しかも多領域の人々と協働しながら行っているわけですね。

「この作品に限らず、常にデジタル/アナログとマテリアル/フィジカルを行き来して制作しています。コンピューター上で作り上げた表現に対して、マテリアルに関わる手仕事が加わると、より豊かで伝わりやすい表現になると感じます。

未知の表現を模索する際、さまざまなプロフェッショナルと協働することもあります。絵の具一つとっても、粘度や粒度、乾く速度など、絵の具同士や水の配合によってその化学特性が大きく変わります。例えば『Dune』はさまざまなメディウムや絵の具の配合によって生じる複雑な表情を、筆を使わずに“ペインティング”として表現した作品ですし、この斜めの線のように見える作品『Moment』にしても、絵の具の入ったタンクの下でキャンバスを動かすことで直線の連続を生み出しています。材料や絵の具のメーカーにすればこうした使い方は前例がないため、自分たちの手で実験しながら追求するしかない。そうした試行錯誤の成果が、この個展に集結しています」

展示風景より、『Dune #11』(2020年)。複数のメディウムや粒度の異なる絵の具や水などを配合して流し広げることで、さまざまな表情が現れるペインティング作品。
展示風景より、『Dune #11』(2020年)。複数のメディウムや粒度の異なる絵の具や水などを配合して流し広げることで、さまざまな表情が現れるペインティング作品。

──画材メーカーにしてみれば、「そんな使い方は考えもしなかった」というような話であって、毎回、驚かれるのではないでしょうか。

「『画材屋さんにあるものが美術の材料』という前提が、僕の場合には当てはまりません。学生時代から画材に使用しない素材をリサーチして作品に取り入れていました。絵の具にしても、一般的には“絵を描く材料”として売られていますが、物性の幅は配合によって変えられる。そうした可能性のなかで、ある程度使いやすい物性にしてあるものが市場に出回る画材になります。それを自分の作品に適合させていくとき、画材ではなく、素材、物質として絵の具に向き合っている感じがします」

展示会場にて。背景の作品は『Moment』シリーズ(2020年)より。(Photo: Ayako Masunaga)
展示会場にて。背景の作品は『Moment』シリーズ(2020年)より。(Photo: Ayako Masunaga)

──レーザー光線を用いた作品『Blue Seed』も発表されていますが、これもレーザーを使った新たな表現を一から模索して、作り上げていったわけですね。

「紫外線に反応する顔料が塗られたアクリル板の表面に植物の種子の輪郭線をレーザーで描くことで、照射された部分の顔料が数十秒間だけ浮かび上がり、消えていくというものです。レーザーを制御するプログラムから、顔料やアクリル板などの素材、動きや見え方に至るまで、あらゆる点でトライアルを重ねて開発する必要がありました。特にプログラマーとの協働は、使用する言語が違うので毎回面白いです」

展示風景より、左から『Blue Seed_A』及び『Blue Seed_B』(2020年)。特殊顔料が塗布されたアクリル板にUVレーザーが照射され、植物種子の3Dモデルのシルエットが浮かび上がっていく作品。
展示風景より、左から『Blue Seed_A』及び『Blue Seed_B』(2020年)。特殊顔料が塗布されたアクリル板にUVレーザーが照射され、植物種子の3Dモデルのシルエットが浮かび上がっていく作品。

自身の生き方と無数の関係性で織りなす表現宇宙のゆくえ

──多様な分野の職能と協働する以上、その部分をある意味で人の手に預けることになるわけですが、その点についてはどうお考えでしょうか。

「“人に預ける”という感覚はないのですが、もしそうだとしても、アートを生み出す際に自分の手に固執する必要はあるでしょうか?」

──自分が思い描いたものを形にする際に、どこまで意識的にコントロールできるかが問題になりませんか?

「造形には自分の手と他人の手によるもの、あるいは自然の造形、機械の造形によるものなど、多様な選択肢があります。表現したい内容に適したやり方、手法を選ぶことが、作品にとっても一番良い結果につながると信じています。何がどこまで、どういった精度で制御可能なのか、入念に実験を繰り返して試作段階から検討を重ねます。最終的に制作に関するあらゆることに意識を巡らせるのは、僕の彫刻家としての責任だと認識しています。

新しい素材を使うことも、職人やプログラマーと協働することも、初めはやってみなければわからないことだらけです。『雲鹿』は、数百年前に作られた彫刻をレファレンスとしながら新しい彫刻を生み出す試みでしたが、古さと新しさ、そのテイストの加減が非常に難しかった。暗中模索のなかで鹿自身も雲のような造形になり、見たことのないイメージに行き着きました。それを伝統的な仏像彫刻の手法で作り上げることで、クラシカルな雰囲気と新しさが混じり合い、不思議なオーラを放つ作品に仕上がったと思います」

展示風景より、『Rhythm』シリーズ(2020年)。大小の球体(セル)の表面にライトグレーのパイル(短繊維)を電気吸着させたものだが、今般のコロナ禍に於いては別の形をも連想させる。
展示風景より、『Rhythm』シリーズ(2020年)。大小の球体(セル)の表面にライトグレーのパイル(短繊維)を電気吸着させたものだが、今般のコロナ禍に於いては別の形をも連想させる。

──ご自身が設立した創作活動のプラットフォーム「Sandwich」では、そうした探求が毎日、無数に行われているわけですね。今回の展示のように、それぞれのプロジェクトで追求しているものは異なりますが、それら全体を俯瞰して、目標としている境地やテーマがあれば教えてください。

「宇宙と生命の関係、感性とテクノロジーの行方、というテーマが全体の根底にあります。現代美術はアーティストが“今”感じているものを作品化しようとする試みですから、表現に向き合い続ける限り、その姿勢そのものが作品のあり方に影響しますし、一つひとつの作品は単発ではなくて、互いに関連し合って生まれてきます。この一年で次々に生まれた新作がパズルのように組み合わさったものが、今回の個展です」

GYREのアトリウム(吹き抜け)に展示された彫刻作品『Silhouette』シリーズより。2018年に開催されたピアニスト・中野公揮のコンサートの舞台美術として制作された作品で、音の旋律から抽出された曲線をかたどったもの。
GYREのアトリウム(吹き抜け)に展示された彫刻作品『Silhouette』シリーズより。2018年に開催されたピアニスト・中野公揮のコンサートの舞台美術として制作された作品で、音の旋律から抽出された曲線をかたどったもの。

──それが今回は、明治神宮の創建100年という節目と重なったわけですね。

「実は京都の伏見にあるSandwichのスタジオからは、宇治川を挟んで明治天皇の伏見桃山陵(ふしみももやまりょう)が正面に見えるんです。明治天皇が崩御されたとき、陵(みささぎ)が伏見に造られた一方、東京にも御霊をお祀りする場所がほしいということで造成されたのが明治神宮でした。それから100年の節目にお声がけをいただいて、個人的にもご縁を感じましたね。近頃は以前にも増して、そうした歴史的なつながりに興味を持つようになりました」

──それは不思議なご縁ですね! 『雲鹿』とのつながりでいえば、春日神は藤原氏や天皇家から悪疫退散などで崇敬を集めたこともあり、展示タイトルの「Oracle」にもそうした歴史や信仰とのつながりが込められているのかと思いました。

「『Oracle』は意味深なワードですが、世界的なコロナ禍で人々が持つ慢性的な不安に対して、政治も科学も答えを出せなくて、どこか“神頼み”のような雰囲気があることを揶揄する意味も込めています」

※掲載情報は11月10日時点のものです。
開館日や時間など最新情報は公式サイトをチェックしてください。

名和晃平 個展「Oracle」

会期/10月23日(金)〜2021年1月31日(日)
会場/GYRE GALLERY
住所/東京都渋谷区神宮前5-10-1 GYRE 3F
開館時間/11:00〜20:00
休館日/不定休
入場料/無料
URL/https://gyre-omotesando.com/artandgallery/kohei-nawa-oracle/

Interview & Text:Keita Fukasawa

Profile

名和晃平Kohei Nawa 彫刻家、Sandwich Inc.主宰、京都芸術大学教授。1975年、大阪府生まれ。京都市立芸術大学大学院美術研究科博士課程彫刻専攻修了。感覚に接続するインターフェイスとして、彫刻の「表皮」に着目し、セル(細胞・粒)という概念を機軸として、2002年に情報化時代を象徴する『PixCell』を発表。感性とテクノロジーの関係をテーマに彫刻の定義を柔軟に解釈し、鑑賞者に素材の物性が開かれてくるような知覚体験を生み出してきた。近年ではアートパビリオン『洸庭』など、建築のプロジェクトも手がける。 http://kohei-nawa.net/

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