WONKインタビュー。現代社会への違和感を問う新アルバム『EYES』を語る | Numero TOKYO
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WONKインタビュー。現代社会への違和感を問う新アルバム『EYES』を語る

エクスペリメンタル・ソウルバンドWONKの4thアルバム『EYES』は、情報社会における多様な価値観と宇宙をテーマに、現代社会に警鐘を鳴らすようなとてもコンセプチュアルな作品だ。ARの仕掛けが施されたアートブックも制作され、メンバーそれぞれが多才な活動をしているWONKならではの立体的な表現が詰まっている。洗練されたフューチャーソウルを軸にした楽曲もより多彩になり、全方位的に進化した4人のクリエイター集団に訊いた。

前列左から長塚健斗(Vo)、江﨑文武(Key)、後列左から井上幹(B)、荒田洸(Dr)
前列左から長塚健斗(Vo)、江﨑文武(Key)、後列左から井上幹(B)、荒田洸(Dr)

架空の映画“EYES”の構想からアルバムが生まれるまで

──4枚目のアルバム『EYES』は脚本に沿って作られたという22曲入りのコンセプチュアルな大作ですが、どういうところから制作がスタートしたんですか?

荒田洸(Dr/以下 荒田):「まずラフコンセプトを僕が作ってみんなで形にしていきました。映画の『インセプション』みたいな、上に反転の世界があってそこと交信するみたいなSFの世界観で作りたいんだよねって話を最初にして」

井上幹(B/以下 井上):「それで僕が脚本を書いてみんなに見せてまとめていきましたね。ブルームーンって月が出た時に空の上の世界と交信ができる、その上の世界には自分たちと全然違う価値観を持っている人が住んでるっていう荒田のベースはあったんで、そこに主人公がどう関わっていくかを作っていった感じです」

──長塚さんはその世界観をどう歌詞に落とし込んでいったんですか?

長塚健斗(Vo/以下 長塚):「歌詞を書く段階では全体の構成がざっくり決まってたので、この曲はここの場面っていう感じで脚本をあてはめていって、この曲ではこういうことを言おうって決めてから書き始めていきましたね」

──先行配信された「Rollin’」では、ある種麻痺してる現代社会に警鐘を鳴らしている印象を持ちました。

長塚:「『Rollin’』はアルバムの中でも最初の方にできた曲なんですけど、みんなゴーグルみたいなのを付けて見たくないものを視界の中から消せる、自分の都合の良い情報をさらに選別できる世界の話で。それが今のこのご時世にハマってくれた感はありましたね」

──完全予約限定作品にはAR対応のLPサイズのアートブックが付くそうですが、どんな作品なんですか?

井上:「アートブック自体は1曲に1枚のビジュアルがついていて、それを追うとより深く世界観に浸れるものなんです。ARはそのビジュアルを、例えばスマホでかざすと絵がちょっと変化して、あわせて曲が聴こえる仕様になってますね」

江﨑文武(Key/以下 江﨑):「アートブック自体も絵コンテみたいな感じなんですよ。もともと映画にしたいと思ってたんですけど、それだと制作期間もお金もすごくかかってしまう。その一方で、音楽を聴く手法がデジタルに移行する反面、アナログの売り上げが伸びてたり、モノとして所有したいっていう欲求を満たすために何ができるかなって考えた時に、最早CDの銀色の盤には何の価値もないのでアートブックって形は良いのかなって思って。インテリアとしても置けるし、それくらい強度のあるものにできたらいいなと。それで幹さんに相談したら似たような作品があるって。映画化の途中で頓挫したんだよね?」

井上:「『ホドロフスキーのDUNE』っていう頓挫に至るまでのドキュメンタリー映画があって。僕らも映画は頓挫したからその設定資料としてアートブックを出そうっていう(笑)」

──なるほど(笑)。そのARの3DCGを手がけているのがnagafujirikuさんで。『ブレードランナー』のようなSF的な世界観を描くアーティストですよね。

江﨑:「ヤバいですよね(笑)。まだ二十歳で北海道の自宅でひとりで作ってるんですよ。荒田がTwitterで彼を見つけて『かっこいいんだよね』って言ってて。それで僕がメールをしてみたんです」

荒田:「僕は日常的にSNSでおもしろい作家の人を見つけたらフォローしてて。その時は3DCGにハマってて、3DCG作家を追うっていう日課があったんですよ。今、各々作風は違うけどおもしろい作家がいっぱいいて。クオリティもすごいことになってるんです」

江﨑:「個人で作れる3DCGの幅がすごく広がってる。nagafuji君の世代は3DCGと実写映像の人たちがクルーみたいなのを作ってて。最近Vaundyさんの作品も手掛けてるんですけど。今の10代後半から20代前半の世代には、僕らの世代よりもうちょっと凝った映像を作るムーブメントが起きてる」

荒田:「制作費的にも3DCGのハードルは下がってきてるからね。これを実写でグリーンバックで撮影して合成するってなったら大変だから」

──役者も必要ですしね。

荒田:「最初は役者説も出てたんですけどね」

江﨑:「うん。実写と3DCGを混ぜるとか色々話してはいたんですけど」

荒田:「前回のEPの『Moon Dance』の時はPERIMETRONと一緒に動いてて、PERIMETRONの(佐々木)集さんと『やるんだったらやっぱ振り切った方が良い』って話になって、じゃあ山田孝之主演って話になったんです(笑)。でも頓挫しました。だからこの記事を見たプロデューサーの方がいつか映画化しようぜって言ってくれたら最高ですね」

──millennium paradeの「Fly with me」のミュージックビデオも3DCGですが、日本のミュージックビデオでここまでのものが作れるんだととても驚きました。

江﨑:「そうなんです。最初のnagafuji君からのメールの返信にも、『millennium paradeの”Veil”のミュージックビデオを観て、僕も音とビジュアルの同期したものを作りたいと思ってました』って書いてあって。すごくコネクトした感がありましたね」

同世代の連帯が、大きな波をつくっていく

──WONKは音楽だけではない多角的な活動をやっていくという発想のもとにレーベルEPISTROPHを設立して。今回のアートブックは、そもそもやりたかったことが具現化されたというところはありますか?

井上:「やりたかったことのひとつではあるけれど、もっと広がりがあると良いなと思っています。映像を作れたらそれを映画館で上映して、ドルビーアトモスで音楽を流すとか、もっともっとやりたいことは色々あって。『EYES』ってアルバムとアートブックっていうのは、僕らの現状だと今はこういうことで、まだまだ次があるなって感じてる。やりたかったことの第一歩くらいの気持ちですね」

江﨑:「ARの仕掛けも自分たちで作ったり、3DCGの依頼だったり、脚本を書いたりとか。もともとかなりDIYバンドだったんですけど、そういう要素はかなり詰まった作品になった。3DCGのアー写の顔のモデルも井上が作ってますし。音楽以外の様々な表現手法をメンバー同士持ち寄って作品にしていく。そうやって全方位で自分たちのクリエイションを発揮していくことはこれからも挑戦していきたいですね」

──millennium paradeの話も出ましたが、WONKと同世代のジャズを色濃く取り入れた音楽がとても盛り上がっています。江﨑さんは2015年に90年代生まれのミュージシャンによる「JAZZ SUMMIT TOKYO FESTIVAL」を開催されていましたが、同世代だからこその連帯感は強く持っていますか?

江﨑:「世代の繋がりっていうのはめちゃめちゃ大事にしてるところですね。周りのクリエイター、ミュージシャンと話してても、ファッション界で川久保(玲)さんや山本耀司さんが起こした黒の衝撃のように、日本における世代の横の繋がりの波で世界に衝撃を与えたいという意識が強い世代だと感じてます。JAZZ SUMMITも、ジャンルは違えどすごくおもしろい表現をしている人たちの交流の場を作ろうと思って開催したんです。あそこで定義されているジャズっていう言葉の意味は、いわゆるブルーノートで聴く的なジャズって意味じゃなくて、今自分がいる場所から逸脱しようとする力をずっと持ち続けることを指してるんです。あのフェスにはWONKは出てはないですけど、自分たちの周りの石若駿とか、今はKing Gnuに名前が変わりましたけどSrv.Vinciや常田大希ソロ、坂東祐大も出た。この世代で波を作るぞっていう意識は二十歳くらいの頃からずっと変わってないですね」

──今名前が出たアーティストの音楽性は一概にジャズではないですもんね。まさに精神性の部分という。

江﨑:「そうですね。WONKもその精神性は大事にしていて。EPISTROPHっていう枠組みを作ったのも周りのおもしろいミュージシャンたちとシーンを形成していくことに重点を置いていて。WONKというバンド単位でも、『Sphere』って作品から石若駿、JUAとか周りのおもしろい表現をしているミュージシャンをフィーチャリングすることはやってきてる。WONKという個で突破していくっていうよりかは、周りにいる仲間と手を取り合ってどんどん波にしていきたいって思っています」

荒田:「無理やり同世代感を出して絡んでるわけじゃなくて、自然と結びついてる感があるんですよね。昔からの付き合いの友達が今すごく活躍してるのが良いなって。それこそ文武とも大学時代にジャズのセッションしようって思って行ったサークルで出会ってるし」

江﨑:「荒田と石若もその後学祭で出会ってて。常田の周りもそうですけど、みんなそういうサークルで遊んでたとかの流れで出会ったんですよね」

荒田:「大学時代よく遊んでた友達の中にKANDYTOWNのメンバーがいたりとか。僕が大学で都内に通うようになって、その流れで遊びに行ってた場所にPERIMETRONの集さんがいて。そこでお互い『こんなことやってんだよ』って話してたのが、今こういう風になってるっていう」

江﨑:「僕、片山正通さんと個人的に仲良くさせてもらってるんですけど、『自分やNIGOや藤原ヒロシさんとかの世代と近しい雰囲気を今の90年代生まれの子たちに感じるんだよね』って話をしてもらったことがあるんです。片山さんの世代も、上の世代の有力者と仕事をするっていうより、同世代と仕事をすることを大事にしてたって。その下の今40代くらいの方々の世代は割と個で突破する意識が強いんだけど、今の90年代生まれのムーブメントはすごく懐かしいというか、自分たちを見てる感じがするって言われて。僕もその辺りの方たちの背中は追っかけているところもあるので、やっぱり手を取り合っていくことってすごく意味のあることなんじゃないかなって思った。意外とファッションと音楽とアートって結びついているようで結びついてないとはすごく思ってて。荒田と一緒にAmazon Fashion Week TOKYOを観に行った時も、舞台上でバンドが演奏してショウが始まるんですけど、モデルが歩き終わるとほとんどの人がバッと会場を出ちゃう。音の演出的な部分ではまだショウは終わってないんだけど。逆もしかりで、バンドマンで服にすごくこだわりがある人って意外と少ないんですよね。今回アートブックを作ったのは、そういった意味合いでもいろんな境界を越えていく足掛かりにもなるかなっていう。本を作ることって古典的なアプローチではあるけど、最終的な表現の向かうところというか、すごく奥の深い行為。それもあって、今のタイミングで踏み出してみたかったんです」


4th Digital Album『EYES』
2020年6月17日(水)リリース
各種配信はこちらから

4th Album [ART BOOK+CD]『EYES』
2020年7月22日(水)リリース
*ART BOOK+CD は発売日が変更になる可能性があります。 完全予約限定作品
8,800円(税込)

「Orange Mug」収録のEP『Moon Dance』全曲とシングル「Signal」、新たなWONKサウンドの幕開けを感じる「HEROISM」に加え、新曲 10曲を含む全22曲を収録。高度な情報社会における多様な価値観と宇宙をテーマに、フィルターバブルやエコーチェンバーといった言葉で表現される情報への選択的接触がもたらす社会分断を背景にした架空の映画“EYES”のストーリーを表現した。

※既に予約受付が終了しているストアもございます。各WEB STORE及びCDショップ毎の在庫は各店までお問い合わせください。

Photos:Takao Iwasawa Interview & Text:Kaori Komatsu Edit:Chiho Inoue

Profile

WONKウォンク 東京を拠点に活動するエクスペリメンタル・ソウルバンド。長塚健斗(Vo)、江﨑文武(Key)、井上幹(B)、荒田洸(Dr)の4名のメンバーそれぞれがソウル、ジャズ、ヒップホップ、ロックのフィールドで活動するプレイヤー/プロデューサー/エンジニアとして活躍。2016 年に1st アルバムを発売して以来、国内有数の音楽フェス出演や海外公演、成功を果たす。ジャンルや世代を超えた国内外のアーティストへの楽曲提供やリミックス、演奏参加など、音楽性の高さで多方面から支持されている。19年7月にEP『Moon Dance』をリリース、11 月にシングル「Signal」を配信。2020 年1月リリースの香取慎吾ソロアルバム 『20200101』にて「Metropolis(feat.WONK)」の楽曲提供・共演を果たし話題となる。2020 年4月に シングル「HEROISM」、6月に「Rollin'」を配信。6月17日にアルバム『EYES』のリリースを控えている。http://www.wonk.tokyo/

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