パリ16区のイメージを刷新していく、「HOLIDAY BOILEAU」というコミュニティ作り | Numero TOKYO
Interview / Post

パリ16区のイメージを刷新していく、「HOLIDAY BOILEAU」というコミュニティ作り

アメリカで誕生した伝説の雑誌『HOLIDAY MAGAZINE』を2014年にパリで復刊させ、以降「HOLIDAY CAFE」やブティック「HOLIDAY BOILEAU」をオープンするなど多方面へ広げている"HOLIDAY"。ベーシックでありながらパリシックな美意識が宿る話題のブランドを手がけるのが、アーティスティック・デイレクターのフランク・デュランとスタイル・ディレクターのゴーチエ・ボルサレロ。パリで行った2人へのインタビューを2回に分けてお届け。後編は、パリ16区から発信する理由について訊いた。

パリ16区に根付く「HOLIDAY BOILEAU」らしい生き方

──シンプルで、ハイクオリティで、タイムレス。その価値観がお二人からさらに地域へ広がって行きましたね。

G「僕らは出会って、1人よりも、2人のほうが強力だと考えたのです。そこで一緒にブランドをやろう、ということになりました。そこから16区の同じエリアにバジル・カディーリがセレクトショップの『Beige Habilleur』をオープンし、ムッシュ・ナドーは食材店『M.Nadaud』をオープンして仲間に加わりました。その後、僕はショールームでクローズにしか公開していなかったヴィンテージを、よりオープンなヴィンテージのお店になる『Le Vif』をオープンし、少しずつ広げています」

F「それから『Éditions du Kiosque』もそうですね」

G「そうでした。雑誌、出版物、古書も取り扱う『Éditions du Kiosque』も立ち上げました。最初に小さなカフェをオープンしたフランクを中心に色んなことが展開していきました。僕たちの力も徐々に増して、それが強力な芯になっていきました。今は様々なメディアもサポートしてくれていますし、彼らは16区と僕たちが提案する新しい生き方に興味を示してくれています。すべては『マレにずっと住み続けるなんてダメだ。こんな生き方は間違ってる。駐車場もロクにないのに』というフランクのひと言から始まったのです(笑)。往来ですれ違う人、全員の顔がわかる小さな村で暮らすほうがずっと快適です。これがフランクにとっての村なんです。そして徐々に僕たちの生き方に倣う人も現われてきました。先日、フランクはライターの方からメールを受け取ったんです。彼はこの元旦からヴィーガンになり、ヴェルサイユ暮らしを始めたそうです。より多くの人がこうした生き方を選び始めています。とても満足していますよ」

──この一年、この16区に頻繁に通うようになり、ゴーチエからたくさんの話を聞いているのですが、この地区のコミュニティはすべてHOLIDAYとつながっています。

G「ええ、”HOLIDAY”とつながりっているというのではなく、むしろ、すべてが”HOLIDAY”コミュニティと言えるんです。さっき挙げた『Beige Habilleur』や『Éditions du Kiosque』といったすべてが”HOLIDAY”コミュニティです。僕にとって”HOLIDAY”は、大きなクラブのような存在で、みんながその一員です。”HOLIDAY”はブランドでも雑誌でもなく、生き方のコンセプト、グローバルな概念です。『Beige Habilleur』や『Le Vif』はその名を使っていませんが、明らかに”HOLIDAY”の一部です。全部、フランクが考えたことです。バジルと『Beige Habilleur』のことをフランクに話して紹介すると、フランクは“This is Holiday”というロゴを作りました。”HOLIDAY”はあくまで生き方、その人そのものであることを表現したかったのです。なかには「HOLIDAY MAGAZINE」について知らない人もいてもいいし、ヴィーガンでも「HOLIDAY BOILEAU」の服を着ているわけでもない、”HOLIDAY”という雑誌の存在さえ知らないかもしれないけど、”HOLIDAY”らしい生き方をしている人もいます。そうですよね?」

F「そうだね。この考え方は、とても要求が高いんです。美しさの概念であると同時にとても謙虚でもあります」

G「高い服を着ているとか、ヴィーガンだとか──実際、ヴィーガンの生活にはお金がかかりますからね──、高級ホテルに泊まっているとか、お金の問題ではないんです。『HOLIDAY』は考え方なんです。どう説明していいかわからないのですが、例えばバターだらけのパン屋さんだって”HOLIDAY”らしくあることは可能です。お金の問題じゃない。消費の仕方と意識の問題だと、僕はそう思っています」

F「すべてはつながっていますね。”HOLIDAY”らしくあることは、すなわち社会や自然とつながっていて、自分が何をしていて、それがどんなインパクトを与えるかを分かっていることです」

「HOLIDAY BOILEAU」2020SSコレクション LOOKBOOKより

──今、ある種の16区のムードというのがモードの世界でも一種のハイプのようになってきている傾向を感じます。実際に80年代の16区ブルジョワ的なルックを見かけたり、デザイナーがインスパイアソースとして挙げることもあります。

多様な生き方ができるのが16区の魅力

G「そうですね。でも、フランク以前の16区は人が集まるスポットなんかではありませんでした。いつの時代も16区は変わらず16区でしたし、イケてる場所でもなければ、話題になるようなところでもありませんでした。パリの人に『16区に住んでいます』なんて言ったら、『とんだブルジョワだ』とか、『あんなところに住むなんて理解できない』とか、色んなことを言われましたよ。フランクが小さなカフェをオープンし、続けてさまざまな店舗を開きました。少しづつ人々が16区を訪れるようになり、僕たちの生き方を目の当たりにして『悪くないね』と思ったのではと思います。16区は家も道も広いし、静かだし、公園もたくさんあるし、マルシェもいくつかあるのでいい食材も手に入ります。僕たちのライフスタイルはとても穏やかです。そういうところに人々は惹かれたのでしょう。16区は毛皮を着た老人が犬を連れて散歩しているだけの場所ではなく、多様な生き方ができる場所だと気づいたのです」

F「そうなんです。16区には少しゆったりとしたリズムがあると思います。少しのんびりしていて、物事との間に少し距離を置ける印象です。そういった特徴が、パリのほかの区と少し違う理由かもしれません。16区は歴史的にもブルジョワジーや貴族階級と深い関わりがあったことは事実ですし、だからこそ今も閑静さは健在です。でも、同時に16区は大衆的な場所でもあります。僕たちのお気に入りの16区の南の地区は本当に多彩で、とても大衆的なんです」

──おっしゃる通り、16区南の地理的距離が、”HOLIDAY”が他のパリのモードの界隈との距離にも影響しているようですね。

G「地理的だけでなく、イデオロギー的にも距離は重要です。ファッションウィーク期間を除いて、僕は16区を出ることなく、パリの中心には絶対行きません。中心にいるよりも16区にいるほうがずっと気が安まるのも事実です。地理的、イデオロギー的にもパリの中心から距離を置いて物事を観察することで、色々と落ち着いて見られます。『これをする意味は本当にあるのか?』と考えながら取り組めるのです。たとえば、16区を歩いていても、ファッション業界の人にでくわすことはありません。それに対し、マレを歩けば周りはほぼ全員がファッション関係者です。食事に行くのに『このパーカーは3~4回着たから、もう着ていけない』と思うかもしれません。隣の席の人が同じものを着ている可能性もあるのです。でも、僕たちは地に足のついた人々に囲まれています。パン屋、カフェ、薬局でも、16区ではファッション関係者に会うことはありません。だから、洋服づくりにおいてもむやみに影響を受けることはありません。ファッションウィーク中の人々を見てください。何でもありの格好をしていますよね。いつも僕たちの周りにそんな人がいたら、影響を受けざるを得ません。なぜなら、そういう格好ができる人に慣れてしまうから。僕たちの周りいるのは、上質なシェットランドのセーター、ツイードのジャケット、長持ちするデニムなど、良質な洋服だけを好む人々ばかりです。なかには、わざわざ『HOLIDAY BOILEAU』の店舗に足を運び、ショッピングをしてくれる人もいます。これは僕たちにとっての勝利とも言えます。最新モデルのセーターやデニムをほしがるファッション関係者ではなく、ただ良質な洋服が買いたい普通の人々がいることの証ですから。これはとても大切なことです。コレクションに取り組むときも、人々に気に入ってもらえるか? ファッション関係者ではなく、リアルな人々に好きになってもらえるか? ということを考えます。だって、ファッション関係者といったら平気でリュックを首にかけたり、やたら大きなフードを被っていたりしますからね。でも、それはパリのような大都会だからこそ成り立つ服装なのです。フランスの田舎でそんな格好をしていたら『なんだ、あれ? 変人がいるぞ』と言われますよ。でも例えばフランクは、今日のような格好でどこのカフェに入ってもエレガントに見えるでしょう。どのような状況でもエレガントであることが大切だと思います」

「HOLIDAY BOILEAU」のポップアップストアが渋谷PARCOにオープン!

「HOLIDAY BOILEAU」SS 2020コレクションや「HOLIDAY MAGAZINE」のアーカイブを取り揃えた日本初のポップアップストアが期間限定で登場。

期間/2020年2月29日(土)~3月22日(日)
場所/POP BY JUN
住所/東京都渋谷区宇田川町15-1 渋谷PARCO 1F
営業時間/10:00~21:00
www.instagram.com/pop_by_jun/

 

Photos & Interview & Text: Shoichi Kajino

Profile

フランク・デュランFranck Durand ファッションブランドをはじめとする数々の広告キャンペーンやアート・ディレクションを手がけるクリエイティブ・スタジオ、 ATELIER FRANCK DURAND 主宰。2014年、『HOLIDAY MAGAZINE』を復刊。「Holiday Café」やアパレルブランド「Holiday Boileau」をローンチ。『Vogue Paris』の編集長エマニュエル・アルトを妻にもつ。
ゴーチエ・ボルサレロGauthier Borsarello クラシックの演奏家としてのキャリアの傍ら、チフォネリ、エドワード・グリーンなどで経験を積み、ファッション界へ転身。パリで初のヴィンテージ・ショールームをスタート後、2017年に<HOLIDAY BOILEAU>のスタイル・ディレクターに着任。メンズ・ファション誌、ヴィンテージ・ショップ のディレクションなど、活躍の場を広げている。

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