おしゃれなパリジェンヌたちから支持を集める「HOLIDAY BOILEAU」とは? | Numero TOKYO
Interview / Post

おしゃれなパリジェンヌたちから支持を集める「HOLIDAY BOILEAU」とは?

左からゴーチエ・ボルサレロ、フランク・デュラン
左からゴーチエ・ボルサレロ、フランク・デュラン

アメリカで誕生した伝説の雑誌『HOLIDAY MAGAZINE』を2014年にパリで復刊させ、以降カフェやブティックをオープンするなど多方面へ広がりを見せている「HOLIDAY(ホリデイ)」。ベーシックでありながらパリシックな美意識が宿る話題のブランドを手がけるのが、アーティスティック・デイレクターのフランク・デュランとスタイル・ディレクターのゴーチエ・ボルサレロ。パリで行った2人へのインタビューを2回に分けてお届け。前編は「HOLIDAY BOILEAU」のヴィジョンについて語ってもらった。

「HOLIDAY BOILEAU」が目指すもの

──まず、お二人はどのようにして出会ったのでしょうか? フランク・デュラン(以下、F)「共通の友人を通じて知り合いました。僕に会いたかったんだよね?(笑)」 ゴーチエ・ボルサレロ(以下、G)「そうなんです。フランクに会うのは夢でした。本当です! 当時、僕は11区にヴィンテージウェアのとても小さなショールームを持っていました。僕の友人は、フランクの仕事仲間と面識がありました。その友人というのがルイ・シャルルで、僕は彼に『いつかフランクに会えたら最高だな』となんとなく話をしていました。するとある日、『フランクが会いたがっているみたいだけど、いつがいい?』と言われたのです。初めてフランクに会ったときに『家はどこ?』と訊かれたので『16区です。あなたのカフェもよく知っていて、よく行きますよ』というような会話をしました。そこから徐々に打ち解けていったのです。フランクは16区を発展させたいと思っていました。『11区よりも16区を拠点に活動したほうがいいよ』という彼のアドバイスをきっかけに、すべてが動き出しました」 F「僕たちの生活の場である16区のために何かをしたいと思って『HOLIDAY CAFÉ』をオープンしました。僕もゴーチエに会うことには乗り気でしたよ。最初の課題は、場所を探すことでした。ゴーチエのヴィンテージのショールーム用として近所にこぢんまりとした場所を探していたつもりが、やたらと広い場所を見つけてしまって、結果、『HOLIDAY』のブティックを作り、地下にはオフィスも構えました。あまりに広くて、最初はみんながちょっとウンザリするくらいでしたけどね(笑)」 ──フランクの「HOLIDAY BOILEAU」のプロジェクトがすでに進んでいる中で、出会われたんですね? F「そうです。ゴーチエが参加した当時、すでに『HOLIDAY MAGAZINE』もカフェもありました。アパレルも始まっていましたが、それはブランド名もなくシンプルに『ホリデー』のロゴを使ったTシャツやスウェットなどの限定的なものでした。このアパレルラインが『HOLIDAY BOILEAU』へと発展したのは、ゴーチエが加わった少し後になってからです」 G「この頃から、ファッション業界にとっての障害と課題を意識するようになりました。というのも、僕が扱っているのはヴィンテージもので、モードとは違います。それに対し、フランクは長年数多くのブランドと仕事をしていましたから、その問題の重大さを理解していました」

F「問題だけじゃなく、もちろん喜びもね。僕は長年モードの世界で働いてきていますが、今はモードとは違う、洋服に対するパーソナルなアプローチを求めています。例えば修繕や復元といったことは、よりパーソナルなものだと思うんです。ゴーチエが専門としているヴィンテージの世界観や、流行りではなくコレクションしたくなるような美しい洋服づくりというものに魅力を感じました。僕はとりわけ、60年代~60年代末に強い思い入れがあるんです。シルエットなどは、オリジナル版の『HOLIDAY MAGAZINE』からたくさん刺激をもらいました。オリジナル版はファッションではなくライフスタイルの専門誌ですが、そこから、スタイルなど、ファッション以上のインスピレーションを与えてもらいました」

“本物の消費”を追求したい

G「『HOLIDAY BOILEAU』の目的は流行を追うのではなく、30年前に存在し、30年後も存在し続ける洋服を今、現代風に着こなすことです。それは、今の風景に自然と溶け込むような洋服を作ることです。フランクが今日みたいな80年代のジャケットをいつでもカッコよく着ているように、僕たちは洋服と流行を切り離して考えています。このアプローチは、2001年にはクールだと思われなかったかもしれません。でも、フランクと一緒に手がけている雑誌『L’Étiquette』を見ていただければわかるように、僕たちはスタイリングにおいても流行に縛られないアプローチをしています」

F「アップデートした『HOLIDAY MAGAZINE』に対するアプローチも同じです。ハイテクだったり、デザイン重視だったり、革新的な企画をあえて狙うようなことはしません。革新は別の方法で生まれるべきだと思っていますから」

G「僕たちの斬新さは美意識ではなく、消費の仕方にあります。奇抜さに走るのではなく、より良質なものをもっと少なく消費するべきだと思うのです。どう説明していいかわからないのですが、本物の消費方法を追求したいのです」

F「まだ言葉でうまく表現することができなくて……」

G「そうなんです。頭の中で思い描いていることをフランス語で表現しようとしていますが、しっくりくる言葉がなかなか思い浮かばなくて。でも“ヴィンテージ”とか“ヘリテージ”とかいった言葉は実は好きじゃないんです。日本語ならできるかな?(笑)」

サステナブルであることも重要課題

──いえ、難しいですね。

F「洋服には、時間や繰り返し着ることで自然と美しさを増すものがあります。不思議ですね。洋服だって財産になるのです」

G「その通りです。祖父、父、義理の父などから受け継いだ洋服を新品の『パラブーツ』の靴とコーディネートすることも出来ます。過去と現代の良いものの融合。僕たちは、過去の最良のものを取り入れることで、未来の最良のものを生み出すのが好きなんです」

F「今の一番の関心事は、これからは環境に悪影響を一切与えない生き方や提案をすることです。人間は、もう十分すぎるほど地球を我が物顔で乱用してきました。過剰さではなく、健全な方法で発展できる方法を見つけないといけません」

G「そうですね。これからは、消費や環境汚染を削減できるものを提案していきたいです。イタリア産であれ、フランス産であれ、『HOLIDAY BOILEAU』で使用するシルクやウールなどの素材がいつも健全な環境で栽培されているかどうかもチェックしたいですね。過激主義に走って『僕たちは環境をまったく汚染していません』と言うのは不可能ですが、僕たちが作る一点一点が『環境のために何ができるか?』という課題を提起してくれます。動物性のレザーを使わなくていい日が来るかもしれません。僕たちは、リンゴを使ったフェイクレザーを使用することになりました。リンゴの果肉を圧縮して作るフェイクレザーです。きっかけは、F1レーサーのルイス・ハミルトンでした。ヴィーガンであるハミルトンは、所属チームの『メルセデス』にドライバーシートのために、(動物由来の素材を使わない)ヴィーガン仕様の素材の開発を依頼したんです。僕たちはそのメーカーを探し出して、ベルト、ジャケット、バッグを作っています。フランクもヴィーガンですし、消費も可能な限りにとどめています。こうして彼のヴィジョンを取り入れているのです」

美しく、シンプルに、控えめにという美意識

──すべては『HOLIDAY MAGAZINE』をリヴァイヴァルしたことがきっかけとなって、広がっていったプロジェクトだと思うのですが、ヴィーガン・カフェの『HOLIDAY DINNER』やアパレルラインの『HOLIDAY BOILEAU』という世界観があなたの中ではどのように繋がっているのでしょうか?

F「すでにゴーチエが全部話してくれましたが、すべては密接につながっていると思います。僕たちは、ここ20年にわたってグローバリゼーションという哲学を最大限に受け継いできました。最近読んだ『サピエンス全史』という本によると、ひとりの人間が識別できる他人の顔の限界は、最大で約250なんだそうですね。これより数が多いと、物理的にも科学的にも不安を感じるんだとか。ですから、ソーシャルメディアもいいですけど、僕らが住み働いているBOILEAU地区のように、人間らしくあり続けるための“ヴィラージュ(村)”という、受け入れ可能なフォーマットが必要なんだろうと思います。人と人が簡単につながることができる環境、地元の物を消費すること、クオリティ、美しさ、シンプルさなど、こうしたすべての考え方が雑誌、カフェ、洋服とリンクしています。僕たちはクオリティや美しさを推奨していますが、うわべだけの豊かさ、権力、野心といったものは追い求めていません。もっとシンプルなんです」

「HOLIDAY BOILEAU」2020SSコレクション LOOKBOOKより

G「僕たちは、クオリティにおいてもシンプルであることを好みます。旅であれ、食事であれ、着こなしであれ、とびきり美しいものが少しだけあればいいのです。見栄を張ったり、ゴージャスさを狙ったりするのではなく、質の高い素材をごく控えめに使います。ご覧の通り、まさにフランクの控えめな着こなしがそうですよね。それこそ最高なんですよ。僕たちは、こうした美意識を守っていきたいと思っています。旅や食べ物においてもそうです。『HOLIDAY BOILEAU』が、旅行雑誌の(オリジナル版の)『HOLIDAY MAGAZINE』との間に共通点を見出せるのも、フランクの言う“時代と空間の旅”という表現に集約されるでしょう。僕たちは、コレクションごとに時代と場所を想定します。例えば、あるコレクションでは、時代を60年代末~70年代頭、場所を英国と決めました。美しさを表現するために、時代と空間を旅するのが好きなんですね。クオリティ、仕立ての良さ、タイムレスな何か、際立ったシンプルさがすべてのコレクションに共通している価値観です」

「HOLIDAY BOILEAU」のポップアップストアが渋谷PARCOにオープン!

「HOLIDAY BOILEAU」SS 2020コレクションや「HOLIDAY MAGAZINE」のアーカイブを取り揃えた日本初のポップアップストアが期間限定で登場。

期間/2020年2月29日(土)~3月22日(日)
場所/POP BY JUN
住所/東京都渋谷区宇田川町15-1 渋谷PARCO 1F
営業時間/10:00~21:00
www.instagram.com/pop_by_jun/

 

Photos & Interview & Text: Shoichi Kajino

Profile

フランク・デュランFranck Durand ファッションブランドをはじめとする数々の広告キャンペーンやアート・ディレクションを手がけるクリエイティブ・スタジオ、 ATELIER FRANCK DURAND 主宰。2014年、『HOLIDAY MAGAZINE』を復刊。「Holiday Café」やアパレルブランド「Holiday Boileau」をローンチ。『Vogue Paris』の編集長エマニュエル・アルトを妻にもつ。
ゴーチエ・ボルサレロGauthier Borsarello クラシックの演奏家としてのキャリアの傍ら、チフォネリ、エドワード・グリーンなどで経験を積み、ファッション界へ転身。パリで初のヴィンテージ・ショールームをスタート後、2017年に<HOLIDAY BOILEAU>のスタイル・ディレクターに着任。メンズ・ファション誌、ヴィンテージ・ショップ のディレクションなど、活躍の場を広げている。

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