La Bouche Rouge創設者インタビュー「マイクロプラスチックフリーのリップで世界を変える」
モードでサステナブルなパリ発のコスメティックブランド「La Bouche Rouge (ラ ブーシュ ルージュ)」が話題を呼んでいる。詰め替え可能なレザーケースに入ったマイクロプラスチックフリー処方のリップスティックがブランドのアイコンだ。日本初となるショップをオープンに合わせて来日したファウンダー兼クリエイティブディレクターのニコラス・ジェルリエ(Nicolas Gerlier)に、ブランドにかける思いを訊いた。
マイクロプラスチックフリー リップができるまで
──伊勢丹新宿店での日本1号店のオープン、おめでとうございます。
「伊勢丹でオープンできたことはとても嬉しく思っています。フランスと日本はいろんな意味で共鳴するとことがありますよね。ほんのちょっとしたディテールにも、深く理解を得られるので、早く日本で展開したいと思っていました」
──2017年にラ ブーシュ ルージュをスタートされましたが、サステナブルであることにこだわったラグジュアリーコスメブランドというのは画期的ですね。マニフェスト「responsibility / no more plastic in beauty / change your red to change the world」も印象的です。
「いま、プラスチック問題がますます大きく叫ばれていますよね。地球上の海の84%が汚染されていると言われていますが、マイクロプラスチック汚染の三大理由のうち、ひとつ目は車のタイヤから少しずつ削られて出てくるもの、ふたつ目は洗濯洗剤の汚水、その次がコスメティックによるものです。そんな中で、ラグジュアリーコスメティックブランドの活動は、非常に大きな責任を伴うものだと認識しています。地球にも人にも、コスメティック業界自体にも本当の意味でいい影響を与えるアクションでなければ意味がない。だから活動を通じて『みんなで責任を持ちましょう』と発信しています」
──日本は環境問題への取り組みがヨーロッパに比べて遅れているように感じますし、あなたの作った完全プラスチックフリーのリップスティックを手に取ることで、初めて環境問題に対するアクションを起こすという人もいるかもしれません。「ラ ブーシュ ルージュ」というブランド名は何に由来していますか?
「『ラ ブーシュ ルージュ』は"赤い口紅"をイメージしやすいし、フランス語で『発言力がある』という意味なんです。問題に対して、どうリアクションするかはとても重要ですよね。単純なことではないのですが、地球をリスペクトして、人間も尊重し合うには、どういう生活をしていかなくてはならないかを考えたとき、自分自身は、難題であってもマイクロプラスチックを排除したコスメティックを作るとことに挑戦してみようと思いました」
──ロレアルのリュクス事業部という安定したポジションを手放してまで、ブランドを創設したいと思うに至ったのはなぜでしょう。
「案の定、家族からは大反対されました(笑)。多くの人が環境問題へのアクションを起こせるプラットフォームを作ることはとても重要なことだと思っています。3人の子どもの将来に対する責任感や、自分が受けてきた教育に起因する部分も大きいのですが、絶対に何かを始めなくてはならならいと強く感じたのです。結婚生活はうまくいっていますが、妻には『本当に決めちゃったの!?』と言われてなかなか信じてもらえませんでした」
セレブリティも賛同するラ ブーシュ ルージュの哲学
──ステラ・マッカートニーの協力のもと実現したビーガンレザーのレザーケースがあったり、最初に発表された赤いリップはメイクアップアーティストのウェンディ・ロウやモデルのアンニャ・ルビックやクロエ・セヴェニーが手がけていたり、参加しているクリエイターが豪華ですね。
「ご存知のようにステラ・マッカートニーは、自身がさまざまな活動をしているので、知り合えたのは自然な流れだったと言えます。彼女は、小児がんの大きな原因のひとつがマイクロプラスチックだということを重要視していて、ラ ブーシュ ルージュのリップスティックがマイクロプラスチックを一切使っていないということに特に関心を示していました。
アンニャ・ルビックとクロエ・セヴェニーはプラスチック問題に関心を寄せていました。ロゴやクリエイティブデザインを手がけたエズラ・ペトロニオに声をかけてもらい、取り組みに賛同してもらえたので、スペシャルカラーを作ることができました」
──『Self Service』誌を手掛けていたエズラ・ペトロニオですね。彼にラ ブーシュ ルージュのパッケージデザインを依頼したのは、どんな理由からでしょう。
「ビューティ業界はコマーシャライズされた、ド派手な『ピンクワールド』なので、本当の意味でのアートの切り口や美しいものを提案して、本当の意味での美しさを表現したいと思ったので、ブランドの立ち上げ時には彼のようなアートディレクターがふさわしいと思って、オファーしました。
パッケージに印刷されているのは自分がブランドに込めた哲学です。このステートメントをキレイに並べると、教科書のような佇まいになってしまうので、書体や並べ方、文字の大きさについては試行錯誤しました。結果的にデザインはモダンになりましたが、ロゴはクラシックでタイムレスなものにしていて、そのコントラストが面白いと思っています。また、今後もいろんなアーティストとコラボレーションをしていきたいと思っています」
──全8色のケースカラーはどのように決めましたか。
「ケースに使っているレザーは、自然環境の中で育った、つまり養殖ではない動物の皮に丁寧に色付けをしたものです。それが使えるブランドは数が限られていて、実は、ラ ブーシュ ルージュのリップスティックのケースは、エルメスがバッグを作った後の余りを使っています。なので、色もすでにあるものから選んでいるのです」
一本の小さなリップスティックが起こす大きな革命
──なるほど。リップの中身については、つけ心地や色持ちの良さも選ばれるポイントだと思います。カラー展開、マットやサテンのテクスチャーなど、特にこだわったポイントを教えてください。
「セラムの美容液を使ったり耳にしたことがあると思います。ラ ブーシュ ルージュのリップスティックは、マイクロプラスチックフリー処方の、世界初の”セラム”のリップスティックなんです。これは革命です。4年間かかって開発しました。化粧品は、目に見えないパウダー状の粉が入っているため容易に成形できるのですが、粉が一切入っていない、オイルや自然由来の成分で作られているリップスティックを目指しました。自然由来というだけなら他でも作られているものがあるのですが、セラムになっているというものは存在していません」
──マイクロプラスチック、パラベン、パラフィン、防腐剤、動物性油脂などの成分を一切使用せず、おまけにセラムで、人にも環境にも優しい。この美しいリップを作るために、莫大な研究開発費と材料費がかかっていると想像しますが、ビジネスのほうはサステナブルなのでしょうか(笑)?
「コスメティック協会からのサポートと、立ち上げ時にフランスの国からのサポートがあって、いまのところは成り立っています(笑)。実際、私がロレアルのような大きな船に乗っていたら、マイクロプラスチックフリーのリップスティックは実現しなかったでしょう。小さな会社だから、自分が納得できる研究員を連れてきてスタートすることができたのです。年間3億個のシリコン型が捨てられているような市場規模で、大きな会社で実現しようと考えると途方もない投資金額になります。どのように経営の舵を切ればよいのかを考えただけで目が回りそうになりますよね。みんないつかは変えなくてはならないとわかっているはずです。彼らが変われば、世の中も変わる。自分が実現できたことは切り札として、業界的にもすごく大きな出来事だったと思います」
──自分だけの色のリップスティックが作れるカスタムサービスも提供されていますね。
「これまでの傾向を見ていると服に合わせて選ぶ方がいたり、『似合う色を作って』とおっしゃる方もいます。色は精神状態に影響するものだなと実感したので、いまはカラーセラピーのような研究をしていて、それに関連した新たなサービスを始めたいと思っています」
──リップ以外の展開も視野に入れているということでしょうか?
「まだ納得できるものができていないので具体的に何とは言えないのですが、9月ごろには大きな発表ができるといいなと思っています。2017年にローンチしてからというもの、いつまでたっても”楽な状態”だとは言えませんが、いまは妻も活動自体には納得してくれています(笑)」
La Bouche Rouge
場所/伊勢丹新宿店本館1階=化粧品/ラ ブーシュ ルージュ
住所/東京都新宿区新宿3-14-1
TEL/03-3352-1111(大代表)
Photos:Shoichi Kajino Interview & Text:Chiho Inoue