Fashion / Interview

『The Skirt Chronicles』を作るパリジェンヌが語った、雑誌愛とファッション

2人の編集長と1人のアーティスティックディレクターが監修する、ファッションジャーナル誌『The Skirt Chronicles』。知的で確かな審美眼を持つ、生粋のパリジェンヌたちが手がけるマガジンも、5冊目が刊行した。特集記事のユニークな視点、写真の美しさは号が進むにつれ、磨きがかかっている。今回は、来日中の編集長Sofia Nebiolo(ソフィア・ネビオロ)とアーティスティックディレクターのSarah de Mavaleix(サラ・ド・マヴァレ)に話を聞いた。

いつまでも手元に置いておきたくなる雑誌を目指して

──『The Skirt Chronicles』を作ったきっかけを教えてください。

ソフィア・ネビオロ(以下SN)「3人はハイディの弟を介して知り合い、仲が良くなった友人同士でした。共通の趣味が印刷物を愛でることで、何か一緒にやろうという話になり、1年間の準備期間を経て実現しました」

サラ・ド・マヴァレ(以下SDM)「それまでにも、愛読している雑誌は『apartamento』、『the gentlewoman』などがあったのですが、理想としている一冊がなくて。時代がデジタルに移行する中で、大好きな雑誌の文化を支えたいという思いもあって、4年前にプロジェクトをスタートしました」

SN「こだわったのは、テキストと写真のバランス。ページのビジュアルが美しくじっくりと読めて、いつまでも手元に置いておきたくなるもの。それが私たちの理想的な雑誌のゴールでした」

──雑誌の判型が珍しいですね。このサイズになった理由は。

SN「サイズにもこだわりがあります。ソフィアが見つけてきた初期のi-D magazineのサイズを参考にしました。確か80年代初期のものだったはず。まるでzineのようなコンパクトなサイズで、持ち運びしやすく、手元にあっても気にならない。旅に持って行く本のようなスピリットを込めていて、今の時代にぴったりだと思っています」

SDM「女性ならハンドバッグに入れて、時間ができた時に広げてほしい。そういえば、男友達が着ていたCarhartt WIPのジャケットのポケットにぴったり入るサイズだったのには驚きました(笑)」

SN「3号目でデザイナーのマーガレット・ハウエルさんとコラボレーションした特集を企画しました。彼女も、大きな雑誌は友人と貸し借りしにくいのが残念だとずっと思っていたそうです。このサイズはいいねと褒めていただけたんですよ」

──雑誌のタイトルについては、どのように決めたのですか。

SN「もともとサラが50~60年代の小さな雑誌を集めていたんです。その中にイギリスで1963年に刊行された『Skirt』という全15ページの雑誌があったんです。ちょっとセクシーな内容で、ページを追うごとに女性が洋服を一着ずつ脱いでいく写真が続くんです。タイトルがとても鮮烈で気に入ってしまい、“Skirt”という単語は入れたいと考えていました」

SDM「雑誌の特集には、私たちだけの視点だけではなく同じ時代を生きる人たちの視点も織り込みたいという思いから、“Skirt”に年代記という意味の“Chronicles”を付けて『The Skirt Chronicles』と命名しました」

──大きな特徴なのが、コンテンツの並び方。ページ順が時系列に並んでいると伺っています。

SN「はい。実際には、記事が編集部に上がって来た順に並んでいます。もちろん、雑誌の見栄え上、多少の前後することはあるのですが。イメージとしては、作業をしていく過程で、少しずつ積み重ねていった結果、一冊出来上がるような感覚です。特集のテーマは3人が最近気になっていることや3人の日常的な会話の中から自然と決まることが多いです」

子どもの頃から、雑誌が何よりのインスピレーション源

──これまでに、ファッションにおいて影響を受けたものは?

SDM「最もインスパイアされるのは、服飾史です。あとは、デザイナーやクチュリエたちのインスピレーションとなった物や人物についても興味があります。あとは膨大な数のファッション誌。母が洋服が好きで、大量のファッション雑誌を購入して家に置いていました。私は、フランス版のELLEを購入していたのですが、いつも最新号を読むのが楽しみでたまらなくて。家族の誰かが先に読むのを許せなかったほど(笑)」

SN「同じく、常に雑誌に魅了されてきました。12歳の時からWomen’s Wear Daily(現WWD)を定期購読して読み、古い雑誌をコレクションしていました。常に雑誌の山が家にできていて、どれを残してどれを処分するか悩んでいましたね」

──これまでに見た中で、印象的だった雑誌は?

SDM「選ぶのが難しいですが、カリーヌ・ロワトフェルドが編集長をしていた『VOGUE PARIS』。沢山の魅力的なファッションエディターが活躍していました。カリーヌ・ロワトフェルドのページはフェミニンで、現編集長のエマニュエル・アルトはボーイッシュ。コムデギャルソンを扱ったページなど、常に沢山のスタイルが提案されていて、自分が好きなものを見つける楽しみがありました。ファッション誌として沢山の読み物があり、見た目も美しい。あとは、日本のメンズ誌も好きで、パリのジュンク堂で『Lightning 』や『POPEYE』を買う事もありますよ」

SN「オリジナルの『i-D』Comme des Garçonsが刊行していた『Six Magazine』、『werk』、あとはzineも好きでよくチェックしています。ファッション雑誌以外にも、旅やアート、などを取り扱う雑誌にインスパイアされることが多々あります」

クラシックなフレンチスタイルは“理想化されたパリ”

──4号目までは表紙が必ずスカートでした。ご自身のお気に入りのスカートについて教えてください。

SDM「スカートは大好きで、集めています。お気に入りの一着はUNDERCOVERのもの。それからヴィンテージのComme des Garçons。日本に来たら必ずヴィンテージショップを回るのですが、何かしらヴィンテージのスカートを見つけて持ち帰るのが楽しみです」

SN「スカートは大好きですが、個人的には5号目の表紙のようなパンツとシャツを合わせて着るのが好きです(笑)」

──現在、ファッションのトレンドはパリのBCBG的なものが注目されています。

SDM「BCBGはとてもフランス的なものではありますが、かなり限定されたものを想像してしまいます。例えば、ベルベットのヘアバンドにツイードのジャケットのような。社会的なクラスのものであるように思います。決してネガティブなイメージではないのですが、“理想のパリ”であることが多いと思います。今のパリの日常では、スウェットを着てヨガに行くのが当たり前なので、ちょっとギャップを感じてしまいますね。16区やパレロワイヤルの理想化されたパリは、かつてのパリに思えます」

──そんな中、CELINEに代表されるように「理想化されたパリ」がトレンドになっているように思います。それに関してはどう思われていますか。

SDM「CELINEの表現は大好きです。これまでは、ストリートシーンを色濃く出したファッションやテクニカルな素材に特化したモダンなファッションのトレンドが強かったと思います。なので、その反動として、ツイードやシルクなどの美しいものがフォーカスされるのはとても喜ばしいことです。クラシックなものがいいとエディ・スリマンのような人が声を大にしていってくれるのは、新鮮なトレンドの流れなので大歓迎です」

SN「アメリカで生まれましたが、家族がクラシックなものを好む傾向にあったので古いものに囲まれた環境で育ちました。パリで70年代のフレンチスタイルが復活するのは喜ばしいことですね」


──4号目で、圧縮袋にエルメスのスカーフを入れて撮影をしたファッション特集が印象的です。このアイデアはどこから来たのでしょうか。

SDM「スタイリストとして働いているので、撮影の時は使用するアイテムを床に並べます。圧縮袋に入れスーツケースに収納して、撮影に向かうわけです。無造作にものが並んだ光景を記録用にiPhoneで撮影したのですが、服をモデルが着ているわけではないし、平面的に見えますがとても美しいと感じました。これを物撮りに応用したいと思い、フォトグラファーに相談したところ、圧縮袋に入れたほうがひとつの絵として機能しそうだと意見をもらいました。実際に撮影に臨んだところシルクに張りがあってなかなか形が決まらず、とても難しかったですね(笑)」

──かなり思い切った撮影のアイデアだと思いますが、周囲の反応はいかがでしたか。

SDM「実はパリでランチをしていたら、エルメスのアートディレクターのバリ・バレさんがいらしたんです。せっかくなので、特集を見ていただいたら、彼女がものすごく驚かれていたんです。何と20年前にまったく同じアイデアで撮影をしたいと考えていたそうで。残念ながら実現できなかったと話してくれました。内心、ジップロックにスカーフを入れた事を怒られたらどうしようと思っていたんですが、とても喜んでくれましたよ(笑)」

──『The Skirt Chronicles』が表現したいこととは何でしょうか。

SN「インディペンデントな立場で雑誌を作っているので、広告的な縛りがなく、心から良いと思ったもの、自分たちが実際に着たいもの、さらに尊敬する人だけを載せるようにしています。ハイブランドについての雑誌でもなければ、洋服についてだけの雑誌でもないと考えています。ファッションの取り上げ方も、決してシーズンやトレンドを追ったものではありません。しかし、独自の視点で、より深く掘り下げたファッション観や物事の見方を展開していると思っています。それが結果として、ユニークなブランドとの繋がりや人との特別な関係性を産むこともあるんです」

──HermesやCharvetなど、ファッション誌が取り上げないような特集が多数あります。あえてタブーに挑戦している意識はありますか。

SDM「強く意識しているわけではありませんが、誰もが知っているものを少し違った方法で見せたいという思いはあります。基本的に、自分たちが実際に身に付けたいものだけを写真にすることがポリシーとしてありますね。なので、ユニークな見え方になるのは自然なことだと思っています」


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──Numero.jpの読者に向けて、パリで訪れるべきオススメのスポットを教えてください。

SDM「まずは、Charvet(シャルべ)のお店。大好きなシャツが並ぶ老舗のお店です。あと、Charvetから3分ほど歩くと、Le Petit Vendômeというレトロなカフェがあります。バターとチーズをふんだんに使ったパリらしいサンドウィッチが美味しいですよ」

SN「サントノーレ通りにある老舗のカフェcafé verlet。よくミーティングをしているので、ここが事務所だと思っています。日が入る2階の席がお勧め。『The Skirt Chronicles』の最後のページでは、私たちが選んだパリのアドレスを随時紹介しています。ぜひそこをチェックしてみて下さいね」

──今回、日本で見つけた面白いものはありますか。

SDM「印象的だったのは、八雲茶寮。朝ごはんを食べたのですが、味はもちろんのこと、見た目も美しくて堪能しました」

SN「日本が好きで何度も訪れているのですが、東京から離れて地方を旅することも好きです。京都の北側にある京丹後という場所へ行き、自然の美しさに驚きました。あとは淡路島も大好きな場所の一つ。他に高松市にあるイサムノグチ庭園美術館も印象に残っています」

──最後に、今後やってみたいことを教えてください。

SN「半年に1冊、『The Skirt Chronicles』をリリースし続けること。それから、力を入れたいのは、オリジナルのプロダクト作り。最近では、ロゴ入りの歯ブラシを作りました。私たち3人はみんな歯ブラシマニア。いろいろなものを使ってみて、一番気に入ったスイスのメーカー「CURAPROX」のものなんです。お店にこの歯ブラシの等身大パネルがあって、嬉しさのあまり思わず記念写真を撮ったくらい大ファンなんですよ(笑)」

www.theskirtchronicles.com

Photos:Shoichi Kajino Interview : Kaori Takayama Translation:Shoko Natori Realization & Text:Aika Kawada Edit:Chiho Inoue
location:VOICE

Profile

ソフィア・ネビオロSofia Nebiolo ニューヨーク出身、2008年からパリ在住。「Women’s Wear Daily」、「Conde Nast Travelars」などの多くの雑誌に執筆し、その後、Givenchyの伝統を讃える2年間のプロジェクトを担当。ファッョンの分野での文化的でクリエイティブなリサーチ、戦略、マーケティング、プロダクションを提案するエージェント、The Great Consulting Companyを設立。
サラ・ド・マヴァレSarah de Mavaleix パリで生まれ、STUDIO BERCOT卒業後、CHANELが買収した Maison Michelのクリエイティブ・ディレクターのアシタントに。Jalouse Media Group で、「 Jalouse」と「L’officiel」のオンライン・マガジンの執筆とスタイリングを担当。2年後に独立、さまざまなブランドのアート・ディレクションに携わる。

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