AMIがウィメンズの展開をスタート。アレクサンドル・マテュッシが語る、想い。
2019年の秋冬コレクションから、AMIがウィメンズコレクションの展開を開始した。以前より、メンズコレクションを通して、ユニセックスなアプローチを続けてきたアレクサンドル・マテュッシ。なぜ、ユニセックスなコレクションにフェミニンなピースを加えて、新たなスタートを切ったのか。来日中の彼に話を訊いた。
──今季、コレクション内にある「女性のマインドに応じたメンズウェア」とは、具体的にどこにメンズウェアとの違いがあるのか教えて下さい。 「同じデザイナーが同じ素材と同じデザインで作っているので、大きな違いはないかもしれません。なぜ、これまでにメンズコレクションの中に、女性モデルが出演していたかというと、AMIに女性を招きたかったからです。その演出は、とても良い効果があったと思いますが、厳密に男性と女性の身体には差がありますし、フィッティングについては、もうひと工程手を加えたほうが良いと考えていました。ジャケットやシャツ、トラウザー、ニットにも特別に調整したほうがよりよくなると考えていました。つまり、女性のために、繊細な調整を施したコレクションに仕上がっていると言えるでしょう」 ──AMIのコレクションは、身体が大きくて強く、さらに健康的に見えます。洋服と着る人間の身体について、自身の美学を聞かせてください。 「身体はすべての始まりだと考えています。各シーズン、肩のラインを含む全身のシルエット、洋服の丈など、すべては身体をどう定義するかということです。特に、AMIの洋服はシンプルさを大事にしているので、細かい定義とディテールがとても重要。なので、身体ことをイメージして、すべてデザインの工程を行っていると言っても過言ではないです」
──差し色のピンクやグリーンが印象的です。このような色は、どこからインスパイアされたものでしょう。
「1つのコレクションを作ることは、音楽を作ることと似ています。メロディーのフレーズがあり、音楽の始まりと終わりがありますよね。低音から高音まであって、時にちょっとした不協和音があるのもいいですよね。ベースとなる黒や白、ベージュがあって、思わぬ色が入ってくる。色を使うことで、はっとする驚きを与えるような変化を起こし、思わぬ方向へ誘うような効果を狙っています」
──ランウェイで最初に登場した女性モデルは、フランス人のモデルのオードリー・マルネイでした。AMIにミューズはいるのでしょうか?
「彼女は仲のいい友人です。実は、メンズコレクションで最初に女性モデルを起用した時も彼女にトップバッターでランウェイを歩いてもらいました。彼女は、とてもフランス的な容姿の女性ですから。特にミューズはいません。多くの女性や男性にインスピレーションをもらいますが、誰かを選ぶようなことは避けたくて。プレッシャーを与え、負担になってしまうと考えているんです」
──2019年秋冬コレクションが、ソフトで品がいい色調を使っているのに対し、次のコレクションは黒をメインにした力強いものでした。どのような心境の変化が?
「季節が切り替わるタイミングで、すべてを変えたいと思っていました。同じことを繰り返すのは、退屈なので。家に誰かをディナーに招待するのに、毎回同じメニューでは飽きてしまいますよね。何か大きなサプライズを与えたいと思って、全く異なる方向性にしました。とはいえ、必ず一つのワードローブに収まる範囲での方向性の変化を目指しているのですが。チーズバーガーを出したら、次はフィッシュアンドチップスを出す、くらいの変化でしょうか(笑)。2020年春夏コレクションは、より集中してシルエット作りに取り組みました。凝ったプリントもクレイジーパターンもなし。鮮烈なピンクとオレンジは使っていますが、シルエットを表現するために黒をメインにした表現に挑戦しました。次のシーズンは、またカラフルなものにしたいと考えていますよ」
──2020年春夏コレクションで登場した、胸が開いたキャミソールタイプの黒いロングドレスが印象的です。イブニングドレスを作ったのは、初めてでは。
「はい、初めて作りました。ウィメンズコレクションを展開する上で、ドレスを作ることは当然のこと。フェミニンなとても気に入っているピースで、ブランドに新たなムードを与えてくれると思いますね。今回は、上海でもコレクションのお披露目を行ったのですが、特別に上海に向けた真っ赤なドレスもあるんですよ。特別に製作した動画に登場するので、是非ご覧いただきたいです。秋冬コレクションでも、フラワープリントのシャツドレスの展開がありますが、いわゆるイブニングドレスではありません」
──このイブニングドレスのどこにAMIらしさがあると思いますか。
「シルエットもそうですが、着るとその人のものになるという点でしょうか。私は、着る人のパーソナリティを信じています。その人の持つアティチュードも大切な要素です。AMIというブランドとして様々なピースを世に送り出していますが、お店で誰かが購入して袖を通した瞬間、その洋服は“AMIの服”から“その人の服”になると考えています。30人の人が同じドレスを着ても、同じではないように、それぞれの人となりを表現できるのが、AMIらしさだと思っています」
──AMIのフレンチシックは、より力強く都会的に進化しています。現代に求められるシックはどのようなものだとお考えですか。
「難しい質問ですね(笑)。シンプリシティーも信条としていて、いかなる時代においても、人のパーソナリティを洋服が覆いかくしてしまうことは好きではありません。シックとは、人として自信がある状態のことかもしれませんね。高い洋服を着ている人がシックだとは思いません。その人の自信や態度、所作、視線、笑顔など。そういったものから、シックである理由が生まれると思います」
──AMIのロゴについて、教えて下さい。
「子どもの頃から、レターによくしたためていたサインから派生したものです。イニシャルのAの上に♡を乗せて。「Je t’aime Maman(お母さん、愛しているよ)」の文末には決まって、このサインをつけていました。2〜3年前に、デザインチーム一丸となって、ブランドのロゴを探していました。犬? 猫? または、馬? は、もう使っているブランドがいる。それとも風船?アイスクリーム?どれもよくない、のように。全くいいのが見つからないまま、オフィスに戻ると、デスクの上にある大量のスケッチを見つけました。すべてに、このサインが入っていたんです。試しにシャツに刺繍してみたら、なかなか良くて。これを展開して、ロゴとしました。また、フランス語の表現で“Ami de couer(=心の友)”という表現があり、ブランドのコンセプトとも奇しくもマッチしました」
──今度、ウィメンズコレクションで挑戦したいことがあれば教えて下さい。
「ランウェイでも披露しましたが、バッグなどのアクセサリーを数多く展開したいです。ジュエリーやシューズ、ドレッシーなバッグなども。ウィメンズコレクションを始めることは、私が切望してきたことで、実現できてとても幸せを感じています。その一方で、これまでとは、全くことなる新しいビジネスです。初心に戻り、0から学ぶつもりで取り組んでいます」
──ウィメンズを始めて、何かに変化はありましたか。
「面白いエピソードがあります。20年近く、男性のフィッティングモデルとアトリエで働いていました。今は、女性が来てくれるようになって、アトリエの雰囲気が一変(笑)。彼女たちは洋服で遊ぶことを知っていて、その場を和ませてくれるんです。それに比べて、男性は…物静かに立ち尽くしていたり(笑)。とにかく、ウィメンズコレクションは楽しんで取り組んでいますよ」
AMI OMOTESANDO
住所/東京都渋谷区神宮前5-10-1 GYRE 1F
Tel/03-5778-4472
営業時間/11:00~20:00
www.amiparis.com/
Instagram/@amiparis
Interview & Text:Aika Kawada Edit:Chiho Inoue