コーネリアス、人生観を語る「世代間の文化の断絶なき今、成熟とは」
ユニットとして25周年、自身の活動では30周年を迎えたCornelius(コーネリアス)にインタビュー。今あらためて初期作品のリマスタリング盤をリリースした理由を尋ねた。そして50歳を迎えた彼に、なんと人生相談を敢行。そこから垣間見えた、コーネリアス・小山田圭吾の人生観とは?
時代を反映した『the first question award』、今に続く『POINT』
──コーネリアス結成25周年のタイミングで、『the first question award』『POINT』の2作品をリリースした理由を教えてください。
「もともとは、『Mellow Waves』のMVやライブ映像のBlu-rayをリリースする予定があったんですね。今回の1stと4thのリマスタリングは、偶然が重なった感じで。初期の作品をリリースしたレコード会社から、ワーナーが権利を買い取ってくれていて、以前から、出そうという話はあったんだけど、ちょうど、アメリカのレーベルから『POINT』を出したいという話があり、それなら25周年というタイミングだから、リリースしたらいいんじゃないかという。それくらいの理由です」
──2ndアルバムの『69/96』は?
「当時、いろんなレコードからサンプリングして曲を作っていたんですが、今の時代、権利が厳しくてリリースが難しくて。それで、今回は1stと4thの再リリースになりました」
──『POINT』の曲は最近のライブのセットリストに入っていますが、『the first question award』』の曲は演奏していませんよね。
「4thの『POINT』から今の流れが始まっているので、それ以前の曲はライブでは演奏しなくなりましたね。1stと2ndは、今のセットではやりにくいという理由もあります。1stは、自分の作品の中で、ポップスやJ-POPに近い手触りもあって、今、聴くと当時の時代性みたいなものを感じるかもしれません。でも1stと2ndも自分にとっては大事な作品です」
──個人的な話ですが、『the first question award』のライブは、生まれて初めて高校をサボって渋谷公会堂に観に行った思い出がありまして。
「そういうのありますよね。僕もある。学校サボって映画の『死霊のはらわた』を観に行きました(笑)」
──今回、リマスタリングするにあたって、変更したところは?
「1stをリリースしたのは1994年なんですが、当時はマスタリングというCDの音を入れる技術が安定してなかったんです。だから、今回のリマスタリングで音圧や音質の点で今っぽく仕上がっています。『POINT』は2001年発売で、その頃は音質も安定していたし、自分の考え方も定まってきたので、今も違和感なく聴けるんじゃないかな。それから、以前はCDというパッケージを念頭に入れて作ったので、曲間に切れ目がなくひと続きになっていたんです。今回のリマスター盤もそれを踏襲してますが、配信では曲の始まりと終わりが不自然になるので、独立した1曲になるように作り直しました」
──『POINT』リリース以降に生まれた世代は、『POINT』はコーネリアスの新曲だと思うかもしれませんね。
「20年近く前の作品だけど、普遍的な作品ですからね。逆に、1stは僕だとわからないかも」
──90年代のソウル、アシッドジャズやレアグルーヴ、シティポップスも、巡り巡って、20代、30代も聴いているから、1stも新鮮に響くかもしれません。
「シティポップスは世界的にそれを感じますね。アシッドジャズはどうかな」
──今の音楽の流行は意識しますか?
「作り手としては、あまり意識しないですね。作品的にもあまり関係ないと思っています。僕はスタジオと家を往復するだけで、業界的な話もあまり聞かない。基本的に、業界の流れとは別のところにいる感じはしています」
モチベーションを保つには、しっかり休むこと
──さて突然ですが、今年50歳を迎え、さらにコーネリアス25周年、活動開始30周年というタイミングを迎えた小山田さんに、今回、人生相談をするために、お悩みをいくつか募ってまいりました。
「人生相談? 答えられるかな(笑)」
──【相談1 好奇心を保つには?】さきほど、家とスタジオを往復するだけとおっしゃいましたが、モチベーションを維持するために、何か特別なことはしていますか?
「好奇心をもつことですかね。あとは体調管理。メンタルも含めて、自分を良い状態にしておくということ。身体を鍛えるとかストイックなことじゃなくて、ちゃんと休むとかリラックス方面で」
──コーネリアスのほか、数多くのリミックスワークや、Salyu×Salyuなどのプロデュース、YMOやMETAFIVEへの参加など、ずっと忙しく活動されていますよね。
「でも、週に2、3日は休むようにしています。ライブを観に行ったり、レコード屋に行ったり」
──休みの日も音楽から離れないんですね。
「20代の頃ほどじゃないけど、レコード屋さんに行くのは今も好きです。Spotifyとかのストリーミングも便利だし。聴けば聴くほど、AIがツボをおさえたリコメンドをしてくれて、僕の好みをよく知ってるなと思う(笑)」
ライフステージと音楽の付き合い方
──【相談2 新しい音楽との向き合い方】さて次は、相談1に関連した相談です。好きな曲がたくさんあって、それを繰り返し聴いています。しかし、気付けば新しい曲を知らないウラシマ状態。どうやって新しい音楽に向かい合えば良いでしょうか。
「音楽を聴く喜びは、色々あると思うんだけど、大好きな曲を聴くのもそのひとつ。昔好きだったけど忘れていた曲を聴く喜びもあるし、知らない新しい曲に出会うのもそう。僕はどれかひとつだと飽きるから、好きな曲の中に知らない曲が入っているとか、新しい体験を混ぜていきたいと思っているんですけど、皆さんはどうでしょうか。それから、昔は音楽が好きだったけど、ある時点で音楽から離れちゃう人もいますよね。仕事の忙しさとか色々あって」
──出産と育児などで、音楽から離れる時期もありますよね。
「僕も、そういう感じは少しありました。子どもが小さい頃は、家であまり音楽を聴かなかったんですけど、息子が成長して、今の音楽や自分が触れない世界を教えてくれるようになって、それも新鮮で面白いです。そんな風に、子どもが小さくて音楽から離れても、そのうち戻ってくる人もいます」
──親目線の話を続けると、親の趣味が子どもに影響を与えることもありますよね。それもちょっと気になって。
「僕の場合は、子どもが小学生の頃は、自分が小さい頃に好きだった曲を一緒に聴いていました。息子が中学の頃は、友達の影響で色々聴いていたみたいだけど、そのうち、自分の好きなものが定まってきて。今は、僕の好きな音楽と近いので、それを共有しつつ、息子が同世代の仲間と聴いている音楽を教えてくれたり。好きなものが似てくるのは、しょうがないですよ」
成熟とは、無限の可能性を手放して今に集中すること
──【相談3 大人になることの意味】最後の相談です。カルチャーやファッションが好きで、心は10代と変わらぬまま年齢を重ね、気付けば数字の上では立派な大人。大人になるとはなんでしょうか。
「僕も、上の世代の人たちが今の自分と同じ年齢の時のことを考えると、こんなのでいいのかなと思います。でも、時代が変わったこともあるんじゃないかな。親世代と僕らの世代で、同じ文化を共有することはなかったし、そこに文化の断絶があったけど、今は親と子どもが同じものを共有できる。そういう意味でも、世代間の距離がなく、それを意識しないでも生きていける時代です。僕らより上の世代はどこかで”子どもを卒業”しなくちゃいけない瞬間があったけど、僕はそれを感じずにここまで来て。でも、50歳になると、もう子どもだ大人だと言ってられないわけですね。その中で、色々と諦めて、やらなきゃいけないことをやるしかない。それが成熟ってことになるのかな」
──諦めるとは?
「今から宇宙飛行士になりたい、プロ野球選手になりたいと思っても、確実になれないわけで。人生折り返し地点を過ぎて、やれることも限られてくるし、やりたいことをやるために犠牲にしなくちゃいけないこともわかってくる。ペース配分をちゃんと考えつつ、やれる範囲でやることは、ネガティブなことじゃないと思います」
──最後に今後の予定と、今のコーネリアスが目指す地点を教えてください。
「海外で『POINT』のリリースがあるので、アメリカとカナダ、韓国のツアーと、国内でもいくつか。今の目指す地点は、いい頃合いでぽっくり。早死にしたくないし、病気で長く療養するのも大変なので。あとは、自分の好きなことだけやれたらいいなと思います。そのくらいですね」
『the first question award』CD ¥2,400(WARNER MUSIC JAPAN)
『POINT』CD/DVD ¥3,700(WARNER MUSIC JAPAN)
『Mellow Waves Cisuals』Blu-ray ¥6,500(WARNER MUSIC JAPAN)
Photos:Takehiro Goto Interview & Text:Miho Matsuda Edit:Chiho Inoue